裏63話 皆で楽しく最後まで ⑦ 井戸端会議でお江戸トーク 高二 二学期
最近話題のあのドラマ。
皆が知ってる有名コミック原作のあの映画。
そんな作品達に登場してきた、あるいはこれから登場するであろうセットを見学して撮影所の空気を肌で感じることが出来るのが、太秦映画村の一番の目玉である江戸時代のオープンセットだ。
「三五、見て見て♪ TVとかマンガとかで出てくる江戸時代の風景そっくりだよ。凄いね~」
そう言ってオレの袖を引いてくる湖宵こそ、町娘の桃色着物が実に良く似合っていてバッチリ風景に溶け込んでいる。
まあヘアアレンジこそ現代風だけれども。
だけどもしもキチンと江戸時代風に髪を結ったなら 「あれ? オレって本当に江戸時代に迷い混んじゃったのかな?」 と思ってしまうに違いない。
「それにしても三五って意外とノリ悪いのね。折角の機会なんだから江戸時代の扮装に着替えれば良かったのに」
小海からの厳しいダメ出し!
この人ってホント思ったことを何でもズケズケ言うよな~。
「こみこみ辛辣w でも確かに意外かもね~」
「良いのっ! 三五は何着てもカッコ良いからっ! ……と、言いつつもボクも三五のお侍さん姿とか見たかったかな~、なんて」
ええ~!? 何故だかオレだけノリ悪いヤツみたいな扱い受けてる!
男子は皆制服なのに!
「違うんだって! オレだって私服で来たなら扮装するよ? でもさぁ、ホラ、今は制服着てるじゃん? 制服姿でお江戸の町並みを歩くのって何かこう、良くない?」
例えば神隠しにあって別世界に連れて来られてしまった、みたいな気分が味わえてとても趣深い。
自分はこの時代ではイレギュラーな存在なんだ……てな感じで。
「わかる。物語の主人公になったみて~な感じするよな」
「ロマンあるよな。 「バカな……時を越えた……だと!?」 とか言っちゃったりなんかして」
「ウキキィ! どう見ても身元不明の不振人物である主人公 (オレ) のお世話を甲斐甲斐しく焼いてくれる現地ヒロインとの出会いも忘れちゃいけないキィ! お約束のラブロマンスっキィ~!」
理解を示してくれた男子達とタイムスリップトークで盛り上がる。
「男のロマンというヤツなのでしょうか? 私にはよくわかんないです」
コテンと首をかしげるだいずちゃん。
女の子には伝わりづらかったかな。
それでも湖宵なら。
精神が女子でも、男子としてオレと一緒に過ごしてきた経験のある湖宵なら、きっとわかってくれるハズ!
「まぁわかるけどさぁ。でもボク、男子の制服着るの好きじゃないもん。男子として一緒にタイムスリップするより現地ヒロインとして三五のお世話をするほうが断然イイっ♡」
あぁ~そりゃそうか。
湖宵的には男子高校生の姿でお江戸を歩いても面白さ半減か。
だったら卒業後にQ極TSしてからまたここに来るのはどうだろう。
その際には女子高生のコスプレをして……って、ま、待てよ♡ それは趣旨が全然変わってくるぞっ♡ ドキドキはドキドキでもイケないお遊びのドキドキだぁ~っ♡
「ロマンというかTVの見過ぎなんじゃない?」
小海ってマジ辛辣!
え~い、もういいよ!
入口でダラダラくっちゃべってないでそろそろ見て回ろうぜ!
