裏85話 三五の新しい決意! 目指せSAIKI - KANPATSU! 高三 二学期
日曜日の早朝。
精神と身体が完全復活したオレは本日から日課のランニングを再開することにした。
もちろん母さん、湖宵、メイお姉さん達、皆からちゃ~んと許可をもらった上で。
フフフ。ようやく鈍った身体を動かせるぞ。
それに今日からは湖宵がお目付け役として付き合ってくれるから、楽しみが倍増♪
ワクワクし過ぎて少し早めに待ち合わせ場所であるいつもの公園の広場に着いてしまった。
準備運動しながら湖宵を待とう。
1 ・ 2 ・ 3 ・ 4 ! 2 ・ 2 ・ 3 ・ 4 !
「あっ、三五! ゴメンね、待たせちゃった?」
待ち合わせ時間のちょっと前にジャージ姿の湖宵が現れた。
「ううん。湖宵と走れるのが嬉しくて早く来過ぎちゃったんだ」
「そっかそっか♪ それじゃ早速レッツゴー♪」
いきなり走り出そうとする湖宵。気持ちはわかるがそれはいけない。
「待って、湖宵! 準備運動しなきゃダメだよ」
「あっ、はぁ~い」
走る前に準備運動して身体を暖めるのはとても大事だよ。
怠るとケガの元になっちゃうからね。
念入りに行ってからオレと湖宵は走り出した。
ペースは早歩きくらいのゆったりスローペース。
湖宵は初心者だし、オレも病み上がりだからね。
ジョギングで会話を楽しみながら慣らし運転をしようというワケだ。
ジョグ♪ ジョグ♪ ジョグ♪ ジョグ♪
冬の遊歩道は木の葉が枯れ落ちていて、どことなく物悲しい雰囲気を醸し出している。
早朝は人もいないし、周りも暗いし尚更だ。
でも湖宵が隣にいる今は心が弾んで、そんな寂寥感なんてどこ吹く風さ。
「う~ん気持ち良いね、湖宵」
「ハッ、ハッ、そ、そうだね、三五」
ジョグ♪ ジョグ♪ ジョグ♪ ジョグ♪
しばらく公園の中を鼻歌混じりで走っていたら突然、湖宵にバシバシ背中を叩かれた。
ん? 何々? どうしたの?
「ハァッ! ハァッ! ちょっと! 初日から飛ばし過ぎじゃない!? 無理してない!? 無理して頑張り過ぎてない!? そうだと言って!」
「え~? いや、全然そんなことないけど?」
むしろ全力ダッシュしたくてウズウズしてたのを抑えてたくらいだ。
「も~ボク疲れたよぉ! ノドも乾いたよぉ!」
アララ。運動神経バツグンの湖宵がもう音を上げるなんてちょっと予想外。
ランニングポーチにセットされているドリンクボトルを渡してあげよう。
「あ、ありがと、三五。ゴキュ! ゴキュ! ゴキュ! ぷっは~っ! んまい!」
「湖宵はそこのベンチで休んでなよ。オレはその辺をグルッと一回りしてくるからさ」
「無理はダメだかんね!」
「わかってるって♪」
オレは軽快に走り出す。
ジョグジョグ♪ ジョグジョグ♪
他に人がいない静かなランニングコースを一人で走っている時間も、実は割りと好きだったりする。
その日の予定について思いを巡らせたり、湖宵達との楽しい思い出を振り返りながら走るのは良いものだ。
季節の景色を愛でながら走るのもまた良い。
だけどこんなに爽やかな心地になったのは随分久し振りだ。
何故……かは言うまでもなく思い悩み、迷走していたからだ。
今思い返せばあの時のメチャクチャランニングは正に迷走。超クッソ真剣に酷かった。
ランニングフォーム? イーブンペース? 何ソレ? 食いモン? とでも言わんばかりの力みまくりのガムシャラ疾走。
いやいや待てよ? それ以前に準備運動してたっけ?
