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幼馴染み♂「今からQ極TSカプセルで♀になりマース♪」  作者: 山紫朗
【IF話】 もしもQ極TSカプセルが誕生しなかったら
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彩戸すと~り~ ⑧ 高嶺の花のお姉さん  メイルート

 モグモグモグ……あっ! もう無い!

 ランチ食べ終わっちゃったよ! これじゃもう現実逃避出来ね~!


 「う゛う゛う゛! ごちそうさまでしたぁ!」


 「はい、お粗末さまでした……」


 何かちょっと恥ずかしそうにモジモジ所在無さげにしているメイお姉さん!

 カッワイイ! けどやっぱりおかしいよ! いつもの堂々としたお姉ちゃん振りはどうしたの!?



 「「ごちそうさま~、美味しかった~」」


 モンモンとしているウチに湖宵と弦義(つるぎ)お兄さんも食べ終わったようだ。

 改めて皆でメイお姉さんにごちそうさまの挨拶をして、後片付けをしよう。

 と、したんだけど……。


 「じゃ、じゃあ私は後片付けがあるのでこれで。皆、ごゆっくり楽しんでねっ」


 慌てた様子でパパパパパ~ッと食器をワゴンに乗せていくメイお姉さん。だけどやはり今日の彼女はいつもとは違う。

 お皿を一枚ツルリ、と取り落としてしまったのだ。


 「あっ!」


 メイお姉さんは持ち前の運動神経を活かしてお皿をキャッチ! したまでは良かったが、バランスを崩して前へと倒れてしまう。

 下は固いプールサイド。


 「危ないっ!」


 メイお姉さんを助けるにはヘッスラだ!

 ヘッドスライディングをキメてお姉さんの下敷きになるしかないっ!


 「いや、そりゃオメ~が危ね~だろww」


 飛び込む構えをとったところで弦義お兄さんに肩を掴まれた。

 そしてお兄さんは全く慌てず騒がず、それでいて素早く正確な動きでメイお姉さんを助けてみせたのだった。


 お、お見事! なんてスマートなんだ。

 特に抱き留める時にお姉さんの胸やお尻に一切タッチしてないところが鮮やか過ぎて逆にムカつく。

 あれはオレには絶対出来ない。


 「あ、ああっ! ご、ごめんなさい、弦義さんっ!」


 「フハハハww 気にしなさんなっつ~のww」


 お姉さんは弾かれた様にお兄さんの両腕から離れ、真っ赤な顔でペコペコと頭を下げる。

 お兄さんは当然のことをしたまでよ、という風に笑って手を振っている。


 まるで恋愛マンガかドラマのワンシーンのよう。


 オレは、オレは。

 もう目を背けることが出来なくなってしまった。

 心の底から沸いてくる嫌な気持ちからも。


 モヤモヤの正体。それは 「嫉妬」 だ。


 オレは男としての弦義お兄さんに心底嫉妬しているんだ。

 大人でカッコ良くて、文武両道でスマートで。立派なお仕事やオシャレな趣味にバリバリ励んでいて、オレが持っていないものを全部持っているから。

 ………………メイお姉さんとお似合いだから。


 ダメだ。これ以上メイお姉さんが弦義お兄さんと一緒にいるところを見たくない。


 グチャグチャになった負の感情が爆発してしまいそうだ。そうなる前に一人に、一人になれる場所ヘ行かなければ。

 この時のオレはただそれだけを一心に念じていて、次に気が付いた時には何故か繊月(せんげつ)家の廊下に立っていた。


 前後の記憶があやふやでハッキリとしない。強いショックを受けたせいだろうか? いつの間にか服も着替えていたし。


 今日はもう帰ってしまおう。

 挨拶も無しなのが申し訳無いけど……。


 「~~で、~~よねぇ」


 リビングから話し声がする。湖宵のお母さんの声だ。

 そうだ。代わりに湖宵ママに一言挨拶して帰ろう。

 フラフラな足取りで声のする方へ。


 「ホントにねぇ、弦義にも困ったものよねぇ~」


 湖宵ママは豪華絢爛なソファーにゆったり身を任せてスマホで電話中だ。

 寛いでいるところをお邪魔してしまうのは非常に心苦しいが、オレの精神状態はもう限界なんだ。

 一声だけ割り込ませてもらおう。


 普段は決して行わないマナー違反。

 そのバチが当たったのだろうか?


 「元気なのは何よりだけど、もうちょっと落ち着いてくれないかしらねぇ」


 「あの……」



 「メイちゃんが弦義のお嫁さんになってくれたら良いのにねぇ~」



 「!!!!」


 図らずも盗み聞きしてしまったその電話の内容は凄まじい衝撃をオレに与えた。

 精気を失って朽ち木のようになった心身を木っ端微塵にするトドメの一言(雷鳴)


 「ああ、あああ」


 軋んでいた心にヒビが入る。

 思考力も全身の感覚も無くなってしまったが、足だけは勝手に動いた。


 フラフラ、フラフラ。


 誰の声も届かない空間へ行きたい。

 耳を塞ぎ心を閉ざし。出来損ないのロボットみたいに歩くことしか今のオレには出来ない。


 「でも無理よねぇ。あのコ、メイちゃんのタイプじゃないもの (笑) ……って、アラ? 三五ちゃん?」


 フラフラ、フラフラ。


 「アラアラ? お腹でも痛くなっちゃったのかしら?」



 それからの記憶はあやふやどころか一切合切無い。

 

