裏83話 Cure Cure Cat Party ! 中編 高三 二学期
テンチョーさんからお借りした予備のエプロンとネコミミカチューシャを身に着ければ、即席ネコウェイターの誕生だ。
だけど姿見に映る自分の姿に首を傾げざるを得ない。
すげ~アホみたいに見えるんだもの。
どうなの? コレ?
「良いじゃないか、高波君。似合っているよ」
「そ、そうですか? いやあ、照れちゃうなあ」
テンチョーさんからお墨付きをもらったぞ♪ だったら何も問題無し♪ やる気が出てきたぞ~♪
「さあ、お客様がお待ちかねだよ」
「ウッス! 頑張りま~ッス!」
オレは意気揚々とフロアに出た。
「キャ~ッ♡ 三五がネコちゃんのおミミ着けてるうぅ♡ カッワイィ~♡」
「えええ~っ♡ 湖宵さぁん、よ~く見て下さいよぉ♡ シックな黒のエプロンがとってもお似合いで♡ スッゴいカッコ良いじゃないですかぁぁ~♡」
「ンアァァ~ッ♡ カフェエプロンンン~ッッ♡ 刺さるうぅ♡ “癖” にブチ刺さるぅぅ♡」
「ま、また鼻血がぁぁ♡」
「「お兄ニャ~ン♡ カワイイ~♡」」
パチパチパチパチ!
皆、大歓迎してくれてありがとう。
でも絶叫したり力一杯拍手したりするのは止めようね。ご迷惑になるからね。
「おにぃちゃみゃ、そ~にゃがお仕事の仕方を教えてあげるの……にゃ」
「よろしくお願いします! そ~にゃちゃん先輩!」
「えへへ~♡ えっとね。男の子のお客さみゃは 「ご主人さみゃ」 か 「お兄さみゃ」 、女の子は 「お嬢さみゃ」 って呼ぶの……にゃ。それからねぇ……」
先輩と呼ばれてご機嫌にゃんこになったそ~にゃちゃんがネコメイド喫茶ならではのルールや特徴を教えてくれる。
フムフム。お客さんが来店した時は手の空いているネコさん達が皆で 「いらっしゃいみゃせ」 と言ってお出迎えをする。
ネコさん達は本物のネコちゃんが魔法でネコメイドに変身した……という設定なので、お店の中ではある程度自由に振る舞って良い (但しやり過ぎたらオシオキ) と。なるほど。
次はいよいよ接客だ。
「テーブルに来たらお嬢さみゃをジ~ッと見つめるの……にゃ」
「フムフム。ジ~ッ」
「三五にゃんがボクを見てる♡ ああ~♡ カワイ~なぁ~♡」
「それでね、お嬢さみゃに “はんでぃた~みなる” を渡してこう言うの……にゃ。「食べたいものを選んでにゅ~りょくしてね」 って」
フムフム。オーダーはスマホ型のハンディターミナルを使って取ると。
面倒な入力はお客さんにやってもらえば良いんだ、それは楽チンだね~、ってオォイ!
「それはこっちがやらなきゃダメだろ!」
「にゃ~!?」
にゃ~じゃないよ! 何でそ~にゃちゃんの接客はそんなに受け身なの!?
