彩戸すと~り~ ・ メイ視点 ⑥ 弟にガッツリ叱られるお姉ちゃん メイルート
※メイ視点です。
やらかしちゃったお陰で一つハッキリしたことがあるわ。
この私、彩戸 メイは100%確実に、絶対に間違いなく、超絶真剣に明確に、高波 三五ちゃんに恋愛感情を抱いている。
私が小さな頃から三五ちゃんのことが大好きなのは今更言うまでもないこと。
実の弟だと思って愛してきた。
だからこそいっぱいお世話したい、心から尽くしてあげたいって気持ちが湧いてくるの。
相手に惜しみ無く与えるのが愛。
ならば恋とは似て非なるものだったのね。
相手を求めて欲して狂おしい程に燃え上がる。
きっと誰にも制御出来ないもの。いえ、むしろ制御出来ちゃったら正しい恋とは呼べないんじゃないかしら?
そう、今の私のこの気持ち。
これが、これが恋なのね。
知らない間に芽生えて、弟への親愛とごっちゃになってたもんだから、自覚するのがこんなにも遅くなっちゃった。
そ~んなアホな私が三五ちゃんを勘違いさせちゃって傷付けちゃって。
三五ちゃんを大切に想っているお坊っちゃまのことまで怒らせちゃって……。
ああぁぁ、ごめんなさい、ごめんなさぁ~い!
せめてものお詫びとして、午後からのお仕事はいつも以上に熱心に ・ 完璧にこなしたわ。
お坊っちゃまの住む繊月邸を隅々までピカピカにして、お夕飯もお坊っちゃまの好きなものをい~っぱい作ってあげちゃう。椎茸た~くさんの筑前煮もね。
「う~ん、今日は一段と良いお味♪ メイちゃんがウチに来てくれてホ~ント良かったわぁ♪」
「ア、アハハハ……」
罪滅ぼしのつもりで頑張ってたら、奥ちゃまに手放しで褒められちゃったわ。
う、う~ん……恐縮しちゃって苦笑いしか出てこないわ。
「これでもし、弦義のお嫁さんになってくれたら最高なんですけどねぇ~♪ チラ♪ チラ♪」
いやぁ~~、キツいっスわぁ~~……。(キャラ崩壊)
私、三五ちゃんじゃないとダメなので。恋ってそういうものなので。
「何言ってんの! そんなの三五が悲しむからダメ!」
「アラアラ~、湖宵もコレだもの。メイちゃんにホントの娘になってもらいたかったわぁ~、残念」
ごめんね、奥ちゃま。
そしていつも可愛がってくれてありがとう。
私も奥ちゃまのこと大好き。
繊月家のお嫁さんにはなれないけれど、もう一人のママだと思っているからね。
さてさて。
食後のデザートとお茶を振る舞って後片付けも終わったら、いよいよお坊っちゃまからのお叱りの時間よ。
うっわぁ~、メチャメチャ緊張するわぁ~。
まっさかお坊っちゃまのお部屋に入る時にこんな気持ちになるなんて。
コンコンコン。
「入りなさい」
ガチャッ。
「し、失礼しま~す……」
「ウム。早速だが聞かせてもらおうか。貴女はウチのお兄様をどう思っている? 一切の嘘偽りは許さぬ。述べよ」
キャア~! 怖ぁぁぁ~い! 人が違っちゃってるんですけどぉぉ!?
「な、何とも思っておりませぇぇん! いえ、もちろん良い人だとは思ってますけど、気があるとかでは全然ないでぇぇす!」
「ならば何故、先程はあんなに取り乱した? いつもとは様子が違っていたようだが?」
「何とも思ってない人にあんな水着姿を見られたら、フツ~はキョドると思います!」
「ふぅ~む、それもそっか。じゃあそれは良いとして……」
プシュ~、とお坊っちゃまから威圧感が消えていく。
良かった~、とホッとしたのも束の間。
今度は顔を真っ赤にしてプンプン怒り出しちゃったの!
「三五を水着で誘惑したのは何のつもりだったんだよぉぉっ! 純情を弄んで傷付けてぇぇっ!」
「キャ~ッ! ごめんなさいごめんなさい! お姉ちゃん調子に乗ってました! でも三五ちゃんを傷付けるつもりは無かったの! お願い、それだけは信じてぇ!」
配慮に欠ける、フシダラだ、とお坊っちゃまに責められる。
仰る通りなので、頭を下げて誠心誠意謝った。
この期に及んでは姉の威厳だ何だと言ってはいられないわ。
「んも~! おねぇちゃんが何考えてんだかワケわかんないっ!
