裏70話 新年早々ビックリ波状攻撃! 高二 三学期
「高波っチに繊月っチ♪ おハロハロ~♪ 今年もヨロヨロ♪ 三学期もガンバってこ~ね♪」
新学期に良いスタートを切るべく、背筋をビッと伸ばして校門をくぐろうとした矢先のことだ。
突然見知らぬ女子生徒に横から声をかけられた。
「ちょっと三五ぉ! ま~た新しい女の子ぉ!? ほんっとウチの旦那様ったら世界一モテるんだから!」
「イヤイヤ! 知らない娘だって! 湖宵の新しいお友達なんじゃないの!?」
「ボクだって知らないよぉ!」
やっぱりそうだよね。
オレと湖宵は大抵いつも一緒だから湖宵が知らない娘をオレが知ってるワケも無いし、逆もまた然りだ。
というかこんな娘ウチの学校に居た!?
ブレザーのリボンの色から察するにオレ達と同学年らしいのだが……?
「本当に失礼なんだけど、オレ達会ったこと無いよね!? 絶対初対面だよね!?」
「ブッブ~♪ 違うヨンヨ~ン♪」
「ウソでしょ!? だってボク、キミみたいなアクが強……ムニャムニャ。か、可愛くて華のある娘、絶対に一目見たら忘れないって!」
「ありがとヨンヨン♪」
湖宵の言う通り、この女の子はかな~り印象的で一度お目にかかったらちょっと忘れられそうにない。
明るい声色で紡がれる特徴的なボキャブラリーもさることながら、パッチリお目々に長~い睫毛、クルクル巻き毛のミニ縦ロール、スラッと長い脚、モデルの様な立ち姿……等々の姫感溢るる容姿は目立ちまくって仕様が無い。
ハッキリ言って廊下ですれ違ったら二度見するし、ウワサにだってならないワケが無い。
転校生……がオレ達のこと知ってるのはおかしいし、あっれぇ~? それじゃあもう心当たりっつ~モンが皆無なんだが?
この娘の正体は一体!?
「ヒントあげチャオ♪ 私の名前はぁ、 「相葉 獅子」 ……でした♪」
何じゃそのヒントは!?
名前言うって、それもう答えじゃん!?
あと 「でした」 って何だよ 「でした」 って!?
ツッコミが追い付かねぇよ……って、ん?
相葉? 相葉 獅子だって?
オレはその名前をよ~く知っているぞ。
つ~かクラスメイトの名前だわ。
獅子と書いてレオと読む男らしい名前が持つイメージとは合わない、柔らかい物腰の……少年の名前だ。
「もしかして……メガネきゅん?」
そう。メガネきゅんというアダ名で、誤解を恐れずに言うなら良い意味で空気の様な男の子。
オレやPANSYのような問題児とは絡まない (泣) 品行方正な優等生。
運動はそこそこだけどその他の成績はバツグン。
大人しく真面目で身形はいつもパリッと清潔。
ビン底メガネがトレードマークで南アルプスの美味しい空気の様な透明感のある少年。
それがメガネきゅんだったんだけど……。
「高波っチ、ピポピポピンポン♪ 私ってば元メガネきゅんで今はコンタクトレンズちゃんになったのデスデス♪」
ビックリ! 本当にメガネきゅんだった!
