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第19話 繊月 こよい ハートのわたあめ

 日が傾いて祭りの提灯に日が点り始めた頃。

 やっとオレとこよいの食べさせ合いっこは終わった。


 だけどオレとこよいの間にあった気恥ずかしくて甘~い雰囲気はそのまま残り続けていた。


 心が何だか焦れ焦れとしていて落ち着かない。


 いつもこよいにドキドキして火が点いた様に身体を熱くさせているオレ。

 だが今は、それともまた違った新しい感情に戸惑っていた。


 こよいとの濃密な触れ合いの後、くすぐったくなる様な気持ちがオレの身体中に満ち満ちている。

 まるで身体にジワジワと浸水してくるみたいに。


 「さあ、そろそろ行きましょうか。三五さん」

 「う、うん。そうだね、こよい」


 どことなく口数が少なくなっている。

 と、いうよりはオレが地味に緊張してしまって、こよいにあまり話し掛けられなくなっている。

 オレとこよいの間にこんなに会話がないのは初めてだ。


 オレとしてはこの沈黙は嫌なものでは無い。

 だけどこよいが嫌な気持ちになっていやしないか、それだけが心配だ。


 チラチラっとこよいの方を伺ってみる。


 「くすっ」


 大丈夫ですよ~? 

 照れちゃってるんですよね~? 

 と、言いたげな微笑み。


 うわァ~! 見透かされてるゥ~! 

 恥ずかしいィ~!

 顔がもっと熱くなってきたァ~!


 「くすくすっ」


 言葉少なげになってしまったオレ達がテクテク歩いて辿り着いたのはパフォーマー達が集まる広場。色々な大道芸が楽しめる広場だ。


 今のこの状況でこよいと接しているとむず痒すぎるので、観覧しているだけで良いというのは正直魅力的だ。

 

 「観ていっても良い?」 とこよいに目で訴える。

 「良いですね。観て行きましょうか♪」 と視線でお返事が返ってくる。


 この目と目で通じ合っている感じがまたムズムズする。


 気を取り直してパフォーマー達の演技に集中しよう。


 さて、この広場に集まっているパフォーマー達はバラエティに富んでいる。

 と言うか悪く言えば雑然としている。

 

 あちらに手品をしている人あれば、こちらにパントマイムをしている人あり。

 競う様にシガーボックスや棍棒を空中にポイポイ投げている人達もいる。


 思い思いに得意技を披露しているという印象だ。


 日本の伝統 ・ 太神楽(たいかぐら)の曲芸をやっている人までいたことにはちょっと驚いた。

 

 お正月にTVで良くやっている皿回しや、クルクル回転させた和傘の上で色々な物を転がしたりする芸で有名な曲芸だね。


 曲芸師さんが戸板に水を流すような軽快な口調で人を集めて、様々な芸を楽しませてくれる。

 オレとこよいもついついじっくりと観覧してしまう。


 お客さんが投げたボールを曲芸師さんが追いかけて、和傘でキャッチしてク~ルクル。

 

 竹竿の先端にお盆を載せ、その上に食器をわんさか満載させる。

 そのままグインと上に持ち上げて竹竿の持ち手の部分を何とおでこに乗せて、そのままキープ。


 次々と披露される伝統芸にオレ達観客一同は万雷の拍手を送る。

 

 「凄かったですねぇ~! 楽しかったぁ~!」


 「そうだね! お正月でもないのに良いものが見られて得しちゃったな!」


 うん。オレの精神も安定してきて口数も元に戻ってきた。パフォーマーさん、ありがとう。


 「もうすぐミニライブが始まるんですって。その前におやつ買いに行きません?」


 「いいね。じゃあ例年通り、わたあめ買って二人で半分こする?」


 「そうしましょ~♪ やっぱお祭りといったら、わたあめ一択ですよね♪」


 オレ達は毎年一つのわたあめを半分こにして食べている。

 勿論こよいが男の子であった時から、だ。


 その話を人にする度に 「おまホモ」 (お前らホモだろ) の連呼を浴びてきたオレ達。


 だが違うのだ。コレにはしっかりした理由がある。


 良く考えてみて欲しい。わたあめなんて言ってしまえば砂糖の塊だろう?


 原価が安いだけあって屋台の人もたっぷりサービスしてくれるのだが、どう考えても飽きる。

 だから一つを二人で分けるくらいでちょうど良い。合理的な判断だと言えよう。


 まあでも、その姿がホモっぽいのは認める。


 『腐女子の皆サーン♪ ボク達ホモデース (笑)』


 『やめろバカ、湖宵(笑) オレ達のヒミツバラすなよ (笑)』


 『『ワッハッハッハッハッハ!』』


 去年はこんな風にふざけあっていたっけ。

 フフフ、今となっては遠い昔の事の様だなぁ。


 と、そんな事を思い出しているうちにわたあめ屋さんに着いた。


 「うわあ♪ カッワイイ♪ カラフルなわたあめ屋さんです♪」


 今年のわたあめ屋さんはひと味違う。


 わたあめにカラフルな色が付けられていて見るからにティー ↑ ンズの女の子向けだ。


 オレンジ、ブルー、ピンク、グリーン。色鮮やかで見ているだけで楽しい気分。

 でも身体に悪そう。


 「ウフフ、初々しいカップルさん♪ こ~んなわたあめはいかが?」


 わたあめ屋台のお姉さんはピンク色のわたあめを手に取り、串でちょちょいと器用に形を整えた。


 そしてピンクのわたあめは何とハートの形に!

 

 こ、このお姉さん、出来る! 何たる粋な計らい!


 「わあぁっピンクのハート♡ カワイイ~♡ 欲しいぃっ♡ 買いマース♡」


 「まいどあり~♪ 彼氏さんと仲良くね~♪」


 ハートの形をしたわたあめを持つこよい、メチャクチャ似合う! カワイイ!


 「あむあむ。ん~♡ (あンま)~い♡ はい、三五さんも。あ~ん♡」


 うわぁぁ! またも嬉し恥ずかしのあ~ん攻撃!


 オレがこよいに抗えるハズもなく、フラフラ引き寄せられて、パクリ。


 「うわぁぁ、コレすっっごく甘いぃっ」


 「うふふ♡ 三五さんカワユイお顔してる♡」


 味っていうか何かもう、このシチュエーション自体が甘すぎて甘すぎて蕩けそうだぁぁ。


 「うふふ♡ ライブを観ながら食べさせ合いっこしましょうね♡ 二人のハート♡」


 こよいももう、何言ってんのさ。大好き。


 「ささ、手を繋いで♡ 楽しいライブが始まりますよ~♡」


 「う、うん」


 こよい姫様のご随意のままに。

 野外ライブステージに連れられて行ってしまうオレなのであった。 

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