裏32話 思い出の文化祭⑯ Let's Folk Dance ヨ♡ 高二 二学期
「さあ、三五♡ フォークダンスしましょう♡ わたしと♡ 一番に♡」
湖宵がオレの腕に自分の腕を絡ませて力一杯抱き締めてくる。
これは間違いなくお姉さん達への牽制ですな。
後は……。
「さ、三五きゅ~ん♪ た、焚き火の側まで行きましょン♪」
「お兄様♪ ちぃ、何だかお胸がドキドキしてきマシた♪」
フォークダンスをする約束をしていたエロ姉ぇとちぃちゃんのご登場だ。
それと同時に湖宵の腕の締め付けがキツくなってくる。
ちょっと痛い。オレの腕がギリギリギリ……っていってる。
「出たわねエロ姉ぇっ! 言っとくけど正妻のこのわ · た · し · が! 一番に! 三五と踊るんだからねぇぇぇっ!」
ギチギチギチギチ……!
痛い! 着物の袖が悲鳴を上げてる!
やはり湖宵のエロ姉ぇへのライバル心は凄い。
同じ境遇であるQ極TS女子であるお姉さん達へのそれとは桁違いだ!
「う、うン♡ 心の準備が出来てないからン♡ ウ、ウチの順番はもぉっと後でも良いのン♡」
何故かもじもじと身体をくねらせるエロ姉ぇ。
は? 何なの? 照れてんの? 何で?
いつもラブホ行かない? とか放課後、家に泊まりに来ない? とか平気で誘ってくるのに?
どういう思考回路だ。配線ブチ切れてんじゃね?
「ち、ちぃも少しだけドキドキを静める時間が欲しいデス♡」
あら~初々しい。妹ちゃんの方は本当に可愛らしいね。日頃の行いが良いから。
「じゃあ二番目はそ~にゃと踊って欲しいの……にゃっ♪」
「三番目はみ~にゃなのみゃ~♪」
「その次はぼく♪ し~にゃなのにゃ~♪」
ネコさん達はグイグイくるね。物理的にも。三方向から押しくらまんじゅうみたいにギュウギュウ押されて苦しい。
「三五ちゃんってばモッテモテ♪ ネコちゃんの次はお姉ちゃんね♪ アンちゃんは私の次よ♪」
「ふえぇぇっ!? わ、私が三五さんとフォークダンスをぉぉっ!?」
あれ? メイお姉さんはノリノリだけど、アンお姉さんはフォークダンスに乗り気じゃないのかな?
でもせっかくの機会だからオレから誘ってみよう。もちろんオレFCのお姉さん達も一緒にね。
「アンお姉さん。皆さんも。オレと一緒にフォークダンスしませんか? FCの懇親会みたいな感じで。きっと思い出に残りますよ」
「「「「「ふぁぁぁぁ~っっ!??」」」」」
あっれ~? 何か驚愕されてしまったぞ?
「が、学校で! 後夜祭で! 好きな人とフォークダンスを踊るっ! それってもしかして……青春!?」
「失われた青春が甦るなんてぇっ!」
「男の子とダンスなんてドキドキが止まらない!」
「しかも女装した三五さまと! ああ、倒れちゃいそう!」
「やっぱり私、今日死ぬの!?」
そうか。オレFCのお姉さん達はQ極TS女子。
つまり思春期には男の子だった。
その時に体験出来なかった男の子とのドキドキイベントの機会が突然訪れたからビックリしているんだね。
こんな (女装している) オレが相手で良かったら青春を楽しんでもらいたいね!
「お姫様達、ワチキと一緒にフォークダンスをするでアリンス♪」
「「「「「うわぁぁ~っ♡ はいぃっ♡ ご一緒させてくださぁいっ♡」」」」」
そうと決まったら皆で焚き火を囲もう。
耳を澄ませば陽気な音楽が聞こえてきたぞ。
さあ! Let'Folk Dance! Yeahhh!
♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪
オレは湖宵に手を差し出して、湖宵はオレの手を取る。
改めてこうして向かい合ってみるとウエイトレスの格好をした湖宵は女の子にしか見えない。
だけどオレが恋をした女の子と今の湖宵は大きく違う。当たり前だけど。
背はもっと小さくてオレを上目遣いで見上げていたし、今より一回り小さい手はぷにぷにすべすべで指も細かった。
一緒に居るだけで心が騒がしくなり、全身の血が一瞬でカーッと燃え上がる様に熱くなる……そんな感覚も今朝、湖宵のウエイトレス姿を見て思い出す事が出来たが女の子の時に感じたそれとは少し違う。
「三五……」
湖宵の潤んだ熱い瞳がオレの瞳を覗き込む。
まるで 「湖宵は女の子だよ。忘れないで」 と主張するみたいに。
心にポッと火が灯り、全身がジ~ワジワと温かくなってきた。
オレは湖宵の瞳を見つめ返し、重ねた手に力を込めることで気持ちを伝える。
「男の子でも関係無い。もうオレは湖宵だけのものだよ」 と。
♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪
ダンスでもオレと湖宵の息はピッタリ。
両手を繋いでステップ♪ ステップ♪ くるっと回って手拍子一つ♪ パンッ!
