裏78話 怒濤のモテモテお見舞い攻勢 第②弾 暴走白にゃんこ & 妹系大学生 (高波 三五FC所属) 高三 二学期
「はい、三五さん♡ あ~ん♡ して下さい♡」
アンお姉さんがすりおろしたリンゴを食べさせてくれる。
「あ~ん……ん~♪ んまぁ~♪」
ひんやり冷たいすりリンゴが口の中で淡雪のように溶けていく。
優しい味わいに癒されるな~。
「私はお歌を歌いますっ。風邪の時はやっぱりJazzですよね♪ ラララ~♪」
イコさんの選曲はまさかの洋楽。
歌詞はよくわからないけれど妙に耳馴染みがある。確か有名な映画で流れていた歌だったっけ?
「イコお姉さんの声、綺麗だね。さすがバスガイドさんだね」
「♡♡ ララッラァァ~♪」
オレのお姉さん呼びが嬉しかったのか歌姫イコさんが輝く笑顔に。
ご機嫌に弾む美しい旋律は気分も弾ませてくれるね。
「三五さま、少し髪の毛が伸びてきましたね。お風邪が治ったら切り揃えて差し上げたいな」
「あ、それじゃあ今度、紫夜お姉さんのお店に伺いますね」
「ダ、ダメですよそんな! お代を頂くなんて滅相もない!」
ええええ……。プロのスタイリストさんに無料で髪切ってもらう方が滅相もないでしょ。
親しき仲にも礼儀あり。お金に関することはキチンとしないと。
「じゃ、じゃあカットモデルになって下さい。三五さまがモデルなら私の腕がメキメキ上達すること請け合いです!」
「う、う~ん? それならお言葉に甘えても良いの……かな?」
「はい♡ キャ~ッ♡ やる気バリバリ限界突破です♡ 超一流のスタイリストを目指しますよ、私は!」
ま、まあ紫夜お姉さんのスキルアップに繋がるのなら。オレの髪で良ければお好きなだけ練習台にしちゃって下さい。
「三五さま三五さま♡ 私が育てたお花、お部屋に飾っても良いですか?」
みりお姉さんの手には小さな花籠が下げられており、中にはこれまた小さくて可愛いお花が一杯。
「ありがとうございます、みりお姉さん。何かソレめっちゃオシャレで華やかですねっ」
「ウフフ♡ フラワーアレンジです♡ 花瓶に活けるよりお手入れも楽ですし、お見舞いには良いかなって」
うんうん。淡い色合いのお花は目に優しいね。それに冬が近づいているのに元気に咲いているお花の姿にはパワーを分けてもらえる。
「部屋が明るくなりますね。まるでみりお姉さんがいつも側に居てくれるみたい」
「エヘヘ♡ エヘヘヘ♡ みりは三五さまのお側に居ます♡ おフトンもポンポンしてあげます♡」
ああ~、おフトンポンポンで気持ちが安らぐ。イコお姉さんの美声も、紫夜お姉さんが髪を指で梳いてくれるのも、とても心地が好い。
「三五さん、早く元気になってね」
アンお姉さんがオレの手をそっと握ってくれる。
オレはその手を握り返し……。
コンコン、ガチャッ。
「三五~? 調子は……アラヤダ! 何よコレ、キャバクラじゃないの!」
あ、母さんだ。
「オレ、だいぶ元気になってきたよ」
「下ネタは止めなさいよアンタ! 元気になり過ぎ! 無料で楽しんでんじゃないわよ! フルーツの盛り合わせ頼んだり、ボトルキープしたりしなさいよ!」
ん~? 母さんの言うことがよくわからない。リンゴは食べさせてもらったよ? ボトル? ペットボトルのこと? んん~?
