第50話 高波 三五 一番特別な写真
プリントシールも沢山GET出来たし、もっともっとこよいと色々な場所で写真を撮りたい。と、思っていたのだが……。
「ママ~お姫様がいるよ~」
「うわっ! あの娘ヤベェ! 格好も可愛さも!」
「もしかしてアイドル!? 堂々と男と一緒に歩いてっけど良いの!?」
「うわ~どうすんべ~。イチバチで声掛ける?」
「夏だしな~。記念にな~」
ちょっと人の多い所に来たらすぐコレだ。
リボン激盛りゴスロリコーデのこよいが悪目立ちしてしまって、誰も彼もがチラチラと視線を向けてくる。
何かノリで声掛けてこようとする男連中も居るし! 許せねぇ~! オレがこよいと一緒に居るのに! オレがこよいと居るのは相応しくないってか!?
それを決めるのはお前等みてぇなカスバエ共じゃねぇんだよ! (被害妄想)
この時のオレとこよいの脳裏には夏祭りの最後に悪い男達に襲われた光景がフラッシュバックしていて、無自覚に攻撃的になっていた。
オレの目は自然と吊り上がり、右手はサマージャケットに忍ばせたスタンガンに伸びていた。
「わたしの家はっ! お金持ちよっ! ケンカ売ってんの!?」
こよいはヘラヘラしながら近寄ってくる男達をギロリと睨み付け、形振り構わず権力を振りかざす! 全くいつものこよいらしく無い振る舞いだが、あの時に怖い思いをさせられた反動が今出てしまっているのだ。
その証拠にこよいの身体はガチガチに強ばり、その細腕はオレの腕を痛いくらいに抱き締めている。
「サーセン……マジ調子乗ってました……」
「夏だったんで……」
こよいみたいな綺麗な女の子に親の仇のように睨まれたら、一体どんな気持ちがするんだろう?
オレだったら世界から居住を否定されるような気分になるに違いない。
すごすご引き下がっていく男達には悪い事したなあ、と後になって少し反省した。しかしこの時のオレ達に男達を冷静にあしらえというのは無理がある。運が悪かったと思ってもらおう。
「ねぇ三五! わたしのお家で撮影会しましょ!」
「そうしよう! ここじゃこよいの可愛い格好を落ち着いて堪能出来ないからね!」
オレ達は肩を怒らせながらズンズンと進み、こよいのお家へと向かった。
「二人共、今日はえらく早めに帰ってきたわね?」
「「ちょっと聞いてよ彩戸さ~ん!」」
オレ達は彩戸さんに不平不満を訴えた。
「そりゃ~そんな可笑しな格好してたら皆ジロジロ見るわよね。どんな服でも似合うっていうのも、良し悪しよね」
フォローしてくれない!
こよいの格好、可愛いじゃんかよぉ!
「ううぅ~。もっと普通の格好の時に記念写真リベンジしよう……」
こよいが落ち込んでる! ゴスロリこよいを一杯カメラに収めてたっぷり褒めてあげないと!
よ~し、気を取り直して繊月家の敷地内で撮影会再開だ! 庭園はさっき周ったので、今度はお屋敷の中で撮るのが良いかも。
繊月家のお屋敷は年季の入った立派な洋館なので、今日のお姫様みたいなこよいにピッタリ。ツーショットも良いがオレがカメラマンになってこよいを撮るのもまた良い。
「ねえ、こよい。オレ、こよいが可愛いポーズで写ってる写真が欲しいなぁ。こよいのこと撮りたいな~」
「え~~っっ♡ そうなのっ? じゃ、じゃあ三五のことも撮らせてねっ♡ ポーズのリクエストもさせてね♡」
少し趣旨から外れ気味ではあるが、オレ達はお互いの姿をノリノリで撮影し始める。
これは楽しすぎる! だってこよいがオレの言う通りのポーズをとってくれて、ニッコォ~っと超嬉しそうに笑いかけてくれるんだから!
「こよいっ! スカートの裾を持ち上げてお姫様みたいにご挨拶して!」
「カーテシーね♡ ごきげんよう~♡」
パシャッ!
「三五♪ ベランダに出て物憂げな感じで空を見上げて♪」
「こ、こう? 物憂げ?」
「キャ~♡ レア! レア三五チェキ~!」
パシャパシャッ!
「カーペットの上にペタンって座って、カメラ目線で上目遣いして!」
「ベッドにくつろぎ気分で寝転んで!」
「元気にジャンプ!」
「わ、わたしにウインクしてっ♡」
「か、可愛いよっ! 大人しいこよいも元気なこよいも、どっちもイイ~っ!」
「キャ~ッ♡ セクシーな三五もイイ! レア三五が一杯♪」
パシャッ! パシャパシャ! パシャパシャパシャ!
いや~たっぷり堪能してしまった。もう夕方だ。
「あ、お嬢ちゃま、三五ちゃん。こっち来て」
ん? 彩戸さんがお呼びだ。何かご用かな?
「二人共、こっちこっち」
彩戸さんに連れられて応接間に入ってみて、ビックリ!
な、何と応接間がフォトスタジオに変わっていた!
照明やら背景布やら、お花等の小道具やら……。いつのまにこんなの用意してくれてたの!?
「さあ、二人共イスに座って♪ お姉ちゃんが撮ってあげる♪」
そう言って彩戸さんは本格的過ぎる大砲みたいなカメラをこちらに向けてくる。
「さ、彩戸さん。オレ達の為にわざわざ?」
「お、おねぇちゃん~……」
「お嬢ちゃまと三五ちゃんがせっかくおめかししてるんだもの♪ ど~せ撮るなら一生残せるくらいに気合い入れて撮らなきゃね♪」
ジーンと、感動してしまう。こよいなんて涙ぐんでるし。
オレ達のお姉さんにこんなにしっかりしたスタジオで写真を撮ってもらえるなんて……。
まるで家族写真を撮るようで、彩戸さんにオレ達の仲をちゃんと認めてもらえているんだな、と改めて再確認。胸に嬉しさが込み上げてくる。
「撮るわよ~♪ さん、に~、いち♪」
パシャッ!
彩戸さんに撮ってもらったこの写真は、オレとこよいのそれぞれの部屋に大切に大切に飾られるのだった。




