裏33話 思い出の文化祭⑰ 高波太夫 Last Dance でアリンス♡ 高二 二学期
次にオレと踊るのは誰かな?
お姉さん達の方に目を向けてみると、何でだか皆モジモジしている。
そんな中、ススッとオレの前に出てくる女の子が一人。
エロ姉ぇだ。
んっ!? 制服のボタンをキチンと留めてる!? 珍しい! つ~か初めて見た!
ふう~む。ちゃんとした格好をしているのなら、ちゃんとした女の子として扱わなければなるまい。
オレはエロ姉ぇにそっと手を差し出した。
エロ姉ぇはその手に向かっておずおずと手を伸ばす。
手と手が触れ合うと彼女の肩が一瞬、ピクンッと跳ねた。
だから何なの? そのリアクション? 手ぇ繋いだくらいで緊張してんの? 何で?
仮にアンタのお誘いに乗ってラブホに行ったとしたらこの程度の触れ合いじゃ済まないんだが?
「三五ぉぉ! そんな事になったらわたし、世界を滅ぼすから!」
ヤベェ! 湖宵に心を読まれた!
「だ、大丈夫だから! もしも、仮に行ったらの話だから! てゆ~か絶対行かないし!」
き、気を取り直して踊ろう!
てか、エロ姉ぇの動きがカタいな。マリオネットのダンスみたいにぎこちないぞ。
表情もちょっと余裕が無さそうだ。
「てか顔赤くない? エロ姉ぇ」
「ち、違うからン! キャンプファイヤーのせいだからン! は、恥ずかしいから見ないでぇン!」
“恥ずかしいから見るな” だと!?
よもや、よもやこの女の口から斯様な言葉が飛び出そうとは!
この高波 三五、思いもよらなんだわ!
♪ ~ ♪ ~ ♪ ~ ♪ ~ ♪ ~ ♪ ~ ♪ ~ ♪ ~ ♪
その時、流れている曲が変わった。
オクラホマミキサーだ。
ナイスタイミングとばかりにエロ姉ぇは背を向けてくる。
そしてホラちゃんと踊って、とばかりに手を差し伸べてくるのだ。
エロ姉ぇの右肩の近くで右手と右手を繋ぎ、オレの胸の前で左手と左手を繋ぐ。
オレ達は一緒に前を向いてステップを踏みながら進んでゆく。
右♪ 右♪ 左♪ 左♪
この体勢からだとエロ姉ぇの顔を覗けない。
でも耳は丸見えだ。
近くでジ~ッと見てみると、やっぱり真っ赤。
「可愛いトコあるじゃん♪ エロ姉ぇ♪」
「あぅっ!? あ、あうぅぅぅンッ♡」
耳元でそっと囁いてやるとエロ姉ぇが暴れだす。
オレの手を振りほどいて逃げようとしているが、逆にエロ姉ぇの手をぎゅ~っと握ってやる。
離してやんないヨ~ンw
「おいお~いw どうしたよエロ姉ぇw フォークダンスしようよw」
「イヤイヤイヤぁン♡ 離してぇぇン♡」
ジタバタするエロ姉ぇを振り回したり持ち上げたりして、オレはムリヤリなダンスをした。
「あ~面白かった」
「もぉぉン♡ イジワルイジワルぅぅン♡ 三五きゅんったらぁぁン♡」
あ~ん? 言葉の上では非難してくれちゃってるが嬉しそうじゃんかよ? えぇ? この構ってチャンがよぉ。フリフリ揺れるワンちゃんの尻尾が見えてんぜぇ? エロ姉ぇ先輩よぉ!
クックックッ。
オレもいつもは振り回されてるからな。翻弄してやるのは楽しかった。
Win-Win の関係ってヤツだな。
「で、でもありがとねン♡ ウチのお願いをあんなに快く聞いてくれて。嬉しかったわン♡」
「オレ、今日エロ姉ぇに悪いことしちゃったからこれくらいはね?」
「クスクス♪ ウチ、2回泣かされちゃったからあと1回お願い聞いてくれるってことン?」
「修学旅行でお土産にエロ姉ぇの好きな物買ってくるからさ。それで許してくれる?」
「う、うンっ♡ ゆ、許してあげるンっ♡ じ、じゃあねン♡ 今日は本当にありがとぉン♡ ま、またねン♡」
エロ姉ぇにしては珍しい困ったような溢れでる喜びを抑えるような、何とも言えない表情をしたかと思ったら、言いたい事を早口で捲し立ててそのまま走り去っていってしまった。
「もう! 女の子をからかっちゃダメ!」
ポコン。
あいた。
何か軽い物で頭を叩かれた。
振り返ってみると、そこには発泡スチロール製のハンマーを持った湖宵の姿が!
