裏29話 思い出の文化祭⑬ 花魁♂ VS ウエイトレス♂ ミスコン最終決戦! でアリンス♡ 高二 二学期
放送部部長さんが企画したミスコンは大成功だ。
会場である講堂にはたくさんの観客が押し寄せて大盛り上がり。
この模様が動画になったら観た人はきっとウチの学校は活気があって面白い学校だと思ってくれるに違いない。
出場者も出揃ったし、更に更に盛り上げていくぞ!
「「「あ、あの! 私達棄権します!」」」
オイイイィィィィ!? これからだっつ~のに山田さん、鈴木さん、田中さん達が揃って棄権するとか言い出したぁぁ!
女子であるアンタ達が居なくなったら“ミス”コンが成り立たねぇだろうが!
「だって高波太夫と繊月さんの人気が凄すぎるんだもん!」
「そうよ! 私達は堅気の生徒なんだからね!」
「わわわ、私これ以上目立つのは無理ぃぃ……」
山田さん達からの抗議。
想定以上にミスコンが盛り上がったのでこれ以上はプレッシャーに耐えきれないとのこと。
納得した。だが、鈴木氏よ。我々が堅気じゃないみたいな言い方はヤメロ。
「おおっとぉ! エントリーNo.1~3の棄権宣言! 美人ウエイトレス♂と最強花魁♂に恐れをなした! 敗北主義者乙! デスワ!」
高橋の煽り! 誰に対してもこうなのかこの娘は!
「酷い! 高橋のバカ!」
「だったらアンタが代わりに出なさいよ!」
「マ、マスク取っちゃう! えいっ!」
「あっあ~! 返して! マスク返してぇっ! 顔がスクリーンに映っちゃう~!」
三人娘から暴言の報復を受ける高橋。仲が良いな放送部。
それはさておきミスコンはどうなるんだよ。
「ハァ……ハァ……。み、皆様! 期せずしてNo.4 繊月さんとNo.5 高波太夫さんの対決の舞台が整いました!」
「「「「ワアァァァァ~!」」」」
パーティーマスクを取り返した高橋。息も絶え絶えになりながらのその発言に観客が沸く。
そっか。湖宵と対決させられんのか、オレ。
「対決の方法はLiveです! Liveでより皆様の心を掴んだ方にミス · 帝栄須の栄光が輝くのデスワ!」
対決の方法、高橋に勝手に決められちゃってるし!
「あっ、じゃあ私、音響の準備するね!」
「照明演出は私に任せなさい!」
「わ、私はスモーク焚くねっ」
三人娘もこれぞ自分の本領とばかりにイキイキとし始めたし!
「「「「ひゅ~! やったぁ! Liveだぁぁ~っ! わぁぁぁ~っ!」」」」
お客さんが喜んでるから、やらないワケにもいかなくなったし!
「さぁLiveの準備が整うまでの間、お二人から意気込みを伺ってみましょ~♪ ではまずは繊月さんから♪ はい、マイク♪」
高橋から手渡されたマイクをぎゅっと握った湖宵は、オレの方へと向き直った。
「三……じゃなくて高波太夫さま。わたし達小さな頃からずっと一緒に居たけど、本気で対決した事なんて今まで無かったね」
そう言われてみれば確かに。まあ湖宵とのスペックの差は歴然としていたから、何をやっても敵わなかっただろうけどね。
それに湖宵は人と競争するのが苦手な性格だし。
「わたしね、貴方と争ったりなんて本当はしたくない。……でも、でもね?」
一拍置いて、湖宵はす~、は~、と深呼吸を一回した。
そしてオレをビシッと指で差して宣戦布告する!
「でもミスコンでQ極TS女子であるわたしが負けるワケにはいかないでしょぉ!? 男の子相手にぃぃ! そんなの赤っ恥じゃん! 今回ばかりはぜぇ~ったいわたしが勝つからねっ!」
「「「「イイゾ~ッ! イイゾ~ッ! 繊! 月! イイゾッ! イイゾッ! 湖宵ッ! オ~ッ!」」」」
おおお。こんな湖宵、初めてだ。
「イイデスネ~! 凄い気迫デスワ! お次は高波太夫さん♪ どうぞ~♪」
高橋がマイクを湖宵から受け取りオレに手渡してくる。
さ~て、湖宵の言葉に何て言って答えようか?
オレ個人としては湖宵に華を持たせてあげたいと思っていた。だから湖宵の引き立て役に徹しようと思っていた。
そう、このステージに上がるまでは。
だってホラ、オレの事をこんなに応援してくれる人が居るし? 面白いモノが見られるって期待を裏切りたくないし?
てか、こんなにオレに闘志をむき出しにしている湖宵はレアだし? ぶっちゃけ、一度バチバチにやり合ってみたい! 超面白そう!
