彩戸すと~り~ ⑥ イタズラ大好きお姉さん メイルート
「わかった! じゃあこうしよう! 今からメイ姉さんは三五と一緒にボート遊びをする! でもその代わりに過度なスキンシップをとるのはNG! Are you OK!?」
「OK~♪ ウフフ♪ 三五ちゃんとボート♪ 三五ちゃんとボート♪」
た、助かった。湖宵の提案があと少しでも遅かったら、冗談抜きで死んでいただろう。
「ハアァ~ッ! ハアァ~ッ! ヒイィ~ッ!」
何せオレときたらメイお姉さんセクシー水着姿ver.にたっぷり可愛がられて息も絶え絶えなのだ。
幸せも過ぎれば人を殺すらしい。
「ホラ三五! 酸素酸素!」
湖宵がどこからともなく携帯酸素缶を取り出してオレの口に当ててくれる。
シュコー、シュコー。
「ハアッ、ハアッ、あ、ありがと、ありがとう~」
湖宵のお陰でやっと呼吸が楽になった。命の恩人だよ。
それにそれにメイお姉さんと二人でボートに乗れるようにお膳立てしてくれるなんて♪
「ホント至れり尽くせり神サポートだよ♪ 湖宵がオレの幼馴染みで良かった~♪」
「そ、そんなにおだてられると照れちゃうよ。ボ、ボク達がボートを用意するから三五は少し休んでて」
「は~い!」
「フフン♪ お姉ちゃんに任せなさい♪」
神サポーター様のお言葉に甘えてちょっと休憩。
ふぅ~。
一息吐いてる間に有能なお二人がテキパキ働いてくれて、あっと言う間にビニールボートが膨らんだ。速やかにプールに進水。
「準備ありがとう二人共。早速乗らせてもらうね。それっ!」
プールサイドから軽快にジャンプ!
ボートに飛び移るとユラユラッと揺れて水面に波紋が広がる。
良いねえ、楽しいねえ。などと呑気してばかりではいられない。
だってさ、ボートの上って言わば非日常感を味わえる一つの空間なワケじゃん?
だから水上のオレとメイお姉さん、水中の湖宵ってなカンジで隔絶されて擬似的に二人っきり……つまりデート♡体験が出来てしまうのだァァ~ッ♡
ア~ッ! ドキドキするぅ~!
って、あれ? メイお姉さんが乗ってこないぞ?
「お姉ちゃん、三五ちゃんが手を引いてくんなきゃボートに乗れなぁ~い」
あ゛あ゛あ゛あ゛!
「ちょっぴり拗ねた表情でお姫様扱いをおねだりするメイお姉さんサイキョ~カワイイ~ッ!」
「三五、本音! 本音出てる!」
「アッハハハ♪」
ハアハアハア。フ~ッ。
波打つ心をなんとか静めて、震える手を差し出す。
「ど、どうぞ」
「ありがと三五ちゃん♪ ンフフフ♪」
オレの手を取った瞬間、何故かメイお姉さんがニンマリと笑った。
な、何か企んでる!?
「て~い♪ アタ~ック♪」
「うっわぁぁ~っ!」
メイお姉さんはオレのもう片方の手も素早く掴み、身動きを封じた上でボディアタックを喰らわせてくる!
勢いよくビニールボートに倒れ込むオレ達。
バイ~ン!
こ、この体勢はっ!
オ、オ、オ、オレってばメイお姉さんに押し倒されてる!??
「うわっ!? うわわわわ!??」
慌ててメイお姉さんから離れようとするが……。
「ンフフ♪ 逃がしてあ~げない♪」
ガチッ! ガシッ!
足に足を絡められ、両腕は上半身の体重を乗せた両手にプレスされ完全に動かせない!
押し倒されてるというよりは組み敷かれている!??
「え~いっ♪」
ムギュウゥッッ。
「アッアアア~ッ♡♡」
そ、そのうえ、美女神ボディプレスゥゥ!?
全身でメイお姉さんのカラダの感触が感じ取れて、オレは、オレはもうたまらないよぉぉ!
