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幼馴染み♂「今からQ極TSカプセルで♀になりマース♪」  作者: 山紫朗
【裏話】湖宵とホモる (ド直球) 高校生活
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裏76話 MOTHER IS GOD 高三 二学期

 湖宵に悪いことをした。

 スマホ越しに自分の気持ちを一方的にぶつけて、勝手に通話を切ってしまった。

 こんなケンカするみたいな形で決意を表明するつもりじゃなかったんだけど……。


 電話じゃなく面と向かって話が出来ていれば恐らくこうはならなかった……ハズだ。

 やはり今からでも直接話をしに行くべきだろうか。

 いいや、宣言の内容はオレの素直な気持ちだ。それをストレートに伝えられたのだから悪くはない。勢い任せにこのまま突っ走ろう!


 そう固く信じて鼻息を荒くしているオレには声をかけ辛かったのだろう。

 湖宵は学校でこの件に関して追求してこなかった。


 いや、ただ一言だけ。

 オレの両手をぎゅっと握って一言だけ言った。


 「どうか身体を大事にして。お願いだから」


 「わかったよ。ちゃんと楽になるようにするから」


 嘘じゃない。オレは湖宵に嘘なんか吐かない。

 ただ現状、何もしないでジッとしていることはオレにとって苦痛でしかない。

 楽になる為には行動あるのみ。


 でもお嫁さん♂である湖宵は怪しい言い回しに含まれたオレの真意などお見通しだった。

 この場では何も言わずに引き下がってくれたが、オレの母さんに連絡を入れてお目付け役になるように頼んだみたいだ。


 早朝にランニングに出掛けようとすると……。


 「コラッ! 三五! アンタ身体を大事にするって、こよちゃんと約束したんでしょ~が! あんまり無理するんなら強制的に休ませるかんね!」


 「う……わ、わかったよ」


 家に居る時は常に母さんにマークされるようになってしまった。

 お陰で早朝ランニングに行けなくなったし、予備校まで休まされた。

 挙げ句の果てには夜に部屋の電気を点けていたら、ズカズカと部屋に入ってこられて早く寝ないと病院のベッドに縄で縛り付けるぞと脅かしてくるのだ。

 だから夜は基本的に月明かりやLEDランタンを利用して隠れてコソコソ勉強しなければならない。


 熱で朦朧とする頭に英単語 ・ 熟語 ・ 短文、数学公式 ・ 解法 ・ 定石、物理法則、化学反応式……うんぬんかんぬんetc. などなどなどなど、とにかく片っ端から叩き込み、それらをノートに書き殴り(アウトプットし)まくる。


 そのうちに鼻血が出てきたのには逆に笑ってしまった。

 こんなマンガみたいな事が本当に起こるんだな、などと(のたま)いながらもペンを動かす手は止めない。

 完全に精神力で身体を無理矢理動かしている状態だ。


 これも後で思ったことなんだが、オレの体力って結構凄いな。これが若さか。


 しかしやはり無理 ・ 無茶 ・ 無謀というのはそう長くは続かない。

 限界というものが必ず訪れる。



 ある朝起き上がると、どうにも頭が熱くてボーッとする。

 身体を動かすのも億劫だ。

 だけど力を振り絞り普段の何倍もの時間をかけて制服に着替え、フラフラになりながらも階下の居間へと向かう。

 

 少しでも栄養のあるものを口に入れて、学校に行く為の力をつけなければ。


 「ハア……ハア……お、おはよう……」


 「……! バカね、三五! 顔色が真っ白じゃない! ちゃんと休みなさいって言ったでしょうが!」


 「か、母さん、お、大きな声出さないで……ハア……ハア……。こ、こんなのちょっと座っていれば……」


 足元がフラついてまともに立っていられない。地面が揺れているみたいだ。

 フラフラ、フラフラ、となんとかソファーに辿り着き、深く腰をかけたところ……困ったことに立ち上がれなくなってしまった。


 「ハア……ハア……!」


 「って三五、凄い熱じゃない! こんなになるまで……。もおぉ~! バッッカァァ~! 病院行くわよ! いや、お医者様に来てもらった方が良いかしら!? それともコレ救急車かしら!?」


