裏87話 未来へ向かう為のパーティー 前編 高三 三学期
メイお姉さんにオレと湖宵の母さん’s、オレ F C のお姉さん達は食べきれない程のご馳走と暖かいお祝いの言葉をプレゼントしてくれた。
「皆ぁぁぁ~んっ♪ ありがっとぉぉぉ~んっ♪ キャハハッ♪ キャッハァァ~ッ♪」
いやぁ、それにしても湖宵のこのテンションはおかしいだろう……などと思ってはいけないよ。
大学受験に合格した今、卒業までもう秒読み段階。
卒業式が終わったらお義父さんとの約束通り、Q極TSしてずっとずっと待ち望んでいた本当の姿……女の子の身体になることが出来るんだから。
「湖宵さんっ! いよいよ念願のQ極TSですねっ! 女の子の姿で大手を振って表を歩けるんですよっ! 本当におめでとうございますっ!」
「「「「おめでとうございま~すっ! やっとお揃いになれますねっ!」」」」
「「「おめでとなのにゃ~♪」」」
「ありがとぉぉぉ♪ 女子会しようね皆っ♪ 約束ねっ♪」
Q極TS女子であるFCメンバーは湖宵の熱情がよ~っくわかっているみたいだね。もはや大学合格がおまけ扱いだ。
「盛り上がってぇぇ~♪ いきまっしょぉぉ♪」
「「「「「「「「キャァァ~~♪ イェェェ~~~イッッ♪♪」」」」」」」」
彼女達は本当にこのままのテンションを維持しながら夜まで騒ぎきったのだった。
しかし翌日になっても尚、湖宵のハイテンションは収まるところを知らない。
「三五! 三五! 昨日のパーティー楽しかったね! うぅぅ~! ボクまだムズムズするよぉ~!」
無限に身悶えし続ける湖宵をあやしながらオレは頭を働かせる。
卒業式の日まではまだ結構ある。それまでこの状態にしておくのは可哀想だ。
気晴らしになるような面白ビッグイベントをもう一つくらい企画してみようかな?
ウ~ン、何が良いかなあ。
♪ ~ ♪ ~ ♪ ~ ♪ ~ ♪
ウンウン唸っていたその時、スマホからメッセージの通知が来た。
それは学校の友達からの大学合格したよ、進路が決まったよ、という嬉しい報告だった。
これはナイスタイミングだ。
「ホラ見て、湖宵。音無君や他の皆も進路が決まったって。皆で集まってもう一回合格おめでとうパーティーしたくない?」
「キャアアァァ♪ したぁぁぁいっ♪ 皆でおめでとうの交換こ♪ サイッッコォォ♪」
バシバシ! バシバシ!
痛い痛い。
湖宵に背中を叩かれながらも皆に連絡を取り、パーティーやらない? と提案してみた。
そしたら秒で 「もちろん行くよ!」 というレスポンスが返ってきた。
皆も進路が決まった喜びを分かち合いたいと思っていたんだね。
「よ~し、そうと決まったら準備開始だよ、湖宵!」
「オッケェェイ♪ 三五ぉぉ♪」
思い描くイメージは手作り風味のなんちゃって立食パーティー。
ただし繊月邸の大食堂の使用許可が下りたので会場だけはガチめだ。
会場の飾りつけや振る舞う料理のメニューなどを二人でワイワイ盛り上がりながら決めていく。
何やかんやで全ての準備を整え、三日後。
オレ達はめかし込んで皆が来るのを今か今かと待っていた。
フッフッフ~♪ 実は合格祝いにお小遣いをもらったから、ちょいとお高めのジャケットを新調しちゃったんだよね♪
とは言えオレの格好はそれ以外はいつもとそんなに変わりない。
だけど湖宵の気合いの入りっぷりはちょっと凄いぞ。
「ウフフ~♡ 三五、どうどう? 似合う~?」
湖宵がその身に纏うのはパンツタイプのリトルブラックドレス。
一見すると中性的で大人カッコ良い印象だけど、さり気なくレースや刺繍などのポイントが散りばめられていて可愛らしさも際立っている。
「イイネ~! バッチリ着こなしてるね! メイお姉さんに編んでもらった髪型も良く似合ってるね。黒レースのヘアアクセもマッチしててGOOD!」
「ンフフフフゥン♡ ありがっとぉぉ~ん♡」
クルクル~ッと回転する度にドレスの袖や裾がヒラヒラ揺れる。これがまた可愛いんだよね。
庭園に咲く美しい花々を背景にするとマジモンの妖精みたいだ。
「キャハッ♡ 三五にいっぱい誉めてもらっちゃったぁん♡ キャハハ♡ キィィヤッハァァ♡」
そうやって狂乱さえしなければもっと良いんだけどねぇ。
リィィンゴォーン♪ リン ・ ゴォーン♪ リィィンゴォォン♪
おっと。繊月邸の仰々しいインターホンが鳴ってるぞ。
皆が来たんだ。お出迎えに行かないとね!
