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幼馴染み♂「今からQ極TSカプセルで♀になりマース♪」  作者: 山紫朗
幼馴染みにドキドキ (モヤモヤ?)
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第3話 高波 三五 身悶えするの巻

 こよいがQ極TSした翌日の早朝。


 「ハァッ! ハァッ! ハァ! ゲホッ!」

 

 オレは近所にある遊歩道で煙る朝霧に包まれながらランニングをしていた。


 とはいえ生まれて初めて自分の意思でランニングをしようと思い立った為、ペースが上手く掴めず既にヘトヘトだ。


 学校指定のジャージが汗をたっぷり吸って重い。


 何故、急にランニングを始めようと思い至ったか?

 それは昨日起こった出来事に心を揺さぶられているからに他ならない。


 ここで前回のあらすじ!


 オレの幼馴染み、繊月(せんげつ) 湖宵(こよい)はちょ~っと残念な美少年。


 『ねえ三五(さんご)~っ、今週のジャガジン (少年マンガ誌) 見して~貸して~触らして~』


 『ボクさぁ、昔は目玉焼きの白身ばっか食べて黄身は残してたんだけど、逆に今は白身を残して黄身ばっか食べるようになったわ~。何でかなぁ?』


 こんな湖宵が実は、女の子の心を持って生まれてきた事が発覚。


 21世紀の秘薬 ・ Q極TSカプセルを使って絶世の美少女に大変身したこよいを見て、オレは非常に狼狽えた。


 『あの……わたし、こよいですっ』


 『あなたにだけは嫌われたくないの……』


 絶世の美少女が表情をふにゃふにゃ変えながら、オレに嫌わないで欲しい、変わらずに仲良くして欲しいと訴える姿はヤバいくらい可愛かった。


 なんやかんやあって、オレは女の子になったこよいに今までと変わらずに友達でいると誓った。

 

 するとこよいはひとしきり泣いた後に輝く笑顔を見せてくれたのだった。


 その笑顔がも~とんでもなく可愛くて、オレはつい言ってしまった。


 「こよいは世界で一番可愛い」、と。


 オレは、オレは、こよいに恋をしてしまった……のか!?


 うぉお~っ! 前回のあらすじ終わりいいィ~ッ!


 情熱をもて余し、オレは走り出す! だが急激な運動と高い気温がオレの体力を奪い取り、しばらく走ったところですぐにまたヘバってしまう。


 早朝とはいえ夏だしな。


 「ハァッ! ハァッ! ハァ!」

 

 さっきから全力疾走 → ヘバる → 情熱が迸る → 全力疾走の繰り返し……これをランニングと言い張るのは些か無理があるな。

 

 だが元男の幼馴染みに恋 (しかも初恋) をしてしまった……かもしれないとあっては安眠など出来るハズも無い。


 ならば早起きして早朝ジョギングに勤しみ、モヤモヤする気持ちを吹き飛ばそう! 

と、思ったのだが慣れてないのでもう死にそう。


 近所の広域公園をグルッと一周した頃には (ほとんど歩いた) すっかり汗だくになってしまった。


 ヘロヘロになりながら帰宅し、キンキンに冷えたシャワーを浴びて、やっと頭がスッキリした。



 ここで少し自分の感情を整理してみよう。


 こよいは美人だし、そんじょそこらのアイドルより遥かにカワイイ。

 

 そ、そしてオレは……そんなこよいにここ……恋を……! してしまった……!? 


 い、いやそう言い切ってしまうのは未だ少し抵抗がある。


 惹かれている、くらいにしておこう。


 そう、オレはこよいに惹かれている。


 それはもう否定出来ない事実……だが仕方無い! これは仕方の無い事なのだ! こよいはずっと男の子として生きて来たけれども、心は女の子だった。

 

 だからオレが惹かれてしまうこと、そこまでは仕方無い。


 オレも健全な男ゆえな!


 だ、だが異性としてこよいを好きになるのは、いかがなものか!?


 変わらずに友達でいるとか言っといてさぁ! 