オレが首をかしげていると、何故かお姉さん達がいそいそとお財布を取り出し始めた。
「ちょっと! 何でQ極TSホステス側がお金払おうとしてんの!?」
「だってお母様♡ 三五さんがお口をあ~んってしてくれて♡」
「お歌を誉めてくれて♡」
「カットモデルになってくれるって♡」
「みりが居ると部屋が明るくなるって言ってくれたの♡」
「ウチの息子にお金落とさないで! 無課金で楽しみなさい!」
「「「「いっぱい課金した~い♡ 延長料金も払いた~い♡」」」」
「ダ~メ! アンタらそろそろ仕事の時間でしょ!? ホラ、行くわよ!」
「「「「ああぁ~んっ! 三五さん (さま) お大事にぃ~!」」」」
お姉さん達が母さんに引きずられていく。
「お、お姉さん達、お見舞いに来てくれてありがとう!」
バタンッ。
いやあ、お姉さん達にはいっぱい優しくしてもらっちゃったな。
このまま目を閉じれば、すぐに良い夢が見られそうだ……。
トトトトトッ!
……と、思ったけれどそうはいかないみたいだ。
誰かが階段を駆け昇ってくる音がする。
バタ~ンッ!
「おにぃちゃみゃ~っ!」
ネコメイド喫茶で働くにゃんこガール、そ~にゃちゃんだ。
目に涙を溜めた子猫ちゃんがピョイ~ンと飛び付いてきて、オレの身体をグラグラ揺さぶってくる。
「おにぃちゃみゃおにぃちゃみゃ~っ!」
「うううぅぅ! ゆ、揺らすのだけは勘弁して……! うぷっ、一気に、気持ち、悪く……」
み、み~にゃさんにし~にゃさぁぁん! 今日は居ないんですか!? いつもみたいにそ~にゃちゃんを何とかして~!
「コ、コラぁ~っ! そ~にゃっ! 止めなさいっ!」
「三五さまに乱暴しないでぇっ!」
「にゃぁ~っ! 離してっ……にゃ!」
おおっ。オレ FC 大学生組のお姉さん達がそ~にゃちゃんを引っぺがしてくれた。
「グスンッ。ご、ごめんなさい三五さま。今日に限ってみ~にゃもし~にゃも居なくって……」
「ウエェェンッ、私達だけじゃそ~にゃを大人しくさせられなくて……うぅ~っ!」
「あああ! 気にしなくて良いんですよ! だから泣かないでっ!」
大学生組のお姉さん達はちょっと泣き虫さんなのだ。
サラリと長いロングヘアが似合う涼やかな知的美女……に見えるけど引っ込み思案の安孫子 マリさん。
そしてフワフワの髪とクリクリッとしたお目々が特徴の小動物系お姉さん、此花 佳波さん。
このお二人は年上だけど妹みたいに放っておけない感じがする。
マリさんに至ってはオレと湖宵の志望大学に通う才女なんだけどね。不思議だねえ。
う~ん、言っちゃなんだが今の体調でこの面子のお相手をするのは厳しいかもなあ。
み~にゃさんとし~にゃさんが居てくれたらなあ。彼女達は意外と……って言ったら失礼だけどかなり面倒見が良いから助かったんだけど。
「み~にゃとし~にゃは薄情なの……にゃ! おにぃちゃみゃよりお仕事をゆ~せんするなんて……にゃ!」
いやいや。お仕事を大事にしてくれる方が良いよ、オレは。だってそんなの気を遣っちゃうからさ。
出来ればそ~にゃちゃんにもお店を休んで欲しくなかった。
でも今のそ~にゃちゃんがお店に出ても、にゃ~にゃ~鳴いてるだけだろうし……あああ。CCCにご迷惑をかけてしまった。
オレがお詫びに出来ることが何かあれば良いんだけど……。
「おにぃちゃみゃ……んちゅうぅぅ~♡」
うお! 考え事してたらいつの間にかそ~にゃちゃんのお顔が超目の前に迫ってきていた!
唇と唇が触れてしまう、その寸前。
「「何してるのぉっ!」」
マリさんと佳波さんの超ファインプレー! 左右からそ~にゃちゃんをガシッと捕まえた!
