あなざ~彩戸すと~り~ ・ アン視点 ④ 私の従姉妹は恋のライバル? いいえ、上位互換です (血涙) アンルート
※アン視点です。
「三五さん可愛過ぎますぅぅ! キッスさせてくださいぃぃ!」
と、とんでもないことを口にしてしまった。
騙して想い人の唇を奪おうだなんて、正に天をも恐れぬ悪行。
ああ、人ってこうやって過ちを犯すのですね……もはや警察のご厄介になることは免れないでしょう。
わかっていても欲望が抑えられない私は悲壮な決意を固めますが、しかし。
「? 何でワザワザ聞くの? いつも好きな時にキスしてくるじゃん」
「う゛え゛ぇぇ~!? そ、そんな、三五さんの唇は! ファーストキッスは既にメイのものなのっ!?」
「いや、ほっぺにだけど」
セ、セェェェ~フ! ……なの!? ど~なの!?
メ、メ、メ~イィィィ! いつでも好きな時に三五さんのほっぺにちゅ~ですってぇぇ!?
あの女! お姉ちゃんですよ~♪ みたいな顔しておきながら三五さんに恋愛感情ガッツリ抱いてるぅぅ!
このままじゃ三五さんのファーストフラッシュ (下ネタ) が全部メイに奪られちゃう!?
絶対絶対絶~対に阻 ・ 止ぃぃ! 奪られちゃう前に奪っちゃうぅ!
「私がしたいのはいつものよりもっとスッゴいヤツです! 恋人同士がするお口とお口がくっつくヤツです!」
焦りに急き立てられるままに三五さんに迫る。
私は恋愛感情の奴隷。
「……………………」
無言で長考する三五さん。
サ~ッと血の気が引く私。
あ゛あ゛ん゛っ! もしかしてドン引かれてますか!? 白い目で見られちゃいますか!?
も、もしも三五さんに負の感情を向けられてしまったら……私は、私はぁぁっ!
後悔の念が沸きかけた、その時。
「……ん」
!?!?!?!?!?!?!?!?
キ、キ、キ、キ、キスマチィィィ~!?!?
ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛~っ! カ ・ ワ ・ イ ・ ス ・ ギィィィ~ッ♡♡♡
「い、いただきますぅ♡」
もうダメですね。安全装置が外れました。
今の私は欲望を発射するだけの凶器です。
キス。きす。Kiss。
頭の中はピンク一色。罪悪感、ゼロ!
償うから! 後で償いますから!
んんんんんん~っ♡♡
「待ちなっさぁぁぁ~いっ!」
ドギャアッッ!!
「ふぎゃああぁぁぁ!」
ズボォォッ!!
い、い、痛っったぁ~いっ!? お尻がぁぁっ!
突然強い衝撃に吹っ飛ばされて、生け垣に頭から突っ込んじゃいました!?
「ええっ!? メイおねえさん!?」
メイ!? メイが私のお尻を蹴っ飛ばしたのね!?
何でこんなジャストタイミングで現れたの!?
チャットで 「待ち合わせ場所がわかんなかったから先に帰っててネ☆」 って送ったのに。
ああぁぁんっ! もうちょっと! 唇までもうほんの数ミリだったのにぃぃ!
私のファーストキスぅぅ~!
「可哀想に……! よしよし、怖かったね、もう大丈夫だからね」
アッ!? なんかイチャイチャしてる!?
ダ、ダメ~ッ!
むぐぐぐぐぐ~っ!
ジタバタジタバタ!
スポ~ンッ!
ハアハア……や、やっと抜けました。
でも髪にいっぱい葉っぱが付いちゃいました。
三五さんの前なのにぃ、ふぇぇぇ~ん。……とか言ってたら、メイに媚びを売るな! って怒鳴られちゃいました。
もの凄い剣幕です! 未だかつて無い程ブチギレてます!? 怖~い!
「三五ちゃんも気付きなさいよね!」
怒りのあまり三五さんにまで噛みつくメイ。
「メイおねえさん級の美女が二人も居るなんてあり得ないと思ったんだよ!」
「「アラァ~♡」」
三五さんのイケメンな返しでメイはたちまちご機嫌に♪ 言わずもがな私も♪
ム ・ フ ・ フ♪
三五さんは私のことを世界で二人と居ない美女だと思ってくれているんですねぇ♪
やっぱりやっぱり私は三五さんに好かれて…………え?
