第40話 繊月 こよい あ~楽しかった☆
スイカ割り対決の勝利者、こよい姫様にご褒美を差し上げなければ。
割れたスイカとメロンは彩戸さんがキレイに切り分け、大皿に盛り付けてくれた。う~ん。見るからにジューシーで美味しそうだ。
オレは一口サイズのスイカをこよいのお口元まで運んであげる。
ご褒美のあ~んだ。一杯食べてもらおう。
「は~い、こよい~。あ~んして~」
「あぁ~ん♡ ぱくっ♡ うぅ~ん♡ 冷たくって美味し~ぃぃ♡」
美味しそうに食べてくれるなあ。良い笑顔だ。
「美味しい? こよい」
「うん♡ 美味しいし、お姫様気分でと~っても幸せ~♡」
ほわほわほわ~んとした、とてもとても幸せそうな表情。見ているこっちが幸せになるね。
あ~可愛いなあ。キスしちゃいたいなあ。
後ろで彩戸さんが目を光らせてなきゃ、確実にキスしてたんだけどなあ。惜しい。
致し方がない。健全な手段で思いきりこよいを愛でよう。
「可愛いね、こよい姫。ホラ、このメロンなんか美味しそうだよ。あ~んしてごらん?」
「うふふふぅ~♡ あぁ~ん♡」
照れ照れで甘~くトロトロのハチミツフェイスになるこよい。
オレも大好きな女の子の幸せそうな顔を見れて凄く幸せだ。
「うふふ♡ 三五にもわたしが食べさせてあげるねぇ~♡ はぁい、あ~ん♡」
おっ、嬉しいね。一口スイカにぷすっと楊枝を刺して、オレの口元に運んでくれる。
「あ~ん。うん、瑞々しくって美味しいね」
「ね~♡ メロンもどうぞ♡ えっ……と、だ、だ、だんな様♡」
だんな様とな!? な、何だか、心が甘酸っぱくなる呼ばれ方!
「キャアアアァァァ~~ッ! つ、遂に呼んじゃったあぁぁ~んっ♡ 三五の事、だんな様ってぇぇ~んっ♡ キャア♡ キャア♡ キィィヤァァァ♡」
おおっ!? こ、こよいのお顔が一瞬でボボンッと赤熱化!?
「何一人で盛り上がってるのよ、お嬢ちゃま」
彩戸さんの辛辣な横槍! オレだって盛り上がってるよ!
「だって三五のことずっと、だんな様♡ って呼んでみたかったんだものぉ~っ♡ 小っちゃな頃からの夢だものぉぉ~っ♡ キャアァァ♡」
おおおぉう。それはこのテンションの上がりようにも納得だ。よ~し、オレも全開のテンションで応えるぜ!
「オレもぉ! 大好きなこよいにぃ! だんな様って呼んでもらえて嬉しいぜっ! オレは三国一の幸せ者だぁぁ~っ!」
「ンキャアアァァ~ッ♡ サンゴォ~ッ♡」
オレ達二人の歓喜の叫び! 彩戸さんの目が若干細められる!
「三五♡ ちゅっちゅ♡ ちゅっちゅ~ん♡」
こよいの直接的過ぎるおねだり!
キス顔で飛び付いてくるこよいをもちろんオレは優しく受け止め……。
「はい、ちゅっちゅは禁止!」
彩戸さんはこよいの動きを予測していた!? 輪投げの要領で浮き輪をこよいの首を目掛けてポーンと放り投げる彩戸さん。
その後、容赦なく浮き輪の紐を引っ張ったぁ!?
「ぐぇぇぇっ!」
ちょっと! こよいの首に浮き輪が食い込んでるんだけどぉ~っ! 絞まってる! 絞まってるって! オレも自分がやられるよりも苦しくなるから止めてくれえぇ!
「うえぇぇ~んっ」
「よしよ~し、痛かったね、こよい」
またしてもこよいの頭を撫でて慰める。もう彩戸さんは放っといて二人で遊ぼうね、こよいっ!
こよいと二人、節度を守ってイチャイチャする。
幸い手を繋ぐくらいなら何も言われない。なので手を繋いでゆ~っくりと二人でプールを歩いたり、浮き輪に乗っておしゃべりしたりして過ごす。
例年の様に体力の限界まで泳ぐのも良いけど、まったり楽しむのも良いものだ。
何よりも……。
「三五♡ プカプカしてるの気持ち良いね♡」
特別な事をしなくても、こよいが幸せそうに笑ってくれる。
その事が心の底から幸せなオレなのだった。
楽しい時間は過ぎ、ひぐらしの鳴く夕暮れに。
「さ~て、そろそろ着替えましょうか?」
「「あの~、最近流行りのナイトプールというものが……」」
「ダ ・ メ ・ よ。今日は一杯遊んだでしょう?」
ダメか~。もっと遊びたかったけど仕方がない。
早くシャワーを浴びて更衣室で着替えてこよう。少しでも長くこよいと一緒にいたいからね。
「三五、わたしすぐ着替えるから待っててね!」
「うん、オレもすぐに行くよ」
プールサイドをペタペタ早歩きし、オレが今日使ってるシャワールームのドアを開けると……中には彩戸さんが居た。
「あれっ!? いつの間に追い越したの!?」
「三五ちゃん……」
オレの素朴な疑問など馬耳東風。
「お嬢ちゃまのことで、聞いて欲しいことがあるの」
今の彩戸さんの瞳は先程までとはまるで違う真剣なものだった。