長屋、茶店、寺子屋に髪結い屋さんにお風呂屋さん。
庶民文化を大いに発展させた江戸時代の建築物は深い親しみを感じさせてくれる。
そして同時に障子紙や虫籠窓で通風 ・ 採光をする工夫などから見て取れる機能美や、カラフルなのれん、可愛いちょうちん、渋い木燈籠などの洗練されたデザインの素晴らしさにも感じ入ってしまう。
もしもオレが江戸時代にタイムスリップしたら現代知識を使って成り上がってやるぜ~! なんて妄想を昔したことがあるけれど、これ程までに完成された文化にテコ入れしようと思ったらそれこそ黒船来航クラスの特大インパクトがなければ不可能だろう。
オレ個人がタイムスリップしたところで長屋暮らしでも出来ればまぁ上等な部類に入るんじゃないかな。
「長屋かぁ……。オレ達のご先祖様も長屋で暮らしたことあるのかなあ? なあ、ゼロツー」
「そうだなあ。そうなってくると家賃がいくらかが気にかかってくるよな、ゼロワン」
「表通りの裏路地に密集している長屋を裏長屋っていって、六畳一間で月に約一万円くらいらしいわよ」
「「へぇ~!」」
CT 01 ・ 02の素朴な疑問に小海が答えてくれた。
色々なことを良く知っているなあ、小海は。
「安~い♪ アルバイトすれば私でも長屋が借りられちゃいますね♪ 皆、絶対に遊びに来てね♪ な~んて♪」
「甘いわね、だいず。家財道具は店子がぜ~んぶ用意しなければならないの。畳もよ! 畳も! だから結局のところ出費はかさむのよ」
「え~っ!?」
畳もかよ! アレって家借りたらセットで付いてくるのが当然だと思ってたわ。
江戸時代では別売りなのか……。
「あのね、こみこみ。ちょっと気になったんだけどお江戸の町って木と紙でできたお家がズラ~ッと並んでるじゃない? もし火事になったらヤバくない? あっと言う間に燃え広がっちゃうんじゃないの?」
「ヤバいわよ。火事はお江戸の天敵なんだから。だからね、長屋に火が着いちゃったら延焼しないウチに叩き壊しちゃうの! その為にこんなペラッペラの安普請なのよ、裏長屋って」
「ええ~っ!? 酷い!」
「なっ、長屋ぁ~っ!」
「家財道具がお家の中にあるんですけど!」
「せっかく買った畳もだよ!」
そんなの大変過ぎる。
それなのに 「火事と喧嘩は江戸の華」 とか「宵越しの銭は持たない」 とかよく言っていられたもんだ。
江戸時代の人って心が強いっていうか気風が良いんだね。
「それにしても長屋トーク面白いな。ついつい話し込んじゃったよ」
「そうですね、三五くん。湖宵チャンさまと井戸を囲んでリアル井戸端会議♪ 楽し過ぎです♪ ず~っとお話していたいです♪」
「ちょっと三五にだいずちゃ~ん! そんなの時間がもったいないじゃん! 早く次に行こ~よぉ! ホラホラ皆もぉ!」
湖宵はオレとだいずちゃんの手を力一杯握って早く早くと急かしてくる。
「わ、わかったからそんなに引っ張らないでよ、湖宵」
「キャ~ッ♡ 湖宵チャンさまっ、どこまでもついていきますぅ~っ♡」
他の皆も慣れたものでやれやれ、ってな感じで後についてきてくれる。
息ピッタリだね、ウチの班。
湖宵に先導されたオレ達が次にやって来たのは 「め組」 の家だ。
め組とは言わずと知れた火消……江戸時代の消防団のことで、言うなれば正義のヒーロー! 皆の憧れなのだ。
オレ達はめ組と書かれたちょうちんや竹製の梯子、旗印の役割を果たすマストアイテム · 纏などを興味深く見学させてもらった。
「長屋をブッ壊す為の武器はどこキィ?」
「どっかにトゲ付きの棍棒とかがしまってあるんだぜ、きっと」
長屋トークのせいで火消 = 長屋ブレイカーみたいになってる!
オメーら違うから! 火消はヒーローだから! 決してならず者じゃないから!
「火消の人達って消火そっちのけで喧嘩ばっかりしていたって話だから、そんなの持たせたら死人が出るわよ。実際はとんがった鉄の鉤がくっついた鳶口って棒で長屋を壊してたんですって。それも喧嘩の道具としても活躍していたんだけど」
えっ? そうなの、小海?
それじゃあもしかして火消の人達ってバカ……? いや! 違う! 違うな! きっと貧乏が悪いんだよ! そうだ! そうに違いない!
め組の家を出たら大店と呼ばれる大型の商店が立ち並ぶ通りを見に行く。
ここは現代で言うところの商店街だろうか?