な、なんかメイに抱っこされてる三五さんの視線が冷えっ冷えなんですけど……?
ど、どうして!? どうしてそんな宇宙人を見るような目で私を見るんですか!?
え? どうして私が三五さんのことを大 ・ 大 ・ 大好きなのかが理解不能ですって?
わ、私、三五さんに怖がられてる!?
その事実を認識したとたん、地球の重力がズンッ! と圧し掛かってきました。
同時に嫉妬、不安、恐怖、焦燥、閉塞感……三五さんとデートしていた時には存在すら忘れていた負の感情達が私の心をジワジワ蝕んでいくのです……!
う゛ぅ、辛くて、そして息苦しい。
救いを求めて三五さんの方を見ると、彼はメイにぎゅ~っと抱き着いてお胸にお顔をむぎゅ~って埋めて……!?
メイも彼の全てを受け入れて甘えさせてあげて……!?
止めてよ、メイッ! そんな風に二人の絆を見せ付けないでよ! 勝ち誇ったみたいにフフンッて笑わないでよぉぉ!
焦った私は三五さんに自分の気持ちを知ってもらおうと必死で語りかけます。
ずっと前から三五さんに憧れていたこと。
一目見た瞬間に運命を感じたこと。
私はストーカーではないこと。
最後にありったけの想いを! 私史上最大の熱意をもって! 告白するのですっ!
「三五さんっ! 好きですっ! 愛してますっ! 永遠に一緒に居たいですっ! 私と一緒のお墓に入りましょう!?」
「嫌 だ ッ ッ ! !」 (断固たる決意表明)
何 故 ッ ッ ! ?
「三五ちゃんをアンタなんかに渡すもんですか! 三五ちゃんと結婚するのはこの私よっ!」
メイィィ! やはり! この女、三五のさんの妻の座を虎視眈々と狙っていた!
恐らく小っちゃな頃から自分好みに育ててたんだっ! 光源氏のようにぃぃ!
ズルいズルいズル~い!
そんなの超絶羨ま……。
「婚約のキスしましょ♡ ん~ちゅっ♡」
ん゛き゛ゃあ゛あ゛ぁぁ~っ! こ、こ、こ、この女ァァ~! よりにもよって私の眼前で三五さんのぷにスベほっぺにちゅ~しやがりましたぁぁぁ!?
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! 脳が壊れるぅぅぅ!
身体中を蟻の大群に這いずられているような強烈な不快感に襲われます。
頭がグラグラして立っているだけで精一杯。
瞳からは涙が滝のように溢れて前が見えません。
トドメとばかりに唯一マトモに機能する耳に最悪の情報が飛び込んでくるのです……!
「三五ちゃん! お姉ちゃんにもキッスして!」
!? !? !? !?
イ、イヤ……イヤァァァ! ヤメテェェェ! それだけはァァァ!
「ミ゛ギィィィ! ミ゛ギュィィ~!」
言語野が死んだ今の私に出来る抗議といえば歯ぎしりくらいです。
お願いします、三五さん。
マジで絶対に止めてください。貴方を愛する私の前で他の女にキスだなんて。
泣きますよ? 喚きますよ? 何なら吐きますよ? 良いんですか? 公衆の面前ですよ?
そんな意味を込めてギチギチと訴えかけます。
しかし三五さんの返答は明確な拒絶でした。
ちゅっ。
「ぴぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛~っ! ソ゛ン゛ナ゛! ソ゛ン゛ナ゛ァァァ! う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! わ゛あ゛あ゛ぁぁ~~っっ!!!」
グシャアアッと地面に崩れ落ちてしまう。
涙が濁流となり、ノドから絶叫が迸る。
いくらなんでもリアクションが大袈裟ですって? 断 ・ じてそんなことはありまっせぇぇん!
こちとら天国から地獄の底まで一気に叩き落とされてんですよぉぉ!
無理ィィィ! 無理なのぉぉ!
