あなざ~彩戸すと~り~ ⑨ 攻守逆転? からかわれまくるお姉さん アンルート
「ぴえ~ん! ぴえぇ~ん!」
いつもの光景。
アンさんがメイおねえさんと湖宵にやっつけられて泣いている。
この後 「もう三五さんにちょっかいかけませ~ん! (かける)」 って叫ぶのが従来のオチだが、最近では〆が一味変わった。
オレがアンさんに声をかけるようになったからだ。
それもワザワザメイおねえさんと湖宵の目を盗んでまで。
「泣かない泣かない。可愛いお顔が台無しだぞ☆」
何言ってんだオレはぁぁ!
「か、かかかカワE~ッ!? な、泣きましぇんっ♡ で、でもニヤけちゃうっ♡ 逆ベクトルに台無しなお顔になっちゃうぅ♡」
こんな大げさなリアクションをとられるとオレは嬉しくなってしまう。
調子に乗って馴れ馴れしく近寄ってスキンシップまでしちゃうのだ。
まずは基本。
肩をPON☆ と叩いて挨拶。
「おっはよ~♪ 今日も出待ち、ごくろ~サン♪」
PON☆ PON☆
「さささ、三五さんが私にタッチをぉぉ!? あっあ~♡ 私、三五さんに世界一近い存在になれたんですねっ♡ 一瞬だけだけど、なれたんですねっ♡」
軽率な頭ナデナデ。
「今日のオシオキ痛そうだったね~。痛いの痛いの飛んでけ~」
ナデナデ☆ ナデナデ☆
「ひィ~ッ♡ 痛みがトんでっちゃいましたぁぁ♡ り、理性も♡ 記憶も♡ 何もかも全部ぜ~んぶトんじゃううぅぅぅぅ♡」
何の脈絡もなく手を握る。
「悪いんだけど、ちょっと握力鍛えさせてよ!」 (自分でも理解不能)
ギュッ! ギュッ! ギュッ!
「ウヒィ~ッ♡ わ、私めは三五しゃま専用のトレーニングマシンでしゅぅぅ♡ 存分にお使いくだしゃぃぃ~♡」
極め付きは髪の毛を一房手に取って、指で弄んだりしちゃったりして。
「アンさんの髪っていつも綺麗だね。誰を想ってお手入れしているのかな?」
「ひイィィィ~♡ しゃ、しゃしゃ、三五しゃんでしゅうぅぅ~♡」
「知っ ・ て ・ た☆」
パチッ☆ (ウインク音)
「キャひひヒィィ~ッ♡♡」
シバき倒したろか。
何をやっとんだ貴様ァァ!
つ~か最早セクハラの域じゃね!?
でもこの人ちっとも嫌がってくんないんだ! ちょっとでも嫌がってくれたなら、すぐ止められるのにぃぃ!
ううううう。
し、しかもオレのからかいはスキンシップだけにとどまらないのだ……! (絶望)
とある休日の昼下がり。
ソファーにゆったり腰かけてスマホをポチポチ。
ラウィッターを起動して謎のQRコードをスキャン、フレンド登録をする。
さて、この謎のQRコードがプリントされたメモ用紙だが。
実はクリスマスプレゼントにもらった手袋の中にこっそり忍ばせてあったものだ。
プレゼントの贈り主はオレとのスマホでのやり取りをメイおねえさんから禁止されている。
多分、オレからの連絡なんて来るハズないってわかっていながら、宝くじを買うノリで一応入れてみたんだろうな。
「ワンチャンなんかあるワケないですよね……人生そんなに甘くないですもん。アハハハハ…………ハァ」 みたいな。
そんなアンさんにメッセージを送信ンンン!
ポチポチ。ピッ!
『だ~れだ?』
ハイ宝くじ当たっちゃいました~! おめでとうございま~す!
ウワ~これヤバっ!
だってアンさんの運命を操作してるのと同義じゃね!? 神じゃん! 暇を持て余した神の遊びじゃん!
アンさんビックリしてるかなぁ?
「コレ夢!? ホント!? ウソ~ッ!?」 って。
そんな想像をするだけでゾクゾクッとしてしまう。
わ、悪~っ! オレ、メッチャ悪いことしてるっ! 邪神じゃん!
い、いやでも、オレはアンさんに連絡しちゃダメだよって言われてないし。
QRコードを送り付けてくる方が悪い……かな?