ここは啖呵を切ってやろうか! ノリで! そんで本気で優勝するつもりでLiveするんだ! 神聖な土俵入りの儀式もしちゃったしね。
「相手が誰であろうとも芸で花魁が敗北するなどあり得ないでアリンス! 美人ウエイトレスさん! 貴女の挑戦、受けてたつ! でアリンス!」
「「「「イイゾ~ッ! イイゾ~ッ! 花! 魁! イイゾッ! イイゾッ! 太夫ッ! オ~ッ!」」」」
「何で! わたしが三五に挑むカタチになってんのよぉぉ! ムッキィ~ッ!」
「今のワチキは三五ではアリンセン! ちゃんと源氏名で呼びナンシ!」
舞台中央で顔と顔を突き合わせながらにらみ合うオレ達。
湖宵の怒った顔のドアップ♪ う~ん、とってもカワイイネ♪
「ハイハイ♪ では今からLive対決の説明を致しますわ♪ ちょっとお下がり下さいね♪」
高橋の言葉に従って、オレと湖宵はにらみ合いを止めて舞台の後ろに下がった。
「それではっ! 今からこちらの二人にLiveをしてもらいます! そして集まった 「イイネ!」 の数が多かった方が優勝! 学園最強美少女の称号が与えられますわ!」
「「「「ワアァァ~ッ!」」」」
何かどっかで聞いたような対決方法!
てか 「イイネ!」 ってどうやって集めるんだよ?
SNSにでも投稿すんの?
「観覧されている皆様はLiveが良いと思ったら 「イイネ!」 と掛け声を掛けて上げて下さい! その声の大きさ、熱量をこの私、高橋が判定して優勝者を決めさせて頂きます!」
「イイネ!」 の集め方と判定方法原始的過ぎィ!
「それでは準備が整いましたので、早速歌って頂きましょう! まずはエントリーNo.4! 繊月 湖宵さん! 曲は人気アイドルグループ 「善歌46犯」 より 「マジ卐オトメゴコロ」 デスワ! どうぞ~♪」
何か選曲も勝手に決められてない? オレ、事前に演歌が得意とだけしか言ってないんだけど? 大丈夫かなあ。
高橋と入れ替わる形で湖宵がステージ中央へ立つとスピーカーからイントロが流れてきた。
テ · テ · テ♪ テッテ · テレテレテレッレ♪ テ · テ · テ♪ テ↑レ~↓ レレレレ↑ レレ↓ テ~レレ~レレ~テ~レレ · レ~♪
ブッシュゥ~ッ! (スモーク)
「毎日胸がきゅっと苦しいのは♪ ズ~ンと足取りが重たいのは♪ アナタのせいよ♪ 責任とりなさいよ♪」
「「「フッフ~ゥ!」」」
湖宵凄い! 当然のように歌い出した! おまけに振り付けまで完璧!
赤や青の光が踊るステージの上では明るいレモンイエローのウエイトレス制服は最高に映えるね。
湖宵がノリノリで身体を左右に揺らすとロングスカートの裾やフリルがヒラヒラフリフリ揺れるのも男心にグッとクる。
「同クラだし♪ 通学バスでも隣に居るのに♪ 何でわたしが見えないの♪ 目のお医者にかかりなさい~♪」
「「「医療費♪ 全額♪ 自己負担~♪」」」
観客めっちゃ沸きまくってる! 主に男性客が! レスポンスまで打ってるし!
「訴~訟を♪ 取り下~げて♪ 欲し · かっ · たら♪ もっとわたしに構うことね~♪」
「「「ハ~イ! ハ~イ! ハイ! ハイ! ハイ! ハイ!」」」
「Sieg Heil わたし♪ Sieg Heil わたし♪ 絶対に諦めない♪」
「「「ジークハイル! ジークハイルゥゥ!」」」
「Sieg Heil わたし♪ Sieg Heil わたし♪ 虜にしてみせるから♪」
「「「湖宵! 湖宵! KO · YO · I~!」」」
「教えてあげるっ♪ わたしが♪ 世界で誰より誰より☆一番☆カワイイんだからね~♪」
「「「ワワッワァ~ッ! ワアアァ~ッ!」」」
パチパチパチパチパチパチ~ッ!
一曲歌いきったぁぁ! 凄いよ湖宵! カワイイ!
「はぁ、はぁ……♪ な、何コレ……? ちょお~きもちぃ♪」
半ば陶酔している湖宵の元へ高橋がやって来る。
「素晴らしい盛り上がりでした! それでは皆様! イイネ! をどうぞ~♪」
「「「「イイネ! イイネ! イイネ! イイネ! イイネ! イイネ! イイネ~! イイゼ! イイゼ! イイゼ! イイネ! イイネ! イイネ! イイゼ~! イイネ! イイゼ! イイゼ! イイネ! イイネ~! イイネ! イイネ~!」」」」
うおおお! 今日イチの大反響だぁぁ!
