裏34話 ワクワク☆修学旅行② ※あれ? まだワクワクしてるの? 高二 二学期
「しゅぴゅるるぅ~……しゅぴぴぃ~……」
湖宵は相変わらず眠りっぱなしのグッタリしっぱなし。
新幹線が出発してから二時間以上が経過した。
その間に過去の行事の思い出を回想していた訳なんだけれども、湖宵は全く起きる気配を見せない。ていうか身じろぎすらしてない。
いやあ~それにしても文化祭は楽しかったな~。見所満載と言うか密度が濃かったね。まるで数ヵ月くらいずっと回想していたと錯覚するくらいに。
何つって (笑) そんな訳ないか (笑)
今年の文化祭は湖宵にとっても特別に輝く思い出になったに違いない。
何せ学校の中で堂々と女の子として振る舞えて、一杯デートを楽しんで、ミスコンで優勝までしてしまったんだから。
そんな文化祭よりも湖宵の修学旅行に掛ける期待値は高い。いや、遥かに高い。高過ぎる。
だって出発の段階でこんなにクッタクタになるくらいはしゃいでいるんだから。
その理由が何なのか全然思い付かない。
待てよ? 文化祭ではオレの方が逆に花魁 · 高波太夫に扮してはしゃぎすぎてしまった。ダブルヒロインとして湖宵の人気を喰ってしまうくらいに!
だから修学旅行では主役になって活躍したい! と考えているんだろうか?
う~ん。それもちょっと違う気がするなあ。
「は、はうあっ!」
オレがうんうん考え込んでいると、湖宵の身体がビクンッ! と跳ねた。
どうやら目が覚めたみたいだ。
「おはよう、湖宵。ナイスタイミング。もうすぐ新幹線が駅に着くよ」
「ウッソォォぉぉ~んっ! 一回目を閉じて開けたと思ったら、何故か二時間後の世界に居たあぁっ! こ、この能力は “不思議の国の囚われ乙女”!? 絶対能力者から攻撃を受けてるよ! 間違い無い!」
「はしゃぎ疲れて寝ちゃったんだよ、湖宵。よっぽど楽しみに……」
「わあぁぁ~っ! 三五といっぱいおしゃべりしたりトランプとかで遊んだりしたかったのにぃ~っ! こんなのあんまりだよぉ~っ!」
湖宵が泣き出した!?
めっちゃ情緒不安定になってるぅ~っ!?
「だ、大丈夫だから! ま、まだ乗り換えがあるから! お話出来るから!」
「わぁ~っ! 三五ぉ~っ!」
湖宵が抱き着いてきた。
それは良いんだけれども、オレのブレザーの中に頭を突っ込むのは止めてもらって良いかい? シワになっちゃうよ。
「んふぅ~♡ 三五イイ匂い~♡」
あれ~? でもあんだけ不安定だった湖宵の精神が落ち着いてきたぞ? なら良いか、このままで。
『間もなく、京都です』
車内アナウンスがもうすぐ到着だと教えてくれた。降車準備をしよう。
京都駅で近鉄線に乗り換えて、奈良駅へ向かう。
他の人の迷惑にならない様に、皆でお行儀良く移動しよう。
湖宵がはぐれてどっか行っちゃわないようにシッカリ手を繋いでおく。
電車に乗ってからもお膝の上に湖宵を乗っけて、ついでに二人羽織みたいにブレザーの中に湖宵を入れておけば完璧。
これなら暴れだしたりしないだろう。
「あ゛あ゛~♡ あたたかみ感じるぅ~♡ 頭が蕩けるぅぅ♡」
湖宵が大分大人しくなってくれた。
気持ち良さそうにデロ~ンと全身の力を抜いてリラックスしている。
これなら二人でゆっくりお話が出来るね。
「高波と繊月が男同士でイチャついてるトコ、何度見ても違和感あるな……」
「な。魚の骨がノドに刺さってるみたいな、呑み込みきれないナニカがあるよな」
「繊月がQ極TS女子だって、頭ではわかってるんだけどなぁ」
「んも~ぉ♡ 男子ぃ♡ 恋人同士の語らいを邪魔しちゃダメよ♡」
「そうそう♡ それに湖宵チャンには高波君のエロスを全部受け止めてもらわないと♡ 他の女子の貞操が危ないからね♡」
「アアア~……でも湖宵チャンさまのあんなデレデレなお顔を見せ付けられるなんてえ……これがNTRRってヤツなのですね……」
クラスメイトから暖かく見守られている。
オレと湖宵が二人きりで過ごせるように気を遣ってもらってるんだ。
悪いね~、皆。でもありがとう!
