第45話 高波 三五 こよいのご褒美自撮り☆
「三五、三五ぉ♪ またお写真撮りましょ~♪」
バッティングセンターを出てから、こよいは事ある毎にそうせがむ。
オレはその度に喜んでこよいの隣に立つ。
パシャリ。
「う~ん、惜しいなぁ。カワイイ服着てくるんだったなぁ。せっかく三五と一緒に写ってるのにぃ」
「オレは今日の元気コーデのこよいも凄く可愛くて好きだよ?」
「うぅ~ん♡ 嬉しいけどぉ♡ 勝負服で写りたかったのぉ♡」
確かに今回は勝負は勝負でも、バッティングセンターでの勝負をする為のスポーティーなコーデだったから女の子的には不満が残るかもね。
それにしてもこよいは写真を撮るのにハマったなあ。さっきから常にスマホを構えてるよ。
よっぽど思い出に残る記念写真が撮れて嬉しかったんだね。
今までのデートでももちろん合間合間に二人でスマホをパシャパシャしていたけど、それはあくまでもデートのおまけという感じだった。
それなら逆に……。
「明日はカメラデートしてみない? 色々な所で記念撮影したら楽しいかも」
「あぁ~それイイ♡ あとねあとね、わたしゲーセンのプリントシールを撮りたい♡ ちょ~スゴい機能が一杯あって、高精細で写るヤツ♡」
「おお~イイねぇ~」
なるほど、確かにプリントシールコーナーは女の子の聖域みたいなイメージがあって入り辛い。
しかしこよいと一緒なら。こよいとのデートで利用するという大義名分があるなら、肩で風を切りつつ堂々と入る事が可能!
「それじゃあ明日はカメラ & 写真デートで思い出を形にしまくっちゃおうか!」
「お~っ♡」
そういう事にはなったが今日は今日でデートを楽しむ。明日の予定をたてるのは夜、電話でだ。
せっかくこよいがスポーティーな格好をしているのでいつもの公園へ行き、アスレチック広場で遊んでみたり。ベンチに座ってアイスキャンディーを食べてみたり。
その間もこよいと二人でスマホパシャパシャ。今日だけでも結構な枚数の写真が撮れた。
いつもオレはこよいとの時間を大切に過ごして、一日一日を可能な限り心に残そうと心がけている。
でもこうしてスマホを眺めてみると、色々な表情をした可愛いこよいの姿が一杯で眼福だ。
心に残すのも良いが、有りのままをそのまま残すのもまた良い。
オレも写真の魅力にハマってしまったみたいだ。
たっぷりデートを楽しんだ後はこよいをキチンと家まで送り届ける。
「うぅ~。三五帰っちゃうのぉ? 寂しいよぉ~」
今日一日、あんなに楽しそうにしててあんなに笑顔だったこよいが瞳をウルウルさせている。今にも涙が零れ落ちてしまいそう。
毎日のことだが、このお別れの瞬間だけは本っ当に慣れない。
胸が苦しくなって頭がおかしくなりそうだ。
この苦しみを和らげる方法は一つしか無い。
「こよい、こっちへ」
「あっ……♡」
繊月家自慢の庭園の生け垣の陰に隠れてこよいを抱き締める。
こよいの顔に自らの顔を近付けると、逆に感情が昂ったこよいの方から唇にキスをされた。
「ん~ちゅっ♡ ちゅっ♡ ちゅうぅっ♡ むちゅううぅ♡」
“あなたと離れたくない”
“ど~しても離れなきゃいけないのなら、くっつきまくって一杯チューしてやるぅ~”
そんな熱い感情が言葉を介さずに伝わってきて、オレの方も昂ってしまう。
こよいの唇を唇ではむはむしたり、何度もキスを重ねたり。そんな風に昂りを直接伝えてあげる。
「んんんんんん~っっ♡」
オレからのキスのお返しでこよいが大喜びしているのが伝わってくる。
トクン トクン トクトクン! ドッキンドッキン!