うっわ~、ウォーミングアップもせずにあんな激しい運動するなんてあり得んぞ。正気に戻った今では考えられん。
そんなの身体を苛めるばかりで何の効果も無いじゃないか。
結局、オレは今年の夏から冬にかけて無駄な努力をしていたってことか。
……いや、全くの無駄ってこともないかな。
だって自分自身についてトコトン悩んで、オレがこれからどうやってステップアップしていけば良いかがわかったんだから。それも成長さ。
終わり良ければ全て良しってね~、とか考えてるウチに湖宵が座っているベンチに到着っと。
「ただいま~」
「さ、三五、すっご~い! あんなにいっぱい走ったのにケロッとしてる! それに走り方もちょ~カッコ良いし♡ おまけにウェアもキマッてるぅ♡」
おや? 湖宵のお目々がキラキラしているぞ?
「ランニングって日々の努力がモノをいうんだね! 三五、毎朝毎朝いっぱい頑張ってたんだ~♪ スゴいスゴ~い♪」
「え、えぇ~? て、照れちゃうなぁ~♪」
不意に湖宵から称賛の嵐を受け、ちょいと面喰らう。が、それ以上に大変気分が良い。
よ~し、オレ、この調子で頑張るぞ~♪
フフフ♪ お~っと、湖宵姫♂さまをお家まで送って差し上げなきゃ♪ お身体を冷やしてはいけないからね♪
オレと湖宵は仲良く手を繋いで帰り道を歩いたのだった。
「送ってくれてありがと、三五。ねえねえ、シャワー浴びて着替えたらウチ来るでしょ? 明日に向けてお勉強しなきゃね」
そう。週明けには期末テストが待っている。
だがしかし!
「湖宵のウチには行く! でも勉強はしない! 遊んじゃおう!」
「えっえぇ~っ!? マジで良いのぉ!? お勉強したくないのぉ!?」
「良いって良いって! オレ、鼻血出るまで勉強したし! 今回はもう充分だって!」
当然、ランニングと同じくメチャクチャなやり方の勉強が身に付くハズもないのはよ~くわかってる。
でも今日一日ジタバタしたところで明日からのテストの結果にたいした変化は無いだろう。
故に今回のテストは捨てる!
例えどんな結果が出ても潔く受け止めてやる!
どんな酷い結果でも身から出た錆だもの。仕方無いよね。
「それにさ。ここしばらくはず~っと勉強ばっかりで全然息抜きしてこなかったじゃん? せっかくの湖宵と二人きりの時間だったっていうのにさ」
「さ、三五……♡ うわぁ、嬉しいなぁ♪ 久々に三五と二人で遊べるんだ♪ 何して遊ぼうかな~?」
「そうだ、オレに手芸教えてよ。何か簡単なヤツ」
「その案サイキョ~♪ じゃあねじゃあね、小っちゃいマスコット作って交換こしようよ♪」
そんなこんなでこの日は湖宵先生に教わりながら手芸にチャレンジ。
「三五にはねぇ、カッコ良いクマちゃんを作ってあげちゃう♪」
「じゃあ湖宵には可愛いウサギちゃんが良いかな」
そしてメイお姉さんが作ってくれるおやつやご飯に舌鼓を打ち、楽しく団欒。
「三五ちゃま、お姉ちゃんのご飯でい~っぱい精をつけるのよ♪」
「美味ぇ~っ! メイお姉さんの料理サイコ~ッ♪ おかわり~っ!」
「クスクスクス♪ 三五ったらほっぺにご飯粒つけてる♪」
う~ん、身も心もリフレッシュ♪ 幸せだなぁ♪
充実した休暇の後は地獄のテスト期間の幕開けだぜ。
オレはテスト中、とにかく無心で解答欄を埋めていった。サラサラサラ~ッてね。合っているかどうかは知らん。
三日に渡る期末テストをそんなカンジでこなし、いつもならここいらで確かめの答え合わせをするところだが……あえて今はやらない。
絶対に酷い点数だから。
覚悟をキメていても怖いモンは怖いんだよ。
テスト休みが終わって答案が帰ってきた時も、オレは点数を見ずにソッコ~でカバンの中に仕舞った。
か、帰ったらちゃんと現実と向き合うから! だから許して!
