彩戸すと~り~ ⑤ ハジける夏の☆お姉さん メイルート
全国津々の少年少女達の恋の悩みを置き去りにして、無情にも時は流れ行く。
そしていつしか季節は夏に。
本日は繊月家庭園のプールを貸し切らせてもらってオレ、湖宵、そして彩戸さんとの三人で水遊びする日なのだ。
「あ~ヤバい。あ~ヤバい」
皆より一足お先に水着に着替え終わったオレは一人、プールサイドをウロウロと歩き回っていた。
「お待たせ~、って何やってんの? 三五ったら」
「だってさあぁぁ! 落ち着かないんだよ湖宵ィ!」
今から大人の魅力に満ち満ちている彩戸さんがドッキドキの水着姿で光☆臨するんだぜ?
あまつさえここ最近のオレは彩戸さんの気を引く為にず~っと頑張ってきたので頭の中が彩戸さん一色なのだ。
募りに募った恋しさがギンギンにそそり立つ様は正にTOWER OF BABEL!
ドキドキで心臓がパンクしてもおかしくねぇよ!
「は~。お外、暑いわね~」
「!!」
ババッ!
お、思わず背を向けてしまった。
「うわぁ。彩戸さんったらその水着、気合い入り過ぎじゃない? ボクと三五しか見ないっていうのにさ」
マ、マジかよ湖宵ィ!? メ、メイ……彩戸さんってば夏の陽気にアテられてちょっぴり大胆☆になっちゃってんのぉぉ!?
てちてちてち。
おっ!? おっ!? こ、この音は彩戸さんの素足がプールサイドを踏む音! ち、近付いてきている!?
「さ~んごちゃん♪ お ・ 待 ・ た ・ せ♪」
ドキンッ!
心の準備は全く出来ていないけれど、耳が蕩ける様な美声に誘われてしまっては振り返らざるを得ぬ。
そ、そしてオレの瞳に映ったのは桃源の艶美……!
「どうどう? 三五ちゃん♡ お姉ちゃんのみ ・ ず ・ ぎ♡」
ウオアァァ~ッ♡♡ う、美しいィ~ッ♡
メイお姉さんの水着は赤のモノキニワンピース!
ビキニより露出度が低いかと思いきや、お腹とサイドのウエストに大胆なカットが入っていてめっちゃくちゃセクシィィィ♡
編み込んだ髪をハイビスカスコサージュでまとめたキメキメの髪型も超トロピカルパッションだぁぁ♡ (意味不明)
「うわぁぁぁ♡ 好きイィィ♡」
「三五っ! 告ってる! 告ってるって!」
湖宵がオレのことをガクガク揺さぶりながら何かを言ってくるが、正直ちょっとそれどころじゃない。
だってだって湖宵の言う通り今日のメイお姉さんの気合いの入りっぷりは尋常じゃねぇ!
しかも腰に手を添えてビシッ! とカッコ良い立ちポーズをキメてくれたり、髪を指で弄んで悩ましげにウインクをしてくれたりとファン (?) サービスも充実!
血が滾る! 滾って滾って血管が爆発しちまいそうじゃあ~っ!
「うううう! ううううう!」
「アッハハ♪ おっかち♪ あっ、い~こと思いついちゃった♪」
な、何!? そのイタズラっ子みたいな笑み!?
今日ちょっと変じゃない!? キュンとするからヤメテ!
「ねえね~え三五ちゃぁん、サンオイル塗ってくれる~ぅ?」
「グッハアァァァ!」
同じ空間に空間に存在しているだけでもヤバいのにボディタッチを要求だとぉぉ!?
嬉しいけどマジで昇天しちまうぅ!
「止めたげてよ。ボクが代わりに塗ったげるから」
ここで湖宵の助け船! ありがてぇ! クッ! しかし残念だ! 本当は歯ぎしりする程にぬりぬりしたかったのだが、今のオレでは漢レベルが足りていなかった。クソォォ!