好きな人に拒絶されるのって世界そのものから拒絶されるに等しいです……!
苦しいぃぃぃ! 死んじゃうぅぅぅ! き゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛~っ!
「さあ三五ちゃん、お姉ちゃんがお家まで送っていってあげる♪ ついでにご両親に婚約のご挨拶も済ませましょ♪」
嘘 で し ょ 。
まだ底があるのぉ!? この地獄ぅ!?
させるものか! と逆に力が漲ってきちゃいました。
まだです! まだ何も終わってないっ!
私が諦めない限りこの恋物語は決 ・ して終わりませんっ!
婚約などさせるものですかァァ!
…………。
あれ? 二人はどこに? って、ああぁぁ~! バスに乗り込んでるぅぅ~!
し、しかも間の悪いことに、直ぐにドアが閉まって発車しちゃった!? ま、待ってぇぇぇ~!
ぴいいいぃぃぃ~っ!
走る! 走る! 走る! 走るぅ!
んもぉぉ! 汗でスカートがまとわりついて走りづらい! けどそんなのに構ってなんかいられない!
バスを追いかけなくちゃ! 婚約を阻止してぇ! 三五さんのお家の場所を突き止める為にぃぃ♡ (危険思想)
邪念のせいでバチが当たったんでしょうか?
三五さん達が目的のバス停に着くまでバスが停車することはありませんでした (泣)
「ゼパァ~ッ! ゼパァ~! ハアハアハアッ! ハアァ~! ハァ~ッ!」
乙女の純愛 (強弁) に限界はありません。が、酷使されまくった肉体はその限りではないみたいで。
汗が、汗がだっくだく流れて止まりません!
顔を下に傾けたら地面にボタボタ落ちていきます。まるで雨に打たれたみたいにビッショビショ。
こんな姿を三五さんのご家族に見せるワケにはまいりません。
でも拭いても拭いても拭いきれないのぉぉ!
ぴええぇぇ~っ!
「さあ、行くわよっ!」
ガチャッ。
三五さんの手を引いてお家の中に入っていくメイ。
ちょっとくらい待ってくれても良いじゃないのよぉ~っ! ばか~っ! けち~っ!
マズい! マズいマズ~い! ……けど、ここはあえて落ち着くのよ、アン!
まだ一刻の猶予はあるわ。
だって婚約話ですよ!? 婚約話ぃ!
いっくらメイが家族ぐるみのお付き合いをさせて頂いているからって、そ~んな直ぐにまとまってたまりますかって~の!
急がば回れです。
① ハンカチで汗を丁寧に拭く。
② ハンカチをしぼって汗をジャ~ッ!
③ ① ~ ② を延々と繰り返す (死んだ魚の目で)
④ 最後に手鏡で身だしなみチェック。
う~ん、さっきよりはマシになりましたけど、こんなみっともない格好でお義父さま、お義母さまにご挨拶するハメになるなんて。
メイったら許せない! (逆恨み)
いささか口惜しいですが……風雲急を告げる舞台に、いざ出陣!
玄関を通ってリビングへ。
そ~っとドアを開けようとしたところ、中から和やかな話し声が聞こえてきました。
「嬉しいわぁぁ♪ メイちゃんが私の娘になってくれるだなんて!」
「お前良かったな~幸せモンだな~三五~!」
ウッッッソォォ~!?
まとまってるぅぅ! 婚約話まとまってるぅぅぅ!
しかも三五さんのご両親と思われる方々のメイに対する好感度がMAXなのですけど!? 絶大なる信頼を感じるのですけど!?
メイって私と同い年ですよね!? この前中学校を卒業したばっかりですよねぇ!?
なのにもう高波家の皆々様に家族として受け入れられているというのですか……!?
嫉妬を飛び越して、もはや畏怖すら感じます。
彩戸 メイ。
この女、完全に私の上位互換です……!
認めざるを得ません。得ませんけれども、だからとて、だからとてッ!
このまま指をくわえて眺めているワケにはいかないんですよぉぉ!
バタ~ン!
お祝いムードをブチ破るぅぅ! この私のエントリィィィ!
「お、お待ちを! どうかお待ちください! 私も三五さんと結婚したいです!」