あなざ~彩戸すと~り~ ⑤ 嵐を呼ぶお姉さん アンルート
「三五さん! 私、必ずメイを認めさせてみせますから! お嫁さんの座を必ず射止めてみせますからぁぁ!」
「アンタねぇ! 私の家に居候してるってこと忘れてんじゃないの!? 四六時中監視して嫁の資質を見定めまくってやるんだから!」
「覚悟の前よっ! 矢でも鉄砲でも持ってきなさいっ! どんな試練も踏み越えて! 三五さんの嫁にッ! 私はなるッッ!!」
「言ったわね! 針のムシロに座らせてやるんだから! 音を上げたって許さないわよ!」
「上げるもんですか!」
バチバチやり合う二人が帰った途端、ドッと疲れが押し寄せてきた。
フゥゥ~、世界一長い休日がようやく終わったぜぇ~。
などと安堵の溜め息を吐くオレだったが、この時はまだ気付いていなかった。
まったり穏やかな日常は今日という日を境に終わりを告げ、明日からはアンさんという特大台風が巻き起こす波乱に満ちた日々が幕を開けるということを……。
波乱一日目。
「うわぁぁぁ~ん! ヤダ! ヤダァァァ! ボクの三五を! 取らないでっ! おねぇちゃぁ~ん! わあぁぁ~ん!」
湖宵が、湖宵が泣いちゃった!?
朝、オレ、湖宵、メイおねえさんの三人で合流し、アンさんの歓迎会の打ち合わせをしようとしたところ。
メイおねえさんが挨拶代わりに 「私と三五ちゃん、婚約したから♪ よろしくネ♪」 ってなカンジでサラッと報告したところ、湖宵が大泣きし出したのだ!
その泣きっぷり嘆きっぷりは尋常じゃなく、オレとメイおねえさんは全力で湖宵を慰めにかかった。
すると湖宵は泣きじゃくりながらも少しずつ胸の内を明かしてくれるようになった。
湖宵はオレのことが大好きで大好きで。
それには 「幼馴染みとしての好き」 だけじゃなく 「異性としての好き」 も含まれているということ。
女の子の心を持ちながら男の身体で産まれてきてしまったこと。
オレ達に嫌われたくなくて、それらをひた隠しにしてきたこと。
言いたくても言えなかった気持ちを全部涙と一緒に洗いざらい告白してくれた。
「ごめんね、ごめんね三五ぉ……。男の子に好かれても気持ち悪いだけだよね……嫌いにならないで……ごめんね……」
「気持ち悪いことなんか全然無いっ! 湖宵は悪くないんだよ! 謝ることなんかないんだよ!」
そう叫んで抱き締めてみたものの、オレは湖宵にそれ以上何をしてあげたら良いのか思い付かなかった。
「泣かなくて良いのよ、湖宵ちゃん。アナタは三五ちゃんとずっとず~っと一緒に居て良いの」
「だ、だってボク失恋して……男の子だからお嫁さんにも……」
「確かに戸籍上は男の子同士だから籍は入れられないわよね。だったら内縁の妻になれば良いじゃない!」
暴論クイーン降臨ンン!
「そんな簡単な話なの!?」
「忘れてない? アンタの嫁を決める権利はこの私にあるのよ! 私は三五ちゃんの嫁! 湖宵ちゃんも三五ちゃんの嫁! 以上!」 パァンッ! (両手を打ち鳴らす)
「えっ? え~っ!?」
「湖宵ちゃんは今から私の妹! 三五ちゃんも湖宵ちゃんのことをちゃんと女の子扱いして大事にしてあげるのよ! わかった!?」
「も、もちろんわかってるよ」
それに関しては全く異論は無い。
「三五ぉ……♡」
「それにねぇ湖宵ちゃん。私の従姉妹、悪女 ・ アンが三五ちゃんの嫁の座を虎視眈々と狙ってんのよ!」
「ガガ~ン! あ、悪女 ・ アン!」
「三五ちゃんの健やかな生活と光輝く未来を守る為にはアナタの力が必要なのっ!」
「ボ、ボク、三五の為なら何だってするよっ! 誰よりも幸せになって欲しいから!」
「その意気よ! 内縁と外縁、私生活と学校生活、おはようからおやすみまで隙間無く! 嫁ディフェンスで三五ちゃんを囲むのよ!」
メイおねえさんと湖宵が結託!
