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第51話 高波 三五  登校日に猿にトドメを刺すの巻

 今日も新たな日が昇る。

 日課の早朝ランニングを元気にこなした後は、一日中こよいと一緒に仲良く過ごそう……というわけにはいかないんだな。

 何故なら本日は登校日だから。


 女の子の姿で登校したらクラスメイト達に余計な混乱を招くという配慮から、こよいは欠席する事になった。だから今日は学校が終わるまでこよいと一緒に居られないのだ。


 オレも本心では登校日なんてサボってしまいたいと思っている。だが学校をズル休みするような男がこよいに相応しいとはどうしても思えない。真にこよいを想うならば、断腸の思いで登校せざるを得ない。


 せめてこよいに行って来ますを言う為に、早めの時間に繊月(せんげつ)家を訪問する。


 「うぅぅ……三五ぉ……早く帰ってきてね……」


 門の前でお出迎えをしてくれたこよいはまるで田舎から上京してきて独り暮らしを始めたばかりのウサギさんのように寂しそうだった。 (クソ雑魚比喩)


 「こよいっ! すぐ帰ってくるから! だからそんな顔しないで!」


 「う、うん。寂しいけど……。でも久し振りに制服姿の三五を見られたから、我慢するっ! あぁ、何か女の子目線で見ると新鮮♪ 先輩♡ って呼びたいかも♡」


 確かに男の子の目線から女の子の目線に変わると、オレの背が高く感じられるだろうからね。こよいからして見ればオレが急に逞しくなったように感じるのかな。


 何にせよこよいが元気を出してくれて良かった。そろそろ登校しないといけない時間だから……。


 「こよい、そろそろ……」


 「うん、じゃあ行って来ますのキスを……」


 ん~♡ っとキス顔になるこよいだったが……。


 「はい、ダメよ。ここは天下の往来よ。キスなんて満貫級の大ツモよ」


 出ました彩戸(さいど)さんのインターセプト! わかってた。でも惜しいなあ。


 「そ、それじゃ、一旦お家の中に入って……」


 「三五ちゃんが遅刻しちゃうでしょ~? 良い子でお待ちなさい」


 「うううぅ~……」


 ああっ! こよいが泣いちゃいそう! せ、せめて頭を撫でてあげないと!


 「ごめんねこよい! 本当の本当にすぐ帰って来るからね! だから待ってて!」


 「アンタも早く行きなさいっつ~の」


 うわあぁぁ! 彩戸さんに押されるうっ! 計り知れないパワー!


 「こよい~っ!」

 「三五ぉ~っ!」

 「突っ張り突っ張りぃ! お姉ちゃんの突っ張りは大根をもへし折るわ!」


致し方無し。こうなってはとっとと登校して、さっさと帰って来るしかない。



 遅刻寸前で学校に着いたオレには久し振りに会ったクラスメイトと挨拶する時間もなかった。

 すぐにクラス全員で講堂に移動し、そのまま先生の話を聞く流れになる。長~いお話の後は皆でぞろぞろと教室に戻る。連絡事項の伝達やプリントの配布をしたら、本日はこれにてお開きだ。


 登校日なんて生徒が無事に元気でいるか、悪い事をしていないか確認する為の日だから内容はこんなもんだよね。

 部活に入っていればミーティング等で更に時間を取られるかもしれないが、オレは帰宅部なのでこれで帰れる!


 「高波ぃ、悪いんだが繊月の家にプリントを届けてくれないか?」


 「勿論です先生! 光の速さで届けて来ます!」


 よ~し、帰るぞ! こよいの元へ!


 「待てえい! 高波!」


 教室から出ようとしたオレの前に立ち塞がるこの男……コイツはっ!


