裏60話 皆で楽しく最後まで ④ ユイの姉みは深い 高二 二学期
仁和寺は紅葉の名所である……などと自信満々に語ったら、きっと多くの人に首を傾げられることだろう。
何故って京都には他に紅葉の名所が沢山あるし、仁和寺は誰がどう考えても春の名所だからだ。
仁和寺の桜は “御室桜” といって京都で一番遅く咲く桜として有名だ。
更に背が低いため搭などの建築物との親和性はバッチリ。
国の名勝に指定され、数多くの和歌が詠まれ、庶民文化人を問わずに親しまれてきたスーパー愛され桜なのだ。
おまけに仁和寺のお守りは桜色のものや桜をモチーフにしたものが滅法多いときた。
故に仁和寺が一番輝く季節は春。
だが逆に言えば秋は比較的お客さんが少なめで落ち着いて散策が出来る好スポットになるということだ。
それに桜と同じで紅葉も遅い時期まで見頃が続くとのことなので他の名所とはまた違った魅力があるのだ。
錦秋の砌の仁和寺紅葉、皆で思いきり愛でようじゃないか!
京都では珍しい道路沿いに面した門 “二王門” をくぐり意気揚々と境内に馳せ参じた我ら生徒一行。
まず初めに足を運んだのは五重の塔。
思えば今回の旅行では様々な五重の塔を見てきたものだが、それぞれ良~く観察すると色々な違いがあって面白い。
仁和寺の五重の塔の特徴といえば、龍の鬼瓦と一番下の層で屋根を支えている小っちゃい邪鬼だろう。
尾垂木と呼ばれる出っ張った部分に鬼ちゃんが乗っていて隅木という部分を一生懸命支えているのだ。
凄く健気なので心の中で応援しておいた。
顔を上げて全景を見渡してみると、スラッと背の高い渋カッコ良い塔と赤色が鮮烈な紅葉との優美なコラボレーションが目に映る。
これは是非ともカメラに収めなければ。
パシャパシャ。
風景だけじゃなくて班の皆で記念撮影もしよう。
他の班の人達に声をかけてお互いに撮り合いっこするのだ。
はい、チーズ。ウェーイ! ってな。
イイネ~! 盛り上がってきたね~!
この流れで湖宵とのツーショットも誰かに撮ってもらおう。
そう思っていたら逆に小海から声をかけられた。
「ねえ。私、男の子達皆と一緒に写った写真が欲しいわ」
「うん? まあいいけど」
「それでね? 撮る時、男の子達は私に傅いて欲しいの」
「ど~ゆ~ことだよ!?」
急に何言い出してんだよアンタは!?
「ちょっと小海ちゃん! ボクの三五を逆ハーレムの一員にしないでくれる!?」
「あら。良いじゃないのよ、湖宵。お祭り騒ぎの (悪) ノリのほんの遊びよ♪ よしよし♪ 良い子だからムクれないの」
「ううぅ~……」
小海に頭を優しく撫でられると湖宵の抗議の声が止まった。
う~ん、チョロい。
「こみこみってばま~た突拍子も無いことを。逆ハーレムだなんて男の子達に失礼だよ」
何て常識的かつ思いやりに満ちたお言葉!
ユイさんって明るい色の髪をゆるふわポニーテールにしてていつもぽや~んとした表情をしているから、一見天然キャラっぽくも見えるけど実は凄くしっかりしてて女子のまとめ役 (という名のストッパー) になってくれるんだよね!
