第11話 繊月 こよいとデート [覚醒篇]
チンパン共を追い払った後のこよいはご機嫌もご機嫌。ちょ~ご機嫌だった。
「あぁ~♡ 三五さんの腕ってたくましい~♡ はぁ~幸せ♡」
こよいはさっきから組んだオレの腕をぎゅ~っと抱き締めて離そうとしない。
非常に嬉しいんだけれども、このままでは体温が上昇しすぎてブッ倒れてしまう。
「こ、こよい? さっき言ってた雑貨屋さん、い、行こうね?」
「うん~♪ 行こうねぇ~♪」
お店ならクーラーが利いているはず。
急がなきゃ。あ~、熱い熱い。
歩いて駅まで戻る。
その隣にある建物が目的のお店だ。
今回街デートをするにあたり、オレは女の子の好きそうなお店の情報をネットや雑誌などで収集してきた。
しかし今目の前にしているお店は実は存在自体は前々から認知していた。駅ビルに隣接している場所で営業しているのだから、当然と言えば当然か。
そのいかにもオシャレで洗練された店構えがオレには何となく入り辛く感じられるのだ。
そう、男子高校生のオレ一人だったら。
「わたし、前からこのお店入ってみたかった♪ のです♪」
ふっふっふ。オレの右腕にぺったりくっついているこよいchanは、今や立派な女の子!
この店のなかにどんなファンシーな空間が広がっていようとも、この娘と一緒なら恐るるに足らず!
「ふわぁ、カワイイものが一杯ありますねぇ」
こよいは小っちゃなぬいぐるみを手に取ってニッコリ笑顔を浮かべている。カワイイ。
「へぇ~、可愛らしい文房具や珍しい文房具なんかが揃ってる」
クラスの女子が持ってる何かキラキラしたペンとかファンシーでシールとかペタペタ貼れる手帳とかはこういうお店で買ってるんだなぁ。
マジでへぇ~って感じ。
文房具以外にも日用品や生活雑貨などが揃っている。
ギフトカードやタオル、石鹸などといったアイテム一つ一つにとにかく色々な種類があるのが、見ていて飽きさせない。
お役立ち便利グッズ以外にも面白いユニークな商品がいっぱい。
夏らしくかき氷器とか、アイスクリームメーカーとか。
訳がわからないものになると超音波みたいなモンで麦茶にビールの様な泡がたつピッチャーとか、心に余裕がある時にしか買わない物が豊富に展開!
普通に超面白いお店じゃん、ココ。
来て良かったなあ。世界が広がった心地がする。
「見て見て、三五さん。クマちゃんの刻印があるホットサンドメーカーですよ」
「はっはぁ~。これで焼くとクマの絵が描いてあるホットサンドが出来るんだねー」
面白いモノいっぱいで話も弾み、デートしてる~って感じ。雑貨屋イイネ!
二人で宝探し気分で、ただ店内を歩くだけでも楽しい。
ああ~心が豊かになるぅ~。
何か今まで誤解をしていたなぁ。
こういう雑貨屋さんって男子ご禁制のファンシー時空なんだとばかり思っていた。
まあ、でもコスメ雑貨やらアクセサリーなんかの売り場はリアルに男子ご禁制かもしれないが。
ふふふ。だが今のオレはザ ・ 彼女連れ。
一つ一つ商品を見ていって、こよいにお似合いのアクセサリーなんかを見繕うことすら可能。
どれどれ~?
髪留めなんかが手頃なお値段で、種類も多いじゃないか。
せっかくだからこの中でこよいに似合うものを見ていってみよう。
「どれがこよいに似合うかな~?」
「わぁっ。え、選んでくれるの? ですか?」
こよいのサラサラな髪に一番映えるのはどれかな?
リボンかな? チャーム付きのヘアゴムかな? それともシュシュ?
