裏59話 皆で楽しく最後まで ③ だいずさんは結構暴走しがち 高二 二学期
「皆さん全員お席に着きましたね? それでは出発致しま~す♪」
イコさんのアナウンスと共にバスが発車する。
ふと車窓から外を眺めてみると葉っぱが綺麗に色づいていて、とても目に優しい。
景観が美しい京都だけれど今見ている道路がこれまで車窓から見てきた風景の中で一番美しい。と、個人的には感じた。
「今このバスが走っている道路は 「きぬかけの路」 と言いまして、世界遺産の 「金閣寺」 「龍安寺」 「仁和寺」 を結ぶ有名な観光道路なのですよ~♪」
イコさんのガイドに非常に納得。
なるほどね~。通りで妙に素敵な道路だと思った。
おっと、いけないいけない。
窓際に座るオレだけがこの素敵景色を独り占めしていた。
隣の席の湖宵にも見せてあげないと。
「湖宵、ホラお外を見てごらん? とっても綺麗な景色だよ」
「ふ、ふきゃあぁん♡ さ、三五くんに肩を抱かれてっ♡ 甘いお声で囁かれてましゅうぅ~っ♡ ダメぇぇぇ♡ ふやぁぁん♡」
あっれ~っ!? このコ、湖宵じゃない! だいずさんだ!
何でこの人がオレの隣の席に!?
「ちょっと三五ぉ~! 浮気禁止ぃ~っ!」
オレの座席のヘッドレストにアゴを乗せた湖宵が怒りの眼光を降らせてくる!
「違うって! 湖宵と間違えちゃったんだって! てか何でオレの後ろの席に座ってんの!?」
「小海ちゃん達が三五ともっと仲良くなりたいって言うから交代で席をシャッフルすることになったんだよぉ! ムキ~ッ!」
てゆ~か一言言っといてよ!
「あのっ! 三五くん! お気持ちは嬉しいのですが、わ、私、あんまり男らしくグイグイ迫られちゃうと困っちゃうってゆ~か! そ~ゆ~の、もの凄く苦手ってゆ~かぁぁ!」
「だいずさん! それは誤解……」
「でもでもぉ♡ 湖宵チャンさまとセットで可愛がってくれるならOKってゆ~かぁ♡ むしろ推奨ってゆ~かぁ♡ 三五くんの側室になって湖宵チャンさまと三人でイチャイチャライフとか♡ キャアァァ♡ サイコォォ~♡」
この人話を聞きゃしねぇ!
興奮し過ぎてとんでもねぇ妄想をアウトプットしちゃってるし!
一生心に秘めていて欲しかった!
「コルァ~ッ! だいず~っ! そんなの絶対許さないからっ! お仕置きのほっぺムニムニじゃ~っ!」
「ンアアァァ~ッ♡ 湖宵チャンさまにほっぺムニられてりゅう~っ♡ きもちいぃぃ~っ♡ だいずは悪い子でしゅうぅ♡ もっとお仕置きしてくだしゃいぃ~っ♡」
「三五さん三五さん♡ イコはイチャイチャする時は二人っきりが良いです♡ もちろん正妻さまと過ごすお時間をお邪魔したりはしませんよ♡ デキる側室ですので♡」
「日本にそんな制度無いから! 一夫一妻制だから!」
……………………今の所はな!
Q極TSカプセルとかいう凡人の理解を越えたアイテムが出回る様な世の中だ。
明日突然一夫多妻制になっても不思議じゃないぜ! チクショウめ!
側室騒ぎに音を上げそうになったタイミングでバスが次の目的地に到着。
正直助かった。
さあ、観光だ観光だ!
観光で良くない空気を払拭しよう!
