裏58話 皆で楽しく最後まで ② 八重津さんって結構容赦無いよね…… 高二 二学期
和気あいあいと会話を楽しんでいたら、バスはすぐに金閣寺に到着した。
バスから降りてお行儀良く並んで歩き、門をくぐる。
その時にお札をもらった。
「学業成就」 「交通安全」 などの文言がかかれていて、来年から受験生となるオレ達にとってとてもありがたいご利益アイテムだ。
大切にしよう。 部屋のどこかにでも貼っとけば良いかな?
道なりに進んで行くとお目当ての舎利殿 ・ 金閣のお出ましだ。
「おお……金色に輝いている。なのに周りの風景と妙にマッチしていて不思議だなぁ。何て綺麗な建物なんだろう」
小学生のような感想だがオレにはこれ以上の感想は出てこない。
出るのは感嘆の溜め息だけだ。
金閣は三階建ての楼閣で鏡湖池と呼ばれる池のほとりに建っている。
二階と三階、そして屋根の天辺の鳳凰像は全面金箔貼りだ。
そして実は全階層に金箔が貼られているワケではなく、地面に接する一階部分は金箔が一切貼られていない落ち着いた造りとなっている。
このギャップが美しさを引き立てるミソになってるんだね、きっと。
こんなにも絢爛な建物が自然と違和感無く調和する所以とは一体何だろう?
それは光にあるとオレは思う。
陽の光が金閣を照らすことで金色が周りの景色に溶け込んでいくからだ。
逆に金閣にも水面のゆらぎが映り、紅葉の赤色が射し込む瞬間が確かに存在する。
そしてそれらの光景を逆さに映す池と合わさって三位一体の神秘的な美しさとなる。
おまけに朝一番の澄んだ空気がそれらを一段と際立たせてくれるのだ。
オレが今目にしているこの光景の素晴らしさは写真では伝えきる事が出来ないだろう。
実際にこの時この場所に立って初めてわかる魅力だと断言出来る。
自分の目で見ることの大切さが今日、改めてわかった。
金閣を心行くまで見学したオレ達はサッサとバスへと向かう。
金閣寺には他にも龍門滝や茶室 ・ 夕佳亭といった名所が数々あるのだが 「朝早い内に移動しないと道路が混む」 という情緒の無さ過ぎる理由により泣く泣くカットされた。
しかしながらオレのテンションは最高潮!
バスへと戻る道すがら、皆と金閣について語り合いたい!
「いや~、金閣最高だったね! 室町時代からず~っと変わらずにある存在感って言うか、将軍家の威光? ビシバシ感じたよね!」
「あら? 高波君知らないの? 金閣は70年前に放火されて焼失したの。それから再建したんだけど、その時に色々変わっちゃったのよ? 細部がだけど」
うっわぁ~! これは恥ずかしい! ドヤ顔で語ってたら八重津さんにサラッとツッコまれた!
って、待てよ。今聞き捨てならないこと言わなかった?
「マジ!? 金閣寺って放火されてたの!? 誰がそんなことを!?」
「犯人は金閣寺の見習い僧侶兼、大学生で当時21歳の青年よ」
「オレらとあんま歳変わんないじゃん! 何でそんな大それた事を!?」
「この事件を題材にした小説によると、自分の置かれた環境に対して鬱屈した感情を抱えていた彼が金閣寺の美しさに嫉妬して……ってことらしいけど、本当の所はよくわからないわ」
「はぁ~!? 意味わからん! 何があったらあんなに綺麗な金閣を燃やしちまえって話になるワケ!?」
「そうっキィ。嫌な気分なんてナンパでもすれば吹っ飛ぶキィ!」
「お前いつもフラれて泣いてんじゃん!」
「それがかえって感情の発散になってたとか?」
オレは激しく憤った。
ワイワイ騒ぐ男子達も概ねオレと同意見らしい。
そんな中、湖宵がポツリと呟くのだった。
「三五は素直で健康だからだよ。……ボクにはその気持ちがほんのちょっとだけわかるかも」
「こ、湖宵が? 何で?」
「ボクはトランスジェンダーだから。どうしようもない境遇にモヤモヤして心が風邪をひいちゃう時も、あったよ」
湖宵が寂しげな微笑みを浮かべる。
「そんな時には悪い考えがチラッと頭をよぎっちゃうことがあるんだ。その人はきっと魔が差しちゃったんじゃないかなあ」
「こよこよ、元気出してっ!」
「そ、そうですよ! 湖宵チャンさまあっ! ぎゅううぅ~っ!」
しんみりする湖宵の両腕を左右から中野さんと寺崎さんが抱き締めてくれた。
「てゆ~か湖宵! 何でまたテンション落ちてるの!? 今朝、元気出して楽しむって言ったじゃん!」
「うぅ~……だって小海ちゃん達との旅行も今日でおしまいなんだって思ったら悲しくってぇ~!」
「あら。可愛いわね、湖宵」
「うん♪ 嬉しいね♪」
「こここここ、湖宵チャンさまぁぁ~んっ! だいずも同じ気持ちですぅぅ~!」
八重津さん達は悲しむ湖宵を代わる代わる慰めてくれる。
何度も言うが女の子達、本当に仲良くなったなあ。
「せっかく念願の女友達が出来たんだからさ、最後まで楽しんでいこうよ。その方が絶対良い思い出になるよ」
「そんなのわかってるよぉ~! でも仲良くなったからこそお別れが寂しいのっ! 明日と明後日は学校がお休みだしぃ……もっと女の子同士で過ごしたいよぉ!」
うわ~、こりゃオレが何を言ってもダメだ。
ここで女子達が優しい言葉をかけてくれたら良いんだけどなぁ~……チラッ、チラッ。
「こ、湖宵チャンさまっ! だ、だったら明後日に修学旅行の打ち上げしませんかっ!? ここに居る皆で! それに他の日にだって遊びましょう? 女子会したり、ラウィッターしたり!」
「それってまめまめの願望じゃん♪ でも打ち上げは私も賛成♪」
「そうね、せっかくの機会だもの。皆、予定は大丈夫?」
おお! オレのアイコンタクトに応えてくれた女子達からのナイスな提案!