「皆ぁぁぁ♪ ようこそぉぉぉ♪」
門の前には音無君、愛栖の姐さん、 PANSY 、 C T 01 ・ 02、小海、ユイ、だいずちゃん……高校生活において絆を深めていった仲間達が勢揃いしていた。
「やあ、繊月クン。お招きありがとう。いやはや、聞きしに勝る豪邸だね」
音無君ってば割りとカジュアルめのカッコ良いスーツを当たり前の様に着こなしてる!
服装に合わせて髪もキチッとセットされていて、いつにも増してCOOLだ。
「三五よ。見事に花実を咲かせたな。目出度きことよ」
「アザっス! 愛栖の姐さんこそ合格おめでとうございます! いや~、しかし見事なお召し物ですね!」
オレ達の志望校より更に難度の高い大学の受験に成功した愛栖の姐さんのご衣装はなんとお着物。
これがまあ何とも雅でお上品で、凛とした雰囲気の愛栖の姐さんにピッタリだった。
「ウウム。そうか? 我は和装が着慣れている故、良くわからぬ。ウヌは洋装の方が好みなのではないか?」
「いえいえ! キリリとした帯が実に良くお似合いで! 姐さんの和服は天下一品っス!」
「フッ、愛い奴よのう」
微笑む立ち姿が端麗過ぎる。この人がオレと同い年とは思えん。
「ウキッキィ~♡ 女の子と一緒のパーティー最高っキィィ~♡」
「湖宵の姉さん♂️! 三五先生! 今日はお招きありがとう!」
「ウォ~ッ! 湖宵の姉さん♂️の家、マジでチョ~デッケェ~!」
おおお!? PANSYトリオが揃ってソフトモヒカンになってやがる! 早速美容院に行ったな!? 垢抜けてやがんの! 生意気にも!
「何だよ何だよ~、少し見ない間に皆して急に大人っぽくなっちゃってさあ。オレもうビックリだよ」
ついそうこぼしてしまうくらいには皆の姿を見違えてしまった。
ファッションやヘアスタイルもさることながら、顔立ちの凛々しさや立ち居振舞いがワンランク上がっちゃってる。手土産なんかも普通に持参しちゃってるし。
希望に満ちてキラキラ輝くその顔は既に未来に向いている……ってカンジ。
オレと湖宵を置いてきぼりにしてさあ!
「何を言っているんだね、高波クン。君の方が僕達よりもずっと大人びたじゃないか」
「えっ? オレが?」
「ウム、自信に満ちた漢の顔である。これぞ大和武士よ」
「つ~か髪も服も絶対オレらより金掛かってんだろ! どこの美容院行ってんの!?」
「FCのお姉さんがスタイリストやっててカットモデルになって欲しいって……」
「キキィィ~!? 日本語なのに何言ってるか理解不可能ッキィィ~! 羨ま死にそうっギィィァ~ッ!」
「三五先生ってやっぱヤベェな。大学入ったらきっと周りの皆がビビるんだろうな (エロさに)」
ええ~? マジで~? オレってばそんな大人っぽく見える~?