オレ達が降り立ったのは 「龍安寺」 だ。
有名なものは何と言っても 「石庭」 と呼ばれる枯山水庭園。
この庭園はイギリスのエリザベス女王が拝観された事から世界的に有名になり、「ロックガーデン」 という別名も持っている。
早速見学しに行こう。
境内に一同ズラッと並び、静かに石庭を眺める。
若干奥行きの足りない25mプール程のスペースに白砂が敷き詰められ、15個の石と苔が配置されている。
侘び寂びを感じさせるその静謐な空間に赤と黄に染まるカエデの彩りが添えられることで、芸術的なまでの完成された美しさが現れた。
溜め息を吐くことすら躊躇われる神聖さを前に出来ることと言えば思いを馳せることだけだ。
石庭の制作者や作庭におけるコンセプトなどの情報は残念ながら後生には伝わっていない。
その謎こそがミステリアスな魅力となり、人々の石庭に対する思いが益々深まっていくのだろう。
昔の人達は石の配置が 「心」 の字を描いているだとか、15個の石を3つのグループに分けて七五三だとか、お母さん虎が河の向こうに子虎を渡している様に見えるだとか、想像力をそれはそれは逞しくしていたそうな。
解けない謎について思索を巡らせるというのは心が豊かじゃないと出来ないよね。
それ即ち “禅の心” ってヤツかな。
オレももっと石庭について考えて、心を豊かにしたい。
だけどそろそろバスに戻らないといけないお時間だ。
もっとゆっくりしたかったんだけどなぁ~。
それに龍安寺には 「侘助の椿」 や 「鏡容池」 といった名所が (ry)
「は~い、皆さ~ん♪ 次は 「仁和寺」 に行きますよ~♪ 仁和寺といえば桜の名所で有名ですが、紅葉もとっても美しいんですよ♪ 紅葉の狩り納めにピッタリのスポットです♪」
おお~。それは楽しみだ。
この5日間でスマホのアルバムがかな~り真っ赤に染まったが、一枚として同じ写真は無い。
もっともっと一杯撮って母さん父さん、メイお姉さん達にも楽しんでもらおう。
「ねえ三五。貴方は湖宵に愛の告白をする時、何て言ったのかしら? 私、とっても気になるわ」
オレの隣に座る八重津 小海さんからの脈絡の無いクエスチョン!
「何なの、小海さん!? 藪から飛び出た棒の擬人化なの!?」
「あら、小海 “さん” だなんてよそよそしい。小海で良いわ。それで? 何て言ったの?」
この人、マイペース過ぎる! 誰よりも!
「ふ、普通に好きって言っただけだよ」
「えぇ~? 貴方のことだからセリフやシチュエーションに相当凝ったんじゃないの?」
「まあ色々と企画したけどさぁ……。でも結局、相手が望むタイミングで自分の気持ちをストレートに伝えるのが一番だって気が付いたんだよ」
「へぇ~、何だか実感がこもった貴重なご意見ってカンジね」
小海ってばニマニマして嬉しそう。
このまま主導権を握らせるのはヤバい!
こっちからも攻めなければ!
「小海こそ自分はどうなの!? めっちゃ美人なんだからめっちゃモテるんじゃないの!? カレシいないの!? 作らないの!?」
小海もお年頃なんだし人よりも自分の恋に目を向けてもらいたい。
何なら全力で応援するから!
「ふ、ふえぇ!? さ、三五ったら美人だなんて……! そ、それにカレシがいないか気にするってことは私のこと……!? は、はわわわ……」
小海ってば受け身に回ると滅茶苦茶弱いのかよ!
顔真っ赤にしてふえぇ……とか言っちゃってるし!
何か旗色が悪くなってきたぞ。
「三五ぉ~! 浮気なの!? 小海ちゃんを側室にしたいの!? お2号さんなの!?」
「誤解だって湖宵! そういう意図は無いって!」
バスの空気がハチャメチャだ!
早く仁和寺に着いてくれ~!
「三五さん♪ 私は何号さんでも構いませんから♪ 側室にして下さるだけでハッピーです♪」
「 “室” に入る事が内定しているかの様な物言い!? イコさん、ガイドのお仕事に戻って!」
「はぁい♪ 皆さ~ん、もう仁和寺に到着しますよ~♪ 降りる準備をして下さ~い♪」
あぁ、仁和寺が龍安寺の近くにあって本当に良かった!
きぬかけの路バンザイ!
さぁ~て修学旅行最後の紅葉狩りだぁ!
美しいものを見て浮き世の柵を忘れよう!