裏84話 Cure Cure Cat Party ! 後編 高三 二学期
ああ、楽しんでくれて良かった。
湖宵やお姉さん達の弾ける笑顔を見て、ホッと一息吐いたのも束の間のこと。
「お兄さんすいませ~ん。ちょっと良いですか?」
何と! 他のテーブルの男性客から声をかけられた!
しまった! オレはハシャぎ過ぎたんだ!
そりゃあ嫌な気分になるよな。
だって癒しを求めてネコメイド喫茶に来てみたら、ウェイターがたくさんの美人なお姉さんとイチャイチャしているんだもの。
は、早く謝らないと。
「も、申し訳ありませ……」
「某はど~ぶつハンバーグセットを」
「我輩はうみのなかまのシーフードカレーを」
「うおお~い! ちょっと待って下さい! 普通に注文するんですか!? ネコさんじゃなくてこのオレに!?」
これは予想外中の予想外!
よもや大学生くらいのお兄さん二人組にクレーム以外のご用件で呼ばれようとは!
「「ほよ? 我ら、何かやっちゃいました? また何かやっちゃいました~? ほよよ~?」」
ウッゼエェ! そして仲良いな!
いや、それよりもあなた方は可愛いネコメイドに癒しを求めてCCCに足を運んだのではないのですか!? 何故あえてオレを選んだの!?
「CCCのネコメイドさん達はみ~んな超絶カワイイですよ! ハズレ無しッスよ! オレ以外はね!」
「フッ。見くびるなよ。我ら、CCCの常連故に! その魅力は重々承知!」
「CCCを愛する我ら! 臨時ネコウェイターというレアキャラを見逃すワケにはいかぬ!」
マジかよ。本当にネコメイドさんよりオレが良いの?
どうしてもその事実が呑み込めなかったので、オレはそ~にゃちゃん (エプロンを掴んでどこにでもついてくる) を抱っこして彼らに突きつけた。
「見て下さい、この愛らしさを! こ~んなにキュートなにゃんこちゃんにおまじないして欲しくないんですか!?」
「えへへへ~♡ キュートって言ってもらえたの……にゃ♡」
にぱ~っと笑うそ~にゃちゃん。
ねっ、可愛いでしょう?
「アラ~♪ ぼく達がカワイイって~?」
「嬉し~にゃ~♪」
「にゃ~にゃ~♪」
ホラホラ、ワラワラとネコさん達が集まってきたよ。
オレなんかより彼女達の方が良いよね?
「おほぉ~♡ 某達のテーブルにネコさま達がこんなに♡ ネコウェイター氏に声をかけることでかようなイベントが発生するとはぁ♡ ラッキーナリィ~♡」
「何たる激アツボーナス♡ 凝っておるなぁ~♡ (趣向が) ささ、ネコウェイター氏! 次なるおもてなしをお願いするゾヨ♡」
最早あなた達のキャラがわからないよ。
そしてネコウェイターという業種もやればやるほどわからない。
しかし乞われてしまった以上は全力で職務を全うせねばならない。
無の境地でキッチンにオーダーを伝えて、出来上がったお料理を速やかに彼らの……ご主人さみゃ達のテーブルへと運んだ。
「え、ええぇ~っと、おまじないなんですけど……本当に自分がかけてもよろしいので?」
「「よしなに」」
よしなにじゃないよ! 本来なら可愛いネコさんがするハズ……いや、もう言うまい。
雑念を払うのだ、オレよ。
とにかく今は全身全霊でおまじないをかけるのみ!
「はぁぁぁ~、美味しくにゃれぇ~、美味~しく~にゃぁ~れぇぇ~い」
ご主人さみゃのど~ぶつハンバーグセットよ! うみのなかまのシーフードカレーよ!
我、高波 三五が心より願い奉る!
美味しく……もっと美味しく!
美味しくぅぅぅ! にゃぁぁぁ! れぇぇぇ!
