第39話 繊月 こよい スイカ割り勝負☆
「うぇぇぇ~んっ。三五ぉぉ~っ。おねぇちゃんが酷いのぉ~。三五はわたしのなのにぃ~っ」
彩戸さんからの制裁を受けて、こよいが泣きじゃくってしまっている。
「うんうん、そうだね。オレはこよいだけのものだからね」
オレ優しい声を掛けつつ頭を撫でてこよいを慰める。
本当はぎゅっと抱き締めてあげたいところだが、今のこよいは白ビキニの水着姿。そんなことをすれば、またキッツいお仕置きを喰らってしまう。
せめて心を込めて優しく撫で撫でしてあげよう。
「よしよし、こよい。元気を出して。笑ってるこよいが一番可愛いよ」
「ぐすっ。うふっ♡ うふふぅ♡ 三五ぉっ♡ もっと撫でてぇ~♡」
おお。こよいの泣き顔が晴れて、たちどころにニコニコ笑顔に早変わりした。フラワーの開花映像を早送りで見ているかの様だ。
笑顔になってくれて一安心。
「彩戸さん! 貴女に勝負を申し込~む!」
「え~?」
元気になったこよいが彩戸さんにビシッと指を差して宣戦布告する。
やられっぱなしなのが悔しいんだね。でも大丈夫かな? また泣かされなきゃいいんだけど。
「それじゃスイカ割りで勝負しましょうか。うふふ♪ 勝った人が三五ちゃんとスイカを食べさせ合いっこ出来るってのはど~お?」
「ムキ~ッ! 絶対! 絶対負けられない~っ! 受けてたぁつ!」
彩戸さんってば、ま~たまたこよいを挑発してからに。しかもその勝利特典だとオレの入る余地なくない?
「オレもスイカ割りしたいんだけど」
「あら。それじゃあ三五ちゃんが勝ったら私たち二人であ~んってしてご奉仕してあげる♪ ハーレムよ、ハーレム♪」
「むぐぅ……ハーレムかぁ……すっごく複雑ぅぅ……。絶対わたしが勝たなくちゃ……」
こよいがすっごくビミョ~な顔をしてる。
オレもこよいを困らせるのは嫌だ。
上手くこよいに勝たせてあげないと。スイカ割りを楽しみつつ。
三人でじゃんけんをして順番を決める。
一番手は彩戸さん。
目隠ししてその場でグルグル回転。木製バットを構えて準備OK。
「よ~し、行くわよ~」
意気込む彩戸さんだけれども……。
「上上!」
「下下!」
明らかな妨害行為! 彩戸さんにお仕置きされてひどい目に遭ったオレ達がまともな誘導指示なんてする訳がない。
今更だけどスイカ割りは勝負には向いてないぞ。
「アンタ達ねえ……」
「「左右左右BA!」」
「フーン。最強モードのお姉ちゃんからフルオプション満載のお仕置きをされたいのかしら?」
怖い! 彩戸さんの空気が変わった! オレとこよいの肩がビクンッと跳ねる!
「しょ、勝負だからね! 負けないもん!」
「良いわ……見てなさい」
そう言うと彩戸さんはバットを正眼に構え、足をジリジリと動かし、ゆっくりと扇状に身体の角度を変えていく。
彩戸さんがスイカのある方向を向いた時……。
「ぁっ……」
こよいが小さな声を漏らした。
その声を聞いた彩戸さんが、猛然と前進!
ズカズカズカズカ!
「きゃぁぁぁ~ッッ!」
こよいの悲鳴!
「てぇぇい!」
彩戸さんがバットを振り下ろす!
ドカンッ!
バットは紙一重でスイカの手前を叩いた。
危ねぇ! もう少しで勝負が終わってた!
「び、びっくりしたよぉ~」
「チッ、あと一歩足りなかったわね。でも間合いは掴んだわ」
本気の彩戸さん怖い!
こりゃ二巡目は回ってこないな。
次はオレの番!