「いや、オレら全然大丈夫ッスよユイさん! な、ゼロツー!」
「おうよゼロワン! オレら対になるポーズで傅くし!」
「ウキキッキ~♡ 女子との記念撮影の為なら喜んで傅くッキイ~♡ 何ならペット枠でも構わないッキィ~♡」
男子はノリノリなのか。
仕方無い。この流れには逆らえないね。
「さあ、今この瞬間だけは貴方達は私の従者よ♪ 側においでなさい♪」
ヤベ~なこの人。
いつ買ったんだか知らないが、紅葉柄の京扇子を広げて決めポーズなんか取っちゃってるし。
でもその様が妙に似合う。
小海は背が高いしツヤのあるサラサラ黒髪が腰まで伸びていてお姫様感がある。
表情も凛としたドヤ顔でそれっぽい。
威風堂々と中央に立つ小海の前方に CT01 · 02がしゃがんで、オレと PANSY が左右を固める。
普通に立つと些か頭が高いので若干中腰かつ頭も下げる感じで。
うわぁ、小海がオレの肩に扇子を持ってない方の手を置いたよ。
これは従者ですわ。
パシャリ。
その後も小海はCT01 · 02の肩に両手を添えてみたり……。
「「おっ、おお~っ♪」」
PANSYの頭に手を乗せて服従のポーズを取らせてみたり……。
「言うこと聞きなさい♪ 私の猿ちゃん♪」
「もちろんですキイィ~♡ ご主人様ぁぁ~♡」
最後にオレに手を引かせてみたりと、チョイ悪お姫様気分での記念撮影をトコトン楽しんだのだった。
「ウフフ♪ 三五の手って大きいのね♪」
「ムッキ~! こ~なったらボクもだいずちゃんと仲良くしてる写真を一杯撮ってやる! 焼きもち妬いても知らないかんね、三五!」
「うっひゃ~あぁぁ♡ マジですかぁぁ湖宵チャンさまぁぁ♡ もはや心の臓が止まって已む無し、我が生涯に一片の悔い無しでっすぅぅぅぅ~っ♡」
湖宵はだいずさんの指に自分の指を絡めてぎゅっと手を繋いだり、頬を寄せ合ったりしてスマホカメラの前でドンドンポーズをキメていく。
う~ん、可愛い。
湖宵の思惑としてはオレの嫉妬心を煽りたいみたいなんだけど、湖宵の心が乙女だと誰よりも知っているのもこのオレだ。
例え男子の制服に身を包んでいてもね。
流石に同姓の友達と仲良くしてる姿に嫉妬したりはしませんよ、オレは。
というか姉妹の触れ合いみたいで微笑ましい。
だってだいずさんは高一の夏休みの時のこよいと同じ肩までのボブカットにしているし当時のこよいよりも大分小柄で、まんま妹って感じだから。
今度からだいずちゃんって呼ばせてもらおう。
「こここ、湖宵チャンしゃま……いいえ、お姉しゃまぁぁ~♡ 幸せでしゅうぅぅ♡ の~ないまやくがドピュドピュなのれしゅぅぅぅ~♡」
「ぎゃ~! だいずちゃん、鼻血! 鼻血!」
……まぁ、だいずちゃんの感情は姉妹と言うにはちょいと強烈過ぎるけどね。
やっぱりほんの少しモヤッとするので彼女の動向は要チェックしておこう。
何はともあれ (小海のせいで) 面白写真を撮る流れになったオレ達は、色めく落ち葉が降り積もるお庭で。整然とした石段で。紅葉が一番鮮やかに映える国宝 · 金堂で。バンバンパシャパシャ写真を撮っていくのだった。
男同士で集まってカメラに向かってオラついた写真を撮ってみたり、紅葉の眼帯をくっつけて葉っぱの海の海賊だぁ~! とか言っておちゃらけてみたり。
男子のは基本的にアホな写真ばっかりだ。
女子グループは文学小説のワンシーンを再現するかのような気取ったポーズを取ってみたり、仲良くぎゅ~っとくっついてみたりと華やかで愛らしい写真を撮っていた。
男子とは雲泥の差だ。
しかも女子達は金堂の全景写真と澄んだ青空 & 真っ赤な紅葉と写した絶景写真も忘れずにカメラに収めていたというのだから、とてもしっかりしていて偉い!
後でグループチャットに写真をアップしてあげるとのこと。
いや~、申し訳無い。
更に更に! 興が乗ったサービス精神満点の女子達はななな、なんと! 男子一人に女子全員のハーレムショットまで撮らせてくれたのだぁ!
「おお……! 高一の二学期以来、女子から遠巻きにされてきたオレが女子達と一緒に……! 素直に嬉しい! ありがとう!」
「ふぐっ……あぐぅえぐぅぅ! (号泣) 嬉しいですキイィィ! 家宝にしますキィィ! ありがとうございますぅ! ありがとうございますっギイイィィィェェェェァァア! (土下座)」
「すっげ~! 学年一の美人グループとオレ一人が一緒に写ってるよぉぉ! サイコー!」
「つかさぁ! 繊月と一緒の写真っつ~のもエモいよな! 高波の気持ちがわかるわ~! 羨ましい!」
男子一同大喜びの大ハシャギ!
「フフフ、優越感を感じるわね♪」
「こみこみw 言い方悪すぎw でもまぁね~、ここまで喜んでもらっちゃったら照れ臭いよね~」
「アララ、お姫様気分ですぅ。何だか新鮮♪」
「ボクのこともちゃ~んと女子扱いしてくれるのがポイント高いよね♪ 男子達もこれからボクのこと、湖宵って呼んでね!」
オレ個人も負けじと写真を撮りまくった。
抜け目なく湖宵とのラブラブツーショットをGETし、胸にしなだれかかってくるバスガイドさんと一緒に自撮りもパシャッと撮ってやった。
後者なんかマジでスゲ~よw だって修学旅行生の中でこんな写真撮ったヤツなんて絶対オレ以外いないだろw ……ってオオオォォ~イッッ!
