裏61話 皆で楽しく最後まで ⑤ お騒がせ☆アオハランチ☆ 高二 二学期
「皆さん♪ 今日はですね、私も皆さんとランチをご一緒したいと思いま~す♪」
おおっとぉ。公私混同バスガイドの戸塚 イコさんが何か言い出したぞぉ。
ま~たオレの班に転がり込もうってんだな?
「ハイハ~イ! ウチの班に来て!」
「いやいやオレ達の班に!」
「私達の班~!」
おやおや。イコさんったら大人気。
彼らを無視して無理矢理オレの班に来たらカドが立つぞ。
一体どうするのかな?
「どちらの班にお邪魔するかはクジで決めます♪ 班の代表の方にクジを引いてもらって、アタリが出た班とご一緒したいと思いま~す♪」
なるほどね。それなら公平だ。
ウチのクラスの班は4つ。
つまりオレの班がアタリを引く確率は25% 。イコさん的にもさほど分の悪くない賭けってことか。
「フフフ……ボクが引きに行ってくるよ。皆待っててね。これ以上誰にも三五とイチャイチャさせないから……!」
目が据わった湖宵が有無を言わさぬ勢いでイコさんの元へ向かった。大丈夫かなぁ。
「ではこちらの袋に入っているクジを順番に引いていって下さ~い♪ ハイどうぞ♪ ハイどうぞ~♪」
イコさんが透明なビニールバッグに入っているクジを班の代表者達に引かせていく。
さぁて、運命の結果や如何に?
「うぎゃ~っ! アタっちゃった~っ!」
「「「あ~、残念」」」
え~っ!? 湖宵の引いたクジにデカデカとアタリの文字が! マジで!? 本当に25%の確率を引いちゃったよオイ!
湖宵クジ運悪いなあ。
というよりイコさんの運が良いのか。
何もかも彼女の狙い通り…………って、まさかイカサマしてないよね?
自分から代表者に近寄ってクジを引かせたところが怪しい? 一見何の変哲も無いように見えるあのビニールバッグに実は細工が?
……ハッ! オレは何を考えているんだ! 人を疑うのは良くない!
バカバカ! オレのバカ!
それにオレを慕ってくれるイコさんに対して、してあげられることは余りにも少ない。
ここはイカサマなど無かったと素直に信じて偶然を喜ぼう。
「おお~こんなことってあるんだ~。凄いラッキーじゃ~ん! (棒読み)」
「ギクリ! さささ、三五さん! そそ、そうですね! ラッキー! これはラッキーなのです!」
「そ、そんなぁ~三五ぉ~! イコさんのことがそんなに気に入っちゃったのぉ!?」
ショックを受けて闇のオーラを放ちそうになった湖宵をむぎゅ~っと抱き締める。
「ひゃあぁぁっ! さ、三五ぉ!? ななな、何してるのぉ!?」
「ん~? 特別扱いしてる」
そう。いくら他の女の子と親交を深めようとも、こんな風に抱っこして持ち上げてほっぺたをスリスリしたりはしない。
例え相手が望んでもしてあげられない。
こんなことをするのはお嫁さんである湖宵とだけだ。
「んもぉ~♡ 三五ったらぁ♡ ダメだよ~皆見てるんだからぁ♡ ホント三五ったら甘えんぼさんで困っちゃう♡」
オレの言いたいことが100%伝わり、たちまち湖宵のご機嫌が直った。
「くうぅっ。正妻さま強過ぎますっ」
「ムフフ~♪ 特別に三五のお向かいの席に座るのを許可しちゃいますっ。三五のお隣は譲れないけどねん♪」
「くうぅ~っ! はっ、ははぁ~っ!」
万事解決! お店にGOだ!
今日のランチは手織り寿司。
手織り寿司というのは一言で言えば見た目が凄くオシャレな手巻き寿司だ。
織物の様に美しいことが名前の由来らしい。
運ばれてきたお膳の上にはお茶碗によそわれた酢飯にお吸い物、お皿に飾る様に盛り付けられた寿司ネタに薬味各種が乗っている。
「わ~♪ 何て華やかなお食事♪」
「彩り豊かね♪ 食べるのもったいな~い♪」
「映える~♪」
「こんなの初めてだ! 凄い!」
女子だけでなく男子までもが色めき立ち、大喜びで写真を撮っている。
オレはお店の食事をスマホでパシャパシャするのはお行儀が悪いと常々思っているのだが、この一膳だけは例外とさせて頂きたい。
だって美し過ぎる!
