彩戸すと~り~ ④ お世話大好きお姉さん メイルート
「お坊っちゃま、三五ちゃん、ご飯出来たわよ~」
ううう。メイお姉さんが呼んでる。行かなきゃ。
「三五、大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ。げ、元気元気。メイ、彩戸さんに心配かけるわけにはいかないからね」
空元気を吹かせてみたものの、落ち込んでいるのを彩戸さんに悟られないようにする、というのは少々無理があると自分でも思う。
だってオレぁ、間接的にフラれてるんだぜぇ?
うおぉ、ちっくしょ~!
ガチャリ。
「あら? 三五ちゃん、どうしたの? お坊っちゃまとケンカでもしちゃった?」
ホラ見ろ~、湖宵の部屋のドアを開けた瞬間に勘づかれてんじゃん。
「い、いや、え~っと……」
何て言い繕おうか迷っていたその時。
「おいで、三五ちゃん。よしよ~し」
「わ、わわっ! メイお姉さん!?」
な、なんと! メイお姉さんに抱き寄せられてしまった!
フリフリエプロンに包まれた大きくて柔らか~いお胸に顔をむぎゅうぅ~っと挟み込まれ、頭と背中を何度も優しくナデナデされる。
「よしよ~し、良い子良い子。ホラ、もう元気出たでしょ?」
いやいや! 「出たでしょ?」 って貴女!
フツ~、愛する女性からこんな風に赤ちゃん扱いされたら元気なんて……。
「出たあぁ~~っ♡♡」
ハイ出ちゃいまぁ~す! つ~かコレで元気出なけりゃ男じゃねぇって!
メイお姉さんの愛情いっぱいハグだぞ!
暖かくて甘~くてフッカフカで……一発で落ち込みオーラが大昇天 & ハイテンションジャァ~ンプ!
「クスクス♪ 良かった♪ じゃあご飯にしましょ。今日はお姉ちゃん特製お肉ゴロゴロカレーよ♪」
「うおぉ!? やったぁ~! オレの最強大好物~!」
メイお姉さんのカレーは何か圧力鍋? とかいうので作られてて、ゴロゴロのお肉がお口でトロトロ蕩ける超時空ぶっちぎりな美味さを誇っているのだァ~ッ!
「ヒャアッハァァ~ッ♪」
テンションゲージ限界突破ァ! カレー♪ カレー♪
「あんなに落ち込んでたのに好きな人のおっぱいとカレーでこんなに元気に……恋ってさぁ、哀しいよね」
こ、湖宵ィ! 憂いを帯びた表情でそんなことしみじみと言わないでくれる!?
まあでも実際のところ、落ち込んでばかりもいられないよね。
メイお姉さんに男として見られていないのなら、男の魅力を磨いて振り向いてもらわなきゃ!
うおぉぉ! やるぜよぉぉ!
その為にも神うまカレーをモリモリ食べてパワーを ZENKAI にするせ~っ! いただきま~す!
早速、次の日から三五さんレベルアップ計画が開始された。
一番簡単に変えられるものといったら、やっぱり身だしなみ。ファッションだよね。
てなワケでトップス、インナー、ボトムス、シューズまでマネキン買いしてトータルコーディネートを揃えてみました。
ネイビーのシャツにベージュのチノパンなどをチョイスした 「オトナ」 をあからさまに意識しまくり、背伸びし過ぎてちょっと空中浮遊しちゃってるコーデだ!
フッフッフ。更に! 初めてヘアワックスも付けてみちゃったのだ。 (頭ナデナデ対策も兼ねている)
これならきっと子供扱いはされないだろう。
「うわ~♪ 三五、イイじゃ~ん♪ めっちゃカッコ良いよ♪」
湖宵には好感触! 嬉しいね。
よっしゃぁぁ! 弾みもついたところでメイお、彩戸さんにも見せてみよう!
「アラ~♪ どうしたの三五ちゃん、気合い入ってるじゃな~い♪ めっちゃカ~ワイ~イ♪」
ズガガガガ~ン! カ、カワイイ!??
「でもねぇ、この服装ならもうちょっとラフめに着崩した方が良いわよ。ボタンも全部留めないで少し外してっと。ちょちょい、とね」
う゛ぎゃああぁ! 自信満々で登場しておきながら着こなしをダメ出しされまくっとるぅぅ! 恥ずかしいぃ!
「髪もねぇ、も~ちょい大胆に動きをつけた方が良いかも。こ~やってこ~やって」
ワシャワシャワシャワシャ!
あああ! 頭撫でられまくってる! お世話焼いてもらいまくりの子供扱い ・ 弟扱いだぁぁ!
「うんうん、カワイイカワイイ♪ 我ながら良い仕事したわ~、さっすが私。それじゃ三五ちゃん、また後でね~」
スタスタスタ。
お仕事に戻っていく彩戸さん。
ガクッ。ズウウゥゥン ⬇️ ⬇️ ⬇️
その場にヒザをつくオレ。
「さ、三五。見違えるくらいカッコ良くなったよ。お、女の子が放っておかないんじゃないかなぁ~」
うぅ、フォローありがとう湖宵。
でも彩戸さんにアピール出来なきゃ意味ないんだよぉぉ!
