彩戸すと~り~ ⑫ 欲望を解放させしお姉さん メイルート
「はぁぁ~……笑った笑った。お姉ちゃん、お腹が筋肉痛になっちゃいそう」
オレ達はどれくらいの間、笑い合っていたんだろう?
さすがにメイお姉さんの笑い上戸も落ち着いて、オレもようやく荒れ狂う感情の波が静まってきた。
今はフワフワ浮き足立ち、夢見心地といったところ。
「さあってと。さぁ~ん~ご~ちゃんっ♡」
ムッギュウゥ。
ん゛あ゛あ゛ぁ~っ!
メイお姉さんが急に腕を組んできたぁ~!
その密着度は今までの比じゃない!
ZEROになった二人の距離を更に縮めんとばかりにナイスバディをギュギュギュ~ッと押し当ててくるぅ♡
フワフワが一転してドキドキに早変わりだぁ!
「そろそろ行きましょっか♪」
「ど!? ど、どこに!?」
「デートよデート♡ 決まってるでしょ?」
「デェェェエ!?」
何たる急展開! オレの心臓を爆発させるおつもりか!?
「ちょ、ちょっと待って! お仕事はいいの!?」
「い~の♪ ねえ奥ちゃま、今日はもうお仕事あがっちゃってもいいわよね?」
「い~わよぉ~」
ええ!?
おっとりとした声の方に振り返ってみると、そこには庭園のベンチに優雅に腰掛ける湖宵ママの姿が!
んん!?
しかもよく見たら、何故かビデオカメラを構えておられるんだが!?
「いつから居たの!? そして撮ってたの!?」
「三五ちゃんが泣いて土下……」
「OKわかった! もう聞きたくないです!」
「ウフフ♪ お二人の結婚式の時に流してあげますからね♪」
ヤメテクレヨオォォォ!
「さっ♪ 奥ちゃまの許可も得たことだし、車庫までダッシュダ~ッシュ♪」
く、車でデート!? それって超オトナってカンジじゃん!
こ、心の準備! 心の準備をさせてくれ~っ! なんて言ってもメイお姉さんは聞いてくれない。問答無用で引きずられてしまう。
ズルズルズルズルズル~ッ!
「メ、メイお姉さん、デートってどこ行くの?」
「コ~ラ、三五ちゃん」
ピシッ! と指でおでこを弾かれた。地味に痛い。
「私達はもう恋人同士なんだから 「メイ」 って呼んでくれなきゃ。そうね、このエプロンを脱いでいる時は呼び捨てで呼んでちょうだい」
「うえぇ!?」
ハードル高ぁぁ!
何もかもが急過ぎるよぉぉ!
メイお姉さんはエプロンを丁寧に折り畳んで車の後部座席に仕舞うと、オレの瞳をジ~ッと見つめてきた。
言えと!? 幼少の時から散々お世話になってるメイお姉さん様を呼び捨てにしろと!?
めっちゃ恐れ多い……が! オレはもうメイお姉さんの恋人なのだ! 婚約者なのだ! やってやる! やってやるぞぉ~っ!
「メ、メ、メ、メメ……メイ……ッ」
「アッハァ♡ きゃんワゆ~い♡ 真っ赤っかになってるゥ~♡」
妖しくニ~ンマリ笑うメイお姉さん、いや、メイ。
「ンフフ♪ さぁ、まずは三五ちゃんのお洋服を買いに行きましょ♪」
あ、ヤベ。そう言えばオレの服は昨日から着たきりでもうヨレヨレだったわ。
今更だが告白だとかデートだとかに臨める服装じゃなかったぜ。
「でもオレ今、小銭入れしか持ってないんだけど」
「何言ってんのよ、そんなのお姉ちゃんが貢ぐに決まってんでしょ」
「いやいやいや! そっちが何言ってんの!?」
ダメだろそりゃあぁ!?
誕生日でもないのに服なんて高価なものをホイホイ買ってもらうワケにはイカン!
断固拒否!
「お金は大事にしなきゃ! もっと自分の為に使わなきゃダメだよ!」
「アンタは私にプロポーズして、私はそれを受けた! つまり私達は運命共同体! よって私のお金はアンタのお金! 文句は言わさないわ!」
ボーロン ・ イン ・ ザ ・ ダークなんですけど!?
オレの断固拒否が更にデカい断固拒否によって掻き消された!
「ンフフフフ♡ 今までヒミツにしてきたけど実はお姉ちゃんねえ、三五ちゃんに高価なプレゼント贈ってアタフタさせるのがだ~い好きなの♡」
何その欲望!? しかも何故オレだけを名指しで狙い撃ち!?
湖宵は……あぁ、ボンボンだからアタフタしねぇのか!