 どこをどう歩いて帰ったんだか、何か物を食べたんだか食べていないんだか、眠っていたんだか起きていたんだか、まるで判然としない。




 オレは暗闇の中に居た。


 その事実にギョッとして反射的に身体を起き上がらせると、はねのけられたタオルケットがパサリ、と床に落ちた。


 ここはオレの自室。

 時刻は午前二時。草木も眠る丑三つ時。


 心を閉ざしたオレはどうやら、真っ暗な部屋のベッドの中で貝の様に蹲っていたらしい。


 だけどいつまでも自分の心の声から逃げ続けられるワケもない。


 「うう、ううう。う゛う゛う゛う゛!」


 逃げ続けて辿り着いたこの場所はオレだけの私的空間。今はオレだけの時間だ。


 嫉妬に悶えて自らのバカさ加減に喘ぐ惨めな姿を誰にも見られることはない。

 閉じ込めていた感情が濁流となって表れる。


 ああ、ああ、オレはなんってバカで未熟で何にも持っていないガキなんだろう……!

 メイお姉さんに相応しい男には程遠い。改めて痛感させられてしまった。

 だけど、そのこと自体に愕然としているワケじゃない。だからこそメイお姉さんに釣り合う男になるべく日々努力しているんだし。


 しかし、今回の件ではもう一つの動かし難い現実をも同時に突き付けられてしまったんだ。


 

 「メイお姉さんには、オレよりも、ずっとずっと相応しい男の人が、居る……!」



 呆れたもんだ。

 そんなの 「熟した果実が地に落ちる」 それくらい当たり前過ぎる事実じゃないか。

 メイお姉さんはあんなにも魅力的な女性なんだから。


 『どうどう? 三五ちゃん♡ お姉ちゃんのみ ・ ず ・ ぎ♡』


 誰もが振り返る極上の美貌。

 心奪われるナイスバディ。


 『今日は三五ちゃんの好きなもの作ったのよ。たくさん召し上がれ♪』


 お料理の味は天下一品で、いつも食べる人の健康を考えてくれる。


 『お姉ちゃんね、車の免許取ったのよ。奥ちゃまの送り迎えする為にね。フフ~ン♪ 凄いでしょ♪』


 家事以外の仕事もバリバリこなすクールなお姉さん。


 『三五ちゃん、誕生日プレゼントありがと♪ でもまっさかこ~んなフリフリエプロンを贈られるとはね~。ど~お? 似合ってる? ウフフフ♪』


 オレと湖宵にとっても優しくて愛情たっぷりで接してくれて。


 いつだって一番の笑顔を向けてくれるに違いないって、疑いもしていなかったんだな、オレは。何ていう自惚れだ。

 そんなだから能天気に日常を送って、いつかメイお姉さんに相応しい男になるんだ~、なんて息巻いていられたんだな。


 いや、違うか。

 メイお姉さんが引く手数多になるなんて考えるまでもなく当然の出来事だ。

 ただオレが必死で考えまいとしていただけだった。

 絶望してしまい、指一本動かせなくなってしまうから。


 だってそうだろう。

 メイお姉さんは大人で、オレはまだ子供で。

 いくら頑張ってもその差は一朝一夕で埋められるものではない。


 そんなチンタラやってる間に弦義お兄さんみたいなハンサムで立派な大人の男性がメイお姉さんに近付いて……っ!


 「う゛う゛う゛~っ!」


 想像するだけで呻き声が漏れてしまう。いくら歯を食いしばっても止められない。


 お願いだ、神様。どうか時間を止めてくれ。

 メイお姉さんの一番でいられる、幸せな時間のままで……!


 絶望の真っ暗闇の中で、オレはただただそう念じ続けるのだった。





 「ホラ三五、アンタいつまで寝てんのっ!」


 どれだけの時間が過ぎ去ったのだろう。

 オレには瞬きの間にも思えたけれど、かなりの間放心していたみたいだ。

 いつの間にか目の前に母さんが立っていて、被っていたタオルケットをはぎ取られた。


 「うっ!? ア、アンタどうしたのよ!? ひっどい顔してるじゃない。だ、大丈夫? 病院行く?」


 母さんが引いている。そんなに具合が悪く見えるのか。

 ちょうど良い。一人になれる口実が出来た。


 「病院は……いいよ。オレ、寝てるから……」


 「そ、そうよね。今、湖宵ちゃんが来てるんだけど。今日は帰ってもらうわね?」


 「……湖宵が?」


 そうか、今は夏休みだから。

 オレが会いに行かなければ湖宵が会いに来る。

 用事が無い限りはずっとそうしてきた。


 「……上がってもらって」


 「え゛っ。だ、大丈夫なの?」


 「……別に病気とかじゃないから」


 「そ、そう? それならちょっと待ってて」


 バタンッ。


 今は誰とも会いたくないし言葉も交わしたくない。でも湖宵となら。

 最も湖宵は今のオレとなんか話したくないかもしれないけどね。


 

 コンコンコン。


 「さ、三五~? は、入っても良い? 入るよ~……」


 控えめなノックと湖宵の声が聞こえてきて、躊躇いがちに部屋のドアが開かれる。


 「さ、三五っ!? どどど、どうしちゃったの!? だ、大丈夫っ!?」


 「………………」


 心配してくれる湖宵に対して空元気を返す気力すらない。

 こんなに元気が無くて情けない姿を見せたのは初めてのことだ。

 二人の間にこんなに長く沈黙が続いたことも。


 さぞかし困惑させてしまっただろう……そんな予想とは裏腹に、湖宵の瞳には何か強い決意の光のようなものが宿っていた。


 「ねえ三五、外に出ない? 二人っきりで話をしようよ」

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