あなざ~彩戸すと~り~ ・ アン視点 ① この気持ち、もしかして……恋? アンルート
※アン視点です。
おっとりのんびりしているね。
ふんわりポワポワ、不思議ちゃんだね。
よくそんな風に言われるのは、私がとっても恵まれた環境に居たからかもしれません。
両親は私のことを大切に育ててくれましたし、言うことを聞いて良い子にしてたら欲しい物を何でも買ってくれました。
与えられたものに大満足しているから、の~んびり。
それ以上のものに手を伸ばす必要がないから、ポ~ワポワ。
幼少期の私はそんな子供でした。
そしてその呑気ちゃんな性格はお父さんが海外転勤となり、遠い異国の地 N . Y へと移り住むことになってもぜ~んぜん変わりませんでした。
環境の変化によるストレスとか、大きな不満とかが特に無かったからですかね。
強いて不満点を挙げるとするなら、う~ん、そうですねぇ……。
私って読書が趣味なんですけど、日本の本が手に入り辛いのがちょっと不便かな~って。それだけですかね。
でもそれだって日本に居る伯母さんに頼めば郵送してもらえますし、電子書籍なら海外住みでも日本の本がちょちょちょいっとダウンロード出来ちゃうんですよね~。
なのでほぼほぼ問題 Nothing です。ノーダメなのです。
俗に言う言語の壁、というものも私は特に感じませんでした。
小っちゃな頃に移住したのが良かったんですね。
普通に生活していくウチに日常生活で不自由しない程度の英語力が身に着いていって、苦労してお勉強したような記憶なんかも特にありません。
ポワポワお嬢ちゃん ・ アンは住み慣れた日本を離れる不安よりも、むしろキラキラいっぱい☆世界都市 N . Y へのワクワク感の方が強かったのです♪
「わぁ~♪ 素敵なおうち~♪ しゅご~い♪」
一番最初に気に入ったのは N . Y での住まいです。
郊外に建てられた 2 × 4 木造一軒家♪
敷地も広~くて自然も豊かで、まるで絵本から飛び出して来たみたいな Good atmosphere♪
小っちゃな乙女のハートはもうバッチリ鷲づかみ♪
「きゃ~♡ 可愛くてオシャレなお洋服がい~っぱい売ってるぅ~♡」
それこそ星の数ほど☆
なんてったって N . Y には世界中のブランドが集まってて、ちょ~有名な五番街を始めとするアパレルショップがわんさかいっぱいのファッション☆パラダイス♪
更に更に百年以上の歴史がある高級デパートやショッピングモール、読書好きなら一度は行きたい雰囲気 & ロマン満点の書店……とにかく欲しい物が絶対に何でも手に入っちゃうお買い物天国でもあるのです♪
「だ~いすきな物に囲まれて♡ ハッピィプリンセス気分~♡」
家族にも愛され何不自由無く暮らす私のポワポワっぷりは更~にパワーアップしたのです。
ここで例えば 『心が女の子なのに男の子の身体で生まれちゃった~』 みたいな運命のイタズラがあったりしたら、反抗期になって両親との間にミゾが出来たり自立心が芽生えたりしたんでしょうけれど、全然そんなことは起こりませんでした。
宝物がいっぱいの箱に入れられて大切に育てられたお嬢さま。
そんなこの私、彩戸 アンの時間はまるで微睡んでいるかの様に穏やかに、ゆ~ったりま~ったり流れてゆきました。
ある年の夏休み。
私と同い年の従姉妹のメイが家族で遊びにやって来ました。
「いらっしゃあ~い、メイ~♪」
「…………しばらくお世話になるわ、アンちゃん」
「あぁぁ~ん、ちゃん付けで呼ばないでよぉぉ~、兄ちゃんって呼ばれてるみたいだからぁ~」
「ええ~い! もっとハキハキ喋りなさいよ! イライラするわね! 前よりもっとポケポケになってんじゃないの!?」
「ふぇぇ~? な、何でそんなに怒ってるのぉ~? 何で何で~?」
ウッキウキで大歓迎する私とは反対にブスッとしてメチャメチャ不機嫌そうなメイ。
「どうしたの~? そんなお顔してぇ~。せっかくの楽しい楽しい海外旅行なんだから笑おうよぉ~」
「私はこんなトコ来たくなかったの! 日本に居たかったの!」
こ、こんなトコって……。
流石の私もちょっぴりムカつきました。
はは~ん、さてはメイってば N . Y がとっても楽しい所だって知らないのね?
