裏79話 怒濤のモテモテお見舞い攻勢 第③弾 最愛のお嫁さん 最愛のお姉さん 高三 二学期
「すやすや……♪」
「く~く~……♪」
「ふにゃふにゃ……♪」
さてさて。眠り姫さま達を風邪ひき三五さんと一緒に寝かせとくワケにはイカンよね。
枕元のスマホに手を伸ばし、チャットアプリを展開。
母さん母さん、女の子達が寝ちゃったから回収しに来て……っと。
トントントンッ。
コンコン、ガチャッ。
母さんは直ぐに来てくれた。
でもその面持ちはひどく怪訝そうだった。
「何で年頃女子達が男の側でまとまって、こ~んな幸せそうな顔で寝てんのよ……理解不能よ、もう」
「いえ、お母さま。三五さん FC 会員なら極々自然なことかと」
「そ、そうですか? 会長? むしろドキドキするのでは?」
「フゥ、まだまだね、イコ。三五さまが与えて下さる慈しみに身を委ねなさい。そうすれば眠り姫ちゃんの気持ちがわかるハズよ」
「私は慈しみたい側かな♪ もし三五さまにこんな風に甘えられたら……♡ アッ♡ また鼻血が♡」
あっ、大人組のお姉さん達。まだ居てくれたんだ。
「この子達帰んないのよ! アンっちとイコちゃんなんてウチの居間にノートPC持ち込んで仕事しちゃってるしさぁ! 紫夜ちゃんはもうお店に出る時間なんじゃないの!?」
「じ、時間ギリギリまで居させて下さいっ。ホ、ホラ、今だってみりの髪を弄ってお勉強中ですし! サボっていませんし!」
「紫夜~、私の髪にお花の髪飾り咲かせまくるの止めてもらっても良い? お花は控えめなのが可愛いんだからね? あと重いし」
お姉さん達はお話をしながらも妹トリオをテキパキ運んでいってくれる。面倒見が良いなあ。
「ありがとう、お姉さん達」
「「「「お大事に~♪」」」」
パタン。
「さぁて、三五?」
母さんはお姉さん達と一緒に階下に降りなかった。
オレに話があるみたいだ。
「だいぶ調子が出てきたみたいじゃない? ファンの女の子達をあんなメロメロにしちゃってさ」
「ア、アハハ……。母さんのお陰だよ」
あとファンの皆さんがメロメロになる理由はオレにも定かではないよ。
「反省したみたいだから休ませてあげたいんだけどね。もう一仕事してもらうわよ」
わかっている。今日まだ顔を見ていない湖宵とメイお姉さんのことだ。
「あの二人、いつになくションボリしちゃってさ。部屋の隅で溜め息吐いてばかりなの」
うぅっ……。思い悩んで迷走していたオレの姿は二人の目にどんな風に映っていたんだろう?
神経を尖らせた怒りっぽい男だと思われて、たくさん怖い思いもさせてしまった……?
「オレも二人に会いたい。会って謝りたいよ」
「そうしなさい。いっぱい怒られて、いっぱい笑わせてあげるの。そしたら三五の好きな卵たっぷりのおじやを食べさせてあげる」
おお。おじや、イイネ!
母さんってばさすが、オレのツボを心得てるね。俄然やる気が出てきたぞ!
二人と仲直りしていざ、おじやタイムだ!
