第38話 繊月 こよい コラッ☆ 三五を返せっ☆ わたしのだゾ☆
ブクブクブクブク!
彩戸さんからの強烈な一撃はこよいの色香の虜となっていたオレにとって、正に意識外からの一撃。
突然プールの底に叩き込まれたオレは困惑してしまう。
しかし次の瞬間、強い力でグィッと一気に水面まで引き上げられた。
「ゲホッ! み、水が鼻に入ったぁぁっ!」
「さ~ん~ご~ちゃ~ぁ~ん?」
耳元で囁かれる低~い声。オレを引き上げた彩戸さんの声だ。
細い腕がオレの身体に巻き付いて、ガッチリとロックされる。
「ああっ!」
彩戸さんの羽交い締めから逃れられない!
何故!? 腕はオレの方が太いのにっ! 身長だって追い抜いたのに!
な、何か関節が動かない様に固定されてしまい、力が込められない!?
「お外でエッチなお遊びはダ~メ~よぉ~?」
ぎぅぅぅ……とゆっくり締め上げられる!
「彩戸さん! ごめんなさい! 許してっ!」
「許さ~な~い~♪ 悪い子にはこちょこちょの刑よぉ~♪」
あ゛~っ! く、くすぐったい~! 彩戸さんの手がオレのくすぐったい所ばかりを這い回る!
そ、そこ弱いって知ってるクセにぃ~っ!
「あはははは! ゲ、ゲッホォッ! ゲホゲホッ! し、死ぬ! あははは!」
彩戸さんは楽しそうにくすぐって来るけど、これはマジで苦しい!
鼻には水が入ったままだし!
くすぐりは執拗だし!
コイツはガチの刑罰だっ!
「ダ~メ! 逃げないの! こちょこちょ~っ♪」
ぬいぐるみを抱くみたいにぎゅうぅ~っと抱き着かれ、女性特有の細い指がフェザータッチで、くすぐったい所ばかりをぉ~っ!
「死ぬってぇ! お姉ちゃんごめんなさい~!」
「んふふ♪ 三五ちゃんカーワユイ♪ ま~だまだ耐えようね♪」
本気で容赦なさ過ぎぃぃ!
もう逆らいませんからぁぁ!
「イヤアアァァァ! エッッッチィィィ!」
愛する少女の悲痛なる叫び!
何々!? 何がエッチなの!?
「水着姿で男の人に抱き着いてペタペタお触りするなんて! しかもここお外よっ! ハレンチ過ぎるっ! 彩戸さんがそんな人だったなんて!」
「お嬢ちゃま、その発言ぜ~んぶ自分に返ってるからね? ブーメランみたいに」
そういう事か……。
でもね、こよい。焼きもち妬くことはないんだよ。
オレがドキドキしたり、エッチな気持ちになるのはこよいにだけだって、今証明されたから。
だってこの状況、辛ぇもの! 苦しいもの!
「わたしの三五にそんなにくっつかないでよ! お胸をムギュッてしないでよ!」
こよいはドプンとプールに飛び込み、オレと彩戸さんを引き離すべくこっちに泳いで向かって来る。
「お嬢ちゃまにもお仕置きよ。今日は三五ちゃんの事もらっちゃう♪」
だがしかし、彩戸さんはオレを抱えたまま、立ち泳ぎでこよいから距離を取る。何という力! オレは大人しく拘束されるがまま……。
「三五を返してぇぇ!」
「ふふ~ん♪ 若いツバメをGETしてぇ♪ 寿退社夜露死苦~♪」
煽りにしても何!? その企み!? オレはもうこよい専用なのに!
「嫌だっ! ツバメになりたくないっ!」
「ツバメを返せ! わたしのツバメだぞぉ!」
「ぷぷっ、ツバメ返し? 二刀流 (意味深) のお嬢ちゃまが? あ~可笑しい♪」
「わたしは二刀流じゃなぁいっ! 昔から愛羅武三五の女一刀流だぁぁっ!」
こよいってば凄い体力だ! あの彩戸さんにここまで喰らい付いてくるなんてっ!
いや、執念の泳ぎもそうだが何よりその怒りの表情が凄い。こよいは綺麗な顔立ちをしているから一層鮮烈な印象だ。
しかしオレはその表情を怖いと思うよりも痛ましく思う。
このまま大人しく彩戸さんのぬいぐるみになっている場合じゃないぜ!
拘束から抜け出してこよいを慰めに行かなきゃ!
くっ……そ! で、でも抜け出そうとすると、彩戸さんの腕がっ……! 逆に……っ! か、身体に食い込んで……っ! くる……っ!?
「あら♡ 三五ちゃんったらお姉ちゃんのお胸が恋しいの? おねむなのかな? よちよち♡」
「イヤァアアア~ッッ! サンゴォォ~ッッ!?」
ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーッッ!!
こよいが悲しんでるぅ~ッッ!
「違うんだよこよいぃ~っ! 逃げ出そうとすると逆に、逆に彩戸さんの腕の中に呑み込まれていくんだよぉぉ~っ!」
何と面妖なる捕縛術! まるで魚釣りの仕掛け針か、はたまた虎バサミか!? 底知れない技巧!
「よ~ちよち♡ おねんねしても良いからね~、三五ちゃん♡」
「びえぇぇーんっ! 三五はわたしのなのに! わたしのなのにィィィ~ッ!」
ぎゃああああ! こよいが泣かされたぁぁ!
「謀ったなぁ! 彩戸メイィィ~ッッ!」
「フハハハハハハw お姉ちゃんに歯向かうことの愚かさw その身を以て知るが良いw」
充分思い知ったよぉぉ!
彩戸さんのお仕置き、ガチで強烈過ぎる。
だからオレ達二人は彩戸さんに逆らえないんだよ……。




