第42話 高波 三五 こよいに寄り添う為に
彩戸さんはオレにこよいの傍に居てあげて欲しいと言った。
何かを思い悩んでいるこよいがオレと一緒に居る時だけは幸せと安心を感じて悩みを忘れてしまうから、と。
オレに出来ることは残り半分を切った夏休みをこよいと一緒に過ごして沢山の思い出を作ること。
そしてもしこよいが悩みを打ち明けてくれたら、全力で力になってあげること。
更にオレにはもう一つ、こよいの為に出来ることが。
やらなければいけないことがある。
それはこよいと一緒に居る為に努力すること。
こよいに釣り合う男になる為に努力すること。
まずは日課となった早朝ランニングの体力作り。コースは最初のデートで行った広域公園の遊歩道。
「ハッ、ハッ、ハッ。よし、良いペースだぞ」
面白いもので回数を重ねる毎に走れる距離がみるみる伸びていき、速く走れるようにもなってくる。
「よ~し、もう少しペースを上げてみようか!」
何でも最初は楽しいもの。継続して走り続けるのが大事だ。明日も明後日も、元気に走り続けよう!
努力その2、オシャレ。
こよいに会う前には勿論、身綺麗にして小ざっぱりとした服に着替えている。
だがこの度、ファッション雑誌やらヘアスタイルに関する雑誌を買ってみた。
初心者らしく指南書に忠実に従ってオシャレとやらに挑戦してみよう。
とりあえず着る物は今タンスに有るものから選ぶとして……。髪型を本を参考にして整えてみようか。
洗面所にてウンウン唸りながら悪戦苦闘。
その様子を不思議に思った母さんがチラッと洗面所を覗く。
そして絶叫。
「イヤァァ! 三五っ! 何、そのイヤらしい格好に髪型っ! そんなエッチな格好で私の義娘のこよちゃんに会わないでっ! 妊娠しちゃう!」
「ええぇ~っ!?」
母さんからの超絶大不評! 本に書いてある通りにしたのに! し、仕方ない。今回はいつも通りの格好にワンポイントを加えるくらいに留めておこう。
ううう。オシャレって難しいなあ。じっくり勉強していこう……。
勉強といえば、学校の勉強も忘れずに。
毎日遊んでばっかりなのは良くないので今日はこよいのお部屋で勉強会の予定。
どれどれ、夏休みの宿題を今日で完全にやっつけてしまうとするか。残った宿題は一つ。
“映画を三本観賞して感想レポートを書く”
ああ~、仕方ないなあ。勉強したかったけど、今日はこよいと一緒にDVD観賞しなきゃ~♪
デートで「S · M · M · W」の最新作を観たので、残りは二本。
彩戸さんからおススメDVDを借してもらってこよいとソファーに座って観る。
今日のこよいはゆったりワンピースのまったりくつろぎコーデ。
こよいの肩を抱いてそのワンピース生地のサラサラな触り心地を楽しんでみたりして。
「んふぅ♡ 三五ってばぁ♡ 映画をちゃんと観なきゃダメよ♡」
「こよいこそ画面じゃなくてオレの顔ばっかり見てるよ?」
「だってぇ♡ 三五のこと、ずっとず~っと見てたいんだもん♡」
恋人同士で映画なんて観たら内容に集中なんて出来ないよなあ。
「大切な人と映画を観ました。寄りかかってくる身体から伝わる体温がとても愛しく……」
「大好きな人と映画を観ました♡ 抱き締められて撫で撫でされて、胸がキュンとしました♡」
出来上がるレポートもこんなもんだよ。最早、何に対するレポートだよ。
しかしクオリティはともかくこれでこの宿題はコンプリートだ!
「やった~! 夏休みの宿題がこれで全部終わったね、こよい!」
「やったね~っ! 頑張ったね、わたし達っ!」
これでようやく……。
「次から本格的に二学期の予習に手がつけられるね、こよい!」
「ふわわわわぁん……」
ん? 何だかこよいが眩しいものを見る様な目でオレを見ているぞ?
「三五、何だか変わったね。何だか毎日、会う度に素敵になっていくみたい……」
こよいはそう言ってくれるけれど、変わる為にしていることは全部最近始めたことばかりだ。
それでも毎日一緒に居るこよいの目からはオレが少しずつ成長している様に見えるのかな。
よ~し、この調子で頑張るぞ!
「ふふ、こよいの彼氏になったんだから、もっと頑張らないとね!」
「嬉しい……。素敵。とっても素敵よ、三五」
こよいからの蕩けそうな程の熱い視線。
オレはそれが嬉しくて、誇らしくて仕方なかった。
だからこの時のオレはその瞳に込められたもう一つの想いに気が付けなかったんだ……。