「だ、だってぇ~……知らない人に話しかけるのきんちょ~するし、はんでぃの使い方もよくわかんないの……にゃぁぁん」
「あ~、お兄さみゃ。そ~にゃは恥ずかしがり屋の不思議系こねこちゃんってキャラだから、ご主人さみゃ達も納得してくれてるのみゃ」
通りすがりのみ~にゃさんがちょっと泣きそうなそ~にゃちゃんにフォローを入れてくれた。
キャラか~……まあ作られたものではないけどね。そ~にゃちゃんの素の性格だけどね。
でもこのお店ではそれが受け入れられてキチンと成立しているんだね。
「そ~にゃちゃん、ゴメンね。お兄ちゃん、よくわかってなかったね」
「え、えへへ。良いの……にゃ。許してあげちゃうの……にゃ♪」
お詫びにナデナデしてあげる。ノドも指でゴロゴロ~ッてね。
「うにゃにゃ~♡」
たちまち笑顔を取り戻すそ~にゃちゃん。
小っちゃくて素直で可愛くて、本当に仔猫ちゃんみたいだね。
フリフリのメイド服やネコミミも相まって愛らしさ更に倍って感じ。
そ~にゃ流接客術はそんな彼女のみに許された特別なやり方なんだろう。
「オレがそ~にゃちゃんのマネしたら100%ヒンシュク買うね」
「そ、そんなことありません! ネコ三五さまに振り回されてみたいです!」
「いっぱいワガママ言って欲し~い♡」
紫夜 & みりお姉さん's が何か主張し始めたぞ。
ワガママに振り回す、か。試しにやってみよう。
二人にズズイ! とハンディを突きつけて、気持ち低めに声を出してみる。
「ねぇ紫夜姉ぇ、みり姉ぇ。何が食べたい? コレに入力してよ」
「キ、キャ~ッ♡ わ、わ、私はコレ♡」
「クゥゥ~ン♡ ドキドキ♡ ドキドキ♡ わ、私、コレ♡」
「ふぅ~ん、タンポポちゃんオムライスにレインボーにゃんこパフェか~。美味しそう。オレにも一口ちょうだい?」
「「キャァ♡ キャァ♡ キャアァァ~ッ♡ よ、喜んでぇ~っっ♡」」
おおう。普段は大人キレイなお姉さん達がこんなにもエキサイトするとは。
よくわからんがホントにこんな接客で良かったんだ。
「さ、三五♡ 三五♡ ボクの♡ ボクのオーダーも聞いてっ♡」
ハイハイ。任せといて。湖宵のツボだけは完璧に把握してるからね。
「さあお姫さま。ご注文は何になさいますか? 貴女の三五にゃんに教えて下さいな」
「うひぃぃっ♡ の~がヒートすりゅうぅっ♡」
「三五さん三五さんっ♡ 私もお姫さまになりたいですっ♡」
「私も私も♡」
「マリたんは小っちゃな妹にっ♡」
「カ、カナミんは赤ちゃんにっ♡」
ドストレートな欲望をぶつけられてしまった。
皆さん業が深くていらっしゃる。
でもお望み通りにしちゃう。それがCCC流だからね。
オレは時に恭しく、時に小~っちゃな女の子をあやすようにオーダーを取るのだった。
「お姫さま方ははぴねすパンケーキにクマちゃんプリンにパンダさんパンナコッタ、お飲み物はお紅茶で。マリたんはぴかぴかメロンフロート、赤ちゃんはらぶり~タピオカミルクで良いでちゅか~?」
「「「「良いで~ちゅ♡」」」」
「ばぶぅぅ~っ♡」
ホントか? マジでホントにコレで良いのか?
そんな疑問は頭の隅に追いやりつつ、ピッピッピッとハンディに注文を入力。そして送信っと。
これでキッチンにオーダーが伝わったとのことだ。
「後はお料理が出来上がるまでお嬢さみゃ達とお話ししたり、しなかったりして待っていれば良いの……にゃ」
本来ならお客さんのお出迎えしたり他のテーブルのご注文も聞きに行かなければいけないんだけど、オレがそんなことしたって誰も喜ばないからね。
心置きなく湖宵達のお相手に専念出来るってモンだ。
「それじゃ皆でお話ししよっか。ただ~し、語尾に 「にゃ」 を付けること (笑) 忘れたら罰ゲームね (笑) ハイ、スタート!」
「わ、わ~♪ 三五にゃんったらちょ~攻めるの……にゃ~♪」
「は、恥ずかしい……にゃ♪」
「でも三五さまが言うにゃら♪」
アハハハ。皆ノリが良いね~♪
オレも独特な空間に居るからかテンションがアガ ↑ ってお調子ノリノリモードになっちゃったぜ。
仲良しの皆と大盛り上がりして、時間を忘れるくらいに楽しんでしまった。
ついでにお詫びの労働中であることも普通に忘れてしまっていた。
『高波君、ご注文の品が出来たよ。運んでくれるかい?』
インカムから聞こえてくるテンチョーさんの声でハッと目が覚めた。
いけねぇいけねぇ。
今日のオレはネコウェイター。キビキビ働かなければ!
