裏86話 受験、ラストスパート! 高三 三学期
受験に向けてラストスパートをかけるオレと湖宵。
延々と続く勉強の日々であったが、それらは決して辛く苦しいものばかりではなかった。
何故ならオレ達にはたくさんの心強い味方が居たから。
メイお姉さんはいつも美味しいお料理を振る舞ってくれたし、万全のサポートをしてくれた。
「三五ちゃま、ず~っと同じ姿勢で座っていると身体に良くないのよ。お姉ちゃんが全身マッサージしてあげる♪」
モミモミモミモミ。
「あ゛あ゛~、身体のコリとハリがほぐれるぅ~」
「メイ姉さんったらあんなにいっぱいお触りして……クッ! でもでも三五の健康が一番……ここはガマンガマン」
オレ FC のお姉さん達にもたくさん力になってもらった。
帰国子女のアンお姉さんや、オレ達の志望校に現役合格したマリたんには家庭教師をしてもらったり……。
「英語は発音が命なんですよ♡ 私の唇の動きをよ~く見てて下さいね♡ I love you darling♡ ん~まっ♡」
「これがマリたんが使ってた受験対策ノートだよっ、お兄ちゃん♪ で、でもね? マ、マリたんのおウチには赤本もあるよっ♡ ウ、ウ、ウチくりゅっ!?」
「びえぇ~んっ! 会長とマリたんズルいよぉっ! 越権行為だよぉっ!」
紫夜お姉さんには髪を切ってもらったり……。
「ハイ、切り揃えましたよ。うん、とっても爽やかです♪ これなら面接もバッチリ♪」
みりお姉さんにはお花の差し入れをもらったりした。
「今日は手作りポプリを持ってきました♪ お花のアロマでリラックスしてね♪」
そ~にゃちゃんは……。
「すやすや……にゃ」
ソファーでお昼寝してる。気持ち良さそうなその寝顔を見ていると肩の余計な力が抜けてイイ感じだね。
おっと、もうこんなに時間が経っていたのか~、そろそろ休憩するか~ってね。
更に珍しいことに湖宵のお兄さん ・ 弦義さんまでもが、ちょくちょくオレ達の勉強を見てくれることになった。
普段は仕事に趣味にとエネルギッシュに活動していて滅多にエンカウントしないのに、一体どういった風の吹き回しだろう?
気になったので本人に聞いてみたところ、オレFCのお姉さん達がお目当てとのこと。
チヤホヤされたいからじゃない。
逆だ。
FCの皆さんはオレに夢中で、絵に描いたようなスーパーパーフェクトイケメンである弦義お義兄さんに見向きもしない。
それが新鮮で逆に面白いんだそうな。
「ハッハッハッハッハァ♪ やっぱ三五と居るとマジオモレ~わ♪ 我、御曹司ぞ? こんな塩対応受けることありゅ? www」
何かすみません、ウチのお姉さん達が。そして変なベクトルにも造詣が深くていらっしゃいますね。
皆々様方のお陰で楽しく勉強が出来て、能率爆アゲ ↑ ↑ プレミアムチャンス ∞ 継続中!
その効果は愛栖の姐さん、音無君、恋さんの貼り出し常連メンツとの勉強会でも遺憾なく発揮された。
「フッ、やはりウヌとの出逢いは値千金であったな。この愛栖、久方振りに血が滾るわ」
「アザっス! 光栄っス! 姐さんの勉強法こそマジ渋っス! オレ、刺激ビンビンっス!」
「高波ッチったら、子犬ちゃんみたいに懐いてるわネンネン♪」
「そ~なのぉぉ! わかるぅ、恋ちゃぁん!? このボクのモヤモヤぁぁ!」
「アハハハ、こんなに愉快な勉強会は初めてさ。さて、もう一頑張りしようじゃないかね」
バチバチに勉強しつつもちゃっかりクリスマスやお正月をお祝いしたりと、適度に息抜きをすることも忘れない。
それがモチベーションをアゲアゲ ↑ ↑ に保つコツだぜ♪
やる気をメラメラ燃やしながら受験勉強の日々を過ごし、遂にセンター試験の日がやって来た。
何とかかんとか突破したら、いよいよ志望校 + 併願校の本試験が始まるぜ!
流石にこの時ばかりは夜遅くまでの勉強を認可してもらった。
うおおっ! 追い込むぜぇ~っ! ファイナリティラストスパートだぁ~っ!
前日までトコトンやったら睡眠をたっぷりとって身体を休めるぜぇ~っ!
ZZZZZ!
よし、ヘストコンディション!
いよいよ本試験ラッシュに臨むぜぇ~っ!