「さ~んご♪ 帰ろう♪」
「そ、そうだね、湖宵! 職員室に寄って、貼り出しを見てから帰ろうね!」
少しでも帰る時間を遅らせたくてそんな提案をしちゃう。
でもホラ、成績優秀者の貼り出しに最愛の湖宵や友達の名前があったら励みになるから! 前向きな提案だから! (自己欺瞞)
さ、さ~て職員室前の掲示板までやって来たぞ~。
湖宵は何位かな~? って、な………………!?
な 、 な 、 な 、 な ぁ …… ! ?
「何イイイイイイィィィィィィ~~ッッッ!?!?!?!?」
「ウッッソォォォ~ッ!? すっ……ごおおおぉぉぉ~~いっっっ!」
魂からの絶叫を迸らせるオレと湖宵。
だがそれも無理はない!
それ程までに信じ難い内容がデカデカと掲示されていたのだから……!
・学年別二学期期末考査 順位表
・三年生 一位 ……………… 高波 三五
「嘘だ! こんなの絶対に嘘だぁっ! 間違ってる!」
どんな結果でも潔く受け止めると言ったが、あれも嘘だ!
オレが学年1位なワケない! あんな狂った勉強法で1位になれるなんておかしいよ! 意味がわからないよ!
「キャアアアァァァ~♡ 三五がっ♡ 三五が1位ィィ♡ 三五が学年1位を獲ったあぁぁ~っ♡♡」
パシャッ! パシャッ! パシャパシャッ!
あああ! 湖宵、この表絶対先生のミスだから! スマホで撮らないで! そしてラウィッターにアップしないで!
ティロ~ン♪ ティロ~ン♪ ティィロ~ン♪
あああ! 秒で FC メンバーからおめでとうコメントがチャットで飛んできた! 違うんだって~!
「スゴいよぉ♡ ボクなんて10位なのにぃ♡ あ゛あ゛あ゛♡ ボクの旦那さまってばカッコ良くてスポーツも出来るのに頭まで良いんだぁぁ~♡ お勉強教えて下っさぁぁ~い♡」
♡♡のお目々の湖宵が渾身の力で抱き着いてくる!
「こ、湖宵、落ち着いて? こんなの……」
「見たか世界めぇぇ~っ! こ ・ れ ・ が! SANGO だぁぁ~っ!」
ダメだ。興奮し過ぎて聞き耳を持ってない。
ぎゅ~っと抱き締め返しても頭を撫で撫でしても、テンアゲ ↑ ↑ プレミアム湖宵の大騒ぎは収まることを知らない。
ザワサワ……ザワサワ。
ヤベェ! 人が集まって来ちゃったよ!
「高波クンおめでとう! 日々の努力が実を結んだんだね。しかも学年1位とは! 金字塔を打ち立ててしまったね!」
パチパチパチ!
お、音無君!
拍手を贈ってもらってるところ悪いんだけどさぁ! 違うんだってぇ!
そ、そうだ! 何かの間違いだと証明しなきゃ!
カバンに突っ込んだ答案を引っ掴んで取り出す。
あっ、ああっ! マ、マジで全部超高得点だ!
ひゃ、100点までいくつかあるぞ!?
う、嘘ぉぉ!? 何で!? 何でこんなことに!?
ま、まさか風邪っぴきの時に必死に脳に叩き込んだ情報がキッチリ刻まれていた!?
そんでダメ元のつもりで気楽に受けたのが却って功を奏して、スラスラ~ッと解けちゃったとか!?
「そんなのマグレじゃん!? っつ~かほとんど奇跡みたいなモンじゃん!? 受験本番に起きて欲しかったんだけど!」
「ハハハハ。またまた。マグレなんかで獲れる順位じゃないよ」
オレもそう思っていたけども!
くそう! 全然納得出来ないよ!