触れ合う身体から伝わるこよいの胸の高鳴りでそれがわかる。
そしてそれは逆も然り。
こよいにもオレのドキドキがダイレクトに伝わっている。
ちょっと恥ずかしいけどこよいの喜びがレベルアップしているのがわかるので、もっとぎゅっとハグしてオレの心臓の鼓動をもっともっと伝えてあげちゃう。
「んふぅぅん♡ んんっ♡ んふぅん♡」
オレに構ってもらうのが大好きなこよいが喜びの声を漏らす。
鼻なんて鳴らしちゃって、可愛いね。息が苦しくなるまで、ずっとずっとキスしようね。
「ぷはっ……はあ……はあ……」
「はあっ♡ はあぁんっ……♡」
唇と唇を離し息を吐く頃には、オレ達の間には甘い甘~い空気が漂っていた。
言葉にしなくてもお互いのすべてが伝わるような濃密な空気に包まれて、やっとこよいの表情から悲しい色が消えた。
オレと恋人同士になってから、こよいは今まで以上にお別れを悲しがってしまうようになった。
だからこそお休みのキスがこんなにも濃密になってしまうのも致し方無い。ハズだ。
「夜にお電話するからね、こよい」
「はぁい♡ 良い子で待ってるね♡」
トロトロ状態のこよいがお家に入るのを見届けてから、オレは家路に着く。
帰宅してから夜までの間に夕食と入浴を済ませる。
更に両親に大分早めの就寝の挨拶をすることで、こよいとの電話を邪魔されない様にするのだ。
勉強などをしつつソワソワしながら約束の時間が来るのを待つ。
チラッと時計を見てみる。そろそろ良いかな。スマホをタップし、こよいの番号にコール、と。
♪~♪~ 『もしもし三五っ!?』
早い! こよいも電話タイムを今か今かと待っていたんだね!
「もしもし。こんばんわ、こよい」
『こんばんわ~♪ あのねっ! さっきからず~っと明日のデートのこと、考えてたの~♪』
元気で嬉しそうな声。つられてオレも楽しい気持ちになる。
さあて、それでは二人で明日のデートについて話し合おうか。
こよいからは一杯意見が飛び出した。
やっぱり写真を撮るなら、可愛い格好がしたい。
三五にもいつもとちょっと違った雰囲気の服を着て来て欲しい。
三五に買ってもらった三日月バレッタも、もちろん忘れずに着けていくからね。etc.
オレの方からも色々意見を出していく。
どうせ写真を撮るなら、二人の思いでの場所で撮りたいな。
こよいの家の庭園でも何枚か撮りたいね。
あそこのゲーセンではプリントシールの種類が豊富で、撮影用の小道具やコスプレ衣装も借りられるんだって。etc.
ひとしきり意見を出しあった後も明日の写真デートについて二人で盛り上がる。
楽しく話していたらもう寝る時間になってしまった。
『あ、あのねっ三五っ! さ、三五はわたしの為に一杯頑張ってくれたから、ご、ご褒美あげるっ♡ おやすみっ! また明日っ!』
あら珍しい。こよいの方から電話が切られてしまった。ご褒美って何だろう?
♪ ~ ♪ ~ ♪ ~ ♪
ん? こよいから、メールが送られてき……た……!? な、何だとっ!?
メ、メールに添付されている画像はこ、こよいの、自撮り! しかもお風呂上がりのパジャマ姿!?
う、うわあぁぁ! しっとりとした髪が色っぽく乱れて、肌はほんのり桜色に染まって……。
鎖骨も見えてるし、ってか夏物パジャマだから半袖で二の腕も見えてるし、ショートパンツでフトモモまでぇ~っ!
そ、それに俯瞰の角度で写された、ぽよんとした胸のふくらみから目が離せない~っ! うううう。 ……サラサラのサテンのパジャマの上から触ったら、一体どんな手触りなんだろう?
ああ~っ! ダメダメ! こんな事、考えちゃ!
というかこんなんじゃムラムラして寝れないよ!
こうなったらヒンズースクワットだ! 肉体を限界まで苛め抜けば、泥の様に眠れるハズ!
それしかない!
膝を曲げ、腰を深く落とす! ぐぐぐ……。フトモモが水平になる姿勢まで落としたら~……グイィンと上昇させ、元の姿勢に戻すぅ~!
これを煩悩がブッ飛ぶまで繰り返す!
「ハッスル! ハッスル!」
しかし何故この様な掛け声が上がるのか?
それはオレ自身にもわからない。つまり世界中の誰にもわからない謎なのだ。
世界に新たな謎を産み出すとは、こよいってばミステリアスガールだぜ。(酸素欠乏による妄言)
…………………………。
ハア、ハア……。ぜ、全身汗だくだ……。シャ、シャワー浴びて、すぐ寝よう。明日も早いし。
バスルームに向かう時、父さんとすれ違った。
父さんはポツリ、と言葉を残していった。
「若い頃を思い出すな……」
アンタもこんな経験あったのかよ!?
オヤジィ~ッ!