少なくとも 50 : 50 だし! だからセーフ! (誰に言い訳してるんだか)
『さささwせdrf さンゴサぁァぁン?¥ ドOシてeee』
『暇だったから (笑) 少しお話しよ~よ (笑)』
『よよよヨロこンぁwせlp』
アンさんとの他愛ないチャットと究極の慌てっぷりがま~楽しくて楽しくて。
ご機嫌になっちゃうね。
『付き合ってくれてありがと。コレ、ご褒美ね (笑)』
ノリノリで撮ったキメ顔自撮りをアップするオレ。
『!?!?!?!? オオオ、おタカラぁぁぁ!?!? 良いの!? コレ良いのォォ!?』
『メイおねえさんと湖宵には内緒ダヨ☆ じゃ、また明日』
『pろきじゅhygtfrでsわq』
スマホの向こう側、狂喜乱舞している姿が目に浮かぶ。
時代遅れの白黒写真であれだけ喜んでたんだもんな。
感激で 「ぴえ~ん!」 ってなっちゃってるかも。
「フッ……フフフフッ。クククククッ。アハハハハハハッ」
三五くんさあ……。何笑とんねん。
趣味悪いって! 控えめに言って根性腐ってるって!
てゆ~かアピールのかけ方が女子! それもビッチギャル風味!
もおぉぉ! こんなの良くないってわかってるのにぃぃ!
何度も何度も言うようだけどぉぉ!
いやマジだって! ホントのホントに理解してるって! お願い信じて!
止めたい! いい加減もう止めたい!
けど正直、アンさんをからかうのクッッッッッソオモロい! こんなオモロいこと他にない!
オレのクソヤロオォォォ!
うっうっう。
……………………。
最近さぁ、親しい人達だけじゃなくて、会う人会う人皆がオレのことを誉めてくれるんだよね。
「高波って成績の伸び方エグいな~。ムッチャ頑張ってんだな。ちょっとマネ出来んわ」
「高波君がアンカー? ならウチのクラスの優勝は間違いなしだね♪」
「ウホッ♡ 高波、脱ぐと筋肉ヤバッッ♡ ア、アニキって呼ばせて欲しいっス♡」
「高波君てモデルとかにはキョ~ミ無いの? 私、高波君が載ってる雑誌欲し~な♪」
ごめんね、皆。
オレは、オレは皆に誉めてもらえるような人間じゃないんだよ!
勉強も! 運動も! オシャレも!
オレにとっては自分を良く見せる為のアクセサリーに過ぎない!
ど~ぱどぱどぱ状態のアンさんを騙くらかす為だ ・ け! に磨きあげた安モンのイミテーションさ!
そ~んなモンが評価されちゃって、今や学校の人気者だって?
逆に罪悪感と自己嫌悪感がハンパないわ!
どんだけ全力で乙女心を弄んでんだっつの!
最低! オレはなんって最低なんだ!
誰か! 誰か助けて!
心と身体がバラバラに動くよぉぉ!
昼にアンさんをからかって夜に自己嫌悪。ベッドで足バタバタ。
そんな日々が何度も何度も繰り返されて……。
オレは中学三年生に進級した。
アンさんと初めて出会ってから三年目に突入したことになる。
「フ~ッ! フゥゥ~ッ!」
ご覧ください。こちらが現在のアンさんのお姿です。
荒い息。桜色に染まる肌。ギラギラと鈍く輝く眼光。
公私の区別なく常に完全装備の三五FCグッズフルセット。
欲 求 不 満 臨 界 点 突 破 。
からかいまくった結果がこのザマだよ!
オレが産み出しちまったんだ! この哀しきモンスターを!
「三五っ! さあぁぁ~~んっ♡♡」
ドンッ! (震脚)
バカな!? アンさんの姿が視界から消えただと!?
一体どこに……下か! 重心を落として超低空タックルを仕掛けたのか!
ガッチィィン!
下から突き上げる形で襲いくるアンさん!
為す術もなく抱き締められるオレ!
ギチギチギチギチ……!
ハグされてるっちゅ~よりかは人間大のノコギリクワガタに挟まれてるみて~だ!
怖い! 怖いよ~っ!
「ンヒヒィィ♡ 三五しゃんしゅきしゅきィィ~♡ 私の♡ 私のぉぉぉ♡ もう離さないっ♡ ん~♡ スリスリスリスリスリスリスリスリ♡♡」
「イヤッ! イヤァァァァ~ッ!」
女子みたいな悲鳴をあげてしまうのも、むべなるかなよ。
自業自得とは言えコレは怖~わ。
「スゥ~パァ~!」
「嫁ッ! ガァァ~ドッ!」
バチィンッ! バッッチィィ~ン!
