裏36話 ソワソワ修学旅行……か、ら、のぉ~? 高二 二学期
長めの食休みが終わったのでオレ達はクラスの皆と合流した。
これからいよいよ本格的な観光が始まる。
本気でお散歩をしてしまったせいで、既に奈良公園をかな~り歩き回ったんだがまだまだ元気だぜ!
むしろ歩けば歩く程に普段の生活ではお目にかかれない絶景を見ることが出来て、疲れるどころか気分が高揚して足取りが軽く感じるくらいだ。
惜しむらくはその感動を湖宵と共有出来ないことだろうか。
湖宵のソワソワは収まるどころか時間が経つにつれて深まって、景色どころじゃないみたい。
だが! これからオレ達を待ち受けているのは並み居る国宝 · 文化財!
きっと湖宵の心を震わせてくれるハズ!
トコトコ歩いて一番最初に出会った国宝は東大寺南大門。
二十メートルを越える雄大な門は正に神域へと通じる門、といった印象。
南大門に安置されている阿吽の金剛力士像もまた国宝だ。
厳めしい表情と強靭な体は守護者に相応しい。
ギロリと鋭いその双眸に睨まれたら、心に疚しさを抱えた者はたちまち退散してしまうことだろう。
…………。オレ達は男同士で絶賛恋愛中なワケなんだが、通って大丈夫だよね? 別に悪い事してないもんね!?
ええい、胸を張って堂々と通ってやる!
南大門を抜けた先は俗世とはかけ離れた神秘の地……ってな訳にはいかない。
だって観光地だから。
しかも紅葉に彩られているお陰で集客率は更にUP!
オレ達以外の修学旅行の学生や外国人観光客達がごった返している。
はぐれないように湖宵と手を繋ぎ、力強く握る。
「ンアア~ッ♡」
悶えてモゾモゾしだす湖宵。
ちょいと挙動不審だが解き放ったら100%迷子になるのでこのまま引っ張っていく。
人波に流されて、やって来ました大仏殿。
奈良まで修学旅行に来ておいてここに来ないのはウソだろう。お前何をしに来たんだよって話になるからな。
さぁ~て本日のメインイベント!
国宝中の国宝! 奈良の大仏様 · 廬遮那仏との感動のご対面だ!
まず驚いたのがやはりその大きさ。
こんなに凄い仏像が千年以上前から存在していたなんて、と感心してしまう。
もっとも何度か戦火に焼かれて当時のまま残っているのはお膝と台座の一部分だけらしいのだが。
それでも見ているだけで心に去来する清々しい気持ちや、御威光、などといった形に出来ないものはきっと当時のまま変わっていないんじゃないかな。オレはそう思う。
穏やかな御顔を見上げると見守られているような、「正しく生きていきなさい」 と言われているような、そんな気持ちが沸き上がってくる。
…………………………。
うん。大丈夫。オレは間違ってない。
だって同性愛は悪い事じゃないから!
Q極TS技術という新技術も普及したし!
今みたいに男同士で手を繋いでも、時にはそれ以上の事をしても良いのさ!
オレの生き方は正しい! 平気!
「な、何だよぉっ! 女の子の心を持って生まれてきたのが悪いかっ! Q極TSして悪いかぁっ! 三五を好きになって悪いかっ! えぇ~いっ! コンニャロコンニャロ~ッ!」
こ、湖宵ィィ~ッ!? 大丈夫だから! 人を愛する事は罪じゃないから!
だから暴走しないで! 空いている手で大仏様に向かってボクシングしないで!
何て罰当たり! 早くあっちに連れて行かないと!
「ホ、ホラ湖宵! あの柱を見て! 大仏様の鼻の穴と同じサイズの穴が空いているんだよ! 通り抜けられたら無病息災でいられるんだってさ!」
「えっ、本当!? 無病息災!? 通らなきゃ! 三五もボクに続いて!」
えぇ……。勧めといて言うのもアレだが、あんな事をしておいてご利益には縋るのか……。
心に棚を作るの上手いな、湖宵。日本人だな。
き、気を取り直して次に行ってみよう。
本日のメインイベントその二!
春日大社だぁ~っ!