「わっかりました!」
キッチンに向かってお料理を受け取り、落っことさないように細心の注意を払いながら湖宵……いや、お嬢さみゃ達へのテーブルへと運んだ。
だがそれで終わりじゃない。
当店のお料理はおまじないをかけることで初めて完成するのだ。
「そ~にゃのお手本見ててね、おにぃちゃみゃ。美味しくにゃ~れ♪ 美味しくにゃ~れ♪ パンケーキさん美味しくにゃってぇ~♪ そ~にゃのお願い~……なのにゃぁ~♪」
そ~にゃちゃんが両手で作った ♡ を宙に舞わせながらクルクル踊る。
アラ可愛い! そして動きが滑らか!
こういうことやらせたら抜群に上手いな、この娘。
よし、そ~にゃ先生の模範演技を真似してみよう!
レッツチャレンジ!
「お、美味しくにゃれぇ~、湖宵……お嬢さみゃのパンケーキィィ~。神よ、この願いをどうか聞き届けたまえ……!」
ダ、ダメだこりゃ。控えめに言って才能無いわ。つ~か勝手がサッパリわかんね~わ。
「三五にゃんのおまじない嬉しいな♡ でもぉ、パンケーキをあ~ん♡ してくれたらも~っと嬉しいなぁ~♡」
「は、は~い。一口サイズに切り分けて……ハイお嬢さみゃ、あ~んして」
「あ~ん♡ ンッッ♡ ゴックン。ハァ、ハァ……! キ、キクッッ♡ ゆ、油断したぁぁ♡ 皆、気を抜いたらキュン死するよ♡ 覚悟キメてね♡」
何か湖宵からは死ぬ程好評みたい。
「さ、三五さんっ♡ プリン食べさせて下さい♡」
「パンナコッタも♡」
「ハイハイ、あ~んして」
「「あああああぁぁぁぁぁ~んっっ♡♡」」
「オムライスに落書きして下さいっ♡」
「ケチャップで~、何書こっかな? う~ん、う~ん 「三五参上♡」 うわぁ、何だこりゃ」
「キャァァ♡ サイコォォ♡ お、お礼に一口どうぞっ♡ あ、あ~ん♡」
「あ~ん。うん、味は最高だね!」
「三五さまぁ♡ 私のパフェもどうぞ♡ あ、あ~ん♡」
「あ~ん。甘ぁ~♪ 二人共ありがとう。美味しかったよ」
「「あああ~っ♡ キュ、キュキュ、キュン死しそう~っ♡♡」」
「お兄ちゃんっ♡ マリたん、メロンフロート飲むから見ててっ♡ 上手に飲めたら誉めてね♡ い~こい~こしてねっ♡」 (大学生の発言)
「お兄ちゃんっ♡ 赤ちゃんに優しくミルク飲ませてっ♡ でちゅ♡」 (大学生の発言)
テンションMAXの皆様方に乞われるがままにサービスをするオレ。
何しろオレってばネコウェイターの業務についての理解度が浅すぎるからね。
何をすれば正解なのかがまるでわからない。
だからわからないなりに精一杯ご奉仕をさせていただいた。
それが通じたのか湖宵やお姉さん達は宝石よりもキラキラした笑顔を浮かべてくれたのだった。