ちぃすと~り~ ② エロちぃとオレのベクトル ちぃちゃんルート
「エロ兄ぃ様~♪ おはようございマ~ス♪」
タッタッタッタ。
エロちぃは朝、校門付近でバッタリ会うと、必ず駆け寄って挨拶してくれる。
「おはよう、エロちぃ。今日も可愛いねぇ」 (しみじみ)
「ひょえぁっ!? エ、エロ兄ぃ様ったらお上手なんデスからぁぁっ♡」
オレとエロちぃはあっという間に仲良くなった。
ハッキリ言って後輩の中で一番可愛がっている。
もちろん陸上部にもたくさん後輩が入ってきた。彼らをブッちぎった上でのことで、だ。
それには理由があった。
「エロ兄ぃ様~、お姉様が今日のお昼に新作のダンスをご披露しマスって♪ 楽しみデスネ♪」
「おっ、今日もかよ!? 最近のエロ姉ぇヤバイな! 熱意がハンパねぇ……よ~し、こちとらも気合いを入れて観るぜっ!」
「エロ兄ぃ様ったら夢中になり過ぎて、よくお昼ご飯食べ忘れてマスもんね♪」
「いや~、最近なんか腹減るな~、って思ってたんだよね」
「「アッハッハッハッハ♪」」
オレとエロちぃの好意のベクトルはエロ姉ぇという超強烈な個性に惹き付けられている。
エロ姉ぇを通してオレ達は仲良くなったんだ。
「ボクのこと忘れて邪悪なこと企むの止めてくれる……!? エロ姉ぇめ、エロちぃめ、ユルサナイ……!」
嫌だなぁ、オレが湖宵のことを忘れるワケないじゃないか。
ギュッ。
「湖宵も一緒に観るんだよ?」
「ド、ドSぅぅ♡ 手をギュッ♡ としてニコッ♡ て微笑んでからの、その提案はマジでドSぅぅ♡ でも逆らえない! クヤシ~ッ♡」
「お二人は特別な関係なんデスネ♪ ちぃとお姉様みたいデス♪」
特別、かぁ。
オレとちぃちゃんも仲良くなったけど、特別というにはあと一歩、足りないね。
何故かって言うと、好意のベクトルがお互いを指してないからさ。
「ウッフフフゥ~ン♡ アハハハァ~ン♡」
「うおおぉ~っ! エロ姉ぇ、超エロい! 超美しい! もはや形容し難い! だから叫ぶ! うっおおおぉぉぉ~~っっ!!」
「キャ~♪ キィィィャァァァ~ッ♪ ちぃのお姉様は世界一ぃぃ~っ♪ デス♪」
一緒に盛り上がるオレとエロちぃ。
「やっぱりエロ姉ぇはイイネ!」
「わかってくださいマスか、エロ兄ぃ様!」
意気投合するオレとエロちぃ。
「お姉様の後ではお目汚しカモしれマセんが……ぜひ、ちぃのダンスもご堪能ください♪ くるるん♪ タラララ~ン♪」
「ワ~オ♪ 今日もエロいぞ♪ 可愛いぞ♪」
パン! パン! パン! パン! (手拍子)
エロちぃのエロカワダンスを心から楽しむオレ。(舌鼓を打つかのごとく)
「いや、実際ケッコ~仲良いよね!? ワリと特別なカンケイだよね!? イヤなんだけど! 三五がエロちぃと付き合ったりなんかしたら、ボク、イヤなんだけどぉぉ!」
腹の底から危惧する湖宵。
「特別じゃないよ~、だってオレにとって、エロちぃは推しの妹なんだからさ」
そしてエロちぃにとって、オレは大好きな姉の推し。
つまりはエロ姉ぇという NB - Dありきの仲なのさ。言わば同好の士?
同じ推しに好意のベクトルが向いている。
その共通点があるからこそ、オレ達は仲良くなった。
その共通点があるからこそ、オレ達の好意のベクトルはお互いに向きようがない。
なんとも生ぬる~い温度。ビミョ~な距離感。
だけども不満なんて全然ない。むしろジャストでベスト。
魅力的な女友達との心地好~い交流をオレは割かし気に入っていたのだった。
そんな認識が変わったのは出会ってから半年も経った頃だろうか。
とある事件がキッカケだった。
陸上部の競技会があった日の夕暮れ時、仲間とメシを食べに行った後の帰り道。
「や、やめてぇ……やめてくださいぃ……」
おや、エロちぃの声がする。
珍しいね、こんな時間に駅前で出会うなんて。
「いいから来いや! 誘ってんだろうが! ガタガタ言うな!」
「ヒッ……! お、お姉様ぁ……!」
な、何てことだ! エロちぃが薄汚ぇ小男に絡まれてる!
