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第44話 繊月 こよいと寄り添いラブラブデート [爆熱打球篇] その弐

 必ずや鬼ホームラン賞をGETしてやる!


 一ゲーム20球で五ゲームプレイするとして……合わせて100球。

 そんくらいやれば1回位はカスるだろ! 多分!


 ピッチングマシンから第1球が放たれる!


 「ぃよいしょぉ!」


 ガッツン!


 はいダメ~! 当たりはしたが、芯から思いっきり外れた! 打球が人工芝の上をポンポン跳ねる。


 次! 

 ブンッ! 

 空振り!

 次、次!

 カアァン! 

 良い手応え! でも、もっと上に飛ばさなきゃあ!

 次、次、次ぃ!


 …………………………。


 「ハア……ハア……ハア……」


 早くも1ゲームが終わった。

 まあまあ球にバットが当たるようにはなってきたが、まだバックスクリーンボードには届いていない。


 「どっせぇぇ~~い!」


 カアアァァンッ! 


 ドカッッ!


 とか何とか言ってたら、初めてボードに当たった!

 

 いやしかし今の手応えでわかったが、ボードに打球を当てるには全身の筋肉をフルに使ってスイングしないと無理だ。

 更に鬼ホームラン賞の鬼マークはボードの隅っこにある。もうちょい力を加えて打球を引っ張ってやらなきゃいけない。


 「三五ぉ~! 今のスイング、カッコ良かったよ! 頑張ってぇ~!」


 こよいってばピョンピョン飛び跳ねながら応援してくれている。期待に応えるためにも張り切っていこう!


 こよいのキレイなスイングを瞼の裏に思い浮かべてから……。

 刮目してバットを振り抜く!


 「でやぁぁーっ!」


 …………………………。


 そして、当初の予定の5ゲーム目が終了した。

 まだ鬼ホームラン賞はGET出来ていない。


 「ハアッ! ハアッ! ハア!」


 手が痛ぇ。腰も痛いし、あと何だか全然関係ない背中が痛ぇ。


 くっそ~! 何で鬼マークはあんなに変な場所にあるんだよお! 普通のホームラン賞狙いならきっともう獲れてるぞ! 完っ壁にクソゲー過ぎるぅぅ!


 一人で挑戦していたならとっくに諦めている。景品も普通のホームラン賞と変わらないし、おまけで記念撮影してもらえるくらいじゃ労力に対して割りに合わない。本気になればなるほどバカバカしい。……などという考えがきっと頭に浮かぶに違いない。


 「あうぅ……。さ、三五ぉ……」


 こよいも疲労したオレの姿を見て応援するのを躊躇っているみたいだ。

 オレの挑戦は得るものの少ない無駄な足掻きの様に、第三者の目には映ることだろう。


 だがしかし! ここで諦めるという選択はオレには無いのだ!


 “こよいの為” ……それがオレのモチベーション。


 こよいがオレとの写真を……思い出を欲しがってくれている。

 そんなモッチモチのモチベーションがネガティブな思考を吹っ飛ばして、オレにやる気を与えてくれる。

 

 何が何でも鬼ホームラン賞の鬼マークをオレの打球でブチ抜いてみせる! 幸い毎朝のランニングのお陰か、足腰はシャンとしてる。

 気合いと根性で粘り抜いてみせる!


 「諦めねぇ……! オレは絶対に……絶対に諦めねぇぞ……っ!」


 そして自己陶酔。

 アドレナリンを放出させる。(気分になる)

 使えるものは何でも使うのだ。


 「うおぉぉ~っ!」


 ビシュッッ!


 はい空振り~! 次々ぃ!


 「が、頑張ってぇ~! 三五ぉぉ~!」


 こよいが吹っ切れたように、声を張り上げて応援を再開させてくれる。


 今のオレの状況を普通の女の子が見たらきっと、もう諦めたら? とか、こんな事にムキになってバカみたい、とか言うんだろう。

 でも男友達としてオレと一緒にバカをやって来た過去があるこよいは違う。

 オレの男の意地ってヤツをバカにしないで尊重してくれるんだ。

 

 最っ高に良い女だよ、こよい。

 絶対にこよいをハッピーにしてみせる!