おおお! 湖宵とメイおねえさんがムリクリ腕を捩じ込んでアンさんのハグから解放してくれた!
まるでクワガタのハサミを弾き飛ばす二本のカブトムシの角! 頼りになる~!
「三五から離れろっ! このケダモノ!」
「三五ちゃんが嫌がってんでしょ! 耳との~みそ腐ってんじゃないの!?」
「離せッ! 三五さんは嫌がってなんかないッッ! 三五さんは私に優しくしてくれるッッ! 私に気があるんだッッ! 私のことが好きなんだッッッ!!」
う~~~~~~~~ん…………………………。
そんなキッパリ断言されちゃうと全然マジで絶対100%違う気がしてくるなぁ。
今のハグも普通に嫌だったし。
オレのアンさんへの感情って一体何?
自分の心なのにハッキリしなくて気持ち悪い。
「バカねっ! 三五ちゃんはアンタをからかってるだけよ! 散々付きまとわれて迷惑だから仕返しされてるの! 意趣返しされてるのよ!」
「そ~だそ~だ! 三五が悪女なんかを好きになるもんかっ! 大 ・ 大 ・ 大ッキライに決まってるっ!」
「そ、そんなぁぁぁ~っ!?!?!?」
えぇ~……? 端から見るとオレってそんな風に見えるんだ。ちょっとショック。
「ぴぇ、ぴぇぇ、ぴえええぇぇ~ん……」
アンさんの身体からクタッと力が抜けて暴走が収まった。
でもポロポロ涙を溢すその姿がかわいそうでかわいそうで……。
反射的に駆け寄ってしまう。が。
「よっし! 大人しくなったわ! このまま学校まで担いでくから!」
「よろしく! 三五の警護は任せといて!」
嫁ガード優秀過ぎィ!
あっと言う間にアンさんが連れて行かれちゃったぞ。
「ホラ三五、学校行こ。遅刻しちゃうよ」
「う、うん」
アンさんをフォロー出来なかった……。
い、いや、これで良いんだ。
かわいそうだからって条件反射的に慰めちゃダメなんだよ。
アンさんがオレを諦めるキッカケになるかもしれないから。
ここで優しくしちゃあ元の木阿弥よ。
焼けぼっくいに火を点けるハメになっちまう。
オレは最近、ていうかここしばらくの間、アンさんとの距離を詰め過ぎた。
そろそろアンさんの気持ちを冷まそうや。
今年は受験もあるんだし。
心穏やかに過ごそうぜ。月は東に日は西にってね。
三五よ、ガマンだ。
アンさんを構っちゃダメ! ガマンガマン!
ムズムズムズムズッ!
ガ、ガガ、ガマン出来ね~っ!?
始業前にトイレに駆け込み、ラウィッターを起動。秒でメッセージを打つ。
『オレはアンさんを嫌ってなんかないよ』
『元気出して』
『泣かないで』
あ゛~も゛~っ! またやっちゃったよぉぉ!
今回ばかりは自分のバカさ加減に愛想が尽きた。
何べん同じ過ちを繰り返すんだっつの!
もうホントバカ! 世界で一番バカ!
案の定、アンさんはメッセージを受け取った瞬間にみるみる元気を取り戻したそうな。
そして隣に居たメイおねえさんにスマホを突き付けてキメ顔でこう言い放ったらしい。
「見なさい、メイ! 三五さんは私を嫌ってなんかいなかったわ! キャハハハハッ♡」
しかしスマホでのやり取りはかねてより禁止されている。
メイおねえさんは笑顔でアンさんのスマホを没収。
アンさんは再び泣かされたんだってさ。
何やってんのさ。黙ってりゃ良いものを。
オレが言うのもなんだけど……。
アンさんってさぁ……バ カ だよねぇぇ~。 (しみじみ)
オレのバカさ加減が世界一位かと思ってたけど同率タイかも。
恋ってこんなにも人をバカにするものなの?
じゃあオレのアレとかソレとかも、もしかして恋?
……………………。
いっやぁ~……多分違~だろ。
こんなんが恋だったら嫌だわ。
んあああ! じゃあ何なんだよこの気持ちは!?
ハッキリしね~なぁもう!
ああ、こんなアヤフヤな状況をブチ壊す一大事件でも起きたら良いのに! (フラグ)