「じゃあ二人を呼んでくるからね」
パタンッ。
トントントン……。
…………………………。
少し間が空く。
理由は考えるまでもない。
オレと顔を合わせるのを躊躇う気持ちが足を重くさせているんだ。
そうさせてしまったことに罪悪感を覚えつつ、神妙に湖宵とメイお姉さんを待つ。
やがて控えめにコン、コン、コン、と部屋のドアがノックされた。
「ど、どうぞ入って」
カチャ……。
沈痛な面持ちの二人が入ってくる。
これはいけない。
心からの反省の言葉をもって速やかに謝罪を……。
「ごめんなさい、三五」
「ごめんなさい、三五ちゃん」
「 え ? 」
綺麗な仕草で頭を下げる二人を見たオレの目が点になる。
「三五がボクとの……わたしとの将来を思い詰めてあんな風になったってわかってた。明らかに様子が変だって気付いてた。なのに……」
「私達、会いに行けなかった。お話が出来なかった」
「「だから、ごめんなさいっ!」」
…………ハッ! まさか逆に二人から謝られるなんて。思いがけない展開に面喰らってしまっていた。
「二人が謝ること無いんだよ! 悪いのは迷走してたオレなんだから!」
「誰だって迷う時くらいあるよ。三五はわたしの為にいっぱい悩んでくれたんだね。なのに当のわたしが止めてあげられなかったなんて……」
「私も三五ちゃんが倒れる前に会いに行けた。でも出来なかった……怖かったの」
湖宵を後悔させてしまったこと、メイお姉さんがオレを怖いと言ったことがショックで言葉が出てこない。
「わたしは怒られても、ケンカになっちゃっても、それでも三五を休ませてあげるべきだった。お嫁さんなんだから」
「私はいつも素直で優しい三五ちゃんに冷たくされたり嫌われたりするのが怖くって、叱ってあげたり栄養のあるお料理を食べさせてあげられなかった。お姉ちゃんなのに」
「「だから、風邪をこじらせちゃったのはわたし達のせいなの! ごめんなさい!」」
湖宵とメイお姉さんの熱い気持ちに口を挟むことが出来ず、最後まで聞いてしまった。
そんな風に思わせてしまったんだ。
そんな風に思ってくれていたんだ。
悩ませてしまったことに対する心苦しさ、申し訳無さ。
オレを大切に想ってくれることに対する感動、喜び。
色々な感情がない交ぜになって胸が苦しい。
でも伝えなければ。オレの気持ちもキチンと口に出さなければ!
「湖宵っ! オレも本当にごめん! ごめんなさい! オレ、生まれて初めて湖宵を騙してしまった……どんなことがあっても、それだけはしちゃいけなかったのに。もう二度としません。ごめんなさい!」
ベッドに座りながらの体勢ではあるが、精一杯頭を下げる。
「三五……」
しばらくそのままの姿勢でいた。
ゆっくり頭を上げて、今度はメイお姉さんに向き直る。
「メイお姉さん。オレはこんなに大きくなったのに、まるで小さな弟みたいに貴女に甘えていました。依存していました。しかも母さんに言われるまで、そのことに気付きもしませんでした。ごめんなさい!」
「三五ちゃん……」
メイお姉さんにもベッドに頭が埋まるくらいに頭を下げる。
たっぷり下げて、ゆっくり上げる。
でも二人の顔を見てしまうとダメだ。
まだまだ頭を下げ足りない。
「オレ、オレ、二人のことが大好きです! どうかオレを許して下さい! お願いします!」
自動的に頭が下がっていくが、今度はベッドに頭がめり込むことはなかった。
何故なら……。
「三五ぉ~っ!」
「三五ちゃぁ~んっ!」
湖宵とメイお姉さんに飛び付かれ、引っくり返されたからだ。
「わぁ~ん! 三五大好きぃぃ! 寂しかったよ! 悲しかったよぉ! ごめんねごめんね! もう二度と一人ぼっちにしないから! ウザがられても一緒に居るから!」
「三五ちゃんてばぁぁ! 突拍子もなく反抗期にならないでよ! ビビっちゃったじゃないの! 自分がこんなにヘタレだったなんて、恥ずかしい! でもずっと三五ちゃんのお姉ちゃんでいさせてぇ!」
湖宵とメイお姉さんは左右からオレを力一杯に抱き締める。思いの丈をメチャクチャにぶつけながら。
つくづく思い知らされた。オレはバカだ。
この人達が居て、オレは初めてオレなんだ。
なのにその二人を遠ざけて一人で苦悩するなんて。
身体のパーツをボトボト落っことしながら走っているようなものだ。これを迷走と言わずして何と言う?