祈念が限界に到達した瞬間、 ♡ を象っていたオレの両手は自然と合わさっていた。
合掌。
それがオレなりに模索したおまじないにおける解答だった。
「ナンマンダブナンマンダブ……」
「おお、おおお……」
「ありがたやありがたや……」
気付いたらご主人さみゃ達まで合掌しているではないか。
フム。もう良かろう。アツアツのウチに食べてもらわなければ。
「さあ、どうぞお召し上がり下さい」
「「ゴクリ。い、いただきます……お、おおっ!? こ、これは!?」」
お料理を一口食べたご主人さみゃ達の目が見開く。
「な、何という美味しさ。CCCのお料理とはこれ程までに美味であったか……これが口福……」
「我らは煌びやかなネコさまに熱を上げるあまり、今までそれに気付かなかった。何と勿体ない……恥ずべきことです」
美味しい美味しいと、幸せを噛み締めるようにご賞味されておられる。良かった良かった。
「そ、そんなにおいし~のにゃ? ゴクリ」
「ね、ね~ぇ♪ 私にも一口分けてにゃ~♪」
「お願いにゃ~♪」
堪え性がないネコさん達がご主人さみゃ達のお料理が食べたいと可愛くおねだりするも……。
「残念ながらお分けすることは出来ません」
「このお料理には彼の気持ちが込められていますから」
アルカイックスマイルを浮かべて華麗にあしらうご主人さみゃ達。
何だか人が変わっちゃったんですけど。
「ええぇ~! そう言われると余計に欲しくなっちゃうのにゃ!」
「ちょ~だいにゃ! ちょ~だいにゃぁ~!」
「ああぁぁん! お願いなのにゃ~!」
「ハハハ、これはこれは」
「困ったこねこチャン達だ」
食べ終わるまでネコさん達ににゃ~にゃ~まとわりつかれてしまったご主人さみゃ達だったが、最後には非常に満足されたご様子でお帰りになった。
結果オーライ!
でもテンチョーさんにはちゃんと報告するから! ネコさん達は後でオシオキ決定!
「ネ、ネコウェイターさん! こっちもお願いします!」
「僕のテーブルも!」
「私達のも!」
おやおや。皆さんの関心をいたく引き付けてしまったようですな。
やはりCCCのお客様は変わっておられる。
そのお気持ちは相変わらずよくわかりませんが、お望みとあらば致し方ありません。
このネコウェイター三五、誠心誠意ご奉仕させて頂きましょう!
開き直ったオレは自信満々でサービスを提供し、その結果一般のお客さんから好評を得ることが出来た。
しかしウェイター業に必死になり過ぎて、少しの間湖宵達のお相手をしてあげられず……。
「ああぁぁん! 三五おぉ! もっとボクのこと構ってよぉ! お金なら払うからぁ!」
「お金なら私だって!」
「ドロー! クレジットカード!」
「限度額を越えて……持って、けぇぇ~っ!」
「「お兄ちゃんが来てくんなきゃ泣いちゃうもん!」」 (大学生の発言)
湖宵達が焼きもちを妬いてしまった!
オレってばまたお調子に乗って!
「三五! ツーショットチェキ (¥500) お願い! あと気まぐれじゃんけんゲーム (¥300) も!」
「私もチェキ (¥500) を! あとライブ (サイリウム付き¥700) も!」
「私もチェキ (¥500) 欲しい! にくきゅ~マッサージ (¥1000) もして欲しい!」
「皆、落ち着いて! それくらいお金払わなくてもいくらでもするから! 写真も無料で撮り放題だから!」
ヤメテ! 有料コンテンツを湯水の如くオーダーしないで!
「「ヤダヤダ! お金払いたい!」」
「私、今日帰らないといけないんですもん! 大切な思い出の為ならいくら課金しても実質無料! いや、むしろ積めば積む程幸福にッッ!」
FC 社会人組 (特にイコさん) の熱狂がヤバい!
オレは必死になだめてすかして、最終的には何とかかんとか常識的なお会計額に落としこむことに成功した。 (それでもツーショットチェキだけは誰一人として譲らなかったが……)
はああ。もうヘトヘトだよ。かれこれ数時間は働いたかな?
