裏46話 皆で修学旅行~! ④ ! 三日目は朝から鯛茶漬け! 高二 二学期
窓の外から薄く陽の光が差し込む頃に、オレは目を覚ました。
とはいえ部屋の中はまだ薄暗い。
またしてもスマホの目覚ましアラームが鳴る大分前に起きてしまったみたいだ。
「く~く~、すやすや……」
湖宵は心地好さそうに安眠している。
すごく可愛いので背中をナデナデさすってあげちゃう。
湖宵の浴衣の生地は和晒で柔らかく、触っていて気持ちが良い。
「くふふぅ♡ むにゃむにゃ♡」
幸せそうに眠る湖宵を起こさないように、引き続き背中や頭を撫でていく。
30分くらいそうしていただろうか?
「う、うぅ~ん……さんごぉ?」
湖宵の瞼がゆ~っくりと開いていく。
「おはよう、湖宵」
「お、おはよう? ……なの? ベッドでさんごになでなでされててぇ、ポカポカでぇ……ゆめのつづきなんじゃないのぉ?」
トロ~ンと夢うつつになりつつも疑問符を投げ掛けてくる湖宵。
「夢か現実か、どっちだと思う?」
「う~ん、ゆめぇ? でもおかしいな? ゆめでアナタに可愛がってもらう時はいつも女の子の姿なのに……おムネがペッタンコだよ?」
ポワポワ状態で胸をペタペタ触りながらそう宣う湖宵はべらぼうに男心をくすぐり、思わず力一杯抱き締めそうになってしまった。
なんて魔性の愛らしさ!
ハッスル不可避!
「ほ、ほら、もうすぐ朝食のお時間だよ? 準備しよう?」
「う゛あ゛~。おふとんをめくると寒いぃ。やっぱ現実だったぁぁ」
軽~くシャワーで汗を流してから宴会場へと向かう。
「繊月さん、おはよう。あら? 何だかとっても幸せそうな顔をしているわね?」
「おやおや~ん? もしかして~昨夜はお楽しみでしたぁん?」
「皆おはよ~。お楽しみってゆ~かぁ、きの~の三五はとっても紳士でぇ、こよい、ちょ~ハッピーな感じなのぉ~」
「めっちゃフワッフワしてます!? 何があったらそんな状態に!? 詳しい説明を要求します!」
ああ。湖宵が女子達に持っていかれた。
この調子じゃあ今日の観光中も湖宵と二人きりになってデート気分を味わうのは無理そうだ。
まあ良いさ。明日がある。
そう、明日がね。フッフッフッフ。
さぁ~て、朝ごはんを食べて一日の活力を……って何イィ!? こ、この献立は! この献立はぁぁ~っ!
「朝から鯛茶漬け……だと!?」
そういえば昨日の夕食の鯛尽くしで〆に鯛茶漬けを食べなかった。
しかしまさかまさか、今出てくるとは思わなかったぜ。
「「「「いただきま~す!」」」」
まずは松皮造りの鯛のお刺身にゴマだれをたっぷり付けて、ホカホカご飯と一緒にパクり。
「うっ、美味い~! たまらん歯応えだぁ!」
「もう我慢出来ないキィ! 飯に出汁をぶっかけるキィィ!」
「くぅぅ! この山葵の辛味、まさに目が覚める美味さだぜ!」
「紅葉おろしも美味いんだよなあ! 薬味で味が全然変わる!」
オレ達男子連中は皆、大喜びで食べている。
色んな薬味を試しながら味わって食べるヤツも居れば、出汁と薬味をドバドバぶちこんで一気に掻き込むヤツも居る。
女子はどんな風に食べているかな?
「そんでねぇ? 三五は優し~く抱き締めてくれて、 「湖宵が眠るまでずっとこうしていてあげる」 って言ってくれてぇ~」
「何かちょっとキザな言い回しね、高波君」
「こみこみ辛辣w でもそんな風に直球でお姫様扱いされたらケッコーヤバいかもね。コロッとオチちゃうかも」
「メロメロじゃないですかぁ! うぅ、でも湖宵チャンさまが幸せなら祝福一択ですぅぅ!」
鯛茶漬けよりオレの話題で盛り上がってた。
よし、忘れよう。今は無心で味わうべきだ。
出汁をガ~ッとかけてサラサラ~ッとね。
美味ぇ! 次は山葵全部乗せ! サラサラサラ~ッ。辛い! でも後味スッキリで爽やかな辛味だ!
サラサラ~ッ、サラサラ~ッ。
うわ~! もう無くなっちまったあぁ!
もっと食いて~!
くっ! だが、今日もきっと沢山の旅グルメがオレ達を待っているはず。ここは我慢だ。
「「「「ご馳走さまでした~っ!」」」」
朝食を食べ終えたら一旦部屋に戻り、ジャージから制服にビシッと着替える。
これで準備万端!
修学旅行三日目、張り切って行ってみよう!