 こよいだって困るだろ!

 

 女の子になって、きっと色々不安な思いをしている時にオレから好きだなんて言われたらさぁ!


 いい迷惑だろ! めいわく……うぉぉ~っっ!! 嫌だ! こよいにそんな風に思われるのは嫌だ~っ!


 うう。せっかくクールダウンしたのにまた頭に血が昇ってきた。


 自分の感情だというのに制御が利かないぜ! 舵がブッ壊れていやがる! おまけに羅針盤も見つかんね~!


 思考が堂々巡りに陥り、自分がどうしたいのか、どうしていいのかが最早分からない。

 

 考えがまとまらないまま午前10時になる。

 こよいと遊ぶ約束をしている時間だ。


 もの凄くデッカいこよいの家の門に備え付けられているインターホンを押す。


 リィンゴォーン♪ リン ・ ゴォーン♪ リィィン ゴォォォォン♪


 この一々仰々しいインターホンもオレは毎日の様に聞いていてすっかりおなじみなのだが、今は地味に緊張してしまっている。


 もうすぐこよいに会える。そう思うと胸の鼓動がドキドキと速くなる。


 『はぁい、繊月でございます』 


 こよいの声だっ! 何て澄んだ美しい声! きっとオレを待っていてくれたんだ。


 「こよい? 三五だよ。遊びに来たよ。門を開けてくれるかい?」


 くれるかい? って何だよ。そんな口調普段使いして無かっただろ! どうしちまったんだ、オレ!


 緊張しているというか、ランニングによってニュートラルに戻したギアが本人の意思を無視して勝手にチェンジしてしまっている様な感覚に陥ってしまっている。


 『はいぃっ! お、お待ちしてましたっ。い、今開けますねっ!』


 ガ ッ ゴ ン ! ガゴガゴガゴォォン! ズズズズズズズズズ…………。


 あ~もうこの門、五月蝿ぇよ。早よ開け。んも~! 気がはやるぅぅ!


 そして門から玄関までの距離がまた長いんだよなぁ。


 道中に立派な庭園があって季節の花々が色とりどりに咲き乱れているが、オレは目もくれずに玄関へと向かう。


 「三五さぁ~ん!」


 なんとこよいの方からもタタタッと走って迎えに来てくれた!


 今日もカ~ワイイ! と、いうより今日は昨日より女の子らしい格好をしていて、ことのほか可愛い! と言うべきか?


 前髪はヘアピンで留められていて可愛いお顔がよく見える。


 上着は昨日と同じく半袖ブラウスシャツだが襟にフリルがあしらわれていて清楚かつ可愛らしい。


 更に更に、襟元にはカメオブローチが飾られておりオシャレなワンポイントになっている。


 何より今日はジーンズじゃなくロングスカート! 色は夏らしく爽やかな水色で、彼女が歩く度に裾がふんわりと翻って見目麗しくも楽しげだ。


 うーん、眼福過ぎる!


 「おはよう、こよい! 今日もとぉ~ってもカワイイねっ!」


 「!! くぅぅぅ~っ……はぁぁぁ~ンッッ!!」


 オレのバカヤロォォォーッッ!! 何って考え無しなんだァーッ!!


 気持ちが昂り過ぎて、ついつい火の玉ストレートな誉め言葉を投げてしまった。

 受け止めたこよいは着火して顔面真っ赤っかになってしまっている。


 うわぁぁぁ! こ、これはもう告白してしまったも同然なのでは!?


 「さ、さ、さ、ささささ、さんごさ、三五さんもカッッコイイですよっ!!」


 「 ! ! ! ! 」

 

 ま、まさかの反撃! 電気ショックを喰らったかの如くオレの心臓が跳ね、全身に痺れが走る。


 「三五んさんカッコイイッ! 前々からカッコイイって思ってたけどぉ! 女の子の目から見たらもう胸がきゅう~ってなるぐらいキャッコウイィィ~ッ! アーッ! サンゴカッコイイーッ! アアアーッ!」


 手足をバタバタさせて、オレの事が前々から凄くカッコイイと思っていたと天下に吠えるこよい。


 “前々から” って、男だった時からオレの事をそんな目で見ていたのか……と思ったのは一瞬のこと。


 次の瞬間には大いなる歓喜がオレの胸から沸き上がり、全身を駆け巡っていた。


 か、か、か、歓ッッ喜ィィィィィ~~ッッ!


