裏57話 皆で楽しく最後まで ① 修学旅行最終日! の朝! 高二 二学期
数時間後。
夢も見ない程深く沈み込んでいたオレの意識が突然揺さぶられた。
「三五ぉ~、起きて。三五~」
「う、うう~ん……」
どこからか湖宵の声が聞こえる……?
「もうすぐ朝ご飯の時間だよ~、起きて~」
「ええっ、ウソ!?」
目覚まし時計が鳴らなかったのか?
ちゃんとセットしておいたのに!
驚き過ぎて一瞬で覚醒してしまった。
「目覚ましならボクが解除しといたよん♪ 人差し指でススッとね♪」
「えぇ~。その時起こしてよ。マジで超久しぶりに寝坊したわ~」
「だって気持ち良さそうだったから。三五の寝顔可愛かったよ♪ グッスリスヤスヤだったね♪ 疲れが出ちゃったのかな~?」
湖宵がドキドキさせること言うからでしょ~が!
とか言ってる時間ももはや無い。
とっとと顔洗って身嗜みを整えよう。
パッパッパッとね。
寝癖とか残ってないかな? 湖宵にチェックしてもらおう。
「うん、今日もステキだよ♡ ああ~、朝から眼福ぅ~♡ 幸せ~♡」
OKみたいだ。
それでは早速朝ご飯を食べに宴会場へ向かおう。
今日のメニューはきっと和食だね。
「三五。ボク、小海ちゃん達と食べるね」
「うん。それが良いよ」
何せ昨日はイチャイチャし過ぎて、おやすみの挨拶をするのを忘れてしまっていたからね。
「小海ちゃん、ユイちゃん、だいずちゃん、おはよう。昨日はゴメンね。さっさとお部屋に引っ込んじゃって」
「良いのよ。そんなの気にしないで」
「デートが楽しくて盛り上がっちゃったんでしょ? こみこみったら♪ 昨日はその勢いでいっぱい可愛がってもらっちゃったんでしょ?」
「キャァ~! そんなこと聞くのヤメテ~! 胸がめっちゃ騒めきますぅ~!」
「うん。そして決めたんだ。大好きな三五の為にボクは……自らの運命に反逆することをねぇっ!」
「スッキリしたドヤ顔で何を言い出したの!?」
「こよこよご乱心!? 昨夜何があったの!?」
「き、気になりますぅ! 差し支えなければ教えて下さぁい!」
「あのね、実はね……」
女の子達は仲良くやっているみたいなので、オレも男子達と仲良く朝食を取ろう。
「「「………………」」」
あれ? 男子グループは何だかお通夜みたいに静かだぞ?
「オメーらはオレと湖宵に何があったか聞いてこないの? 遠慮せず、好奇心の赴くままに問い掛けても良いんだぜ?」
「い、いや……ちょっとオレらにはレベルが高いっていうか……」
「繊月が恋人なのって、もちろん羨ましく思うんだが……同時に凄く心が掻き乱されるんだよな」
「うん。男と女って一体何? とか考えちゃうよね」
「修学旅行どころじゃなくなっちまうよ!」
「わかるわかる」 「うんうん」
何だコイツら! ハッキリしない態度を取りやがって!
もっと羨望の眼差しで見ろや! Q極TSしたこよいとのラブラブ写真を見た時はあんなにわかりやすく羨ましがってたクセに!
「PANSY は何かコメント無いのか? あんなにカワイイコとラブラブお泊まりなんて妬ましいキィ~! とかさ」
「確かに修学旅行で恋人と一夜を明かすシチュはビンビンクルものがあるっキィ! 実際嫉妬で発狂一歩手前までイッたキィ……しかし! オレは煩悶の末、真実に辿り着いたっキィィ!」
「真実だって?」
「そうっキィ! Q極TS女子との恋愛とか複雑過ぎてよくわからん! オレが求め欲するものは、やはり女体の神秘のみ! エロ神がエロ神秘に触れたのでなければギリギリ許容出来るっキィィィ!」
このクソ猿がァ……!
そ~ゆ~ことは思ってても口に出すんじゃねぇ!
つ~か、周りの男共も言葉にしないだけで概ね同意してるっぽいし!
今に見ていろよ。同窓会にアルティメット ・ レディに進化したこよいを連れて行って吐くほど羨ましがらせてやる!
フン、もういいよ。
こんなヤツら放っておいて朝ごはんだ。
今朝のメニューは白飯に麩のお味噌汁、そして鯖の塩焼きというシンプルなラインナップに京野菜の煮物、高野豆腐の炊いたん、キュウリのしば漬けといった京都ならではの美味しいものをミックスした、おばんざいとよばれるスタイルだ。
一杯食べて今日も一日張り切っていこう!