和気あいあいとオレを守るプランやオレの育成方針について語り合う……ウチに脱線してオレとの思い出話に花を咲かせ始めた。
う~ん、当事者なのに疎外感を感じるぜ。
ちなみにこの日の午後、繊月家の大食堂をお借りしてアンさん歓迎会が開かれたのだが、初顔合わせの時点で既に湖宵はアンさんとバチバチだった。
「悪女 ・ アン! 三五は絶対渡さないっ!」
「私、全然歓迎されてなぁ~い!?」
オレだってホントは仲良くしたいよ? メイおねえさんの従姉妹なんだから。
でもアンさんは距離の詰め方がちょっとね……。
「三五さんっ♡ このお料理美味しいですよっ♡ ハイ、あ~んしてっ♡ キスしちゃいたいくらい可愛いお口っ♡ あ~んしてっ♡」
「「させるかぁ~!」」
ガッシィィ~ン!
「ムギュウゥ~! さ、三五しゃぁ~ん!」
目を ♡♡ にしながら熱烈アピール
⬇️
鉄壁の嫁ガードに阻まれて退場
⬇️
目を♡♡にしながら……以下、無限に繰り返し
ず~っとこんな調子なもんだからロクに話も出来やしない。
波乱二日目。
今日は中学校の入学式。
「三五さんっ♡ おはようございますっ♡」
「ギャ~ッ!」
恐怖! 朝、玄関を出たらそこにはアンさんが居た!
「お姉さんとお手々繋いで学校行きましょ♡ いえ、むしろ抱っこで! 抱っこで学校まで連れて行ってあげましょうかっ♡」
「ヤベぇ! そのまま誘拐される!」 (野性の勘)
「こるるぁ! 晴れの日に何やってんのよ!」
ズビシィッ!
「フニ゛ャ~!」
おお! メイおねえさんが颯爽と現れてアンさんの脳天にチョップをブチ落としてくれた! 助かり~!
「三五、大丈夫!? ボク達が来たからにはもう安心だからね!」
おお! 湖宵も一緒だったのか!
「あ、あなた達、どうしてここにぃっ!」
「アホ! 朝いきなりアンタの姿が消えたら行き先はここしかないでしょ!」
アンさんは嫁の資質と一緒に素行まで見張られているのか。マジで針のムシロだな。
「三五ちゃん、おはよ♪ お姉ちゃんと♪」
右腕をメイおねえさんが。
「ボクと♪」
左腕を湖宵が組んでくれる。
「「三人で学校行こ~ね♪」」
嫁ガード発動!
「おお、暖かい。ホッコリするね」
一切の外敵を弾き飛ばす鉄壁の内側はこんなにも優しくて柔らかい。だけど夏場はちと汗ばむかもね。
「あ゛あ゛あ゛ぁぁん! 私も仲間に入れてぇぇ!」
キュッキュ! キュキュキュキュ!
腰を落とした体勢でオレ達の周りを旋回し、バスケットボール選手のように隙をうかがうアンさん。
だけどもボールは二人がかりでガッチリ掴まれている。
中学と高校の分岐路に至るまでずっと近寄れもしなかったのだった。
「フッフッフ♪ トレジャー ・ ボックス ・ ディフェンスとでも名付けようか♪」
名付けてどうすんのさ。湖宵ってばお調子者だなあ。
「キ~ッ! キィ~ッ! 悔しい~っ!」
ジダンジダン! ジダジダジダジダ!
アンタ明日っからスニーカー履いてきなよ。下ろしたてのローファーの靴底がペッタンコになっちまうよ。
「三五ちゃん湖宵ちゃん、入学式頑張ってね~♪」
「あぁぁ~ん、三五さぁ~ん!」
ズルズルズルズル。
アンさんがメイおねえさんに引きずられていく。
かわいそうだなあ。どうにかしてあげられんもんかなあ。
そんな風に思ってたんだけど、アンさんは入学式が終わった後も朝と全く同じテンションでオレの前に現れ、朝と全く同じように嫁ガードにやっつけられて退散していった。
うん、アンさんのことが一つわかった。
彼女、メンタルとバイタリティがメ~ッチャ強い! 全一クラス!
その証拠に翌日以降もアンさんの怒濤のアピールが止むことはなかった。
その様を一言で表すなら、正に嵐!
「三五さぁ~ん♡ カフェでお茶しましょ♡ もしくは映画観ましょ♡ もしくは水族館行きましょ♡ もしくは……」
嵐の如きアピール!
「人のダンナちゃまを!」
「ナンパすんな~!」
ガシンガシ~ン!
「くうぅっ! 諦めませ~ん! そこをどきなさ~い!」
嫁’s 二枚看板に何度弾かれようとも一生ぶつかり続ける嵐の如きしつこさ!
「オシオキよっ! 喰らいなさ~い!」
ギリギリギリギリ!
「ぴええぇ~ん!」
そして嵐の如き泣きっぷり……。
いや、そのガッツはマジで凄ぇ。見習いたいくらいだよ。
ホントに凄いんだけど………………ギャグアニメのやられ役みて~だな、ってちょっと思っちゃった。
ゴメンね、アンさん。