「え~、ヤだもん。お姉ちゃん、三五ちゃんの大っきなお手々で塗って欲しいんだもん」
「はあぁ!? 可愛いんですけどぉ!?」
「三五、自重! 自重!」
今日に限ってはマジのマジでおかしいって!
てゆ~かめちゃめちゃご機嫌になってて、お仕事モードでもお世話好きお姉さんでもなくなっちゃってるし!
普段の凛々しい姿とは180°違う、あどけなさすら感じられる満開笑顔で甘えられちゃったら、オレは! オレはもう、たまらないよぉぉ!
「ね~ぇ、良いでしょ? 三五ちゃん♪」
上目遣いでおねだりだとぉ!?
そんな禁じ手を打たれちまったら……!
「ハイハイハイッ♡ オレ、何でも言うこと聞きまぁぁ~すっ♡」
「そうこなくっちゃ♪ じゃあよろしくね♪」
オレにサンオイルを渡すなり、プールサイドベッドにコロンとうつ伏せになるメイお姉さん。
う゛ッッ♡ メイお姉さんのこの水着、背中がバックリ開いててヤッバァァ♡♡
不意打ちセクシーに脳ミソを横殴りにされてもうクラクラ♡
クッ! 無心だ、無心になれ、高波 三五ぉ!
速やかにサンオイルを手に馴染ませて、メイお姉さんの美しいお背中に……良いんスか!? 自分、いっちゃって良いんスかコレぇぇ!?
「三五ちゃぁん、は ・ や ・ くぅ♡」
良いんスね! いっきまぁ~す!
ピトッ。ぬりぬり。
ウオアァァ♡ ツルツルスベスベ♡ なんちゅうキメ細かくて滑らかな手触りだァァ♡ 天国だァ♡ 手だけ天国にブッ飛んじまったァァ♡
「ハァァ……。三五ちゃんの手、とっても暖かい♪ まんべんなく塗ってね」
ま、まんべんなくですとぉ!?
この掌に伝わる感触を一言で言い表すならば、正にめくるめく天上の至福……だがしかし、ワンタッチツータッチした段階で既に動悸 ・ 目眩などの症状が出始めているんだが!?
断言する! これ以上お触りしたら身体中の血液が鼻から吹き出て死ぬ!
まあ男としては悪くない死に様だと言えるけれども (アホ) このままではメイお姉さんのお背中を血で汚してしまう!
ど、どうすればぁぁ~!?
「三五ったら、そんなにゆっくり塗ってたら日が暮れちゃうよ。こ~やって塗るんだよ、こ~やって」
ピッピッピッ。ペペペペペペッ。
「キャッ! 冷たぁい! お坊っちゃまのバカバカ! 三五ちゃんみたいに優しく塗ってよぉ!」
おお! 天晴れなり、湖宵!
極楽に逝きかけていたオレを尻目にパパパ~ッとサンオイルを塗り終えてしまったぞ!
しっかしいくらなんでも淡白過ぎないか湖宵!? オレと同じ性別だとはとても思えんぞ!?
「もおぉ~、お坊っちゃまなんて知~らない。お姉ちゃんと二人っきりで遊ぼうね、三五ちゃん♪」
ピトッ。ぎゅうぅ~っ。 (腕を組んで密着してくるメイお姉さん)
「ウワアァァ~ッ!? ンアァ~ッ!」
ウッソォォ!? いくら男として意識していないとはいえ、普通こ~んな薄い一枚の布しか纏っていない状態で密着してきますぅぅ!?
い、今だけは弟扱いでラッキィ~♡
はあぁっ! メイお姉さんの身体の感触がほぼほぼ直に感じ取れるぅっ♡
特にオレの右腕なんか豊満なバストにムギュウゥッと挟み込まれちゃって♡ フッカフカ & ミチミチムッチムチな感触が脳ミソを沸騰させて邪なキモチが溢れでちまうぅ♡
って、ダメだダメだ! イヤらしいことなんか考えるな、三五ぉ!