人通りの多い繁華街だ。
皆、チラチラと騒ぎに目をとめているが、いかんせんエロちぃの格好が格好だからな。そのまま通り過ぎて行ってしまう。誰も助けてはくれない。
このままじゃ、エロちぃが路地裏に連れ込まれてしまう!?
ヤラせるかよ! ヒーローの出番なんだが!?
ザッ!
「オイオイ、行くのかよ!?」
「繊月が心配するよ~? 高波~」
躊躇わずに一歩踏み出すオレに仲間達が声をかけてくれる。
「ああ、行くよ! 荷物とスマホ、頼むわ!」
何せオレは体力が有り余ってるからな。選手に選ばれなかったから。
湖宵もお家の事情で休んでて、つまんなかったしさぁ。
この地味~なストレスをヤツにぶつけてやるぜ!
仲間達に後のことを色々頼んだら、再び一歩を踏み出す。
ザッ、ザッ、ザッ!
「おいゴルァ! その汚ぇ手を離せっ!!」
「うおぉ!? な、なんだぁ!?」
耳元で怒鳴り付けてやると、小男は肩をビクッ! と震わせた。
「ああっ!? エ、エロ兄ぃ様ぁっ!」
エロちぃは掴まれていた腕をババッ! と振りほどくと、オレの元へシュタタッと駆けてきて、ササッと背中に隠れた。
「な、なんだテメェは! 邪魔すんな! そのオンナはなぁ、オレを誘ってたんだよ!」
「ハァ? 嫌がってただろうが。目ン玉腐ってんのか」
「こっちのセリフだバカが! そのオンナをよ~く見てみろ! オトコ狂いのヘンタイじゃなきゃ、こんなカッコしね~よ!」
「あ、あぅぅ……」
それを言われっと弱いんだよな……だってエロちぃってば今日もいつも通りの格好してるんだもの。
胸元パッカ~ンの半袖ブラウスに、フトモモ丸見えの超ミニプリーツスカート。
季節はすっかり秋めいて、ちょっぴり肌寒い今日この頃にだぜ?
更~に彼女は成長期。
春から秋にかけての短い間で、見るからにオトナの女性らしい身体つきに羽化していた。
ブラウスを突き破らんばかりに育ち続けるバストはそらも~ミッチミチで、谷間に深くクッキリとしたスリットを刻んでいる。
ヒップはまんまるく肉付きつつも、決して重力に囚われることなく、プリリンと弾けて悩ましげなラインを描いている。
悩ましいと言えば、付け根まで見えちゃいそうなスラッとおみ足様よ! この季節にナマだぜ、ナマ! 瑞々しく輝くフトモモのありがたさと言ったら!
若さだけじゃこの GJNB は “創造” れないね。
エロちぃはダンスやってるからな。
スキンケアとか美容に関するコトにも、当然気を使っているだろうし。
エロちぃを総評すると……うん、性的だよね。蠱惑的な魅力に溢れているよね。
でもなぁ、同時に純粋なんだよこの娘ぁ……!
エロちぃがエロいのは姉へのリスペクト、その一念が故よ! 断じてオトコ漁りの為にあらず!
「下衆の勘繰りは止めろ! エロちぃはそんな女の子じゃない!」
「お前も 「エロ」 って認めてんじゃねぇかよ!? 明らかに 「そんな」 オンナだろうがよ!? フェロモンを虚空にプンプン放って、そこらじゅうイイ匂いにさせやがってよぉぉ!」
「へえぇ!? ち、ちぃ、なんかやっちゃいマシた!?」
エロちぃったら無自覚お色気チートでなろうクソ煽りしちゃってるし。
なんかオレ、感覚マヒしちゃってたな。
流石に学校 「外」 でこの格好はマズいよね。(感覚マヒ)
あとで一言言わせてもらうとして……。今は可愛い後輩ちゃんを守ってあげなきゃ。
「あ゛あ゛あ゛! いいからオンナを寄越せ! こちとらガマンの限界なんだよ! ヤラせろ!」
「誰が寄越すか! エロちぃはオレのオンナなんだよ!」
「えッ!?!? そ、そうだったのデスかッッ!?」
いや、違うけどもさ。嘘も方便って言うじゃん。バトルを有利に進める為だから、今だけそういうコトにしといてね。(アイコンタクト)
「オイ! お前もオレの方が良いよなぁ!? こんな学校ジャージのマジメくんなんかよりもよぉ!?」
「好きな方選んで良いよ、エロちぃ」
「ええっ!? じゃ、じゃあコッチ! 絶対コッチ~ッ!」
ムギュギュ~ッ♡
「へへ~ン♪ ハイ勝ちぃ~♪」
エロちぃがオレの腕に力一杯しがみついてくる。
秒で選ばれてオレ氏、ご満悦♪
推定 F - Cup バストのプニプニ感触も役得ラッキ~♪
「何でだぁ!? オレは不良なんだぞ!? マジメくんなんかにぃ!?」
「オマエ日本語わかんね~のかよ。不良って出来損ないって意味だぞ」
マジメくんの方が偉いに決まってる。
マジメさまと呼んで崇め奉るべきだ。
だってこんなヤツが将来、税金 ・ 年金キッチリ納めるか? 選挙に行くか?