目隠しをしてグールグルっと。う~ん、これじゃ何もわからんぞ。
「三五~! そのまま真っ直ぐ~!」
「違うよぉぉん♡ 三五ぉぉん♡ 右斜め前だよぉん♡」
何ィ!? こよいの声が別方向から二つ聞こえる!? でも片方は何かおかしいぞ!?
「騙されちゃダメ! 彩戸さんの声帯模写よ!」
声帯模写!? 彩戸さん多芸すぎる!
「んふぅ~ん♡ 三五ぉん♡ ちゅきぃ♡ だいちゅきぃ~ん♡」
「ムキ~ッ! わたしはそんなんじゃな~いッ!」
ま、まあ彩戸さんの声は偽物だってわかりやすいから。こよいの指示だけ聞こう。
こよいの声を信じないなんて選択はオレにはないからな!
「そうよ、ちょっと右に修正して、オッケー! 真っ直ぐ進んで~!」
「三五ぉぉん♡ そこで左よぉん♡」
よしよし。
こよいの指示通りに進んで大分スイカに近付いたハズだ。
もうそろそろ……。
「そこよ。叩いて」
よしっ! ……いや待て、この声は違うっ!
「三五~っ! もう二歩進んで! そこで叩いて!」
これがこよいの声! 二歩進んで……今だっ!
グシャァッ!
手応え有り!
目隠しを外す。
するとそこには潰れた……メロンがっ!? スイカどこ行った!?
「ごめんね三五! ハーレムして欲しくないからすり替えといたのっ! わたし、三五には嘘吐きたくなくて……」
な、成る程。こよいの可愛い葛藤の末の行動なんだね。
「やるわね三五ちゃん。アホな声上げておけば、普通の口調の時には騙されると思ったのに。ミスリードが単純すぎたかしら」
「まあ、こよいの声だから。さすがに聞き分けられるよ」
「嬉しいぃ~♡ 三五しゅきぃ~♡」
最後はこよいの番。
「こよい~っ! まず右向いて、右!」
「いや、左だよっ! 左っ!」
うわ、出たよ、声帯模写! 自分の声真似されるって変な気分!
「フフフ。わたしだって、三五の声なら聞き分け余裕! 声が若すぎるわ! 彩戸さん! それは三五が中学生の時の声よ!」
「ムムム。お嬢ちゃまやるわね」
こよい凄い! そんなのオレも自分じゃわからないのに!
「えへん。それにね、三五が最近になって初めて出した声があるの! それはイケボ! さぁ、三五! イケボで指示して!」
イケボ!? オレが可愛いこよいにドキドキして、テンション上がってる時の声?
確かにあれは彩戸さんには出せないだろうけど……。ええぃ! こよいが言うなら!
「オレの可愛いこよい……。右を向いてごらん?」
「ププププーーッッwww」
彩戸さんがツボに入った! は、恥ずかしい! でもこれなら妨害できまい!
「きゃ~♡ 素敵♡ えへへ♡ 右ねっ♡ このくらい? このくらい?」
「そうだよ、もう少し……そこだよ。そこで止まってごらん?」
「アッハッハッハッハw アーッハッハッッハw」
そこまで笑う事ないじゃん! 彩戸さん! すげー恥ずかしいんだけど!
そして……。
「そこだよ。可愛く振り下ろしてごらん?」
「はぁい♡ えぃりゃぁ♡」
グシャァッ!
こよいのバットによって見事スイカは割れた。
彩戸さんは笑い疲れてプールサイドにブッ倒れている。
「クフフフフw ヒヒヒヒヒw も、もうダメw わ、わたしの負けよw アハハハw し、死ぬw お、お腹苦しぃ~w」
奇遇だな。オレも負けたよ。顔が真っ赤だよ。
「くふぅ~ん♡ 三五ぉぉ♡ やったよぉぉ♡ 三五がイケメンなお陰で勝てたよぉ♡」
スイカ割り対決はこよいの一人勝ちで終わった。