この短い時間でよくそんな物を拵えられたなあ! さすが湖宵!
「お、お兄様♪ ダンスのお相手、どうぞよろしくお願いしマス♪」
「こちらこそ。どうぞよろしくね」
エロ姉ぇの次はその妹のちぃちゃんがお相手だ。
右♪ 右♪ 左♪ 左♪ クルッと回ってこんにちは♪
イイネ~! 数をこなしただけあってオレのダンスも大分こなれてきたんじゃない? 楽しいわ~。
それにオレは何故か学校の女子に敬遠されているからね。 (自己欺瞞)
だから後輩の女子に慕われている今のシチュは、凄くイイ!
「ウフフフッ♪ アハ♪ アハハハハッ♪」
ちぃちゃんが声を立てて笑う。
心がほんのり暖まる良い笑顔。
もしオレに妹が居たらこんな感じかな。
いや~。でも、ちぃちゃんに初めて会った時にはマジでビビったわ。
だって格好から性格から、何から何までエロ姉ぇに生き写しなんだもんな。
でも今の笑顔を見ていたらよくわかる。
ちぃちゃんが純粋な女の子なんだって。
それ故にお姉ちゃんの影響を強く受けて、あんな有り様になってしまっただけなんだって!
いや~、ホント改心してくれて良かった~!
「ウフフ♪ お兄様、とっても良い笑顔デス♪」
「ちぃちゃんこそ最高の笑顔だよ♪」
「だってだって♡ お兄様がちぃとのダンスで、すっごく楽しそうにしてくれるから♡ 嬉しくて、幸せで……ありがとう、お兄様♡」
オレも喜んでもらえて嬉しい。
可愛い後輩ちゃん……いや、可愛い妹ちゃんとのダンスを心ゆくまで楽しんだオレなのだった。
「さあ! 会長! 私達のお手本になって下さい!」
「そうですよ! 高波 三五FC会長! バシッとキメて下さい!」
「ヤメテ! 貴女達、こんな時だけ会長扱いなんてしないで! せめて手の震えが止まるまで待って!」
オレFCのお姉さん達がダンスの順番でモメてる。
ま~だ心の準備が出来ていないのか。
湖宵達とあんなにたっぷり踊っていたのに。
ならばここはオレがエスコートするしかないね。
「アンお姉さん。いや、アン。おいで? オレと一緒に踊ろう?」
「さ、三五さぁぁんっ!? ウッワァァァ! ファーストネームで呼び捨てにされるのしゅごいぃぃ~! 血液の循環が超加速してるのがわかりゅうぅ!」
ボボンッ! と心臓が爆発したみたいに全身が一瞬で真っ赤になるアンお姉さん。
彼女の手を優しく引いてそっと抱き寄せる。
メイお姉さんに教わったソシアルダンスだ。
「うひゃい!?」
「オレがリードしてあげる。しっかりついておいで? アン」
「は、はひぃっ♡ 一生ついていきまぁす♡」
繋いだ手の指と指を絡め、彼女の細いウエストに手を添える。
「はあぁぁっ♡ あっあっあ~っ♡」
ガッチガチに緊張しちゃってるアンお姉さん。
小さな女の子に優し~くダンスを教えるつもりでリードしよう。
ゆった~りとしたペースでステップ、ステップ。
「1 ・ 2 ・ 1 ・ 2。上手だよ、アン」
「ふわぁぁんっ♡ 頭がグルグルすりゅぅっ♡ それに手足の末端がピリピリしてきましたぁっ♡ 天国に行っちゃいましゅぅぅ♡」
「ダ~メ。天国なんかに行ったら許さないよ? アンはオレと踊るんだからね」
「うわぁぁぁぁン♡ はいぃっ♡ アンは貴方のお側を離れましぇぇんっ♡」
ノッてきたぞ! さあ、テンポ上げてみようか!