 喜びがスパークし過ぎて体の末端が麻痺し、思わずよろめいてしまう。


 こ、このこよいの叫びは最早、告白なんじゃないか!? 100%惚れられているだろ!? どうだ!? どうなんだ!?


 二人してバタバタ混乱していたが、次第に落ち着いてきた。


 このまま感情に任せてしまうと自分が何を言い出すか分からない。


 お互いにそう思ったオレとこよいは幼馴染みの阿吽の呼吸でこの一幕を無かった事にすることに決めた。


 「さ、三五さん。お花の水やりシマセンカ?」

 「イ、イイネ! ソウシヨウ」


 ぎこちないながらも空気を変えられた、かな?



 さて。当然ながら繊月家の庭園にはプロの庭師が居て、毎日キレイに手入れがされている。


 その為オレ達が勝手に水やりなんかやったら怒られてしまう。

 

 だけど庭の隅っこのお客さんの目が届かないスペースには、こよいとこよいのお母さんが趣味のガーデニングで作った花壇や野菜のプランターなんかがある。


 庭園で咲き誇る花々は、正に豪華絢爛。


 沢山の色と種類がある薔薇や、ヤマユリ·クルマユリ等々の見事な花達。


 ベランダから眺めると左右対称の模様に見える、キレイに刈り込まれた生け垣。


 来客者がつい足を止め、心に留めるゴージャスな空間だ。(今日のオレは無視したけど)


 こよい達の作った趣味の空間はこの豪華な庭園とは対称的だ。


 咲いているのは朝顔やミニひまわり等のおなじみの花や、こよいのお母さん自慢のマリーゴールド。


 プチトマトやキュウリといった野菜も元気に育っている。


 立派な庭園も見ごたえがあって良いが、この趣味の空間の方が何だか暖かみを感じてオレは好きだ。


 波立つ心が癒されるなぁ……。


 「キレイに咲いてくれましたね~♪ プチトマトもまん丸で美味しそう♪」


 あああ~美少女令嬢がお花のお世話している姿、めっちゃ尊い~。


 慈愛を湛える微笑み、ヒラヒラと舞うスカート、恵みの水を反射し輝く花々。


 尊みがこんこんと湧き出づる様は正に泉の如し~。


 オレはこの光景を守る岡っ引きになりたいぜ……なーんてアホなこと言ってサボってないで、水やり水やりっと。


 「あらぁ~、お花のお世話してる三五さんの慈しみたるや仏の如し~。お花に嫉妬しちゃいそう~。わたしも慈しまれたいィ~」


 くぅぅ~! そ、そんな風にうっとりと熱い眼差しで見詰められたらぁ~! 


 せっかくお花に癒されて落ち着いた心拍数が、スラッシュメタル並みに大暴れしそうだぁ~っ!


 あと、こよいchan。キミ多分それ、心の声が漏れているよね?


 行き場の無い情熱が口から叫びとなって出ちゃいそうだから、もう少し手心を加えて頂きたい。



 ハアハア……。や、やっと水やりが終わった。

 そんなに広い場所じゃ無いのにえらく時間がかかった気がする。


 「きょ、今日はえらく暑いね……。ここまで来たら、暑いと言うより熱いよ」


 「あ、あはは~。そ、そうですねぇ~。お疲れ様です。それじゃあ……わたしのお部屋に、い、行きましょうか?」


 ああ~、そのはにかむ仕草はヤバイってぇぇ~! カワユすぎるぅぁーっ!


 ダメだ。このままこの場に居たら、熱中症 (意味深) で死ぬ。


 早くクーラーの利いたこよいの部屋に入れてもらわなきゃ。

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