一個一個こよいの髪にかざす様にして選んでみる。
「あ、これなんか可愛い。これがこよいに一番似合うかも」
オレが選んだのはラインストーンが散りばめられた、三日月型のバレッタ。
ブルーとシルバーのラインストーンが涼やかで美しい。
「うわぁ、キレイッ。いいな、これ良いな~……う、うう~、え、えっとぉ……」
キラキラしたお目々でバレッタを見つめたかと思えば、何やらモジモジし始めるこよい。
つつっとオレの方へ寄ってきて両手を組み、オレの事を上目遣いで見つめてくる。
こ、これはまさか……!
「さ、三五さぁん。こよい、コレ欲しいなぁ♡ 買って買ってぇ~♡」
ウワァァァ~ッ! た、足りるぅぅ~ッ! 超うれしぃ~ッ!
こよいの0距離からのガチおねだりに、オレの中の何やかやの感情? 欲求? が急激に満ち足りてゆくのを感じる。
足りるわぁ~。めっちゃ満ちていて、なおかつ全てが足りているわぁ~。
「もちろん買ってあげるよ! オレもコレこよいに着けてもらいたい!」
「うわぁぁっ♡ ありがとうございますぅ♡ ワガママ聞いてもらっちゃった♡」
ワガママなんてとんでもない。
こよいは今までずっと可愛い雑貨を買えなかったんだから。
折角だから、もっと色々買っていけばいい。
「一つでいいの? 他に欲しいもの無いのかな?」
「そ、そんな! 充分ですよ! 三五さんに選んでもらったプレゼントをもらえて、わたし最高にハッピーですからっ! これ以上は欲張りですっ!」
慎ましやかだなぁ、こよい。でもオレが充分じゃないぞ。
だってこよいはオレが今までプレゼントしたモノを全部大切にしてくれているから、非常にプレゼントのし甲斐がある。
ってゆーか、もっとこよいに欲しいもの買って上げたい!
「遠慮しなくて良いんだよ? こよいの好きなもの何でも買ってあげる」
「くっはぁぁっ! ぅっくぁぁ……!」
ガクンとよろめくこよい! どうした!? めっちゃのけ反ってるぞ、こよい!
「そ、そのお言葉を貰えただけでもぅ……! あっぁ~ッ! 多幸感がパチパチするぅぅ~ッ! 何だか世界ヲ手に入レたカのヨウな全能感ーーッ!」
こよいのテンションが何故かMAXに!? 何がそんなに琴線に触れたんだ!?
結局遠慮されちゃったみたいで、お会計したのはオレが選んだバレッタだけ。
でもお店を出た後に早速前髪にバレッタを着けてくれて、見ているこっちが幸せになる様な飛びっ切りの笑顔をオレに見せてくれた。
「どう? 似合ってますか? 可愛いですか?」
こよいの髪を飾る三日月のバレッタは可愛いこよいを更に可愛く彩るアクセントになる。
「す~っごく似合ってるよっ、こよいっ! 世界一カワイイよぉぉっ!」
「あっあ~っ! 甘えさせてくれる三五さん、宇宙一カッコイイーーッ!」
むっぎゅううぅ、と抱き着いてくれる甘えんぼなこよい!
べったりくっついて離れようとしないこよい!
こよいっ! こよいっ! ああーーっこよいぃーっ!
ああもう、今すぐ告白したいっ! 夏祭りまで待てないよ!
我慢だ、我慢我慢っ!
今は我慢して普通にデートの続きだ!
「んん~♡ 三五さん、わたし達ってこうしていると恋人同士に見えますよね?」
「このクレープ美味しい~。はい、三五さん♡ あーん♡」
ああー! 我慢できないいぃーーッ!
めっちゃ甘え倒してくるよね、こよいぃ~っ!
理性が吹っ飛ぶぅぅ~っ!
うううううう。
こうして夕方にこよいを家に送り届けるまでの間、嬉しいけれどもどかしい時間が続くのであった。