全然そんなことない……と言いかけてはたと思い直す。
オレ達は三年間の高校生活と受験という苦難を経て、後は巣立ちを待つだけの状態だ。
つまり実質的にほとんど大学生だと言っても過言じゃない。 (多分)
いつの間にかオレ達は皆、大人の階段を一つ昇っていたってことなのかな。
「アラ三五、私達の服は誉めてくれないの?」
「大人っぽいかなぁ? どうかな?」
「キラキラなお洋服が着られて嬉しいノンノン♪」
おおっと。小海、ユイ、恋さんにズズイと詰め寄られてしまったぞ。
なるほど。姐さんと同じく女の子達の衣裳は一段と華やかで気合いが入ってるね。勉強漬けの日々から開放されて久々の楽しい催しだもんな。
特に恋さんのゴージャスなパーティードレスは凄い。湖宵と同じQ極TS女子だからオシャレに対する憧れが普通の女子よりも強いんだ。
ここはオレも気合いを入れて誉めて差し上げなければ!
「もちろん皆、とっても 「もぉぉ~っ! 三五、あんまり他の女子を誉めちゃイヤッ! ホラ、いつまでもこんな所に居ないで早く行くよっ!」
インターセプトしてきた湖宵に手を引っ張られてズルズル引き摺られていくオレ。
皆は手入れの行き届いた見事な庭園を観賞しながらその後に続いたのだった。
本日のパーティー会場である大食堂に到着。
もちろん準備は万端パーフェクト!
「「ウォ~ッ! 美味しそうな料理がいっぱい!」」
「わ~♪ こよこよのおウチってとっても素敵♪ 絵本の世界に居るみたい♪」
「ホ~ント♪ お姫さま気分なノンノン♪」
歓声を上げる皆にすかさずウェルカムドリンクを手渡していく。
皆に行き渡ったかな?
よ~し、それではパーティーの主催者である湖宵さんに乾杯の音頭を取って頂きましょう!
「皆ぁ~っ! 大学合格 & 進路決定おめでと~う! いっぱい頑張った分、いっぱいい~っぱい楽しんでいってね! かんっぱぁ~いっ!」
「「「「「「「「「おめでとう! 乾杯!」」」」」」」」」
さあ、楽しいパーティーの始まりだ!
まずは食事を楽しもうか。
何せテーブルの上には目移りが止まらないくらいバリエーション豊かなパーティーメニューに皆からの手土産のお菓子やら追加のお料理やらが所狭しと並べられていて、早く食べてと訴えかけてくるからね♪
フッフッフ。更にここでサプライズを一つまみ。
「実はね、この並んでいる料理ってほとんど湖宵が作ったんだよ」
「「「「ええ~!? 本当~!?」」」」
「ア、アハハハ。ま、まあ三五やメイ姉さんにも手伝ってもらったけどね。さ、さあさあ見てないで食べて食べてっ! お料理が冷めちゃうよっ!」
湖宵は照れて謙遜しちゃってるけれどオレ達が手伝ったのなんて本当にほんのちょっとだけだ。
何を隠そう、湖宵は受験勉強の傍ら、花嫁修行もバッチリこなしていたのだ。
それを初めて聞いた時には湖宵が愛しくて愛しくて仕方なくなって、思わずぎゅ~っと抱き締めてしまっていた。
そんな湖宵の心のこもった料理は世界一の絶品♪
フフフ♪ 何から食べよっかなぁ~♪
って、おや? 湖宵の手作り料理が食べられるなんて聞いたら大騒ぎしそうな人が妙に静かだぞ?
あの子なら 「こここここ、湖宵チャンさまが手ずからお作りになったお料理ぃぃん!? あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! 生きてて良かったぁぁん♡」 とか言いそうなのに。
そう思って湖宵の親友かつ大ファンであるだいずちゃんの顔を覗いてみたところ……ハッとしてしまう。
皆が未来への希望で顔を輝かせている中でただ一人、だいずちゃんの顔にだけどんよりと暗い影が差していたのだった。