 「お前は……童貞チンパンジー!」


 第10話でこよいに盛大にフラれた、童貞チンパンジー! 童貞チンパンジーじゃないか! お前帰っていたのか! (人間界に)


 「ああそうさ! オレは童貞さ! そしてチンパンジーさ! それも全ては女にモテたいが為ッッ!!! 高波! お前にオレが嗤えるかッッ!!!」


 チンパンジーによる一喝。


 「嗤えねぇ……。嗤えねぇよチンパン……」


 こよいと育んだ “愛” の尊さ、素晴らしさを知ったオレに “愛” に餓えて彷徨うチンパンジーを嗤えるハズがない。

 余りにも一方的で下心丸出しな彼の無様な姿は素晴らしいものに手を届かせようと、必死に足掻いている証明だということに気がついてしまったから。

 あと普通にみっともなくてクソつまんないから。


 「そこどいてくれよ。こよいの家に行くんだよ、オレは」


 「繊月の家に行くだとぉ? 嘘を吐くなっ! ムッツリスケベがっ! 女の子の所に行くんだろ! 街で一緒に歩いていたあの女の子の所に行くんだろッ!」


 嘘じゃないさ。何故ならお前が言うその女の子はクラスの皆が知っている繊月 湖宵がQ極TSして超絶美少女になった姿なのだからな!

 だがそのことは今は秘密だ。夏休み後は男の子の姿でいなければならないこよいを好奇の視線に晒したくないからね。


 「嘘じゃない。オレはこよいの家に行く」


 「嘘だぁッッ! だって、だってお前! 先生の話も聞かずにスマホでデートスポットとか検索してただろおぉッッ!?」


 えっ!? こっそり調べてたつもりなのに! バレバレだっただと!?


 「お前めっちゃ露骨だったからな」

 「気もそぞろっつ~か、ムラムラしてたよな」


 チンパンのツレ1号 ・ 2号! うわ~、コイツらの言いようだとクラス中にバレてたっぽいぞ。

 いや~、こよいの事を考えてたら話に集中出来なくてさあ。いっそ開き直って、次のデートのプランでも立てようかと……。


 「許せねえぇぇ! このムッツリドスケベファニーボーイがッッ!!」


 「五月蝿え! そこを通せ! オレは彼女に逢いに行く! 邪魔をするな! ゴッドモンキー!」


 「嫌だよおお! あんなにカワイイ女の子が一人の男のモノになるなんてええ! 信じたくないぃ!」


 チンパンの野郎、教室のドアにしがみついてオレが出られないようにしてやがる。

 まあ、後ろの方にもドアはあるので普通に出られるんだが。だがそれをしてしまっては生殺しだ。

 こうなってはキッチリ引導を渡すしかあるまい。


 オレはスマホの中にあるこよいとのツーショット写真を選定する。

 う~ん、昨日のコスプレ写真はコイツには見せたくないな。普段着で自然体なこよいの写真は……っと。


 「な、何だっ!? 何をしている!?」


 「見ろぉ、童貞チンパンジーィ!」


 スマホを突きつけ、こよいと一緒に写っている写真をチンパンに見せつける!


 「ウ、ウワアァァ! カワイイィィーーーッッ!」


 童貞チンパンジーはこよいの可愛さの余り金縛りにかかり、身動きが取れなくなる! オレはヤツに悠然と近寄り、耳元で囁いてやる。


 「オレはなぁ……この可愛い女の子となぁ……」


 「ヤ、ヤメロ……ヤメロ……」 (かすれ声)



 「百回以上、キスしたぜ?」

 (唇が触れ合い、離れる毎に一回とカウントする)



 「ギイイイイィィィィヤアアァァアァァオオァァァアアアアッアアーーーーーーッッッッ!! ゲハハアアアアアアッ!!!!!」


 うおおおお! 童貞チンパンがスタンガンを喰らった時のように痙攣している! 

 オレは諸般の都合でスタンガンを喰らった人間を見た事があるのだが、全く同じ有り様だ! 

 むしろこっちの方がダメージが深そう!


 バッターーン!


 童貞チンパンジーは倒れた。オレはヤツの屍を踏み越え、教室のドアを開けて出て行くのだ。


 「じゃあ皆! 新学期にまた!」


 タッタッタッタッ。


 「高波くん、可愛い女の子と百回以上キスしたんだって! 私聞いちゃった!」

 「えっ!? それって百人とってこと!?」

 「ウソ!? 真面目なヤツだと思ってたのに!」

 「イヤらし~いぃぃ!」


 噂が噂を呼び、新学期が開けた頃には風評被害に頭を悩ませるハメになるなんて、この時のオレには全く想像すらしていなかった……。


 「こよいっ! 今帰るからねっ!」

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