「あああ~♡ 楽しみぃ♡ 早く♡ 早く着かないかなぁ♡」
湖宵がトロ~ンとした顔でうわ言のように何度もそう呟く。
その気持ち、よくわかる。
オレは湖宵程には期待値が高くないけれど、長時間の移動の間に旅行へのワクワクが高まってくるのを感じる。
電車が奈良駅に到着した頃には、もうすっかりお昼時だ。
てなわけで駅に着いたら皆でゾロゾロ並んで歩いて、奈良公園近辺のお食事処へと向かった。
和風で年期の入った雰囲気のあるお店だ。
班ごとに別れて席に着く。
内装もワビサビをしみじみ感じる落ち着いた趣が素晴らしい。
それに窓から若草山が見えるのもGood。
若草山は外観が笠が縦に三つ重なっている様に見える為、三笠山とも呼ばれている。
「天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも」 という百人一首の句で有名な、あの三笠山だ。
「へぇ~そうなんだ~!」
「高波、物知りだな~!」
「予習バッチリだね!」
ガイドブックから丸パクリしたウンチクだけど、同じ班のクラスメイト達は喜んでくれた。
「へぇ~……そうなの~……あ~、早く着かないかな~……」
だけど肝心の湖宵はワクワクソワソワと上の空。
それにしても 「早く着かないかな」 って何?
もう既に着いてるんですけど?
ここが修学旅行の目的地なんですけど?
何で未だにワクワクしっぱなしなの?
それとも湖宵には特別なお目当ての観光地があるのかな?
う~ん、謎だ。
色々と考え込んでいる内に食卓にお膳が運ばれてきた。
答えが出ないし、今はランチと洒落こもうか!
メニューは松茸のお吸い物と胡麻豆腐、そして茸の天ぷら!
舞茸、山伏茸、ほうき茸、畑しめじ……後は湖宵の好きな椎茸!
茶碗蒸しの中にはまたしても松茸が! かまぼこと銀杏がゴロッと入っていて豪華だね。
おおおお~っ! 柿の葉寿司まであるじゃ~ん! イイネ~ッ! 風情感じるね~っ!
旅行に来たって実感が凄いする~っ! テンションアガ↑るわ~っ! 味わっちゃおう! 秋!
「いただきま……」
「あぐあぐあぐあぐ! ムシャムシャ!」
こ、こここ、湖宵~っ!? 猛烈な勢いで喰いまくってる!? 第1話以来のバクバクボンボンだ!
「湖宵ィ! それ、そんなにガツガツ喰うもんじゃねぇから!」
「むぐむぐ……。でも三五! ボク何だか、すっごくお腹が空いてるからぁ! 食べ始めたらっ! むぐむぐ……。手が止まらなくてぇ! あぐあぐっ!」
湖宵って、もしかして朝ごはん食べてないの!? 待てよ? メイお姉さん曰く、昨日からテンションがおかしかったとの事だから、まさか昨日の晩ごはんもまともに食べてない!?
ヤベェな~。電車乗ってる時におやつでも食べさせとくんだったな。
「んまんま! まぐまぐ! ずず~っ!」
んああぁ~っ! 両手に持った柿の葉寿司を交互に頬張り! 松茸のお吸い物で流し込んでやがる~っ! もったいねぇぇ!
湖宵一人だけ、あっという間に食べ終わってしまった。
「ううぅ~ん! お腹一杯で元気も一杯だ~っ! ジッとしてらんない! 三五っ! 早く食べ終わってよぉぉ! 遊ぼうよっ! ヒマだよぉぉ!」
電車での移動中にたっぷり休み、ご飯をお腹一杯食べた湖宵の元気が復活! 加えてハイテンションっぷり、残念っぷりも復活!
まだ食べているオレの身体をユサユサ揺さぶって早く食い終われと促してくる!
このメーターが振り切れたはしゃぎっぷりはウザ……いや、ちょっと呆れてしまう。
マジで一年振りくらいに湖宵に対してこんな感情抱いたわ~。
しかし、このままではオレの優雅なランチタイムが脅かされてしまう!
そこでオレは湖宵の制服の中に手を突っ込んで、湖宵の素肌を撫で回しまくる。
「ふきゃあぁぁ~っ! あはは! あはははァン♡」
湖宵の真っ白な肌は瞬く間に発熱し、真っ赤に染まる。
「ア~ッ! アア~ッ! ぷっしゅうぅ~……♡」
クタッとへたりこむ湖宵。
夢見心地になっている湖宵の顔を膝の上に乗せ、食事の続きを楽しむ。
んん~♪ このお吸い物、な~んて上品なお出汁なんだ~♪
「高波君やっぱエロ……」
「見た? あの手つき。ヤバいよね」
「あっあっあ~! 湖宵チャンさまがイヤらしテクで骨抜きにっ!」
あ~あ~、何も聞こえな~い。
ん~っ♪ この柿の葉寿司の美味しいこと!
爽やかな風味に、米の一粒一粒に染み渡る魚の旨み……これぞ滋味。
お腹と心が満たされる良いお味。
ああ~! オレ今、旅してるなぁ! 奈良に居るんだなぁ!
「ぷしゅうぅぅぅ~……♡」
目が♡♡になっている湖宵をたまにナデナデしながら秋の味覚に舌鼓を打つオレなのであった。