「今日はありがとう高波君。お陰で大繁盛さ」
「おにぃちゃみゃは頑張り屋さんなの……にゃ♪ えらいえらいなの……にゃ♪」
テンチョーさんとそ~にゃちゃんが笑顔でそう言ってくれた。
「アハハハ。お役に立てたのなら何よりです」
いや本当に。慣れない仕事で疲れたけど、胸のつかえが下りたみたいで気分良いよ。
「ねえ高波君、君さえ良ければウチでバイトしてみないかい? もちろん受験が終わってからね」
「にゃぁぁ~♡ テンチョー、たまには良いこと言うの……にゃぁぁん♡」
「一言余計だよ、そ~にゃ」
「にゃ~!? ほっぺたツネツネしないで……にゃっ!」
「え、え~っと……どうしようかな……」
今回はたまたまウケたけども、キラキラ可愛いネコメイド喫茶で男が働くっていうのはどうなんだろう?
「女子ばかりの職場だからこそ、頼りになる男手が必要なのさ。それに何よりも、君に働いてもらいたい一番の理由が他にあるのさ」
「一番の理由……ですか?」
「そう。君は料理に心を込められる人だから。私には出来ないことが出来る人だからだよ」
テンチョーさんは語る。
彼女は料理で身を立てるのが夢だった。
しかしある日、先生に 「君の料理には心が込もっていない」 と言われて途方に暮れてしまった。
悩みに悩んでテンチョーさんが辿り着いた結論はネコメイド喫茶だった。
自分の料理に美味しくな~れとおまじないをかけてもらえば良い、というワケだ。
テンチョーさんはネコメイドになりたいと心から願っている女の子を捜した。
それが元男の子のQ極TS女子であっても関係無い。いや、むしろネコメイド喫茶への憧れが一際強い彼女達をこそ、積極的に採用していった。
共に夢を叶えるかけがえのない仲間として。
テンチョーさんの語り口があまりにもエモかったので、オレは感動してすっかりその気になった。
「オレ、バイトします! 春になったら履歴書持ってきます!」
「フフフ、楽しみに待っているよ」
「やったの……にゃ~♡ おにぃちゃみゃと一緒♡ 嬉し~の……にゃん♡」
「よろしくね、そ~にゃちゃん!」
ぎゅ~っと抱き着いてくるそ~にゃちゃんの背中をポンポンしながら、オレは決意する。
CCCでのアツいバイト経験はきっとオレを成長させてくれるに違いない。頑張って働くぞ!
それはそれとして、もうそろそろイコさんを駅までお見送りに行く時間だ。
湖宵達の所へ帰らないと。
「って、そ~にゃちゃん、ついてきたらダメだよ。まだお仕事の時間でしょ?」
「嫌なの……にゃぁ~! 今日はもっとおにぃちゃみゃと一緒なの……に゛ゃぁ~!」
しがみつく力が強い! ちょっと! テンチョーさんに借りたエプロンが脱げないでしょ! 離してってば!
「連れてって良いよ。グズり出したそ~にゃは役に立たないから。それに高波君がそ~にゃの分も働いてくれたからね」
良いのかよ。ええい、でも時間が押しているから仕方無い。テンチョーさんのお言葉に甘えよう。
オレ達は急いで駅へと向かった。
やがてホームに新幹線が到着し、発車時刻が迫る。
オレはイコさんとお別れのハグをした。
「ううう。三五さん、また会いに来ても良いですか?」
「春になったらオレが京都に遊びに行きますよ。Q極TSしたこよいと一緒にね」
「それってお泊まりアリの大人デートですよね……ちょっと複雑……でも嬉しい……」
ドアが閉まり、新幹線は走り出した。
次の再会は春。
春には今日結んだ二つの約束がオレを待っている。
笑顔で春を迎えられるように、気持ちを新たに頑張ろう!
「でも頑張り過ぎはダメだよ、三五。ボクがちゃんと見てるからね」
「「「「「私達もついてますっ♪」」」」」
「なの……にゃっ♪」
もちろん皆の言うことを良く聞いて、ね。