と、思った所でアンお姉さんがオレの胸にもたれかかってきたぞ?
「ぷしゅうぅぅ~♡」
何か幸せそうな顔で気絶してる!?
「うわぁ。アンちゃんってばオンナの顔してる。ベンチで休ませとくわね~」
メイお姉さんがアンお姉さんを介抱してくれた。
それは良いんだけどまだ踊り足りない。
オレはFCのお姉さん達の方を向く。
「「「「は、はわわっ♡」」」」
「皆ぁ……こっちに来いよぉ……」 (ウィスパーボイス)
「「「「は、はひぃっ♡」」」」
お姉さん達の手を順番に引いて、連続ダンスに挑戦だぁ!
まずは冷たくなっているお姉さんの手をオレの熱い手で温める。
次に指と指の隙間をこじ開けて指を絡ませる。
そして優しく抱き寄せて背中をゆっくりさする。
身体をほぐしてあげてスローなペースでゆったりダンス。
「きゅわあぁ~っ♡ マジでリアルに天国の扉が見えるぅ~っ♡」
「いいえっ♡ 三五さまの腕の中こそが天国だったのよっ♡」
「しかも今の三五さまは女装してる♡ スーパー天国ねっ♡」
「んあぁ~っ♡ スーパー天国きもちぃ~っ♡ 現世に帰りたくにゃい~っ♡」
せっかくの懇親会だってのに、少し踊っただけでお姉さん達がパッタパタと倒れていく。
でも凄く幸せそうな顔をしているからこれはこれで良いかな。
「ねえねえ三五ぉっ! わたしにもスーパー天国を見せてっ! 抱き寄せて大人のダンスしてっ!」
「そ~にゃもっ! ……にゃっ!」
「もう1回踊りたいみゃ~♪」
「ぼく踊ってないにゃ! 次は踊るにゃ♪」
湖宵達からの熱いアンコールだぁ! 嬉しいね! ノッてるね!
「よ~し! じゃあオレと踊りたい人は順番に並んでね~!」
「「「「はぁ~い!」」」」
こ~なりゃぶっ倒れるまで踊ってやるぜ!
「あ、あのっ! 私達も並んで良いですかっ!?」
「高波太夫と踊りたい!」
「オレも!」「私も!」「僕も!」
おおおっ!? 文化祭に来たお客さん達や、他の生徒達からもダンスのお誘いが!
これって花魁の人気のお陰!?
よ~し、高波太夫最後の大仕事だ!
一華咲かせてやるでアリンスぅぅ!
「OKでアリンスよ! ワチキが全員お相手してあげるでアリンス♪ 皆~♪ お並びナンシ~♪」
「「「「ウェェ~イ!」」」」
それからは皆で大きな一つの輪を作った。
オレは花魁として皆を楽しませる為に踊った。
小さなお子さまから保護者の方まで。男性も女性も関係無く、希望者皆とだ。
面白かったのが男子生徒達がオレをまるで本物の花魁であるかのようにチヤホヤしてくれたこと。
あんまり可笑しくて笑ってしまったが、ちょ~っと得意気な気持ちになってしまったのは秘密だ。
これが女の子の気持ちってヤツなのだろうか?
花魁を演じたお陰でQ極TS女子である湖宵の心にほんの少しだけ共感が持てたのかもしれない。
オレ達、トランスジェンダーでない者達にその心の全てを理解する事は出来ないだろう。
だけれどもその心に寄り添うことは出来る。
今、一つの輪になって踊っているように。
女装男子も男装女子も。
Q極TS女子 ・ 男子 (もし居れば) も。
NB男子も女子も。
皆でキャンプファイヤーを囲んだこの思い出が、世界が湖宵達にとって居心地の良い場所に変わっていってくれると信じさせてくれた。
焚き火が燃え尽きてしまって辺りが真っ暗になってしまっても、笑いあった記憶は皆の心にバッチリ刻まれているに違いない。
★★★★★★★★★★
かくして楽しい行事の回想は終わりを告げる。
だが、しんみりしている暇は無い!
新しいお楽しみがオレ達を待っている!
舞台は再び新幹線へ!
いざ行かん、修学旅行へ!