ええい、次だ、次!
男たるものまずは一に体力、二に体力!
やはり体を鍛えなければ始まらないよな!
なので毎朝早起きしてランニングをすることにしたのだ。
毎日毎日続けていたら、ある日陸上部のクラスメイトにバッタリ遭遇。
話の流れで勧誘されて、オレも陸上部に途中入部することになった。
それからは早朝ランニング + 陸上部のトレーニングをこなす充実したマッスルデイズ。
成長期に密度の濃い日々を送ることで能率フィーバーDON!
フッフッフ。まだまだ短い期間ではあるが、効果が目に見えて表れてきたんじゃないか? 全体的にうっすら筋肉がついてきて、若干逞しい身体つきになってきたような実感がある。
「三五ちゃんたら、運動に目覚めたのね。それなら水分補給は欠かしちゃダメよ。あとホラ、これ持って行きなさいな。ハンドタオルよ」
「あ、ありがとう彩戸さん」
おぉう。お名前刺繍入りのタオルを持たされてしまったぞ。
ご飯も前より大盛りで出してもらって健康管理もバッチリだ。
あっれ~? な、何だか前にも増してお手数をおかけしてしまっているような……?
い、いやいや。気を取り直して次行こう。
さて。部活動も大事だが、学生たるもの本分である学業をおろそかにしてはイカンよな。
バリバリ勉強して、必ずや湖宵と一緒の大学に進学してみせる!
彩戸さんに将来性をアピールするのだ!
成績優秀な湖宵に勉強を見てもらいつつ、毎日コツコツと頑張った。
「いつもありがとう、湖宵。でも悪いね、いつも付き合わせちゃってさ」
「ううん、ボク嬉しいよ。一緒の大学に入りたいって言ってくれてさ。ボクで良かったらいっくらでも付き合っちゃうからね!」
湖宵ってばホンット優しい。めちゃめちゃ良いヤツ!
幼馴染みの献身に応えなきゃ男が廃る!
更に勉強に身が入ってしまったぜ。
その甲斐もあって一学期の期末テストではかな~り良い順位を獲得することが出来た。オレにしては、だけどね。
「すっごいじゃない三五ちゃ~ん♡ 良い子良い子♡ お姉ちゃん、嬉しいからご褒美あげちゃう♡ ご馳走もい~っぱいよ♡ 楽しみにしててね♡」
むっぎゅうぅ~っと抱き締められ頭を撫でまくられ、たっぷりと可愛がられてしまった。
うん。彩戸さんに喜んでもらえてオレも嬉しい。
ご褒美スキンシップにも鼻血が出るくらいテンション爆アゲ ⬆️ になった。
でもね、上機嫌で去っていく彩戸さんを見送った瞬間、割りと真剣に泣きそうになってしまった。これ彩戸さんには内緒ね。
もちろんオレの頑張りなんてまだまだ付け焼き刃の域だってことは重々承知している。
だけどもいっくら良い大学に入ろうが、筋肉ムキムキマッチョマンになろうが、一向に弟扱いされている未来しか見えねぇ……!
それどころかオレが何かに果敢にチャレンジすればする程、彩戸さんの母性本能……ならぬ姉性本能 (?) を刺激するみたいだ。
お世話ファイア-に油を注ぎ、焼き尽されんばかりに甘やかされる始末。
オレはもうどうすりゃ良いんだ。
暗中模索とはこのことか。
「あ、あのさ、三五。もう思いきって彩戸さんに直接 「子供扱いは止めて」 って言ってみたら?」
意気消沈するオレを見かねた湖宵がアドバイスをしてくれた。
でも……。
「それは出来ないよ。だってさ、彩戸さんの一番の笑顔が見られるのはオレ達のお世話をしている時なんだから」
そう。そうなのだ。
彩戸さんは本当にお世話好きで素敵な女性だ。
オレと湖宵のことを本当の弟の様に、いや、それ以上に大切にしてくれる。
いつだって陰日向になりオレ達のことをサポートしてくれるし、成長を心から喜んでくれる。
その時の笑顔の美しさと言ったら、正に麗しく咲く薔薇の華……の、数百倍!
「愛されちゃってるね、ボク達ってば」
「そうだね。だからめげずに毎日頑張れるし、誉められる時に頭ナデナデされちゃっても、やっぱり喜んじゃうんだよな~」
「アハハ。パブロフの犬ってヤツ? いや、単なる甘えんぼワンちゃんかな? 三五、ちょ~デレッデレだもんね♪」
ちょっと湖宵!? 恥ずかしいんだけど! オレってメイお姉さんと居る時、どんな風に映ってんの!?
まあでも最近は喜んだ後に弟扱いに凹むっていう余計なオマケがついてきますけども……。はあぁ。
オレとメイお姉さんの関係が変わる日。
そんな日がいつか来るのかな……?