何といっても見るべきは朱塗りの社殿だ。
鮮やかな朱色に染められた社殿や楼門は美しいの一言。
紅葉との調和もまた素晴らしい。
まるで春日大社に満ちる厳かな霊気が周囲の木の葉を真っ赤に染め上げているかのようだ。
絵画の世界に入り込んだみたいだ!
さすが世界遺産!
美しい外観もさることながら、春日大社には近年リニューアルされたばかりの“国宝殿”という美術館がある。
その名の通り国宝が一杯展示されている美術館だ。 (雑説明)
修学旅行の学生らしく、我々は国宝殿を見学することになった。
いかにも社会科見学~って感じだが、刀剣や鎧兜といった男の子心をくすぐる宝物がいくつもあって見ごたえ抜群だった。
湖宵は相変わらずソワソワしてたけどね。
ひとしきり見学が済んだらまた自由時間がやって来た。
高校の修学旅行は自由時間が多くてイイネ。
よぉ~し! ここらで一発、ソワソワ湖宵ちゃんをデートに誘ってみるかな!
この近くにある“ささやきの小径”に行ってみるのはどうだろう?
二人きりで静かに愛をささやくロマンチックな時間を……って待てよ? よく考えなくてもそんな時間は過ごせなくないか?
だって今日はささやきの小径がざわめきの小径にクラスチェンジするくらい観光客が多いんだから。
う~ん、そうなるとどこへ行こうか……。
「あ~っ! そうだった! 春日大社に来たらあの場所へ行かないと! 三五! こっちこっち! ボクについて来て!」
おおっ? 何とビックリ。
逆に湖宵の方からお誘いされてしまったぞ?
湖宵に手を引っ張られて、着いた場所は若宮十五社の内の一つ、夫婦大国社。
「ここね! 夫婦の大国様がお祀りされててね! ちょ~スゴい縁結びラブラブ♡スポットなんだよ! リアルに聖域なんだよ!」
そう説明しながらも、多くの女性客が作る行列にイソイソと並ぶ湖宵。
オレも付き添って一緒に並ぼう。
この行列の先には一体どんなお楽しみが待っているのかな?
「やった~! 遂に手に入れた! 伝説のラブラブ絵馬~!」
湖宵が天に掲げているのは、何とハートの形をした絵馬!
女性人気も納得の非常に可愛らしいデザインの絵馬だ。
「三五♡と未来永劫一緒にいられますように♡ 湖宵♡ っと。はい、三五も隣に書いて!」
「ふむ……オレ達も夫婦の神様になりたいです! 三五、っと。」
一つの絵馬に二つの願い事と名前を書いて奉納。
絵馬掛けを見ると本当に沢山のハートが掛けられていた。
確かにここは恋愛の聖地で間違い無いな。
そうか、わかったぞ! ズバリ! 湖宵の目的地はここ春日大社の夫婦大国社で、お目当てはハートの絵馬だったんだな!
どんなお願い事をしようか悩んでいたからあんなにワクワクソワソワしてたんだね。乙女だな~。
「危なかった~。ワクワクしすぎてラブ♡絵馬のこと、うっかり忘れるトコだったよ~。あ~、待ち遠しいな~」
あっれ~? 湖宵のこの口ぶりだと本命はまだ別にあるっぽいぞ?
一体何をそんなに楽しみにしているんだ~! 全然わから~ん!
ウンウン唸っている内に自由時間が終了。
日も傾いてきたので本日の観光も終了。
集団でえっちらおっちら移動して、今日お世話になるホテルに着いた頃には辺りはすっかり暗くなっていた。
フウ、と一息吐く。
するとたちまち全身が心地好い疲労感に包まれていく。
後はお風呂に入ってご飯を食べてグッスリ就寝!
以上! 一日目終了!
今日は本当によく歩いたなぁ! 皆さんお疲れさまでした~っ!
「キ、キタアァ~ッ! 大本命っ! 約束の地へと辿り着いたあぁぁ~っ! この時を一日千秋の思いで待っていたよぉぉ~っ!」
ってオイイィィ~ッ!?
湖宵が楽しみにしていたのって、まさかホテルかよぉぉぉ!!??