それにしてもそ~にゃちゃんは何でいきなりオレにキスしようと思ったの!?
「にゃぁぁっ! 風邪の悪い悪い菌をちゅ~ってすれば、おにぃちゃみゃは元気になるの……にゃっ!」
「「風邪ってそんな簡単に治るモンじゃないから!」」
「にゃぁぁ! おにぃちゃ……みゃぁっ!」
そ~にゃちゃんは掴まれている上着を脱ぐことで二人の拘束から逃れる。
そしてそ~にゃちゃんはその勢いのままブラウスシャツとミニスカートを脱ぎ捨て、白いスクール水着と白いニーソックスだけの姿に……って、ちょっと!
「何で脱いだの!?」
「何でこの寒いのに下に水着着込んでるの!?」
「何でそんなマニアックな水着選んだの!? どこで買ったの!?」
全員がツッコミを入れるがそ~にゃちゃんはドヤ顔で受け流す。
「この格好でおにぃちゃみゃとねんねしたら、きっとスッゴクきもちぃの……にゃ♡ おにぃちゃみゃが汗をかいたら直ぐにフキフキしてあげられるし、一石二鳥なの……にゃ♡」
「そんな羨ま……恐れ多いこと、絶対させないっ!」
「ウェェン! この子、若干パスってるよぉ! サイコニャンだよぉ!」
「にゃにゃぁ~っ!」
オレのベッドに潜り込もうとする、白スク水ニーソにゃんこ。
それをさせじとインターセプトする、マリさんと佳波さん。
両者の攻防は熾烈を極めた。
二人がかりで何度か捕まえられそうになっても、そ~にゃちゃんは猫の柔軟性と瞬発力を活かしてパラリとかわしていく。
ドッタンバッタン大騒ぎして机の上のノートがバサバサと床に落ちる。
しかしまだまだ捕まらない。
てゆ~かしなやかに跳ね回るそ~にゃちゃんの身体を見て思ったんだが、この子本当に喫茶店で働いて良い年齢なの?
ツルンと凹凸のないロリロリな体型は正に小学……い、いや、まさかそんなことはないよね?
「グスグスッ……い、いい加減にしなさぁい! 悪い子にはもう三五さまグッズをあげないから!」
「にゃにゃっ!?」
痺れを切らしたマリさんの一喝でそ~にゃちゃんの動きがピタリと止まる。
「わ、私も悪い子の為には絵を描いてあげないもん!」
「にゃああぁ~っ!?」
実は大学生コンビはオレFCグッズの制作 ・ 配布を担っているのだ。
マリさんがハッピ ・ ウチワ ・ ハンドメイド雑貨などを作って、美大に通う佳波さんが美麗なイラストを描いてそれらにプリントしたり、SNS内で利用されるスタンプや壁紙などを制作したりもする。
グッズはFCの皆に大変好評。そのお陰でマリカナコンビのFC内での発言力は実はかなり高い。控えめな性格だからあまり前に出てこないけれど。
「い、嫌なのぉ……にゃ。そ~にゃがおにぃちゃみゃのペットになって幸せに暮らす絵本の続きが読めなくなるの嫌っ! ……にゃ! ごめ゛ん゛に゛ゃざい゛ぃ~っ! にゃあぁぁぁん! にゃあぁぁ~っ!」
ぅオォイ!? オレの知らねぇところでとんでもねぇブツが取引されてやがるんだが!? クッ……! しかし今はスルーするしかない。まずは大泣きしてるそ~にゃちゃんを何とかしないと!
