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幼馴染み♂「今からQ極TSカプセルで♀になりマース♪」  作者: 山紫朗
【裏話】湖宵とホモる (ド直球) 高校生活
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裏35話 ソワソワ修学旅行…………?  高二 二学期

 お食事処を出たオレ達、修学旅行の御一行は奈良公園に訪れた。


 奈良公園と言えば天然記念物に指定されている鹿が園内のあちらこちらに居ることで有名だ。


 しかも今は紅葉の季節。

 桜、モミジ、イチョウの木が鮮やかに色付いて幻想的な景観を作り出している。


 オレ達修学旅行の生徒は今、食休みを兼ねて風光明媚な公園の散策を楽しんでいる。


 「わあ、鹿せんべいを食べてくれたよ! ここの鹿達って人懐っこいんだね!」


 「モミジの紅もイチョウの黄色もとってもキレイ! オンスタ(S N S)映えする~! 写真撮って撮って~!」


 可愛い鹿達と思いのままに戯れたり、美しい紅葉を背景に記念撮影にせっせと勤しんだりと、皆童心に返って楽しんでいる。


 取り分け童心に返っている人と言えば、やっぱりこの人。


 「カバディ! カバディカバディカバディ!」


 我がお嫁さん♂の湖宵だ。


 中腰の姿勢で円を描くように鹿の周りを高速移動している。

 その両手には鹿せんべいが。

 牽制されて困惑する鹿の口元へ、すかさず鹿せんべいを運ぶ湖宵。

 反射的にパリンと食べる鹿。


 「カバディ! カバディカバディ!」


 湖宵はターゲットを別の鹿に移して、またもその周囲をグルグル回り出す。

 無駄に元気過ぎる。


 オレは紅葉の下で湖宵を生暖かく見守っていた。

 

 湖宵の奇行を止めないのかって?

 良いんだよ。有り余っている体力を少しでも消耗してもらわないと。

 もし世界遺産である東大寺とかで暴れちゃったら大変だしね。


 

 「やあ、高波クン。久し振りだね。大仏池の方には行ってみたかい? 紅葉も良いけれどイチョウ並木も美しいよ。落ちたイチョウがまるで黄金のカーペットみたいで、とても見事だったよ」


 「あっ、部長さん。教えてくれてありがとう。湖宵が落ち着いたら一緒に見に行ってみるよ」


 何をするでもなく木の下に佇んでいたオレに話し掛けてくれたのは、文化祭で知り合った放送部の部長さんだった。


 「ハハハ。今の僕は放送部の責務から解放された身さ。音無、と名前で呼んでもらえるかい?」


 「わかったよ、音無君」

 

 放送部部長 · 音無君は相変わらず物腰が柔らかな好青年だ。


 「いや~、しかし奈良では本当に鹿が大切にされているんだな。不思議な感じだわ~」


 「何でも春日大社からやって来た神様の使いらしいからね。でも何が不思議なんだい?」


 「いやさ。ウチのジイちゃんが猟友会に入っててさ。里山から下りてきて悪さをする鹿をバンバン狩りまくってんのさ」


 「なるほどね。言われてみれば鹿が増えると畑が荒らされたり、里山の植物が根こそぎ食べ尽くされてしまうって話を聞いた事があるよ。確かに高波クンの言う通りだ。この扱いの差は不思議だね」


 片や迷惑な害獣で片や神聖な神様の御使い様なんだもんな。

 鹿自体には何の違いも無いのに棲んでいる場所の違いでエラい違いだ。


 「てゆ~かオレ、ジイちゃん家に遊びに行った時に罠にかかった鹿にトドメ刺して、解体して、ステーキにするトコまで全部見てるからな。もう鹿=ステーキにしか見えないわ」


 「ジビエだね! 高波クン、鹿肉を食べた事があるのかい!? どんな味だった!? 人によって味の感想が全然違うからずっと気になってたんだ!」


 音無君の眼鏡の奥の瞳が好奇心でキラキラ輝く。

 普段は大人びている彼だが、今はまるで年下の少年の様だ。


 「ベテランの猟師がキッチリ解体してちゃんと下拵えした鹿肉は、臭みもなくて最っ高に美味いよ! ちょうど今の時期にジイちゃんから美味い鹿肉がたくさん送られてくるんだ。もし良かったら今度ウチにおいでよ。ご馳走するよ」


 「ええっ!? 良いのかい、お言葉に甘えても!? 僕は一度、鹿肉を食べてみたかったんだ! うわ~、今から手土産を何にするか考えないと!」


 大喜びの音無君。

 やっぱりジビエは男の子の憧れだよね!

 思った通り、この男とは気が合うなあ。

 美味しい鹿肉ステーキをお腹一杯食べさせてあげよう!



 音無君と盛り上がっていたその時、周囲に違和感を感じた。


 ん~? ……はっ! し、鹿だ! いつのまにか沢山の鹿が現れて、オレと音無君をすっかり取り囲んでしまっている!