「もちろんOK! な、PANSY 達も大丈夫だよな?」
「オ、オレも行って良いっキィィ~!? オレ、迷惑にならないように気を付けるっキィ! おさるの置物か何かだと思ってくれて良いキィ!」
「オレらもコイツがハシャがないか見とくから!」
「根は良いヤツなんだ、コイツ!」
男子もノッてくれて賑やかで明るい雰囲気になってきたぞ。
「ボク……ボク、嬉しいよっ。皆、ありがとうっ!」
良かった。湖宵に笑顔が戻ったぞ。
「八重津さんも中野さんも寺崎さんも、きっとずっと湖宵の良いお友達でいてくれるよ。修学旅行が終わってからもね」
「うん! それにQ極TSしたら女子の皆で一緒に旅行に行くって約束した!」
「そうさ。今日で最後じゃないよ。だから笑おう? 湖宵」
「うん! ありがとうっ、三五!」
イイネ。いつも通りの弾ける様な花丸笑顔。
やっぱり笑った湖宵が一番可愛いね。
これにて一件落ちゃ……。
「皆、聞いた? 「笑おう?」 ですって。こんなセリフを言う人が現実に居るのね」
ちょっと八重津さぁぁ~んっ!?
今この空気の中でそんなツッコミ入れますぅぅ!?
この人超マイペースだよぉぉ! 恥ずかしいぃぃ!
「あら、慌てちゃって♪ クスクスクス♪ 面白い人♪ 貴方のこと、これから三五って呼んでも良い? 私のことも小海で良いわ」
何か不本意な気に入られ方しちゃったし!
「こよこよのダーリンだもんね♪ 私もユイで良いよ♪ さんさん♪」
お日様かよ!
でもこの人が三人娘の中で一番大人で常識人だからな。是非とも仲良くしてもらいたい。
そして小海さんを何とかしてもらいたい。
「わ、私もだいずって呼んで下さい! 三五くんのことはちょ~リスペクトしてます! ぜひぜひ湖宵チャンさまをメロメロにするテクニックを教えて下さい!」
この人、湖宵のこと狙ってねぇ!? 友達の振りして!
何なの? ライバルなの? 目が離せねぇ! 要観察対象なんだが!
「ちょっと~! 必要以上には仲良くしなくって良いんだかんね! 三五はわたしの!」
「あら、湖宵♪ ちょっとくらい良いじゃない♪ 三五のリアクション、面白いし♪」
「そうですよ♪ ピッタリマークしてメロメロの秘訣を探らなきゃ♪」
「ア、アハハ~……ド、ドンマイ、さんさん。この二人、馴れてくるとガンガン内に入ってくるタイプだから覚悟しといてね。なるべく私も見とくけど、ね?」
ユイさぁん! そんなこと言わずにこの二人の防波堤になってよ!
「ウキィ! やはりエロ神はモテ神なのキィ!? 女子と名前で呼び合うとか羨ましいキィィィ!」
「やっぱ彼女♂️持ちだからかなあ?」
「良いなあ、彼女♂️持ち」
「あら。猿ちゃん、1ちゃん、2ちゃんも私達のこと名前で呼んでくれて全然構わないのよ?」
「「「ヤッタ~♡ ラッキッキィ~♡」」」
冷静になれ、オメ~ら! 猿とか番号とかで呼ばれてんぞ!
本当に辛辣だな、小海さんは!
もおおおぉ! てんやわんやだ! 皆が皆うるせ~!
「ホラホラホラ、早く行くぞっ! バスの時間に遅れちまうよっ!」
「「「「「「「は~い!」」」」」」」
形成が悪くなったオレは皆を強引に引っ張って駆け足ぎみでバスへと戻るのだった。
さあ、次行こう、次!
雰囲気を変えて明るく陽気に行こうじゃないの!