「そ~にゃちゃん、泣かないで。お兄ちゃん、そ~にゃちゃんの優しい気持ちがとっても嬉しかったよ」
「ひっく、ぐしゅ、おにぃちゃみゃ……」
優しく頭をナデナデしながらゆっくり語りかけていくと、次第にそ~にゃちゃんの泣き声は小さくなっていった。
「心配させちゃって、いっぱい悲しい気持ちにさせちゃったね。ごめんね」
「ううん、そ、そ~にゃはおにぃちゃみゃがお元気になってくれたら良いの……にゃ」
「ありがとう。そ~にゃちゃんの為に元気になるね。お兄ちゃんも大事なそ~にゃちゃんが風邪ひいちゃったら悲しいな。だからお着替えしてくれる?」
「うん♡ そ~にゃ、おにぃちゃみゃの言うこと聞くの……にゃ♡」
そ~にゃちゃんにスカートを穿かせてあげようとすると素直に足を通してくれた。わかってくれて良かった。そ~にゃちゃんはやっぱりお利口にゃんこだ。
シャツも着ようね。袖を通してボタンを留めてっと。
「もう、そ~にゃったらお風邪の三五さまにお着替えさせてもらうなんて羨ま……非常識よ。床にノートも落っことしちゃって……キ、キャアァ~!」
「ど、どうしたのマリりん……ひ、ひぃぃっ! ウェェェ~ン!」
えっ!? 今度は何々!? マリさんと佳波さんが床に落ちたノートを見て悲鳴を上げた!?
一体何で……ハッ! あのノートはオレが狂ったように勉強しまくってた時のノート!
高校で習う勉学の知識が法則性も無くとにかく殴り書きにされているこのノート……おまけに血 (鼻血) で真っ赤に染まってるし! ひいぃ! 正気に戻って見たら確かに怖い! ってかコレこそサイコパスのノートだ!
「グス、グスッ、う、う、うわぁぁん! さ、三五さまがこんなにも苦しまれていたなんてっ! そ、それなのに私、何もして差し上げられてなくて……!」
「ウェ~ン! ウェェェ~ン! 三五さまぁぁ! 三五さまの血がぁぁ!」
自分でもドン引きするノートを傷付きやすい小動物メンタルなお二人が見せられたらこうもなるだろう。
両手を思いきり広げてマリさんと佳波さんをまとめてぎゅっと抱っこする。
「ごめんね二人共、ビックリさせちゃったね。泣かないで」
「ヒック、ヒックゥゥ♡」
「ウェェン♡」
「もうあんな風に一人で悩んだりしないから、許してくれる?」
「グスグスッ、ほ、ほんと? お兄ちゃん」
「お兄ちゃんが辛い思いするのカナ、ヤだよ?」
何でオレがお兄ちゃんなんだよ、という内心はおくびにも出さずにマリさんと佳波さん……いや、マリたんとカナミんの柔らかいほっぺに自分のほっぺたをスリスリさせて背中をポンポンする。
「大事な大事なマリたんとカナミんを悲しませることはもうしないって約束するから、もう一度だけオレのこと信じてくれる?」
「う、うん♡ マリたん、お兄ちゃんのこと信じるよ♡」
「カナミんも♡ お兄ちゃんの言うことな~んでも聞くの♡」
赤ちゃんみたいな満面の笑顔を向けてくれる大学生のお二人。
この笑顔はもう裏切れないよね。
マリたんのロングヘアをサラサラと、カナミんのフワフワ髪をモフモフと撫でていると……。
「く~く~、ウフフ♡」
「すやすや、おにいちゃん♡」
オレの腕の中でマリたんとカナミんが寝ちゃった。何という警戒心の無さ。
「ふにゃ~、ふにゃぁ~……♪」
ちなみにそ~にゃちゃんはドサクサ紛れにベッドに潜り込んでオレの隣で気持ち良さそうにねんねしている。まあキチンと服着てるしギリギリセーフかな。(クソ甘判定)
それにしても風邪っぴきのオレが逆に妹 (?) とにゃんこちゃん達のお世話をすることになるとはね。
それもこれも全部オレが悪かったせい。
ちゃんと反省しないとね。
もう二度とオレを慕う女の子達を悲しませないように。