今度は片手を交差する様に繋いで湖宵をくるりんと回転させる~♪
ここで手を離してメンバーチェンジ……な~んてしませ~んw
手を繋いだまま二人で踊り続けちゃいマ~スw
そう! オレ達は他の人達が踊っている輪の中には入らず、周りで勝手に踊っているのだ!
そんなんで良いのかって? 良いのさ! 後夜祭のフォークダンスなんだからテキトーでも!
湖宵がニコニコ笑顔ならオールOK!
ステップステップ♪ スキップスキップ♪
繋いだ手を高く掲げて♪ 湖宵がバレエダンサーみたいにくるくるくる~♪ オマケにオレもく~るくる~♪
何かもう振り付けすらテキトーになってきたけど、湖宵とのダンスは楽しいね!
キャンプファイヤーに照らされた湖宵の満面の笑みがオレの心臓の拍動を徐々に加速させていく。
何とも言えない良い気持ちだ。
いつまでもこうして二人で踊っていたいな。
きっと湖宵もオレと同じ気持ちだと思う。
それなのに湖宵は笑顔のままオレの手を離す。
優しげな微笑みをたたえたその顔が言っている。
「皆との約束を守ってあげて」 と。
湖宵ってば奥ゆかしい。そんな所も愛してる。
「お兄ちゃみゃぁぁ~んっ♪」
二番手のそ~にゃちゃんがオレの胸に飛び込んできた。
オレはその勢いでそ~にゃちゃんの脇の下に手を入れてぇぇ! 思いっきり持ち上げるぅぅ!
ホ~ラ、高い高~い! そしてその場でグルグル回転だ~!
「きゃ~あ♡ きゃはははは♡ ……にゃっ♡」
そ~にゃちゃん大喜び!
それは良いんだがそ~にゃちゃんは抱っこがすっかりお気に召したらしく、コアラちゃんみたいにオレにしがみついて地面に着地しようとしない。
仕方無いからその状態のままステップを踏んだりターンをキメたりして根性で踊りきった。
いくらそ~にゃちゃんが小柄だといっても流石に腕が痛ぇ。
「へ~い♪ たっちたっち♪ はいた~っち♪ みゃははは♪」
み~にゃさんは踊りながらオレの手のひらに自分の手のひらを打ち付けまくっている。
ペチペチペチペチと軽快な音を鳴らすのがお気に入りみたい。
「ぴょんぴょんぴょ~ん♪ にゃっはっは~♪ 楽し~にゃ~♪」
し~にゃさんなんてオレを馬にして馬跳びしまくってる! ダンスですらねぇ!
元気で自由なネコさん達のお相手を終えてほっと一息……吐く暇もなく、メイお姉さんがオレの手をぎゅ~っと握りつつピタ~っと身体を寄せてきた。
「ちょっとメイお姉さん?」
「んふふ♪ 三五ちゃん、お姉ちゃんのお腰に手を回して♪ ダンスが始まるわよ♪」
メイお姉さんに逆らえないオレは素直に空いてる手を彼女の腰に回して抱き寄せた。
う~ん……これフォークダンスじゃない。ソシアルダンスだ。
メイお姉さんのリードで踊り出す。流れている曲のリズムを完全無視したゆったりとしたテンポで。
相変わらずマイペースな人だ。でもそのリードは完璧で初心者のオレでも楽しく踊ることが出来た。
優雅なステップ。軽やかなターン。
突然アクロバティックなポーズを取るお茶目なメイお姉さんの身体をササッと支えたりも。
フフ。オレ達はなかなかGoodなダンスパートナー同士だね。
オレの首の後ろに手を回して悪戯っぽく笑うメイお姉さんに顔を寄せて、オレからも笑みを 「ちょっとぉぉ~! いつまで踊ってんのよぉ! 早く他の人と交代しなさぁ~い!」
焼きもちを妬いた湖宵のインターセプト!
「あらら♪ もっと三五ちゃんとダンスしたかったのに~♪」
これはしまったね。
気心が知れて息ピッタリのメイお姉さんとのダンスが楽しかったから、ついつい時間を忘れていた。
こんなことじゃダメだね。
今のオレは花魁!
逆にオレがお姉さん達を目一杯楽しませて差し上げなければ!