「高波っチ、スッゴいノンノン♪ Q極TS女子の王子さまはこうでなくっちゃネンネン♪」
「そうなの、恋ちゃん! 三五は毎日すっごく頑張ってるの! ボクの為に♡ んああぁ~っ♡」
湖宵と恋さんがキャイキャイ話す内容は集まってきた群衆に筒抜けだ。
「えっ!? エロ兄ぃさんが学年1位!?」
「あのベンキョープリンセスを越えて!?」
「エロの原動力ってスゲェな……」
「いやでも、実際たいしたものだよ」
「へ~、1位の高波君ってQ極TS女子と付き合ってるんだ~」
「やっぱり普通の恋愛より大変なのかな。でも負けずに頑張ってるんだね」
「それで学年1位か~、エモ~い」
現在オレはウワサの中心ってヤツにいる。
今までは見た目がエロいとか中身もエロそうだとかいった負のウワサしか立ったことがなかったので、本来ならとても喜ぶべきなのだが……あああ、居たたまれない~! って……ムムムッ!?
突然、オレの背筋がゾクッと震えた。
振り返ったその先から凄い “気” を感じる。
やがて群衆が自然と二つに割れ、気の持ち主……黒髪を一つに結んだ華奢な少女の為に道を作った。
ともすれば地味目な印象を受けがちな容姿をしている彼女だが、内側から溢れだす “才気” は尋常じゃない。
このプレッシャー、間違いない!
彼女こそがベンキョープリンセス!
「我が名は不知火 愛栖。ウヌが学年1位の高波 三五で相違ないな?」
何か戦国武将みて~な話し方なんだけど!? あと名前がカワイイ。
と、というか、もしかしなくても怒ってらっしゃる?
そりゃそうだよな。ポッと出のよくわかんないヤツに不動の1位をかっさらわれたんだから。
「あ、あの今回は……うおっ!?」
ガッシィッ!
突然、不知火さんから両手で顔を挟まれた!
何されんの、オレ!?
「見せてくれ……我を打ち破った漢の顔を……」
認められたんだけど! この人、潔すぎる!
「フッ、良い面魂をしておる。神に感謝せねばなるまいな。我が前にこれ程までの益荒男を送ってくれたことを」
「ま、待って! オレの本来の実力は不知火さんの足元にも及ばないんスよ! 運……そう、運が! 超極大の運が絡んだ結果で……!」
「運か。 “流れ” というものは確かに存在する。しかし、それを掴めるのは弛まぬ鍛練を重ねた強者のみよ」
「えっ!?」
「運を味方につけたならば、今こそ飛躍の時と心得よ。驕らず研鑽に励むのだ、三五よ」
「お、おおお……」
不知火さんの……いや、姐さんの御言葉はオレの戸惑いをスカッと晴らしてくれた。
この澄みきった心持ち、まるで青空のよう!
「フッ、更に磨きをかけたウヌの姿を楽しみにしておるぞ。サラバだ、強敵よ」
「愛栖の姐さん! アザァァ~ッス!」
踵を返し颯爽と去っていく姐さんの背中に向かってお辞儀をする。腰はビシッ! と90°!
そっか~。ラッキーで良い結果を出しても素直に喜んで良いんだ。
「やった~っ! 遂に貼り出しに名前が載ったぞ! しかも学年1位だ~っ!」
「キャ~ッ♡ 三五ぉ~っ♡」
「高波クンのノせられやすいところ、僕は好きさ」
ノリノリにならずにはいられないよ、音無君!
だって姐さんが言ってくれたんだ。運気の流れにノって、気を引き締めて頑張れって! レベルアップのチャンスだからって!
「かぁ~っ! さっすが愛栖の姐さん! 言うことが常人とは違うね! やっぱ才気がパないからかな!」
「ね~……めっちゃ煥発だったね。お陰で気圧されちゃって 「三五にベタベタしないで!」 って言いそびれちゃったんですけど」
まあまあ、そんなにむくれないでよ、湖宵。
焼きもち妬きのお嫁さん♂を抱き締めちゃう!
「キャ~ッ♡」
「「「「キャ~ッ♡」」」」 (女性陣)
「「「「オワ~ッ!?」」」」 (男性陣)
やる気出てきたぁ~っ!
アゲアゲ ↑ ↑ モチベーションでKENSANに励むぜ!
まずは受験に向けて頑張るぞ!
そしていつかはオレも姐さんみたいにKANPATSUなSAIKIを手に入れてやるんだ!