特に長方形のお皿に旬のお魚や京野菜などの具材が整然と並べられた姿は芸術の域だ。
オレも主義を曲げて一枚写真に残させてもらった。
存分に目の保養をしたらいよいよ実食。
軽く手を合わせて 「いただきます」 をしたら早速、自分オリジナルチョイスの手織り寿司にかぶり……つかない。
その前に一つやることがあるのだ。
「湖宵のはオレが巻いてあげるね」
「あら~♡ 何て嬉しいサービス♡ 三五ってば満点ダーリン♡」
焼きもちを妬かせてしまったら3倍尽くす! それが夫婦円満の秘訣だぜ!
さて巻きすに海苔を乗せまして、酢飯を薄~く敷いていく。
お次にマグロ、アボカド、甘エビ、イクラ……色々な種類のネタをちょ~っとずつ乗せて、ハケで醤油をペタペタペタ。
白ゴマパラパラ、ワサビをチョンチョン。
最後にお寿司をクレープみたいにクルクルクル~ッと巻けば……。
「ハイ完成! 三五特製 “絶対美味しい巻き” ~!」
「ウワ~! コレ絶対美味しいヤツゥ~♡」
更にサービス! お口元までお寿司を運んであげちゃう。
「はい湖宵ちゃ~ん、あ~んして~」
「あぁ~ん♡ ん~っ♡ んまままぁぁぁ~っ♡ 何って約束された美味しさ♡ 頭がパチパチするぅぅ~っ♡」
湖宵ってば幸せそうな良い笑顔だね♪
「三五の分はお返しにボクが巻き巻きしてあげるからね♡ え~っと、具はヒラメちゃんの白身に生麩に九条ネギ。味付けは控え目にして素材の味を引き立ててっと……巻き巻き巻き~! ハイ完成! 三五、あ~んして♡」
「あ~ん、モグモグモグ。んんっ! 美味いっ! コレは美味いぞ~っ!」
まず最初に海苔の上品な香りが鼻を通り抜け、次に酢飯の味が口一杯に広がる。甘い。これは普通のものよりかなり甘いぞ。
だがその甘みが淡白なヒラメと生麩の味を際立たせる。
食感も堪らない。
九条ネギの辛みとシャキシャキさのアクセントも very Good だ。
何よりもシチュエーションが最高だ。
他の生徒が見ている中で最愛の妻♂️と食べさせ合いっこするこの優越感! 脳が快楽物質を生み出す!
二重の意味で美味しいぜ! (クソゲス食レポ)
オレと湖宵は美味しいね美味しいねとご満悦。
「あっ、あのぉっ! ご歓談中のところ申し訳ありません! 私も三五さんにお寿司巻き巻きして欲しいですぅぅ! 正妻さま! 何卒! 何卒ご許可を! お恵みをぉぉ~っ!」
何気にオレ達の様子を伺って話し掛けるタイミングを計っていたイコさんだったが、遂に我慢出来ずに割り込んでおねだりしてきた。
「全くしょ~がないなぁ~。三五、巻いて差し上げて♪」
「アイアイ ・ マム!」
ご機嫌湖宵ちゃんから許可が下りたので巻いてあげちゃおう。
イコさんの好きな具は? サーモン?
じゃあサーモンの刺身を乗っけて片面に醤油をペタペタ、反対の面にはクリームチーズをペタペタ。
イクラも乗っけて親子コラボ。
最後に紅葉の形に飾り切りされたニンジンを添えて巻いたら完成!
正に秋! ってカンジの仕上がりだ。
題して……。
「“絶対美味しい巻き Heaven’s Fall Edition” !」
「クスクス♪ 名前長っ♪ さあ三五、あ~んもしてあげて♪」
何という寛容さ! 湖宵凄い!
それじゃあ失礼して……。
「イコさん、あ~んして下さ~い」
「は、はひぃっ♡ あ、あ、あ~ん……ぱくっ。ンアアアァァァ~ッ! ナニコレェェェ! アリエナイほど美味シイィィ~ッ! アッ、アッ、そ、それのみならず!? のみならず!? 頭が!? 脳が!? パチパチしてぇぇ!? 視界が赤く染まって……み、見えりゅぅぅ♡ 秋色の天国がぁぁ♡ 見ィィえェェりゅうゥゥ~ッ♡」
うるさいんだけど! ここお店なんだけど!