一体、三五ことを! ことを……」
火の出る様な叱責が突然ピタリと止み、お坊っちゃまが言い淀む。
けれどその言葉の続きは明白。
『三五のことをどう思っているの?』
私の本音を知りたい気持ちと知りたくない気持ちがひしめきあっているのね。
お坊っちゃまの切ない表情から痛いくらい伝わってくる。
もしも私が三五ちゃんを異性として見ていなかったら、三五ちゃんが失恋する。悲しんでしまう。
かと言ってその逆だったら、幼い頃から胸に秘めてきた初恋に自分で終止符を打つ羽目になってしまう。
どうしても聞きたいけれどどうしても聞けない。
私も同じよ。まだどうしたら良いのか気持ちの整理がついていないから、何て言って答えてあげたら良いのかわからない。
「……………………」
「……………………」
少しの間、気まずい沈黙が訪れた。
全く、私たちの間でこんなのって初めてね。
でもね、伝えたい言葉が無いワケじゃないの。
いいえ、伝わって欲しい気持ちが確かにあるわ。不安な顔でうつむく私の弟にね。
「あのね、私は三五ちゃんが大好きよ。誰よりも何よりも大事な人だと思っているわ。それにね?」
「……それに?」
「お坊っちゃま、湖宵ちゃんのことも同じくらい愛してるわ。二人が居るから私は生きてる。二人がお姉ちゃんの太陽なのよ」
私は三五ちゃんに恋している。
けれども三五ちゃんと湖宵ちゃんに優劣をつけることなど出来ない。
二人共が私の至上の存在。
それが偽らざる私の本音なのよ。
「……っ! そ、そんなの、矛盾してるよぉ……」
「してないわよ。だって三五ちゃんは弟で、お坊っちゃま……アナタの心は本当は妹、そうでしょう?」
「……! おね、おねぇちゃん……」
私ったら骨の髄までお姉ちゃん。
弟を男性として好きになっちゃうし、妹は猫可愛がりしちゃって一生守ってあげたくなっちゃうのよね。
え? 姉の領分を越えてる? 血が繋がってなければ大丈夫! 多分! (詭弁)
「お坊っちゃまには三五ちゃんと二人っきりの思い出をたくさん作って欲しかったの。決してからかって楽しんでたワケじゃないのよ。ただ上手に出来なかっただけで……ゴメンね」
「おね、おねぇちゃぁんっ」
お坊っちゃまの表情がクシャッと崩れた。
私はお坊っちゃまを胸にぎゅっと抱き締める。
泣いても良いのよ。溜め込んでた想い、全部受け止めてあげるんだからね。
だけどお坊っちゃまは私の身体を強く抱き返すばかりで、涙をこぼさないように必死に堪えていた。
やっぱりお坊っちゃまは強い人だ。
大きくなったね。昔はあんなに泣き虫で甘えんぼさんだったのに。
とっても嬉しいけどちょっぴり寂しいかも。
「おねぇちゃん、ボクもおねぇちゃんのこと大好きだよ。これからもずっとずっと一生大切な家族なんだって思ってるよ」
「うん。嬉しい」
「けどね……」
え゛。け、けど? まさかの逆接? な、なんかヤな予感。
「悪いけどボクが一番大 ・ 大 ・ 大 ・ だぁい好きなのはやっぱり三五だから! おねぇちゃんはその次っ! 二番目っ!」
「ええええええええ~っ!?!?」
デッッッッッカ! ショックデカアァァァ!
いや、わかってたわよ!? お坊っちゃまの不動の一番が三五ちゃんだなんてさぁ! そのこと自体は重々承知してたけどね!?
でもだからって面と向かってキッパリ言わなくても良いでしょ~よ!?
こちとらアンタが将来のダンナと同じくらい好きって言ってんだからさぁ!
ガ~ン ガ~ン ガァァァ~ン……。
やるせない気持ちで一杯になったわ。
お姉ちゃん、一分間くらい呆然と立ち尽くしちゃった。クスン。
「だから、だからおねぇちゃんも三五を一番にしてあげて……」
「え、えっ!?」
小さく、けれど確かに聞こえたその言葉。
あんまり驚いたもんだから、パッと正気になって慌てて振り返った。
「何? どうかした? 彩戸さん」
あれ? もう完全にいつものお坊っちゃまに戻ってる。
今のは空耳? 幻聴? いいえ、そんなワケない。きっと……。
「とにかく! 三五のことはボクに任せて! 明日の朝会いに行って様子を見てくるから! 彩戸さんもその後でキチンと誤解を解くんだよ!」
「う、うん。あの、今……」
「いいから! ボクもう明日に備えて寝るから! 彩戸さんも朝早いんでしょ? ホラおやすみっ!」
グイグイグイ! バタ~ンッ!
ああんっ、お部屋から追い出されちゃった。
お坊っちゃま……アナタ、無理してるのね?
涙を見せずにガラにもない強がりを見せているのも、大好きな三五ちゃんの為。そしてきっと私の為にも。
本当にもう。
優しいのは良いけど、身を引いて私達の仲を取り持とうだなんてのは流石にお人好しが過ぎるんじゃない?
わかった。わかったわ。
私も覚悟を決めるわ。
お坊っちゃまの気持ちは有り難く受け取らせてもらう。
私は三五ちゃんと結ばれる。
そんでもってアナタのことも放っておきはしないわよ、お坊っちゃま!
アナタのお姉ちゃんでたるこの私も。
アナタの初恋の人である三五ちゃんも。
アナタを愛しているんだもの。
これまで以上にディープに構いまくっちゃうんだから!
覚悟しときなさぁ~い!
ふわああぁ……何だか心が決まったら眠くなってきちゃったわ。
お風呂に入って寝ちゃいましょっと。
新しく始まる明日の為に、ね。
お休みなさ~い!