いや~、ヒント貰っても難しかったわ。
全然面影無いし、抑圧から解放されたせいか人が変わっちゃってるし。
でもなるほどね~。
メガネきゅんもそうだったんだ。
オレがウンウンと納得している反面、湖宵はカチーンと固まっちゃってる。
たっぷり時間をかけて頭の中で情報を処理しているようだ。
「……………………………………………………は? はああああぁぁぁぁぁ~~~っっっ!?? いやいやいやいや! いやいやいやいやいやいやいや! 違うでしょ!? メガネからコンタクトに変わったとかいう些細な次元の話じゃないでしょおおぉぉぉ~っ!??」
おっ。湖宵が再起動した。
「Q · 極 · T · S · しちゃってる · じゃん! 二学期までは男の子! だったのに! 新学期になったら女の子に! 女 · の · 子! に · なっちゃってる · じゃああぁぁぁ~んっ!」
ダメだってばさ、湖宵。
そんなことを校門なんかで叫んじゃあ。
「元メガネきゅんが変な目で見られちゃうよ。少し落ち着いて、湖宵」
「おちつ!? おち、落ち着けって!? はあぁぁ!? だってさぁ! 朝学校に来てみたらさぁ! 男の子だったクラスメイトが突然女の子になってんだよ!? コレ普通驚くっしょぉぉぉ!? 逆に三五こそ何でそんなに落ち着いてんのさ!?」
何でって……。
湖宵がオレにそれを問いますか……。
「オレはさぁ、ある日突然幼馴染みの親友が 「今からQ極TSカプセルで♀になりマ-ス♪」 とか言い出して……」
「ハイその節はどうもすいませんでしたぁぁ~っ!」
湖宵が腰をビシッと90度曲げて謝罪してくる。
う~ん、美しいおじぎだ。
「サプライズされる側になって初めてわかった……! こんなにビックリするんだね。地味に世界が変わっちゃった~、みたいなカンジ」
「ニャハハハ♪ ゴメンね繊月っチ♪」
元メガネきゅんがコホンと咳払いをひとつすると、彼女の雰囲気がガラッと変わった。
そして見違えるような凛とした佇まいになり、改めてオレ達に挨拶をしてくれるのだった。
「私、相葉 獅子はこの度Q極TSカプセルを飲んで女の子になりました。新しい名前は相葉 恋と申します。改めて今後ともよろしくお願いします」
「「お、おお~っ!」」
パチパチパチパチ。
レオ君からレンさんへ。
彼女の新しい門出を拍手で祝う。
まさかメガネきゅんも湖宵と同じくQ極TSカプセルを飲んでいたなんてね。
ん? ちょっと待てよ?
でも気になる点が一つある。
「Q極TSカプセルの効き目って一ヶ月だけだよね? 恋さんは今、お試しでQ極TSしているのかな? また男子の姿に変わったりする?」
「お試しと言えばお試しかな。今は実際に女の子の生活を体験する段階なの。その後に最終意思確認を経て完璧な女の子になるの。だからもう男の子にはならないよ」
キッパリと言い切る恋さん。
「あのね、三五。カプセルでQ極TSした状態で更に投薬治療を一年間くらい行うと、性別が定着して変わらなくなるの。それが今一番身体に負担が掛からない方法なんだよ」
「そう! 私のQ極TS計画は間も無く最終段階に移行する! そしたら晴れてズ~ッと女の子でいられるおクスリが貰えるノンノン♪ あ゛~、欲しい~! 早くおクスリ欲しいぃぃ~!」
よっぽど嬉しいんだなあ。
ハシャギ過ぎてテンションが向こう側に行ってる。
「その喜びよう、貴女も三五の正妻の座を狙っているんだね……! だ ・ け ・ ど! 三五の妻はこのボクだけだぁぁ! 誰にも譲らないぞっ! でも FC 入会は認可する!」
湖宵ってば臨機応変!
「高波っチは素敵な人だと思うけどぉ、FCには入らないヨンヨン♪」
「バ、バカな! Q極TS女子が三五FCに入らない!? そんなのアリエナイ!」
湖宵ってば視野狭窄。
オレからしてみれば自分にFCがあるのが不思議でならないよ。
大多数の女子生徒からはいまだに避けられているしね。
エロ過ぎる人とか言われて。
「だって~、他の男の人のFCに入るだなんて、キャレプゥィップゥィに悪いモンモン♪」
は? 何て? キャレ……何?
「キャレプゥィップゥィ」
だからそれ何さ!?
キャレプゥィップゥィ……キャレ……ああ、カレピッピって言いたいの?
つか、日本語じゃん! 和製英語ですらないじゃん!
何でネイティブ風に言うんだ……って、何ィ!? 今何て言った?
カ、カレピッピ? って、カ、カレシ?
えええぇぇ~っ!?
「「カレシ!? カレシいるのおぉ!?」」
まさかのサプライズ二連!
Q極TSしたばかりでもうカレシがいるとは!
「相手は従兄弟のお兄ちゃんでぇ~、性の不一致で悩んでた私をず~っと支えてくれたの♡ 実は男の子の頃からお付き合いしてたのヨンヨン♡」
うおおぉぉぉ~っ!?
い、息を吐かさぬサプライズ三連んん~っ!?
従兄弟のお兄さんスゲェ!
身体の性にとらわれず、恋さんの心に誰よりも寄り添った結果、生まれた感情……。
艱難辛苦に立ち向かいながら二人で大切に育んでいった感情……。
それは、正に、正に!
真実の愛に他ならない!
あぁ~! 感動だなぁ!
新しい時代に芽生えた新しい愛の形!
こんなドラマが身近にあったなんて!
事実は小説より奇なりかずき君だね!