 「あたまに、ひびくから、おおきなこえやめて……」


 流石にここまでダウンしてしまっては、もう母さんに逆らえない。


 動けなくなってしまったオレはお医者様の往診を受け、休息をとることを余儀なくされるのだった……。




 「先生、ウチの息子は……ウチの息子は大丈夫なんですか!? もしかして重い病に冒されていたり……!?」


 「フ~ム……お宅のご子息は……」


 「ああ……神様……神様……っ!」


 「風邪をこじらせてますな。ひき始めの時期に無理をしたのが祟ったようで」


 「ですよね。アハハ」


 アハハじゃないよ! 病床を囲んでそんなお気楽な会話(コント)しないでくれる!? と、言いたいところだが。


 「う゛う゛う゛ぅぅ……」


 口から出るのはうめき声ばかり。


 頭はガンガンと鳴り響き、全身は炎で炙られたように熱く、ノドが痛いのに咳が止まらない。

 トドメとばかりに積み重なった疲労の倦怠感が一気に吹き出してきた。

 風邪ってこじらせるとこんなに辛いんだ……。


 「お薬出しときましょう。それ飲んで水分とって、安静にしとったら直に良くなるでしょう」


 「ですって! アンタお医者様の言い付けを破ったら承知しないわよ、三五! あと平熱になるまではお母様の命令も絶対厳守だから! MOTHER IS GOD! 略してMIGよ! コレを(とく)と心に刻みなさい!」


 「いうこと、きくから、おおきなこえださないで、かあさん……」


 今回ばかりはクッタクタに参ってしまった。

 いかに熱意(燃料)があろうとも、肝心要の身体にガタがきてしまっては動くことは出来ない。

 大人しく母さん(ゴッド)の言うことを聞かなければ。



 ほとんどの時間を寝て過ごし、起きたらお水をゴクゴク飲んで身体を拭いて、おかゆを食べて薬を飲んでトイレに行った後にまた寝る。

 そんな日々が何日続いたことだろう?

 日付の感覚が酷く曖昧だ。


 わかるのは寝て起きる度に身体がみるみる楽になっていくことと、それと反比例して胸の内に暗雲のような不安がもくもく立ち込めてくるということ。

 意識がハッキリしてくるにつれ、勉強も運動も出来ずにただ寝ているだけの状況が耐え難くなってくる。


 

 「じゃあお母さんは居間に居るから。大人しく寝てるのよ、三五」


 パタン。


 良し。

 母さんがオレの部屋を出てドアを閉めたタイミングで、そっと静かにベッドから抜け出す。

 机に向かってノートを開くと不安が若干和らいだ。ああ、癒される。

 ほんの少しでも良いから遅れを取り戻さないと。

 ペンケースからペンを取り出し、いざ……。


 バターンッ!


 「コラァァァ~ッ! 何やってんのっっ!」


 「うわわぁぁ~っ!?」


 母さんが部屋に怒鳴り込んできた!

 ドアの前で聞き耳を立てていたんだ!


 しっかし、こんな風に母さんに全力で叱られたのは一体何年振りだろう?

 MOTHER IS GOD.