ああっ、でも、でもおぉっ!
キエェェェ~ッ!
「三五の言語野に深刻な障害が! メイ姉さんヤバいって! 三五が死んじゃう!」
「ま~たまた (笑) そんなこと言っても返してあげないかんね (笑) ホラ三五ちゃん、こっちこっち!」
「えっ!? えっ!?」
いきなりオレの手を引いてプールへと駆け出すメイお姉さん。
「ジャ~ンプッ♪」
「ア~ッッ!」
ドッポォ~ン!
流れに逆らえずに一緒にプールに飛び込んでしまったが、マズいことに今のオレは泳げるコンディションではない!
心臓バクバク、頭グルグル、冷たい水の中なのに身体は燃えているように熱くて上手く動けないし周りが全く見えぬ!
溺れる! 溺れる! しかる後に死ぬ!
「ウワワワワ!」
「アッハハハハッ♪ ん~♪ 三五ちゃぁ~ん♪ ス~リスリ♪」
ア゛~ッッ! やっぱり今日のメイお姉さんめっっっちゃカワィィ~ッ! でも何故か知らんけど珍しいくらいにハイになってて、構い方にカケラの遠慮もねぇぇ!
「待ってて三五! 今助けるから!」
ザッパン!
バシャバシャバシャッ!
おおっ! 湖宵が力強い動きでこちらに向かってくれている!
しかしメイお姉さんもさる者。
オレを抱えたままで湖宵をス~イスイとかわしてしまう。
何もこんな時にまで有能っぷりを披露しなくても!
「ちょっと! 逃げないでよ!」
「ヤ~よ♪ 三五ちゃんは私のなの♪」
「!! ア~ッ!」
幸せだぁぁ! 幸せ過ぎて死ぬぅぅ! ハートが苦しいいぃ!
「三五ぉぉぉ~っ! てぇぇりゃあぁぁ~っ!」
ズバババババッ! シュババッ!
「あぁ~んっ! 獲られちゃったぁ!」
こ、湖宵が目にも止まらぬ泳ぎ + 運搬テクニックを駆使してオレを救出してくれた!
「三五、大丈夫!?」
「ハアッ! ハアァッ! ゲホッ! あ、ありがとう、湖宵~!」
物心ついた頃からの付き合いだが、今日くらい湖宵が頼もしく思えたことは無い。
線は細くてもオレのことをしっかり支えてくれる暖かい腕。身を任せるとようやく人心地がついてきた。
ああ落ち着く。もっとぎゅ~っとしちゃおう。
「ひゃ~っ♡ ちょ、ちょっと三五ぉ! そんなにしがみついたらヤバいってぇ♡ お、お願い、す、少しだけ離れてっ!」
そいつぁ無理な相談だ。溺れる者はワラをも掴む。ましてや幼馴染みなら尚更よ。
「む~っ! お姉ちゃんを仲間外れにするなんて許さなぁ~い!」
バシャシャシャシャ! シュババッ!
「しまった! 奪い返された!」
「へっへっへ~ん♪ 悔しかったら取り返してみなさ~い♪」
ぎゅう~っ。
「アッア~ッ!」
ドキドキ! ドキドキ!
「この~! 言ったな~! 三五 (の心の平穏) はボクが守るっ!」
湖宵 VS メイお姉さんによる三五さん争奪戦の火蓋が切られた。
シュバッ! あぁ、助かった。
シュババッ! ア~ッ! ドキドキ!
目まぐるしく両者の間を行ったり来たりする景品。
てゆ~か緩急がついた分、より負荷がかかっている気がするんだが!?
「アハハハハ♪ アハハハハハッ♪」
クラクラする視界一杯に広がる、夏の陽射しよりも輝くメイお姉さんの笑顔。
ああ、この笑顔を永遠に独り占めしたい。
今この瞬間に時間が止まってしまえば良いのに。
オレはそう願わずにはいられなかった。