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第21話 高波 三五  踊る君に見惚れて

 背の高い立派なヤグラに付けられたたくさんの提灯が盆踊り会場を明るく照らす。


 灯りの下にはたくさんのお子様達と彼らを見守るお父さん ・ お母さん達が集まっていた。

 オレとこよい以外にティー ↑ ンズの姿はあまり見られない。


 盆踊りが若者離れしている……という訳ではない。


 ここの盆踊りは日が落ちていくにつれ、曲調がドンドン激しくなっていく。

 最初は昔ながらのゆったりペースの民謡 ・ 音頭や、お子様向けアニメのアレンジ曲などが流れる。

 やがて曲調がPOPになり、ROCKになり。最後にはハイペースなEDMになる。


 パリピ勢や花火そっちのけの盆踊りガチ勢はもっと後の時間帯から参加して、ずーっと体力の続く限り踊り続ける。その為の体力を温存する為に彼らはゆったり時間には参加しないのだ。


 オレは花火が打ち上がるまでの時間を利用して告白するつもりだ。

 遅い時間の盆踊りに参加してはその為の猶予が無くなってしまうので、お子様達の盆踊りに混ぜてもらおうという訳だ。


 振り付けも簡単だし運動量も少ないライトな盆踊り。

 ウォーミングアップにはちょうど良い。


 ドドンッ! ドンッ! ドンドンドンッ!


 おっ、元気の良い太鼓の音が響いてきたぞ。


 オレも元気良く身体を動かして告白に向けて弾みをつけよう。


 パパンッ♪ パンッ♪ パンパンパン♪


 両手で拍手を打ちまして~♪


 右足と~♪ 左足~を交互に前に出す♪


 その際、両手はヒラヒラ空中に遊ばせる~っと♪


 時には無意味に回ってみたり~バックステップ刻みます~♪


 オレの腕~の可動域♪ こんなに広いぜ知ってたかい? ってな♪


 やっぱりお子さん向けなだけあってすごく簡単だなぁ。

 少しくらい振り付けを間違ってもご愛嬌だし、気楽に踊れていい感じ。


 隣で踊っているこよいの姿をチラチラ眺める余裕すらある。


 こよいが盆踊りを踊る姿はあまりにも美しくて目を見張ってしまう。


 スラッと伸びたしなやかで白い腕。


 ピンと張った細い指。


 華奢で女性らしいボディラインがステップを踏むたび滑らかに波打ってドキドキする。


 風に流れるサラサラな髪。


 スッと通った鼻梁。


 宝石の様な瞳。


 改めて、こよいは美しい女の子だとしみじみ実感する。

 もしこよいが幼馴染みじゃなかったら高嶺の花過ぎて声を掛けることすら躊躇われるかもしれない。


 オレの視線に気付いたこよいがニコーッと嬉しそうに笑い掛けてくれる。


 その顔はこよいが男の子だった頃から、そして小さな頃から変わらずに親しんできた笑顔だった。


 こよいはこよい。

 見知らぬお姫様なんかじゃない。


 オレがプレゼントした三日月型のキラキラバレッタを大切に髪に飾ってくれて。

 金魚の尾びれの様なヒラヒラ帯や、リボン鼻緒のカラコロ下駄といったキュートなアイテムを愛用する女の子らしい女の子。


 「お姉ちゃん、踊り上手~」

 「教えて教えて~」

 「ふわあ、ヒラヒラキレイなお姉ちゃん」


 「きゃあ、お、帯引っ張っちゃダメよ。お姉ちゃんのマネして踊ってみてね」


 「「「はぁ~い」」」


 こよいの優しそうな雰囲気は子供さん達を惹き付け、たちまち人気者に。


 やっぱり素直な子供にはこよいが素敵な女性だって一目でわかってしまうんだね。


 「よ~、兄ちゃん。あの姉ちゃんって兄ちゃんのコレ(小指)か?」

 「兄ちゃんさぁ、お姉ちゃんとち、ち、ちゅ~したかっ!?」

 「エロい! この兄ちゃんエロ~いっ!」


 オレに寄ってくんのはクソガキばっかりだよ。

 全く。


 「うるせぇぇ! オレのマネして踊れコラァァ!」


 「「「ウェーイ!」」」


 子供さん連中に囲まれながら何曲か盆踊りを踊った。


 踊りながらもオレ達はたびたびお互いを見つめ合い、その度に子供達に冷やかされた。

 気恥ずかしさにくすぐったくなるも、何だかこの空気にも慣れて来たような気がする。


 ドンガ! ドンガ! ドンドン! カッカッ! 

 ドンガ! ドンガ! ドンドン! カッカッ!


 太鼓のリズムが徐々にアップテンポになる。

 それに伴って盆踊り会場にわらわらと人が集まり始める。


 こよいに目配せ。

 頬をじんわり紅潮させたこよいはコクンと頷いてくれる。


 オレとこよいは手と手を取り合ってそっと盆踊り会場を離れた。


 「あ~っ、デートするんだぁ!」

 「ステキ……」

 「兄ちゃんエロい! 手ェ繋いでるっ!」


 子供達の冷やかし、若干苦笑。

 でも正直、冷やかされても仕方無い程の甘い空気が今のオレとこよいの間には流れている。


 約束の時間が近づいてくるにつれ、それはどんどん濃密なものになっていくのだった。

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