 ここ数日、心尽くしの甲斐甲斐しい看病をされてきたこのオレに反骨心なぞ残っているハズもなく。幼子のようにビクッと身を竦ませてしまった。

 それでもどうしても勉強がしたかったので、誠心誠意、心を込めてのお願いを試みる。


 「母さん、少しだけ! ほんの少しだけで良いから許して! お願い! ジッとしていると不安で寝付けなくなるんだよ。だから……」


 「はああぁぁぁぁ~~………………アンタって子は本っっ当に………………」


 もの凄い溜め息だ。めちゃくちゃ呆れられてる。


 「い~い? アンタはね? 風邪をひいているの。わかる?」


 噛んで含めるように至極当たり前のことを言われてしまった。

 もちろんそんなことは重々承知している。


 「わ、わかってるよ。具合が悪い時に勉強したって身に付かないって言いたいんだよね? それでもオレは……」


 「ち~が~う。アンタは身体だけじゃなく心も風邪ひいてんの。そう! 反抗期って名前の風邪をね!」


 「……………………は?」


 反 抗 期。


 その言葉の意味がすぐには飲み込めず、しばし呆然としてしまうオレだったが……。


 「そ、そんなんじゃないよっ! オレは! オレはちゃんと将来を考えた上で……っ!」


 苦しくて堪らない時に至れり尽くせりのお世話をしてくれた母に思わず口答えをしてしまう。

 恥知らずにも程があるとわかってはいるが、どうしても言わずにはいられなかった。

 それくらいオレにとって意外な、心外な一言だったから。


 「一人で無茶してツっパって、こよちゃんに嘘吐いて、メイちゃんにツレなくしたでしょ~が。そ~ゆ~の世間一般では反抗期って言うのよ」


 「ぐ……う……。オ、オレは湖宵に嘘なんか吐かないよ」


 「じゃあ騙したんだ。事実を並べてワザと勘違いさせようと誘導したんだ。言っとくけど、そっちの方がタチ悪いからね」


 「オレが……湖宵を……騙した……?」


 ガン ガン ガン。

 身体の具合自体は良くなってきているのに、また頭が痛みだした。

 それも以前とは比較にならないくらい痛烈な、刺すような痛みだ。


 「身体が治ってからにしようと思ったけどね。敢えて! 今! 言わせてもらうわ、三五! アンタこの歳になるまでヤケに素直な子に育つな~って思ってたら、何今頃反抗期なんかになってんのよ! (おっそ)いのよ!」


 母さんはビシッ! と指を差してきて矢継ぎ早にオレを咎め立てる。


 「アンタみたいな図体の大きい男が女の子に大きな声出したり、威圧的な態度をとるなんて卑怯よ! ズルいわよ! こよちゃんとメイちゃん、怯えてたんだからね! 可哀想でしょうが!」


 「お、怯え……!?」


 ガン! ガン! ガン! ガンッ!

 クラクラッと目眩がする。

 オレが……オレが二人を怯えさせた……!?

 そ、そんなの……。


 「何よ。こよちゃんはまだQ極TSして女の子になってないからノーカン、な~んて言ったらブッ飛ばすわよ」


 「い、いや、そんなこと言わないよ。確かにオレ、湖宵に怒鳴っちゃって可哀想なことをしたって思う。で、でもメイお姉さんまで? オ、オレがちょっと冷たくしたくらいで、あの完璧なメイお姉さんがそんな……怯えるだなんて……」


 あり得ない。想像すらつかない。

 そんな、まさか。

 だってメイお姉さんはいつだってクールで大人で……。


 「はぁ~……アンタ、昔っからメイちゃんに甘えてばっかりじゃないのよ。たまには頼りにされたいとか、守ってあげたいとか思わないワケ?」


 ガン! ガン! ズキン! ズキンッ!


 甘え。そうだ。オレはメイお姉さんに甘えている。

 自分の都合で生意気な態度をとってしまった時も、格好良い大人の女性だからといって無意識に寄りかかってしまっている今も。

 

 最愛の湖宵にもだ。

 あんなに心配させて悲しませて。 

 その上、身体を大事にして欲しいという優しい願いを裏切った。


 将来のことをキチンと考えて努力をしている一人前の男の振りして……。


 反抗期。

 正に母さんの言う通りだ。


 オレは反抗期だったんだ。

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