世のマジメさまのお陰で息を吸ったり吐いたり出来るんだろ~が、テメ~らみて~なモンは。
「テ、テメェェ! 言わせておけばぁぁ!」
お? 遂に拳を振り上げやがったぞ。
「エ、エロ兄ぃさまぁ……」
「危ないから下がってな、エロちぃ」
身体暖まってっからよ。いつでも来いや!
「このヤロォォ!」
ブンッ! ブンッ!
フリョ~くんの拳がハデに空を切る。
ミエミエなんだよね、そ~んな大振りのパンチなんか、冷静に対処可能。見てからヨユ~で避けられるっつ~の。
「クッソがァァァ!」
ブンブンッ! ブンブンッ!
「ヘイヘ~イ♪」
陸上競技で培った瞬発力 + イケメン主人公補正を駆使して、避ける避ける。
「や、止めてぇっ! エロ兄様に……ちぃのお兄様に酷いコトしないでっ!」
涙ながらに訴えるエロちぃ。
ヒロインムーヴ、可~愛いね。さしずめオレはヒーローか。良い気分♪
だから逆効果なんだよね。
「ガアァァ! チクショ~ッ!」
ブブブン! ブブブン!
ホラ、火に油を注ぐ結果に。
誰がどう見ても今のコイツはワルモンだ。きっとクソみたいな気分だろう。
なんたって確定してるからね、コイツが負けてブザマに這いつくばるコトは。
「お、お兄様! ダメデス! 思ってるコト、全 ・ 部! 口に出てマス!」
アララ、そいつはウッカリ。
でも大丈夫さ。少しの間、この状況をキープしていればオレの勝ちなんだもの。
こ~んなテレフォンパンチなんか……。
「キエエエェェェ~~ィッッ!!」
あっ、ヤバい! 前言撤回! コイツ、今までとは違って身体ごとダイブしながら打ってきた! ちょっと身体をひねったくらいじゃ避けられね~! なおかつこんなパンチを喰ったらイケメンさんのイケ面さんがブッ潰れるぅぅ! こ~なりゃ、こっちも地面に向かって背面ダイブするしかね~! (この間0.1秒)
「とおぉぉ~ぅ!」
ブッブゥゥゥゥゥン!!
アブね~! ほっぺにヤロ~の拳がかすった! 紙一重で直撃するところだったぜ!
ドッスンッ!
痛い! でもケツから地面に落ちたから、なんとか受け身がとれたぞ。ダメージは軽微だぜ。
「オッ、オッ、ワ~ッ!」
ガッツン!
「痛ぇ!」
フリョ~のヤツめ! 勢いがつき過ぎて、オレの足に蹴つまずいていきやがった!
「どわぁぁぁ~っ!」
ズッシャアァァ~ッ! ガンッ!
あ~あ、転んで顔面スライディングかまして、オマケに居酒屋の看板に頭ぶつけてやんの。
「痛ぇぇ……! うわぁ、血が、血がぁ!」
フリョ~は顔面からだくだく流血して、ワリと悲惨な有り様になっていた。
「何をやっとるんだね、君達は。チョット交番まで来なさい」
騒ぎを聞き付けて、お巡りさんがやって来た。
当然だね。だってココ駅前だもの。交番はすぐそこだ。
「コイツが悪いんだ! コイツがオレをこんな目に! ショ~ガイ罪だ! ボ~コ~罪だ!」
オレを指差して被害者ヅラするフリョ~。
しかし、甘いぜ。
「ち、違いますっ! 彼は悪くありませんっ!」
「証拠はこのスマホに~」
仲間達がやって来て、オレを弁護してくれる。
そう! オレは彼らに頼んで、一部始終を録画してもらっていたのさ!
イマドキ、子供のオモチャにすら高精細カメラがついているんだぜ?
どんな小さな悪行もカメラに捉えられて槍玉にあげられる、この魔女狩り時代よ! リアル暴力を振るうだなんてぇのは、時代遅れを通り越して真正のバカのやることなんだよぉ!
「なるほどね、詳しく話を聞かせてもらおうかな」
「チ、チクショォ……」
フッフッフ。これが令和のケンカのやり方さ。
このオレの ・ 完 ・ 全 ・ 勝 ・ 利ィィ! スタイリッシュにキメてやったぜ!