「オレが悪かったぁっ! バカだったっ! 湖宵っ! メイお姉さんっ! 本当にごめんなさい! 大好きだよ! オレは二人が居ないとダメなんだっ!」
押し留められなかったごちゃ混ぜの感情が涙と言葉になって溢れ出る。
オレ達は抱き合いながらしばらくそうやって、今まで溜まったモヤモヤした感情を発散させたのだった。
やがてモヤモヤはパ~ッと消え去った。
まるで重く冷たい雨雲が晴れて日の光が射したような、暖か~い気持ちになってくる。
「三五、愛してる♡ ちゅっ♡」
おおっ♡ 湖宵がほっぺにちゅ~してくれた♡
オレからもお返ししなきゃ。
「オレも湖宵のこと、愛してるよ」
ちゅっ、と湖宵のスベスベほっぺに優しくキス。
「えへへ~♡ 幸せ~♡」
あぁ、久し振りに見る湖宵の花丸笑顔。
こんな風邪なんかたちまち吹っ飛んじゃうね。何よりの薬だよ。
「三五ちゃん、大好き♡ ちゅっ♡」
おおぉ!? メイお姉さんまでオレのほっぺにキスを!? こんなのいつ振りだ!?
「ちょっとちょっとぉぉ~!? 何してんのメイおねぇちゃん~!?」
「だってしたくなったんだもの♪ 良いじゃない。二人が小っちゃい頃は毎日ちゅ~してあげてたでしょう? それと一緒よ」
「ハッキリ言う! 実はボクはその頃、おねぇちゃんに嫉妬してた! 自分だけ大っぴらに三五にちゅ~出来てズルいって! ボクもしたいのにって!」
オレの腕の中でキャイキャイと掛け合いをするお二人。
だがその合間にもメイお姉さんがこちらにチラチラと目配せをしてくる。
これはアレだね。 「三五ちゃん。お姉ちゃんにキスのお返しは?」 ってことなんだろうね。
うぅ~ん、でもなぁ~。
困ったのでオレも湖宵に目配せ。 「お姉さんにキスのお返しをして差し上げるのは……やっぱりダメですかねぇ?」 みたいなニュアンスで。
「う゛う゛ぅ~! わかってる! 三五はメイおねぇちゃんのこと、本当のお姉ちゃんみたいに思ってるって! でも目の前でプロポーズみたいなこと言ったり、ほっぺにちゅ~とかされたりするとやっぱりモヤモヤするんですけど!」
「お坊ちゃま。ううん、お嬢ちゃま。お願い……」
いつもしっかりしてる大人なメイお姉さんが瞳をウルウルさせながらおねだりしてる!
う゛わ゛~! これはズルいぞ! 絶対逆らえないヤツじゃん!
「わ、わかったよぉ! 姉弟がする親愛のヤツなら許可するよぉ! でもそのラインから一歩でも越えたら、マジで泣き喚くからね!」
「わかってるって♪ 許可してくれてありがと、お嬢ちゃま♪ もちろんお嬢ちゃまのことも三五ちゃんと同じくらい好きだからね♪ ちゅっ♪」
「おねぇちゃんだけが特別なんだかんね、もうっ! ちゅっ!」
オレの目と鼻の先で (比喩に非ず) 最愛のお嫁さんと最愛のお姉さんがほっぺにキスを交換し合う。
何だかちょっとドキドキ……ハッ! イカンイカン。
「コ、コホン。メイお姉さん。オレ、これからはお姉さんが甘えられるような男になるからね」
メイお姉さんの頬にそっと手を添えて、反対側の頬に誓いを込めてキスをする。
「あぁ♡ キスってこ~んな幸せな気持ちになれるのね♡ 三五ちゃまってばジ ・ ゴ ・ ロ♡ イケない子ね♡」
「自分からおねだりしたクセに!」
「シレッと呼び方変わってるし! “ちゃま” って! それ、姉弟の範疇なの!?」
オレ達はすっかり元通り。
いや、雨降って地固まった。
オレ達は今回の一件で更に仲を深めたし、これからの長い人生の中で何度でも良い関係に変わっていける。
そんな確信がオレの胸中にはある。