「アンタ何でここに居るんだよイコさん! 流石にマズいだろ!」
「ちちち違いますぅ! 私、他の班にもちゃんと様子を見に行きましたし! 全然全然! 特別扱いとかじゃ無いですぅぅ~!」
本当かよ~?
でもまぁそういうことなら班の皆と一緒にもう一枚集合写真を撮っておこうか。
パシャリ。
うん、全員キチンと整列しているしイコさんもちゃんとオレから数歩離れて写ってる。
肩や腰も抱いたりしていないしどう見ても健全な一枚だ。
これでバスガイドの公私混同は無いという物的証拠が出来たな。 (闇の笑顔)
「も、もうそろそろバスに戻るお時間ですよ~皆さん。わ、私は先に戻ってますからね! それじゃっ!」
あ、逃げた。
というかもうそんな時間か。
わちゃわちゃ遊んでいるウチに時間が経ってしまったね。
最後に学生らしく学業成就のお守りを買っていこう。
オレ達も来年から受験生ということで、サクラサクにちなんだ桜の模様が入った合格守なんて縁起が良くてGOODだね。
ご利益がありますように。
さあ、名残惜しいけどそろそろ仁和寺を後にしよう。
「は~い皆さ~ん♪ ちょ~っとお時間が早いですが今からお昼ご飯を食べに行きま~す♪ たっぷり元気をつけて午後も頑張りましょ~♪」
「「「「は~い!」」」」
さてバス移動、の前に恒例の席替えのコーナー。
次にオレの隣に座るのは誰かな~?
「さんさん、お隣座らせてもらうね♪」
おお、ユイさん! 優しくて気配り上手のユイさんじゃないか!
良かった。これでホッと一息吐いてバスの旅をまったり楽しめるね。
……………………………………………………。
「へえ~! じゃあユイってお姉ちゃんなんだ~。どおりで大人っぽくて包容力? みたいなのがあると思ったわ~。納得納得~」
「ありがと~、さんさん♪ でもね、弟達って最近私があんまり構い過ぎると嫌がるの。お耳の掃除もさせてくれなくなっちゃったし……。難しいお年頃なのかなぁ」
「なに~!? ユイを悲しませるなんて許せん! オレなら喜んでしてもらうのに!」
「くすっ♪ さんさんったら♪」
ユイとの話はポンポン弾む。
というかこのオレこと高波 三五さんは昔からメイお姉さんに面倒を見てもらっていたので今や根っからのお姉ちゃん子だ。
ユイが実は姉だったと聞いては盛り上がらざるを得ない。
「さんさんって素直ね。さんさんが私の弟だったらい~のにな」
ユイがオレの髪を優しく撫でてくれる。
メイお姉さんのものとは違うその控えめな感触がくすぐったくて思わず目が細くなる。
「オレもユイがお姉ちゃんだったら嬉しいよ」
オレのその言葉にユイは今まで見たこと無いくらい嬉しそうな満面の笑みを 「ちょっと三五ぉぉ! ユイちゃんになつき過ぎぃぃぃ!」
湖宵のインターセプト!
うわ、ヤバい。ちょっと馴れ馴れしくし過ぎたかな。
ユイの “姉み” が深かったからついつい甘えてしまった。
「ユイちゃんも三五と近いよぉ!」
「ゴメンね、こよこよ。だってこの子ってすっごく良い子でかわい~んだもの。今まで気付かなくて損しちゃった」
「リアル姉ムーヴ!? それにしたって距離が近過ぎィ! ほっぺにチュ~とかしないでよぉ!? ボ ・ ク ・ の ・ 三五なんだから!」
「ん~。でもま~、もしうっかりしちゃったとしても100%親愛の情からだから。だいじょぶ大丈夫♪」
「んあぁ~! そこは絶対しないって言って欲しかったぁぁ! この際嘘でも良いからぁ!」
うわあ。てんやわんやだ。
湖宵に一言フォローを入れようとしたその時、制服の袖をクイクイッと引かれた。
「ね、ねえ、三五さん。私、年上の女ですよ? お姉さんですよ? どうぞ心行くまで甘えて下さいっ!」
「いや、イコさんには姉みが無いから」
「ががぁ~ん!」
姉ってのは弟を異性として見たりしないから!
もっと純粋で暖かい気持ちでひ弱なオレを包み込んで欲しいんだよね! (持論)
「ううぅぅ……皆さぁん……着きましたよぉ……降りる準備して下さいねぇぇ……」
「あぁん、もう着いちゃった。今度ゆっくりお話しよ~ね、さんさん♪」
「その時はボクを間に挟んでね!? お願いだから!」
ミシミシ。ミシミシ。
痛い痛い! 湖宵がオレの腕を思いっきり抱き締めてくる!
焼きもちでメンタルがヤバいな。
ランチの時はずっとお側に居なきゃ!
そうと決まったら速やかに降車だぁ!