「アッハ♪ 三五ちゃんってばちょ~キャワユイお顔してる~ぅ♡」
「!? イヤアァァ!? 見ないでぇぇ!」
今この瞬間、世界の誰よりも興奮しているであろうこのオレ! その顔は一体どんな風に歪んでいる!?
ただでさえ誰にも見られたくない顔を想い人に超 ・ 超 ・ 超至近距離で覗きこまれているこの状況!
生娘の如き声を上げてしまっても無理からぬことではないだろうか!? いや! 100億%無理はなぁぁぁ~いっ! (断固たる反語)
「ンッフフフフ♡ ペロリ♡」
メイお姉さんはその艶やかな唇をペロリと一舐め。
更に熱っぽく、色っぽくオレの瞳を見つめるその表情は見たこともないくらいセクシーで……ああ、ああぁぁ~っ!
「イチャイチャ警察だ~っ! これでも喰らえ~っ!」
ビャビャ~ッ!
「キャア~ッ! 冷たぁ~いっ! ちょっとお坊っちゃまぁ! 何すんのよぉっ!」
「こっちのセリフだよ! 健全に楽しみなさいっつってんでしょ~が!」
おおおお! 湖宵が水鉄砲で文字通り冷水を浴びせてくれた!
お陰で妖しげアダルトムードもキレイさっぱりクールダウン。
ありがて~! 天の恵みじゃぁ~!
「アンタそれ氷水じゃないのよ! 酷い酷い!」
「うるさ~い! もう一回喰らいたくなかったら三五にベタベタすんなっ!」
湖宵はオレを守る為に頑張ってくれたのだが、逆にそれがメイお姉さんのイタズラ心に火を点ける結果となってしまった。
「わかったわよ~。自重するわよ~」
舌の根も乾かぬウチにニヤリと悪~い笑みが口元に浮かんだのが隣に居たオレには見え見えだった。
「三五ちゃん、一緒に寝転びましょ。お日様が気持ち良いわよ♪」
「う、うん」
ビニールボートは大きいのでオレ達が並んで横になってもまだスペースに余裕がある。ついでに心の余裕も。いや、ちょっとはドキドキするけどね。
ちなみに湖宵は水鉄砲を構えながらボートの周りをグ~ルグルと旋回遊泳している。サメみて~だ。
うん。湖宵が鋭い視線を送ってくれているしオレのコンディションも悪くない。
二人でならメイお姉さんが何かを企んでいても対応出来るハズ! (フラグ)
だがしかし、強い陽射しの乱反射やらボートの揺れによって出来る死角やらの関係上、水中からでは監視の目が届かない瞬間がどうしても存在する。
その刹那のスキを見逃す彼女ではない。
「え~いっ♪」
ピトッ♡
メイお姉さんがコロンと寝返りを打ってオレの胸の中にスッポリ収まってぇぇ!?
「わぁぁ、むぐっ!」
「ほ~ら、うるさくしないの」
青春の叫びを上げかけた口を掌で素早く塞がれた。
「良~い? 大きな声出しちゃダメ。お姉ちゃんの命令よ。ちゃ~んと言うこと聞けたらウレシイご褒美があるからね♡」
「!!」 コクコクッ!
ああ、ゴメンよ湖宵! 助けを呼ぶことすらオレには許されない。
だってメイお姉さんの命令は絶対だから。
弱過ぎるオレを許して!
「ん? ちょっとフンイキおかしくない? ジ~ッ」
湖宵が訝しげにこちらを睨んだ時には既にメイお姉さんはパッとオレから離れていた。
「別に~? の~んびりしてただけだけどぉ~?」
な、なんて白々しい。
湖宵もそう思ったようだが、証拠が無いのでシブシブ巡回遊泳を再開した。
静かに始まる湖宵とメイお姉さんとの対決。
湖宵は監視の目を更に厳しく光らせ、メイお姉さんは針の先程のスキを突くようにオレにスキンシップを図ってくる。
ピトッ♡ ピトッ♡ ピトッ♡
「!! (ア~ッ♡)」
この時のメイお姉さんのテクはマジで神がかっていた。
全身で湖宵に当たる陽射しを遮って、太陽を背にしたタイミングで目眩ましの光を浴びせたり、バタ足でボートをクルクルさせたり、急発進させたりして鮮やかにスキを生み出してみせたのだ!