「奇なりかずき君は関係無いでしょ。あと三五さあ、何をそんなにビックリしてんの?」
「何でって、えぇ~!? 湖宵こそ何でそんなにシラ~っとしてんの!? こんな話聞いたら感動するでしょ普通!?」
「いやいやいやいや。三五だって男の子の姿のこのボクをた~っぷり可愛がってくれてるじゃん。ボクは卒業するまでは友達のままだよって言ったのにさあ」
うわああぁぁ~! そうじゃん!
そう言えばそうじゃん!
オレってば男の子の姿の湖宵を女の子のこよいの時と変わらずに愛してるじゃん!
オレも真実の愛を体現してた!
てゆ~かオレこそが第一人者だった!
いや~、湖宵と恋愛することって、オレにとっては極々自然なことだから特別なことをしているって自覚はこれっぽっちも無かったんだよね。
でも第三者の視点からQ極TS女子の恋愛模様を眺めてみると……なるほど。
色々大変だろうなあ、とか強い絆が無ければ茨の道だろうなあ、という感慨に浸って胸が熱くなる。
自分と全く同じ立場だというのに。
「あら、いっけない。始業式に遅れちゃう。さあ二人共、急ごうヨンヨン♪」
ピュ~ッと軽やかに走って校舎に入っていく恋さん。
だけどもオレと湖宵は波立つ心を静めるのに忙しくて、すぐには彼女の後を追えずにいた。
「……湖宵さあ。何て言うか、意外と自分のことって見えてないモンなんだね」
「本当にね。客観的に自分の姿を見せられたみたいで度肝抜かれちゃった。おまけにビックリしたこと自体にビックリして二倍ビックリだよ……」
やがて歩き出したオレ達だったが、その足取りは新学期のスタートを切るのに相応しいとはとても言えないフワッフワしたものだった。
講堂で始業式をした後はすっかり慣れ親しんだ我らが教室へ。
きっとお正月ボケしたクラスメイト達は今日からまたいつもの日常が始まるんだ~とか思っているのだろう。
ククク、甘ぇよ?
何てったって今からマジメ優等生のメガネボーイ ・ 獅子君がハイテンション姫系ガール ・ 恋さんに大変身! という超ド級サプライズがオメ~らを待ってるんだからなぁ!
オレと湖宵だけ驚かされるのはシャクだ。
皆にもたっぷり驚いてもらわないとな。
「HR を始める前に相葉から皆に大事な報告がある。相葉、前へ」
「はいっ」
おっ、始まるぞ。
影知先生に呼ばれた恋さんが教壇に向かう。
「あれ? あの娘だれ? ウチのクラスに居た?」
「うわ、ちょ~可愛い!」
「相葉って、あれ? メガネきゅんじゃないじゃん?」
「親戚とか?」
「だとしたら肝心のメガネきゅん本人はどこ行った?」
シメシメ。にわかにザワついてきたぞ♪
それでは衝撃の重大発表、どうぞ!
「どうも~! 元相葉 獅子で~す! この度Q極TSして女の子になりました~! 新しい名前は恋です♪ よろしくネンネン♪」
「「「「ええ~!? ビックリ! メガネきゅんだったの~!? 実はQ極TS女子だったんだね~! これからもよろしく~!」」」」
「ウッキィ~♡ 美人なクラスメイトが出来て嬉しいっキィ~♡」
「「えぇ~!? 皆、反応薄くない!?」」
いやいやいやいや!
確かに驚いてなくはないんだけども、余りにもアッサリ受け入れ過ぎでしょう!?
意味がわからん程に頭が柔らかいぞ、ウチのクラス!
ま~たオレと湖宵だけが驚かされてしまった。
「はぁ~? 何おバカなこと言ってるのよ、貴方達」
「私達、こよこよとさんさんにい~っぱい驚かされちゃったお陰で……」
「耐性がついちゃってますからね♪」
「「「「然り然り」」」」
小海、ユイ、だいずちゃんの指摘にクラスの皆が深々と頷く。
凄く実感がこもってる!
「「え~!? マ~ジで!?」」
どうやらオレと湖宵の恋は自分達で思っていたよりも遥かに皆を混乱させていたみたいだ。
本当に自分のことって自分ではわからないものなんだなあ……。
恋さんのお陰で鏡越しに自分達の姿を見ることが出来たオレと湖宵。
新学期一発目から心底驚かされてしまったけれど、クラスメイトの気持ちを共感して彼等に一歩歩み寄ることが出来た。
ありがとう、恋さん。これからもよろしくね!