「あら、良いわね♪ 三五、私のも巻き巻きしてくれない?」
世界一マイペースな人が何か言ってる!
「こっちはそれどころじゃないよ小海ィ! 隣に座ってる01に巻いてもらいなよ! てか湖宵、この人ホントどうしよう!? 大問題になっちゃうよ!」
「う~ん、逆にドンドンお口にお寿司を詰めまくっちゃえば良いんじゃない?」
その発想は無かった。よ~し、巻きまくるぜ!
「三五ってば仕方が無いわね。じゃあ1ちゃん、巻いて下さる?」
「は、はいっ! オレで良ければ喜んで!」
「ウフフ♪ よろしくてよ♪」
気分が良くなった小海は扇子を取り出して優雅に扇いでみせた。
良いご身分だなぁ。
「猿ちゃん達のは私が巻いてあげる♪ 巻き巻き……っと。うん、キレイに巻けた♪ はい猿ちゃん、あ~ん♪」
「あああ、あ~ん……。ふぐっ! あぐぅぅっ! このオレが、猿なオレが、女の子にこんなに優しくしてもらえるなんてぇぇ! ウキィィィ~ッ! すみません~っ! 猿ですみません~っ!」
ユイの慈悲により PANSY が浄化された!?
「2ちゃんもどうぞ♪ はいあ~ん♪」
「あ、ありがとう……あ~ん。モグモグ。あ、あのさ! 人のお世話ばっかりじゃなくてユイさんも食べてくれよ! オレで良ければ巻くからさ!」
「アラ♪ じゃあお願いしちゃおうかな♪」
向こうのテーブルは平和だなぁ。
「湖宵チャンさまぁ……私にもぉ……」
オレが一生懸命イコさんに手織り寿司を食べさせてる横で、だいずちゃんが自分とも食べさせ合いっこしてして欲しいと湖宵におねだりしていた。
「ん~? それじゃあ美味しそうなのを一杯乗っけてあげるね♪ そんで巻き巻きっと。はい、あ~ん♪」
「あぁぁぁん♡ ぱくっ♡ ンアアァァ~ッ♡ キクゥゥゥ~ッ♡ 天国までトンでっちゃうぅぅ♡」
だいずちゃんまで発狂した!
騒音値2倍!
「ヤッバ! このままじゃお店追い出される! だいずちゃんのお口にもお寿司突っ込みまくらないと!」
「もぐっ♡ はぐっ♡ まぐうぅぅ♡」
湖宵の寿司巻きペース速い! オレも負けずに巻くぜ!
気持ちを込めて巻いた寿司をイコさんのお口にシュートォォ!
「ふぎゅぅぅん♡ ふん~っ♡ ふんんっ♡」
オレ達の班は仲良く大騒ぎ。
だけど他の班も騒ぎにアテられたのか、どうやら少しずつ様子が変わってきたようだ。
「あのさ、オレ達も……」
「えっ? えっ? ホ、ホントにするの……?」
「よ、良かったら私の手織り寿司食べてっ!」
「い、良いの? あ、ありがとうっ!」
「き、君のことが、寿司ですっ!」
「何か混ざってない!?」
「ハ、ハイ、あ~んしてっ? 勘違いしないでよねっ! いつものお礼ってだけだから!」
イコさんとだいずちゃんが ♡♡ のお目々でパッタリ昇天した後、周りを見回してビックリ。
あれ!? いつの間にかウチのクラスの男子と女子がお互いに食べさせ合いっこしてる!?
「オイオイ! 何か皆がイイ感じになってる! アオハルじゃん!」
「負けてらんないね♡ ボク達もラブラブ♡アオハルランチしよっ、三五♡」
「三五しゃぁぁ~ん♡」
「湖宵チャンしゃまぁぁ♡」
オレと湖宵はそれぞれのヒザにイコさんとだいずちゃんを乗せたまま、手織り寿司の食べさせ合いっこを再開した。
他のテーブルも仲良く盛り上がっている。
幸せなランチタイムを提供してくれたこのお店に心から感謝の言葉を贈りたい。
こんなダメダメなオレ達を追い出さないでくれて、本当にありがとうございまぁぁす!