はっ! ま、待てよ。オレが今履いているスニーカーはこの前の誕生日にメイお姉、メイにもらったものだった。
「ま、まさかこのスニーカーのお値段って……」
「アッハ♪ 気付いた? 五万七千七百五十円 (税込) よぉっ!」
「ウワァァ~ッ!?」
タカタカタカッ!
思わずその場でタップダンス!
ヤケにカッコ良くて素晴らしいスニーカーだなあとは思ってたけど、コレそんなにすんのかよぉ!?
「クフッ♡ クフフフゥ♡ お姉ちゃん、もう自重しないからね♡ 三五ちゃんの好きなもの、いっぱいい~っぱい買ってあげる♡」
こ、この人 ★★★★★★ 『男を堕落させる女神』 かよぉ!?
メイの熱意はもの凄くて、とても逆らえない。
大人しく車に乗せられて素直にショップまで連行されてしまうオレなのだった。
「うんうん、ソレもなかなか似合うわね。次はコレ着てみて♪」
言いなりに試着させられまくるオレ。
メイお姉さん、じゃなくってメイが選ぶ服はどれもこれも大人っぽくて、学生が気軽に買えるお値段じゃなかった。
気後れしてしまう……が、メイの好みを知る為だ。
ええい! と思い切って袖を通した。
「う~ん、イイわねぇ♡ カワイくってちょっぴりワイルドえちち風味♡ さっすが私!」
メイのチョイスしたコーデは白のリネンシャツ。しかもVネック。
胸元をレザーのネックレスで隠して、ボトムスは黒のスリムパンツ。
気になる総額は……ヒィ~ッ! ダメだよ! こんな金額出してもらっちゃったら、オレもうヒモだよ!
「今日のデートはこれで決まり! 店員さ~ん、お会計~♪」
「ありがとうございま~す♪」
「うわあぁぁ!」
口を挟めないくらいスムーズかつ力強いお会計!
おまけに下着や靴下まで買ってもらって、有無を言わさず着替えさせられた!
ヒモだ! オレはヒモに成り下がっちまった!
「さあさあ、そろそろ美容院の時間よ♪ 急ぎましょ♪」
一体いつの間に予約していたのか?
絶望 (新感覚) の味を噛み締めるヒマもなく、今度は美容院へと移動。
「全体的にショートに切り揃えてもらって~、そんでトップから若干! 若干ね、カールみをつけて欲しいの。それからそれから~」
スタイリストさんに細かく指示を出していくメイ。
何気にパーマ初体験 (強制) だ!
「あ、私のはデートっぽくイイカンジに整えてちょうだい」
自分のオーダーはそんなテキト~なの!?
クッソ~! オレも女の人の髪型とか勉強して、次からはアレコレ口出ししてやる!
そんなこんなでメイお姉さん……慣れない。メイ好みに身嗜みが整えられたワケだが、何かもうヤバい。マジでヤバい!
お高いオトナカジュアルの衣装は着慣れなさ過ぎて、まるで大人のコスプレをしているかのよう。
更に愛する人に全額支払わせてしまった罪悪感たるや、筆舌に尽くし難し!
「アッ ⬆️ ハッ ⬇️ ハッ ⬆️ ハッ ⬇️ ハア~ァ♡ 遂にやってやったわっ♡ 三五ちゃんを頭のテッペンから爪先、ましてやおパンちゅまで♡ ぜ~んぶお姉ちゃんのお金で♡ お姉ちゃんのセンスで♡ お姉ちゃんの色に染め上げてやったわぁぁ~っ♡ ア~ッ ⬆️ ハッ ⬇️ ハッ ⬆️ ハァァ~ッッ♡♡」
当のご本人様は高笑いをしておられる。
何がそんなに嬉しいのか。
「さあさあさあっ! おっ次は腹ごしらえよ~っ! チャキチャキ車にお乗りなっさぁ~い♪ アハハ♪ アッハハハハハ~ァァ♪」
こんな興奮したメイ、見たことない!
エネルギッシュにグイグイ車に押し込まれる!
「アア~ッ! す、素直に言うこと聞くからそんなに押さないでっ!」
「クフフ♡ それで良いのっ♡ お姉ちゃんの言うことは絶対♡ 行くわよぉ~っ♡ Let's Go Go ~♡」
バタム! ブロロロロ~ッ♪
水を得た魚のように車は走る走る。
目的地は……腹ごしらえって言ってたから、ご飯屋さんかな?
何を食べさせてもらえるんだろう? そしていくらオゴられてしまうんだろう!
大人の圧倒的な財力になす術もないオレ!
デート自体は超幸せなんだけど……あぁ~っ! すっげぇ複雑な気分~っ!!