ブロードウェイでミュージカルを観たり、フェリーに乗って自由の女神像を見に行ったりすると素敵な思い出になるのに。
大っきな遊園地だってあるし、セントラルパークには動物園だってあるのよ。
あと美味しいスイーツも食べ放題♪
宝石みたいにツヤツヤピッカピカ色とりどりのドーナッツ♪
小っちゃなバケツみたいな容器いっぱいのアイスクリームなんて食べたことある?
私のイチオシは N . Y チーズケーキね。
カフェとかで出てくるオシャレなヤツも良いけど、スーパーとかで売ってるヤツも是非食べて欲しいな。
甘々クリームがプラスチックパックからはみ出るくらいにたっぷりぷりで、見た目も味もすっごく頭悪いの。 (褒めてる)
あとあと何と言ってもお買い物!
メイママなんてブランド品を買いまくる為に N . Y まで来たみたいなトコあるからね。
きっとおサイフのヒモがゆるっゆるだから、好きな物いっぱい買ってもらえるよ♪ (児童特有のおねだり嗅覚)
みたいなカンジでメイに私の住んでる都市を自慢しまくっちゃいました☆
「ふ~ん、それで?」
つ、冷たぁ! 反応悪~い! ヤなカンジぃ!
「アンタ知らないのね。この世にはそんなモンよりもっとも~っとすっっごい幸せがあるのよ」
「な、なによぅそれぇ~」
グイィ~ッ! とメイのドヤ顔が近付いてきます!
お目々ランラン、すっごくパワフル!
メイってこんなコじゃなかったよね~!? 何がメイをこんなに変えちゃったのぉ~!?
「ねえ聞いて! 可愛い弟達が出来たの! 私、お姉ちゃんになったの!」
「ふ、ふぇぇ? お、おと~と? おね~ちゃん? メ、メイって一人っ子じゃないの~」
「ちっが~う! 魂の! 弟ちゃんなのぉ! 宇宙一可愛くてぇ♡ 私のこと 「おねえちゃん」 って呼んでくれるのぉぉ♡ 天使ちゃん達なのぉぉ~♡」
ひゃあぁ~! しゅごい圧!
よ、よっぽどそのコ達がお気に入りなのね。
そんなに魅力的なのぉ~? 海外旅行よりもぉ~?
キョ~ミが湧いちゃいます。今度はメイの自慢話を聞いてあげましょうか。
フムフム、天使ちゃん達のお名前は三五ちゃんと湖宵ちゃんっていうのね。
え? スマホで撮ったお写真を見せてくれるの? どれどれ~?
三つ年下の小っちゃいちゃん。
どんなお顔をしているのかな?
ワクワクでスマホを覗きこんで、ハッとしちゃいました。
三五ちゃん……ってコの笑顔に目を奪われたのです。
キラッキラに輝いていて、これぞ満面の笑み! ってカンジ。心の底から人生を楽しんでいるんだなって、ありありと伝わってきました。
私にはこんな笑顔出来ない……負けたなって素直に思いました。
湖宵ちゃんってコもお人形さんみたいに愛らしくって思わずぎゅ~ってしたくなります。
ムムム~! これはただならないお二人ですね! メイが夢中になるのもわかります!
興奮しながら弟ちゃんのお話をしてくれるメイとキョ~ミシンシンで相槌を打つ私。
二人ともほっぺをリンゴみたいに真っ赤にしながら盛り上がっちゃいました。
ちなみにスマホのお写真をコピーさせてってお願いしたら 「ショ~ゾ~ケンのシンガイよっ!」 って怒られてすげなく断られちゃいました。
メイったらしっかり者になっちゃって。
すっかり姉の自覚が芽生えちゃってますね~。
その証拠にメイは私の家に滞在してる間、ず~っと弟ちゃんのことばかり。
「お姉ちゃんが居なくて寂しがってないかな?」
「好き嫌いせずにご飯食べてるかな?」
「お土産は何を買ったら喜んでもらえるかしらね?」
しかもね~、コレ最初の年だけじゃないんです。
私のウチに遊びにくるたんび毎回毎回この調子なのです。
「も~! 何しに来たのよ~!」 な~んて怒る気にもなれません。
それどころかメイの弟自慢を聞く度に私の方がハマっちゃって天使ちゃん……特に三五ちゃんに魅了されていっちゃいました。
今では天使ちゃんの情報を集めるのが何よりの楽しみ……それなのにメイったら!