オレと湖宵は台風の様に襲いかかる難問に果敢に立ち向かった。
永遠とも思える試験期間だったが、無我夢中で駆け抜けた後は何だかあっと言う間にも感じられたな。
ああ~、終わったぁ~。
精も根も尽き果てたが、まだまだ安息は得られない。
合格か? 不合格か? その結果が白黒ハッキリするまではね。
第一志望校合格発表日のお昼頃。
オレ、湖宵、メイお姉さん、母さん、お義母さんの5人は繊月邸の大広間に集まっていた。
オレと湖宵の手にはスマホがしっかと握られており、大学のHPに合格者一覧が発表される瞬間を今か今かと待っているのだ。
『え? 第一志望なんだよね? 直接大学に行って確認しないの?』
おっと、幻聴が。まあ、本来ならそうしたいところなんだけどね……。
「う゛う゛う゛う゛う゛う゛。あ゛~っ! 早くぅぅぅ! 早く発表してよぉぉぉ~っ!」
スマホを高速タップする湖宵。
緊張と興奮でメチャ × 2 むずがってる。
この人、合格だろうが不合格だろうが絶対に現地で暴れまくるからね。(断言)
万が一その姿がテレビカメラとかに映ってニュースとかで流れたらマズいでしょ。一応地元の名士のご令嬢♂なんだから。
おっと、そんなこと言ってる間に時間になったぞ!
ううう。ゆ、指が震えて上手くタップ出来ない。ちと情けないけども、結果いかんで軽く人生変わるんだもんなぁ。致し方ないよね。
もどかしい思いをしながらも受験番号などの必要事項を入力して合否結果のボタンをタップ。
さあ、結果はどうだ? どうなんだ……!?
「お、おおっ!? 合……格……! 合格だぁっ!」
「ウッッッキャアアアァァァ~ッ! 合格ゥゥゥ~ッ! 三五も!? 三五も一緒!? ウワァァァ~ッ! 合格だよぉぉぉ! 二人一緒に合格だよぉぉ!」
歓喜を爆発させた湖宵は座っていたイスからピョイ~ンッ! と飛び出し、シュタッと着地。
そのまま大広間中をバク転で跳ね回る!
「イィィィヤァァッホォォォウゥゥッ!」
オレはというとイスの背もたれに全体重を預けて深い深い安堵の溜め息を吐いていた。
「はああぁぁ~……良かった、受かってたぁ~……」
今はただただその一言に尽きる。
「おめでとう、三五。アンタも少しはハシャいだら? じゃないと一人でハシャいでるこよちゃんがアホみたいじゃないのよ」
「本当よね~。三五ちゃま、本当にアレと結婚すんの? お姉ちゃんに乗り換えない?」
「アラアラ。ウチの娘♂ったら恥ずかしいわ。三五ちゃんを見習ってくれたら良いのに」
三人共、酷ぇ言い草だな! せっかく合格したんだからもっと誉めてあげてよ!
「キィィィィヤァァァァッハァァァァ!」
グルグルグルグル! ← アンティークなラウンドテーブルの上でブレイクダンスしている。
う、うわぁ……。い、いやいや、あんな風になるのもやむなしだよ!
受験が終わった今、卒業はもう目の前。
ようやく湖宵のかねてからの念願が叶うんだから。
もちろんオレの胸にも大きな喜びはある。
だけど正直なところ肩の荷が下りた、プレッシャーから解放された、という安心感が一番強い。
「はぁぁ~、やっとだよ。やっと一つ目の大きな壁を越えられたよ。あぁ~、本当に良かったぁ~」
そう。一つ目の壁。
受験というヤツは確かにドデカい壁だったが、オレにとってはあくまでも人生の目標における第一関門に過ぎないのだ。
湖宵に相応しい男になるという大目標の、ね。
「勝って兜の緒を締めよってヤツ? アンタにしては大人な考え方ね」
「ホント♪ 湖宵は幸せものね♪」
母さん’s に優しく誉められるとくすぐったい気持ちになる。
「い、いやぁ。ホラ、男は社会に出たら七人の敵と戦わなくちゃいけないって言うじゃん? だから浮かれてばかりもいられないなって」
照れ隠しに言ってみた言葉にふと気付かされる。
確かにそうだ。七人の敵か。
それってどんな敵なんだろう?
ちょっと考えてみようか。う~ん、例えば……。
「第一の敵 暗黒竜騎将 ザイアス……!」
「プッッッハァァ~ッ! アッハハハハ! ア、アンタバッカじゃないの三五ちゃまwww 大人っぽくなったねって話してた矢先にさあwww」
アララ。心の中で呟いたつもりが声に出てたみたいだ。
オレの脳死ツイートはメイお姉さんの笑いのツボにドストライク。この感じ久々だな~。
「やっぱ人ってそんな簡単には変わんないわよね~。誉めて損したわ」
「ね~。やっぱり三五ちゃんは湖宵とお似合いさんねぇ♪」
「そ~なのお母様ぁぁ~! 湖宵と三五はちょ~ぜつお似合いなのぉぉぉ~!」
顔が真っ赤っかになった湖宵にむっぎゅうぅぅと抱き締められると、はち切れんばかりの喜びがダイレクトに伝わってくる。
♪ ~ ♪ ~ ♪ ~ ♪ ~ ♪
スマホにオレFCの皆からのメッセージが届いた。
これから繊月邸に集合してお祝いパーティーを開いてくれるとのことだ。
そうだな。これからも試練の日々は続く。
けれども今日のところは何も考えずに思いっきり喜ばせてもらおうか。
「合格おめでとう、湖宵! オレ達やったね!」
「合格おめでと~っ! 三五っ! ちょ~愛してるぅぅぅ♡」
さあ、パーティーの始まりだ! 大ハシャぎさせてもらうぜぇぇ!