「う~ん、美味い! 京都の薄口でお上品な味付けとは今日でお別れだからシッカリ味わっておかないとね!」
特に白味噌のお味噌汁と煮物。
ウチの味付けと全然違うからね。
また旅行に来て食べたいな。
ご飯を2回ほどお代わりしておかずを残さず綺麗に平らげた。
「「「ごちそうさまでした~!」」」
お茶を一杯頂いて一息吐いたら部屋に戻って出発準備だ。
ジャージから制服に着替えたら荷物を一まとめにする。
「湖宵、忘れ物は無い?」
「うん……」
すっかり片付いたホテルの部屋を見回した湖宵がしんみりと肩を落としてしまう。
「ボク達、今日でおウチに帰るんだね……」
だけどね、湖宵。
もう修学旅行が終わったつもりでいるのはちょ~っと気が早いぞ。
「湖宵、そんな顔しないで。今日もイベント盛り沢山なんだからさ。最後まで楽しまないと損だよ!」
そう。新幹線の発車時刻は午後4時。
その間、隙間無く観光のスケジュールが組まれているのだ。
最後に打ち上がる大花火、うつむいていたら楽しめないぜ!
「そう……うん! そうだね! 修学旅行の5分の1がまだ残っているんだ! 楽しい思い出作らなきゃ!」
おっ。湖宵が前向き笑顔になった。
さ~て、修学旅行最終日!
元気にスタートを切ろう!
部屋を出たらロビーへと集合。
お世話になったホテルの方達にお礼のご挨拶をしたら外に出る。
既に駐車場には今日お世話になるバスがズラリと並んでいた。
「三五さぁ~ん♡ とクラスメイトの皆さ~ん♪ こちらですよぉ~♪」
あっ、公私混同バスガイドの戸塚 イコさんだ。
オレを見るなりピョ~ンと飛び跳ねてきて袖を掴んでくる。
相変わらずの距離の近さ。
親しくしてくれるのは嬉しいんだけどさぁ……。
こうもあからさまに特別扱いされてはちと肩身が狭いぞ。
「コラ~ッ! イコさん! 三五にすり寄らないで! 女の武器を使うの禁止!」
「はっ! 正妻さま! 畏まりました! 側室としてキチンと正妻さまを立てさせて頂きますね!」
「勝手に “室” に入ろうとすんな! この人誰よりも図々しい! 三五 FCのお姉ちゃん達の比じゃない!」
「三五さん FC!? 私も入ります! グッズ欲しいです! ウチワとかハッピとか!」
まあいいや。
気を取り直して荷物をバスの大容量トランクに入れちゃおう。
皆に頼まれたお土産なんかは実は既に郵送してあるけど、それでも大荷物だからね。
これで身軽に動けるってなモンよ。
クラスメイトが全員ゾロゾロとバスに乗り込んだら発車準備完了だ。
「は~い、皆さんおはようございま~す! 早速本日最初の目的地 「金閣寺」 へと向かいま~す!」
「「「おお~っ!」」」
遂にキタ! 金閣寺! ここに行かずして修学旅行は終われない!
「舎利殿に貼られた金箔の枚数は何と20万枚! その重さは約20㎏にも及びます。キラキラピカピカの金閣と真っ赤な紅葉のコラボレーションや鏡湖池の水面に映る 「逆さ金閣」 はとっても写真映えしますよ~♪ お見逃し無く♪」
朝イチで北山文化の象徴たる金閣寺とは攻めたスケジュールだねぇ! イキナリ盛り上がりクライマックスじゃん!
「それでね? 三五さん。秋の金閣も良いけど冬の……特に雪の日の金閣はもう最高なんですよ? ホラ、この写真を見て下さい。雪化粧をした金閣寺……とっても幻想的でしょう?」
そう言ってイコさんが見せてくれたスマホには美しくもどこか寂しげな風景の中、黄金色に輝く金閣寺が映っていた。
「おおお~! 雪が金色の光を反射してる! CGとかじゃないんですよねコレ!? 超美しい!」
その現実離れした光景にすっかり心を奪われてしまったオレは思わず身を乗り出した。
「ああん♡ ホ、ホラもっと♡ もっと近くで♡ もっと近くに寄って見て下さい♡」
「コラ~ッ! 三五にペタペタすんな! 一人だけ特別扱いしてないで皆にも見せなさ~い!」
「仕方ないですね。それでは皆さん、前方のモニターをご覧下さい」
イコさんがアダプターを介してスマホとモニターをHDMIケーブルで繋ぐと、モニターに粉雪をかぶった美しい金閣寺が映った。
「コラァァ~ッ! 最初っからそうしろぉぉ~っ! 三五とくっつきたかっただけか~いっ!」
「きゃ~っ☆ てへぺろ☆」
「「「アッハハハハ♪」」」
湖宵とイコさんの愉快な掛け合いに車内がドッと沸き立った。
「ウフフッ。おちゃめなバスガイドさんね」
「そうだね、こみこみ♪ アハハハ♪ お腹いた~い♪」
「ウッキ~ッ! オレも美人バスガイドさんと仲良く戯れたいキィィ!」
「皆騙されちゃダメ! この人ガチで公私混同してるだけだから! 年下のオトコと触れ合いたいだけだから!」
「「「またまた~♪」」」
笑顔に溢れる楽しいバスが行く。
いざ目指すは世界遺産 ・ 金閣寺!