ちょっと豪華過ぎるけど。
呉服問屋に材木問屋に薬種問屋。
どのお店も白壁造りの立派な店構えだ。
まるで小さなお城の様なお店の外観を見ていたら、ふと疑問が湧いてきた。
「この白い壁って材質は何なの?」
「土壁に漆喰を塗っているんですって。湿度調節が出来て火に強いのよ」
「え~っ!? ズルくね!? 長屋は火が着いたら一発でお終いなのに!」
「お店の敷地内にあらかじめ奉公人に穴を掘らせといて、火事になったら商品とか財産とかを埋めさせて燃えないようにもしていたらしいわよ」
「な~んだそりゃ。か~っ、やっぱお金持ちは貧乏人とは違うよな~。まあわかるんだけどさぁ~」
「あ、あのぉ~……」
それでも世の無情を感じるよなぁ、と肩をすくめているオレに湖宵がおずおずと声をかけてきた。
な、何だか湖宵、青い顔してない? 一体どうしたの!?
「あ、あの、三五? ボクのお家、お金持ちなんだけど……江戸時代の時とか絶対に白壁の大っきな倉に沢山のお金をしまってたと思うんだけど……」
アッ! アアア~ッ!?
そうじゃん! 湖宵んちって超が付くレベルのお金持ちじゃん! いや、忘れてたワケじゃないんだけど!
ウッワ~! やっちまったあぁ~! 何わかった様な口振りでお金持ち批判してんだオレはぁぁ!
「本当ゴメン湖宵! 繊月家の人達は皆優しいから、イヤミなお金持ちのイメージと結び付かなくて! それで!」
「ボ、ボク……わ、わたし、三五のお家にお嫁にいくけど、それでも生まれた家は……だから。面倒な親戚付き合いとかもあるし……。ゴ、ゴメンね? 嫌いにならないでねっ? と、とりあえず、土下座しても良い?」
うおぉぉ~っ! 湖宵の情緒がめちゃくちゃ不安定だァァ~ッ!
土下座するべきはこのオレ!
というより申し訳無さが重力となってのし掛かり、既にオレはこの場に正座していた。
そして前傾し、額を地面に擦り付ける!
「申し訳ございませんでしたァァ! 日頃お世話になっているにも関わらず! 繊月家の皆様の名誉を傷付ける失言を吐いたこの愚かな私めを! どうかお許し下さい湖宵様ァァ!」
「うぎゃ~っ! 止めて三五頭を上げてぇ~っ!」
ダメなんだよぉ、湖宵ィ! 申し訳無さで頭が上がらないんだよぉぉ!
ザワザワと周りが騒がしくなってしまったのがわかるが、それでも自分にはどうにもならない!
「アラアラウフフ♪ 三五くんったら、プレイボーイらしからぬ失態ですね♪ プクク♪」
「ウキャ~ッキャッキャッ♪」 パンパンパン♪ (←手をリズミカルに叩いている)
何笑ってんだ! だいず & 猿ゥゥ! やはりお前ら敵か!? 敵なのか!?
「ウチもお金持ちだから私にもちょっとだけ謝ってほしいわ、三五♪」
こんチクショウ小海ィィィ! 上等だぁ! 謝ったらぁぁ!
「こみこみのおバカ! えいっ!」
ズビシィッ! (←水平チョップ)
「はぐぅぅっ!」
土下座形態のまま小海の方向に向き直ったタイミングでユイが小海に制裁をくわえた。
「さ、さんさん、アッチ! アッチに行きましょ? 大きな橋があるの! そこから町並みや景色を眺めたらきっと気持ちが落ち着くよ? ね?」
「ううぅ……ユイィ~」
ユイの優しい心遣いが沁みてようやく頭を上げることが出来た。
「1ちゃん、2ちゃん。さんさんを立たせてあげて。まめまめはこよこよを見てあげて」
「「OK! My Mistress!」」
「はいは~い♪ 湖宵チャンさま~♪ こっちですよ~♪」
「うぅ~三五ぉ~」
「ユ、ユイ、ご、ごめんなさい。怒らないで……三五もごめんなさい……」
ユイの指揮の元、オレ達は集まった人の波を掻き分けて見事この場を切り抜けられたのだった。
うん、そうだな。ユイの言う通りだ。
橋の上から見る景色で心を洗って、楽しい楽しいお江戸散策を仕切り直そうじゃないか!