第43話 繊月 こよいと寄り添いラブラブデート [爆熱打球篇] その壱
こよいが女の子でいられる、特別な高校一年生の夏休み。
もっとも~っとこよいと寄り添って、もっともっとも~っとこよいとラブラブな思い出を作らなければならない。
その為に特別なデートを一杯したい。
具体的に言うと、カップル限定のイベントがあるデートスポットを完全網羅したい。
それでは発表しよう。
こよいと相談して選定した寄り添いラブラブデートの栄えある第一弾! そのスポットとは~?
ジャカジャカジャカ……ジャカジャン!
バッティングセンターだぁ~っ!
いや何でだよ、と思われるかもしれないが、これはこよいからの提案なのだ。
オレ達が良く行くバッティングセンターには普通のホームラン賞とは別に、鬼難易度の鬼ホームラン賞というものがある。
鬼ホームラン賞を取るとホームラン賞の景品をもらえる他に写真を撮ってもらえて、お店に展示してもらえるのだ。(希望者のみ)
「わたし、鬼ホームラン賞をGETして三五と一緒の写真をず~っとお店に飾って欲しいっ!」
こよい、気合い入っているね。
それに良く行くバッティングセンターに特別な思い出を残せるって素敵な提案だと思う。
正にオレ達にうってつけのグッドイベント、そしてグッドデート!
オレもこよいの勇姿を気合い入れて応援しよう。
「わたしにかかれば鬼ホームラン賞なんてラクショ~♪ さぁ、行きましょ~♪」
さすが運動神経抜群のこよい。自信満々だ。
お顔がキラキラ輝いて見える。
それにブカブカTシャツにショートパンツの今日のコーデは、元気一杯でとってもカワイイ。
髪型もミニポニーテールでアクティブキュートで新鮮だ。
「こよいってばスポーティーな感じでイイネ! いつもはガーリーな感じだからレアカワって感じ! 健康的カワイさ!」
「そ、そ~お? えへへ♡ わたし的にはスカートとかの方が好きなんだけどぉ~。喜んでくれたなら嬉しい♡」
オレが褒めたらこよいはにぱ~っと顔を綻ばせて笑ってくれた。
う~ん、幸先が良い!
今日も良い一日になりそうだ!
バッティングセンターに着くなりちゃちゃっと受付を済ませ、こよいは早速打席に入る。
「さぁ~、いっくよ~!」
「頑張れこよい~!」
第一球。
時速100㎞のボールがこよいのストライクゾーンを目掛けて飛んでくる。
ボールが届くよりも大分速くにこよいはバットをスイングした。
ビシュッッ!
おおっ。タイミングこそ合わなかったが、鋭くて良いスイングだ!
「くぅぅっ! 身体がキレすぎるぅ!」
「えっ? どういうこと? こよい」
「女の子の身体って何だかすっごく軽いのっ! 男の子の時と体を動かす感覚が全然違うっ!」
何と。確かにこよいがバッティングセンターでパッカンパッカン打ちまくっていた時、こよいは男の子の身体だった。
その時のイメージと齟齬があるからバットをボールに当てるタイミングが合わないのか。
だがしかし、そこはスーパーハイスペック美少女こよい姫。
回数をこなす毎にタイミングが合うようになり、徐々にバットにボールが当たるようになってきた。
「てぇぇ~いっ!」
カアァァーンッッ!
おお! 今のなんか良い当たり! もう少しで鬼ホームラン賞のあるバックスクリーンボードに届きそうだ!
「……いっ……」
い?
「いったぁぁ~いっ!」
こよいっ!? こよいがバットを取り落として痛がっている!?
「こよいっ!? 大丈夫っ!?」
「しゃんごぉ~……痛いよぉ~っ。お手々ビリビリしゅるのぉ~っ!」
オレはこよいに駆け寄って、その可愛いお手々を見せてもらう。
ああっ! こよいの小っちゃなお手々が赤くなってしまっている! 今すぐベンチに連れて行って冷やさないと!
缶ジュースを買ってきてこよいの手に当ててあげる。頭を撫でて慰めてあげるのも忘れない。
しばらくジッとしていたら大分良くなってきたみたい。
「あ~冷たくて気持ち良い……。うう、それにしてもあんなにパワーが落ちていたなんて……」
思えば当然の帰結だといえる。今のこよいは背も小さくなり、身体も細くなっている。
バックスクリーンボードまで打球を届かせるのはちょっと厳しそうだ。
しかも鬼ホームラン賞はバックスクリーンボードの隅っこの滅茶滅茶当たり難い場所に有って、届かせるためには余計にパワーを捻り出す必要があるのだ。
というか、白魚の様なお手々にマメでも出来たら一大事! もう無理はさせられない。
「ああぁ~。失敗したなあ。三五と一緒のお写真飾ってもらいたかったのに……」
シュンとして肩を落としてしまうこよい。
ここの鬼ホームラン賞というのは地元の野球チームの間ではムキになって狙っても全然当たらず、却ってバッティングフォームを崩してしまう為、無視するのがお約束になっている。
挑戦するのは自身の運動神経に絶対の自信がある者か、よっぽどの変わり者くらい。
オレは残念ながら前者では無いけれど……。
「こよいの代わりにオレが挑戦するよ!」
「さ、三五!? で、でも……」
こよいが言い難そうにお口をモゴモゴさせる。わかってる。体育の成績も普通のオレにとってはちょいと厳しいチャレンジだ。
だけど、こよいの笑顔の為だ! 何だって挑戦してやるし、傾き者にだってなってやる!
「オレに任せて! こよい!」