 …………………………。


 延長に延長を重ねて第7ゲーム目に突入。


 「くっそ、ハア! ハア! いい加減ムカついてきたぞ……!」


 鬼マークへの怒り。そもそものバッティングセンターに対する怒り。こよいの期待に応えられず、こよいの顔を曇らせてしまっている自分への怒り。


 オレの胸に湧くのは怒りだけではない。


 こよいの願いを叶えられるカッコいい自分になりたい。こよいからもっと褒めてもらいたい。こよいの心からの笑顔が見たい。そんな想い……ヒリヒリとした渇望が芽生えていた。


 怒りと渇望に加え、自己陶酔による何やかやの脳の作用が働く。それによって疲れ果てたオレの身体から信じられないくらいの力が発揮され、渾身のスイングが飛び出したぁぁ!


 ズビッシュゥゥッッ!


「死ねクソ鬼ボケカスがアァ~~ッッ!」


 そのスイングとボールが飛んでくるタイミングが奇跡的に噛み合った。



 バッキィィィーーンッッ!



 ズッドオォォォン!



 打った自分にも信じられない程の鋭い打球が鬼マークにメリ込む!

 恨みを晴らすかの様な激烈な一撃! 

 スカッとしたぜ!


 「うお、うおぉぉ……」


 「ふわ、ふわわわ……」


 爽快感のあまりに一瞬、言葉が出て来ない。


 『只今、鬼ホームラン賞が出ました~♪ 第一打席のお客様は受付までお越しくださーい♪』


 頭上からアナウンスが鳴り響く。

 鬼ホームラン賞を獲るという目的を達成した実感が沸いてきた。


 「やったぁ~! やってやったぜ~っ! 鬼ホームラン賞、GETだぜぇ~っ!」


 「きゃあぁ~っ♡ やったよぉ三五ぉ~っ♡ 超世界一カッコイイ~ッッ♡♡」


 こよいがオレに飛び付いてきてムギュウゥ~~ッと抱き着いてくれる。

 その顔はもちろん、大輪の花が咲くかの様な満面の笑み。

 これだよ。この笑顔が見たかったから、オレは頑張れたんだ。


 「鬼ホームラン賞おめでとう!」

 「いや~、お熱いねぇ♪」

 「初々しいわねえ♪」

 「あの女の子めっちゃカワイイ! 羨ましい!」


 おおっと。あんまりしつこく鬼ホームラン賞に挑戦していたせいか、ギャラリーがついていたようだ。

 少々照れ臭いが彼等に見送られながら受付へと向かうとしよう。

 疲れてはいるがオレの足取りは軽かった。


 「鬼ホームラン賞おめでとうございます♪ こちら景品でございます♪」


 鬼ホームラン賞と書かれた袋の中には1ゲーム無料のチケットが数枚とドリンク無料券が2枚。あと駄菓子の詰め合わせ。…………しょぼ……いや、口には出すまい。わかった上での挑戦だ。


 大事なのは記念撮影だよ、記念撮影!


 受付のお姉さんがポラロイドカメラを構える。

 オレとこよいは急いで横に並んだ。


 「記念撮影しま~す♪ はい笑って笑って~♪」


 「ありがとう、三五♡ チュッ♡」


 こよいからお礼のほっぺにチュー。

 オレはドヤ顔でカメラに向かってサムズアップ。


 「あらら♪ 大胆ですねぇ~♪」


 パシャッ。


 こよいってばよっぽど嬉しかったのか、その写真にカラフルなペンで一筆を添えた。


 『だ~い好きなカレがわたしの為に頑張ってくれました♡ すっごくカッコ良かったです♡』


 この写真のお陰で鬼ホームラン賞に挑戦する若い男の客が増えたんだってさ。

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