 「ウッワ~! 何でオレ達の周りにこんなに集まってんの!?」


 「こ、これは困ったね。邪悪な話をしていたのが良くなかったのだろうか?」


 ギュウギュウに押し寄せてくる鹿達が抗議をするかの様にオレ達をつぶらな瞳で見つめてくる。

 ヤベェぞ。逃げ場が無ぇ。


 「コラ~ッ! 三五をイジメるな~っ!」


 おおっ! 湖宵が駆け付けて来てくれた!

 でも大丈夫か? 今の湖宵は情緒不安定だ。

 鹿を叩きのめしてしまいかねない勢いなんだが……。


 「いいか! よ~く聞けぇ! 大勢で二人を囲むだなんて最低だっ!」


 違った! 説教してる! 鹿を叱ってる!

 

 しかし、いかにしかめ面で鹿を叱ろうとも鹿が 「然り然り」 などと頷いて道を空けてくれるハズも無い。

 しからばここは強行突破。

 三十六計逃げるに()かず。オレと湖宵、音無君は鹿を押し退けてダッシュ!

 かくかくしかじか、という訳で鹿達から逃げ切る事が出来ましたとさ。

 どっとはらい。


 

 逃げ出した時のダッシュ力を利用して、オレ達は音無君オススメの大仏池までやって来た。


 イチョウ並木からハラリと散ったイチョウが池に落ちて波紋を描き、イチョウの絨毯の上では鹿の親子が寄り添い合って身体を休めている。

 正にお伽噺の風景だ。 


 「うわ~! 綺麗だなあ! 日本にこんな綺麗な場所があるんだ~って感じ!」


 「フフフ。そうだね。この風景を見ていると煩雑な日常のアレコレを忘れてしまうよね」


 心洗われるとはこのことか。

 この光景には流石に今の湖宵すら心奪われるに違いな……。

 「あ~楽しみだなぁ♡ 待ちきれないよぉ♡」


 な、何と! またしても上の空!? 

 見とれるどころか見てすらいないだと!?

 本来奪われるハズの心は現在、此処にはあらずってか。


 むむむ。悔しいぞ。

 オレはこんなに感動してるのに!

 こうなったら意地でも湖宵を感動させてやる!


 「音無くぅぅん! 感動的な風景が見られるお散歩コース知らない!?」


 だが手段は人任せだ。


 「任せてくれたまえ。風景絶佳。東洋の美を君達にご覧頂こうではないか」


 さっすが~! 頼りになる~!


 オレは湖宵の手を引っ張りつつ、音無君の先導に従った。


 それにしても改めて美しい公園だと思う。

 園内の至る所に紅葉の名所と呼ばれるに相応しいスポットがあり心を躍らせてくれる。


 彩り鮮やかな紅と黄の美しさは言うに及ばず、普段見慣れている常緑樹の緑も幻想風景とのコントラストを浮き彫りにしていてグッとくる。


 中でもオレのお気に入りは、浮見堂。

 鷺池に浮かぶ六角形のお堂から見る紅葉は絶好のロケーションだ。

 池に映り込む紅葉も見られて一挙両得ってヤツだな。


 ふぅ~歩いた歩いた。

 これだけの景色を見れば流石の湖宵も……。


 「うぅぅぅん! うううぅぅぅ~んっ!」


 またむずがってる!? 明らかに周り見えてない!


 「どうやら繊月(せんげつ)クンには何か気にかかっている事があるようだね」


 「もおぉぉ! 湖宵! ず~っとソワソワしちゃって、一体何をそんなに楽しみにしてんの!?」


 あっ。痺れを切らしてついついストレートに問い質してしまった。


 「うぇぇ~っ!? そ、それ聞いちゃうぅ~っ!? 三五ぉ~っ! そ、そんなのボクの口からは言えないよおぉ~っ! あ、あ、後のお楽しみだよぉぉ!」


 湖宵は顔を真っ赤に染めながらそう答えた。


 口からは言い難い……そういえばメイお姉さんもそう言っていた。無粋だからだろうか?

 ふむ。後でわかるのなら、今無理に聞き出す必要は無い……かな?


 

 「カ、カバディ! カバディカバディ!」


 誤魔化す為かまたカバディしだす湖宵。

 オレと音無君の周りをグルグルまわっている。


 ええい! オレもカバディしてやる!


 「カバディ! カーバディ!」


 湖宵の進路を妨害するように左右に動いて揺さぶりをかけてやる。


 「カバディ! カバディ!」


 音無君!? まさか君も付き合ってくれるなんて!

 やっぱり良いヤツだなあ! 音無君は!


 「「「カバディ! カバディ! カバディ!」」」


 オレ達三人は集合時間になるまで風雅な景色の中でカバディを楽しんだのだった。 (ルールは知らんけれど)


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