そしてオレは頭をナデナデされたり、ほっぺをムニムニされたり、力一杯抱き締められたり、脚を絡められたり……etc.
やりたい放題劇場だ。
当然その間オレは一言も発してはならない。生命力が尽きるその時まで。
最早、対決はメイお姉さんの独壇場。死亡悪戯と化した。
「ムキ~ッ! やっぱ絶対隠れてイチャイチャしてるう!」
「何言ってんのよ~、イチャイチャしてたトコ見てないデショ~?」
「見てなくてもわかるよっ! だって三五がゆでダコみたいに真っ赤っかで目が♡♡になってるもん! キ~ッ! これでも喰らえ~!」
遂に堪忍袋の緒がキレた湖宵が氷水鉄砲を乱射!
ビャビャビャビャビャ~ッ!
「三五ちゃんバリヤ~♪」
メイお姉さんはオレの背にササッと身を隠した。
ビシャビシャアッ!
「アッア~ッ!」
つ、冷てぇ……のか!?
ドキドキ発熱で体温が狂ってるからよくわかんねえ!
加えて背中のメイお姉さんがしなだれかかってくるもんだから多幸感 ・ 精神的充足感が加わって余計にワケがわかんねえ! もうオレ、何もわかんねえ!
「コラァ~! 三五から離れろ~!」
ビャビャッ! ビャビャビャ~!
「アッハハ♪ 当ったらないわよ~♪」
湖宵はめくら滅法に撃ちまくるがメイお姉さんには一発も当たらない。(オレには全弾命中) なんたる身のこなし!
ビニールボートの弾力を利用してピンボールみたいに弾かれることで氷水を華麗に避けているぞ!
しかしさしものメイお姉さんでも不安定な水の上でそんなに激しく動いてしまっては……!
グラッ。
「キャ……ッ!」
バランスが崩れてメイお姉さんの身体が宙に放り出される。
「……ハッ! メ、メイお姉さん!」
慌てて支えようとしたがタイミングが遅過ぎた。
クラクラ状態の今のオレでは身を投げ出してメイお姉さんの下敷きになり、少しでも衝撃を和らげることくらいしか出来ない。
ドッパアァァン!
「さ、三五っ! メイ姉さん!」
ゴボゴボッ。
グハァッ!
腹を思いっきり打った & 鼻に水が入ったぁぁ!
だけどこの際そんなことはどうでもいい!
「ゴホッ! ゴホッ! メ、メイお姉さん大丈夫!?」
水中から急いで顔を出す。
メイお姉さんの無事を確かめなければ。そう思っていたのだが、メイお姉さんの姿を見つけた時、思わず見惚れてしまった。
「ケホケホッ! うぇぇ~、お水飲んじゃったぁ」
ハイビスカスコサージュがほどけて髪型が崩れている。
いつもキリッとクールで身嗜みがバッチリなので、こんな乱れた姿を目にするのは非常にレアだ。
「もう、こんなのいつ振り? ホントにほんの小さな頃以来なんじゃないの? アハッ、おっかしい♪ アハハ♪ アハハハハハッ♪」
濡れた長い黒髪をあちこちに張り付けたまま、本当の本当の本当に珍し~く大笑いするメイお姉さん。
まるで年下の女の子みたいに天真爛漫に振る舞う初恋の女性から目が離せない。
さっきまでの興奮とはまた違ったドキドキがオレの胸を支配する。
だってさ、今メイお姉さんとの心の距離が凄く近くなった気がしたんだ。
誰よりも、他の誰よりもこのオレが一番彼女の近くに居る。そんな気が。
もしかしてこの恋……イケるんじゃね!?
見通しが立たない道筋に突然、真夏の太陽よりも熱くて眩しい希望の光が射し込んだ…………のかも!??