ホテルの駐車場に向かうと、既に観光バスがズラッと並んでいた。
今日もクラス毎に別れて乗り込む。
「三五さん♪ お待ちしてました♪」
オレ達のクラスのバスガイドさんは今日もイコさん。
いや、しかし……。
「おはようございます、イコさん。昨日よりも一段とキラキラしてますね」
「キ、キャァァ~♡ さ、三五さぁぁぁん♡ イコは嬉しさで天にも昇りそうですぅぅ♡」
「ちょっと三五! 何ソッコーで口説いてんのさ!」
「違うって! 湖宵も見てみなよ! イコさんの気合いの入りっぷりを!」
メイクもバッチリだし、髪型なんか美容院に行った直後みたいにキメキメだ。
これは褒めざるを得まい。
「イコは今日も心を込めてガイド致しますね♡ ですので後でご褒美にデュエットして下さい♡」
「え、演歌とかでも良いですか?」
「公私混同してるよ! このちゃっかりガイド!」
「いいから早く席に着きなさいな。後ろが通れないじゃないの」
「そんなマイペースなこみこみが好き♪」
多少ゴタゴタしたものの、全員乗り込んでバスは元気に出発した。
並み居る国宝、重要文化財、世界遺産、そして美しき日本の秋と出会う旅が今日も始まるぜ!
「は~い、皆さんおはようございま~す♪ このバスが今から向かうのは 「伏見稲荷大社」 でございま~す♪」
一発目から世界遺産! 有名所がキタね~。
早い時間ならあまり混んでいないだろうしゆっくり見学出来るかな?
「千本鳥居が有名ですけど、入ってすぐの楼門にもご注目! なんと稲荷大社の楼門はあの豊臣秀吉が建てたので~す♪」
「へぇ~流石、農民上がりだけあって体力あるなあ」
「は~いそこ、秀吉が自力で建てたんじゃないですよ~♪ 彼はお金出しただけで~す♪」
「「「「ワッハハハ!」」」」
男子のしょ~もないボケにもさらっとツッコんでくれるイコさん、イイネ!
さあ、バスから降りて伏見稲荷大社までレッツゴー!
イコさんが言ってた豊臣秀吉が建てたデッカい朱塗りの楼門をくぐり、いざ本殿へ。
これまた魔を清める朱塗りと繊細な装飾が数多く施された、ゴージャスでありながら優雅さと威厳を兼ね備えた立派な建物だ。
全国の稲荷神社の総本宮と言うだけはあるね。
本殿を見学したらいよいよ千本鳥居へ!
「うわ~スッゴい! 真っ赤な鳥居がズラズラ~ッと並んでるぅ!」
鳥居がトンネル状に並んでいる参道は各種メディアで散々取り上げられてはいるが、自分の目で直接見るとやはり圧巻だ。
鳥居と鳥居の僅かな隙間から朝日を浴びながら、一歩一歩踏みしめて歩くと何とも言えない清々しさを感じる。
浄化されてる気持ちがするね。
千本鳥居をくぐりきったら稲荷山の麓にある奥社に到着。
オレ個人としてはお山に登って各社を巡るご利益巡りというのをしてみたかったんだけど、今日は予定が詰まっているから山登りは次の機会に持ち越しだ。
「ねえ見て、ユイ。狐のお顔の絵馬よ。これに表情を描いて奉納するの。貴女も描かない?」
「それは良いんだけど、こみこみの狐ちゃん死んだ魚の目ぇしてない? 何でそんな覇気が無いのよw」
八重津さんと中野さんは絵馬を描いているのか。
他の皆はどうしているのかな?
「三五、三五っ! 「おもかる石」 ! おもかる石しましょ!」
出た、おもかる石。
何でも奉拝所の右手にあるおもかる石と呼ばれる石を願い事をしながら持ち上げて、軽く感じたら願いが叶い、重く感じたら叶わないという有名なおまじないだ。
有無を言わさない勢いの湖宵に引っ張られ、おもかる石の前に連れて来られた。
「湖宵チャンさまとめちゃ×2仲良くなりたぁい! ……んっ!? 軽……くも重くもないような!? どっち!? コレってどっち!?」
オレ達の前に寺崎さんが挑戦していたみたいだ。
「大丈夫だよ、だいずちゃん! そのお願いちゃんと叶うよ! 仲良くしようね!」
「湖宵チャンさまあぁぁ♡ ハッピィィィ♡」
「よお~し、次はボクの番だぁ! 結婚! 結婚! 三五と結婚! ウルトラハッピーウェディング! ハイィ~ッ!」
リズミカルに持ち上げるのはウケるからヤメロ。
「軽ぅぅぅい! やったぁぁ大勝利ィィ! さあ、三五! 三五もお願い事して♡」
微妙に圧力をかけられている気もするが見て見ぬふり。
「え~っと、湖宵との修学旅行が楽しく安全なものになりますように……おっ、軽い」
良かった~。もし重かったらどうしようかと。
「三五って奥ゆかしい♡ そんなトコも好き♡」
いやあ、照れるぜ。
さあ、願掛けも済んだことだしそろそろ次へ……。
「ウッキイィィィ~ッ! この石クソ重いキィィ! 持ち上がらねぇキィィィ!」
「流石にそんなワケねぇだろw ……えっ? マジで言ってる?」
「どんだけ邪悪な願い事したんだよお前……」
うわぁ……最後に嫌なオチがついてしまった。
「ウッキッキイィィィ~ッ!」
気を取り直して次行ってみよう、次!