日本に居る時は弟ちゃん達に構うのが忙しいみたいでロクに電話やメールをくれないの!
酷いです! メイのせいで弟ちゃんのことが好きになっちゃったのに、責任を取ってくれないなんて!
仕方がないので大人しくメイが遊びに来てくれるのを心待ちにする私なのです。
今年の夏休みはメイ、来てくれるかな? 冬休みはどうかな? 来年は? な~んて事ある毎に考えるウチに……自分でもハッキリわかるくらいにまだ見ぬ三五ちゃんへの憧れがドンドン膨れ上がっていったのです。
どうしてこんなにも三五ちゃんが気になるの?
それはきっと、三五ちゃんがいつだって一番の幸せを一生懸命に追い求めているから。
自分の心に真っ直ぐ素直に向き合うその姿勢は自分には無いものだから。
恵まれた環境で生まれ育ったこの私。
これ以上の幸せに手を伸ばすのは贅沢だって、恥ずかしいことだって思っていたこの私。
そんな私の価値観はスマホに映る三五ちゃんの究極に眩しい笑顔を見たあの時に、ガラガラガラ~ッ! と崩れ落ちてしまったのです。
気が付いたのです。
誰かにもらった幸せだけじゃこうは笑えない。
羨んだのです。
私も、私もこんな風に笑ってみたい!
その為の究極の幸せを、私も探してみたい!
私に新たな気付きと学びを与えてくれた三五ちゃんを素直にリスペクトです。
これはもう、三五さんとお呼びすべきですね。
ああ、遠く離れた場所に住むこの私の心すらも、明るく照らす満月みたいな三五さんの輝く笑顔。
目を閉じれば瞼の裏に浮かぶフルムーンスマイル♪
心がポカポカ暖まります♪
けれど、もしこの素敵スマイルがお部屋に飾れたのなら! 手元に置けたのなら!
クウゥゥ~! メイったら一枚くらいお写真くれても良いのに! もしくは三五さんに許可をもらってくれるとか!
ケチケチ! ケチんぼメイ~!
ああ、三五さん、私のお月様。
簡単に手が届かないとなると余計に恋しくなるのは何故でしょう?
ああん、三五さぁぁ~ん!
あ、もちろん湖宵さんのことも素敵だなって思ってはいますよ?
とっても美形で文武両道でオマケにお家がお金持ちで……学校中の女の子の視線を釘付けにしているんですってね。
でも私には湖宵さんが憧れの対象というよりは……ご同輩? もしくはライバル? そんな風にしか思えないんですよね。
だってお写真の中でい~っつも三五さんにピッタリ寄り添ってるんですもの!
最初は微笑ましかったですけど、最早ジェラシーを禁じ得ません!
ってゆ~か、メイが一番羨ましい!
三五さんに慕われてぇ! おねぇちゃん♡ なぁんて呼んでもらってぇ! 何なのあのコ! ズルい!
私も三五さんに会いたい!
会いたい会いたい会いた~い!
ううぅぅぅ。
日を追う毎に、年を経る毎に、深まっていくこの想い。
………………………………。
本当に会いに行っちゃおうかな。
海を越えて、空を越えて、輝く笑顔に。
ドキドキ、ドキドキドキ。
ア、アラ? アラララ?
ど、どうしましょう。
想像しただけで胸がこんなにも高鳴るなんて……?
も、もしかしてこの気持ちって…………………………恋? そ、それもカナリ本気度高め?
ふえぇぇぇぇ~~!?!?
い、いやいやいやそんな、まっさかぁ!?
だってまだお写真とお話でしか知らないし、それどころかまだ出会ってすらいない年下の男の子にガチ恋だなんてぇぇ!?
ま、まさかですよねぇぇ~!?
ドキドキドキ、ドキドキドキドキ。
う、う~ん、でもこの気持ちの正体を突き止めないことには、気になって何も手につかなくなっちゃいそうですね。
な ・ の ・ で!
純粋に好奇心を満たすべく (欺瞞) 貴方に逢いに行きますっ♪ 三五さんっ♪