裏55話 ドキ♡修 Fall in LOVE ! 高二 二学期
修学旅行最後のディナーは鶏の水炊き……だったらしい。
何故 「らしい」 と言ったかというと、食事中のオレは湖宵の色香にアテられて半覚醒のメロメロ状態だったので、よく覚えていないのだ。
「三五のだぁい好きな皮たっぷりの鶏肉ちゃんですよ~♪ はぁい、あ~ん♡」
「う、ううぅ? あ、あ~ん」
「良い子ですね♡ ボクも食~べよっと。ん~、鶏肉プリプリでんま♪ コラーゲン豊富ってカンジ♪ 鶏ガラスープもコクがあってんま♪ 野菜もたっぷりで栄養満点ちょ~イイネ♪ 精がつきそぉ♪ んふふふふ♪」
こんな感じでオレは湖宵にご飯を食べさせてもらっていたらしい。
後から聞いたところによると、妖艶なオーラを纏う湖宵と骨抜きになったオレの組み合わせは周囲の視線を釘付けにしていたとか。
「湖宵ってば高波君にお熱ね。よっぽどデートが楽しかったのかしら。私達のことが見えてないみたい」
「てゆ~か、こよこよの目がギラついててヤバいね。女豹ってカンジ」
「あうぅ……湖宵チャンさまと一緒にご飯食べたかった……。で、でも今の湖宵チャンさま、お色気ムンムンでクラクラしちゃいます♪」
「ウッキキィ! 流石、エロ神の嫁♂️! メチャエロッキイィ! オレもエロい嫁欲しいキイィィ~ッ! 羨ましいっキイイイィィィアァァァァ~ッッ!」
「つ~かオレ、もう繊月が男には見えねえわ」
「オレもオレも」
「二人はこの後……」 「ゴクリ……」
「今夜はお楽しみ……?」 「それを言うなら今夜も……?」
ヒソヒソヒソヒソ。ザワザワ。
生徒達が大層ザワついていたそうだが、その喧騒は二人の世界に旅立ったオレ達には全く届かない。
馬の耳に念仏ってヤツだ。
いや、彼ら彼女らの心情的には蛙の面に小便か?
「……はっ! オ、オレは今まで何を……? あ、あれ? 皆、ご飯食べ終わってる!? オレの分は!? あれ? でも美味しいものを食べた記憶がうっすらと残ってる……? あれ~?」
「三五ってばどうしたの? 疲れちゃったのかな? それじゃあ、お部屋に戻ってゆ~っくりお休みしようね♡ クスクス♡」
オレは正気に戻ったが、湖宵は依然として妖艶なオーラを纏っている。
戸惑うオレの腕には湖宵の細腕が絡み付いている。
込められた力は決して強くないが、抗うことなど出来はしない。
オレはまたしても湖宵に引き摺られる様に愛の巣へと戻っていくのだった。
「じゃあボクは浴衣に着替えてくるね」
脱衣場に着替えにいった湖宵をただベッドに座ったまま不動の姿勢で待ち続けるオレ。
ソワソワと胸が騒いで落ち着かない。
恋の熱気球がブッ壊れて制御不能だ。
デートで湖宵の可愛さに胸をときめかせ、お風呂では新婚夫婦のように甲斐甲斐しくお世話してもらったこのオレ ・ 三五さん。
今や湖宵の姿がこよいにダブって見える。
ドキドキするぅぅ! 多分この気持ちって湖宵がオレにドキドキする気持ちとシンクロしてるね!
修学旅行先のホテルの一室で一番大切な異性と合法的にイチャイチャ……あ~! 意識したらもっとドキドキしてきた!
あ~、早く来ないかな~、湖宵~。
「お、お待たせ……三五」
可愛い水玉模様の浴衣に着替えた湖宵がオレの前に現れた。
何回見ても可憐で良く似合っている。
特にレモンイエローの帯をお姉さん結びにしているところがイイ。
ちょっぴり大人っぽくて、でも溌剌とした少女らしさが隠しきれない。そんなアンバランスさがグッとくる。
「やっと二人っきりだね、三五。もうボク……わたし、気持ちが抑えきれない……」
フラフラと頼りない足取りでオレの側まで歩いてくる湖宵を迎えるべく、腕を大きく広げて待つ。
湖宵は倒れこむような形でスッポリとオレの腕の中に収まった。
「あぁ~♡ 幸せ~♡」
あ~可愛い。
たまらずぎゅ~っと抱き締めると湖宵が顔を上げて、そのまま……。
「んっ……♡」
キスをされた。
息を吸って吐くのと同じくらいの自然さで。
もちろんオレからもキスのお返しをする。
何度も何度も唇を重ね合い、ちゅっちゅと啄み合う。
「えへへ……♡ 三五、だぁい好き♡」
満面に咲く誇る湖宵の花笑み。
こんなシチュエーションでそんな甘~い笑顔を浮かべられたら、男は狼さんになっちゃうぞ。
でもオレは……。
「オレも大 ・ 大 ・ だ~い好きだよっ! 湖宵っ!」
湖宵の最高の笑顔に、一切の邪念の無い輝く笑顔で返すことが出来る。
今この状況で湖宵が女の子だったらという考えが一瞬もよぎらなかったかと言われれば、もちろんそんなことはない。
更に普段の生活でも折に触れて女の子のこよいとイチャラブしたいな~、とかムラムラ考えている欲求不満なこのオレ。
何故そんなオレがこんなにも爽やかな笑顔を浮かべられるか?
それは一点の曇りもない純粋な気持ちで湖宵を可愛がってあげられるから。
湖宵が構って構ってと胸に飛び込んできてくれると可愛いな、幸せだな、ずっとずっと大切にしてあげたいな、というプラスの気持ちが胸からこんこんと湧き出てくる。
そして今、その気持ちは欲求不満というマイナスを完全に打ち消し、凌駕した。
オレってヤツは湖宵を心から愛しているんだな、と再確認。
何て清々しい気持ちなんだろう。
感謝と愛を込めて湖宵には素敵な一夜をプレゼントしよう。
お膝抱っこで顔を寄せ合いながらお話をしたり、甘~いキスもいっぱいしよう。
寝る時は一緒のベッドに入って大好きな腕枕をしてあげよう。
きっと湖宵はドキドキして眠れなくなるから、オレは子守唄を歌ってあげたりお布団をポンポンしてあげたりして寝るまで見守っていてあげるんだ。
そんな風に楽しくて嬉しい想像をして、ふと湖宵の顔を見てみたら……。
背筋が凍った。
「どうして……どうしてなの……」
「こ、湖宵……?」
ほんの少し前まで赤みが差していた湖宵の顔色が、今は驚くくらいに冷たさを感じるものになってしまっている。
明らかに、明らかに湖宵の様子がおかしい。