講堂に集まった老若男女の観客達が惜しみ無い声援と拍手を湖宵に送る。
中でもやはり野太い声の割合が取り分けて多い。
「ウオオオオォォ~ッ! 湖宵ィ~ッ! イイネ! イイネ! イイネぇぇ~っ!」
湖宵の夫であるこのオレが他の男に負けるワケにはいかない。
もちろん誰よりもデカくて野太い声を上げたぜ。
「えっへっへ~♪ みんなぁっ! 本当~にどうもありがとおぉ~っ!」
「「「ワァァァァ~ッ!」」」
「繊月さん、ありがとうございました~っ! さあ、いよいよこの方に登場して頂きましょう!」
テテテテ~♪ テテテテ♪ テテテテ~↑ テテテ · テェ~♪
おおっ! こ、このイントロは! 良しっ! この歌ならイケル!
湖宵と高橋が後ろに下がり今度はオレがスポットライトの当たる場所に立つ。
「しだれ桜の花弁は、嘆きに暮れる恋泪。今宵もハラリ、あ、ハラリとぉ~舞い~落ちぃ~るぅ~。それでは歌って頂きましょう! 曲は大御所演歌歌手 「中森 美鶴」 より 「泪のしだれ桜」。歌うのは高波太夫さんですっ!」
高橋の前口上イイネ♪ 見直したぜ。
テ~↑ テ~↓ テテテテテェ~♪ テテテ♪ テェ~♪ テ · テ~↑ テ↑ テェ~↓
「貴方と別れてぇ♪ はやぁ♪ ひととせぇ♪ 今でもぉ♪ 帰りをぉ♪ 待っていますぅぅ♪」
「太夫~っ!」
「高波屋~っ!」
「おネエちゃ~ん!」
おお! オレの歌にも熱いレスポンスが!
目映いライトに照らされて足元にはスモークが立ち込めるこの幻想的な空間。ここに居るとその気になってしまうな! めっちゃアガ↑↑るぅぅ!
「梅♪ 杜若♪ 萩♪ 藤袴♪ 彼岸花♪ 散る花弁がァァ~♪ 泪にィ~♪ 見えるゥゥゥ~♪」
パン! パンッ! パン! パンッ!
お客さん達が曲に合わせて手拍子をしてくれる。嬉しいね! ありがとう!
「嗚呼~♪ 貴方が側に居なければァ♪ 止む事の無い花嵐♪ 貴方が側に居なければァ♪ 春の季節が恐ろ~しいィィ~♪」
「うっうっうっ……」
「三五しゃまぁっ」
「お声が素晴らししゅぎりゅぅ……」
「ヒックヒック……」
最前列に居るオレF Cのお姉さん達が感涙にむせんでおられるぞ。だがコブシを利かせていくのはここからだぜぇぇ!
「爛漫と咲く桜の花はァ♪ 貴方を想いぃ散ぃってぇぇゆくゥゥゥ♪ 泣いてぇぇ♪ 泣いて泣いてぇぇぇ♪ 散ってぇぇ♪ 散って散ってぇぇぇ♪」
「「「太夫っ! 太夫ぅ~っ! ワァァ~ッ!」」」
「夜空にィ♪ 舞い散るゥゥ♪ し · だ · れ · 桜のォォ~♪ 花弁ひとひィ~らァァ~♪」
「「「ウワァァァ~! アッア~ッ!」」」
パチパチパチパチパチパチ~ッ!
歓声と鳴り止まない拍手!
射幸感MAXENDォォォ!
「ハイハイ! 高波太夫さん、ありがとうございました! いや~白熱した名勝負デスワね! しかし! どんな勝負でも白黒ハッキリさせねばなりません! それでは! 高波太夫推しの皆様はイイネ! の声を掛けて下さいっ! どうぞぉ~っ!」
「「「「イイネ! イイネ! イイネ! イイネ! イイゼ! イイワ! イイワ~! イイネ! イイネ! イイネ! イイネ! イイゼ~! イイネ! イイワ! イイワ~! イイネ~! イイワ! イイネ~! イイネ! イイネ~!」」」」
うおおぉぉ! 湖宵の時と同じくらいの歓声がこのオレにも! 感動だぁ~!
こうしてステージから観客席を見渡してみると、小さなお子さんやご年配の方、男子生徒や女子生徒……いや、そんな分け隔てなど関係無く、とにかく皆一丸となってオレに声援を掛けてくれているのが良くわかる。
「三五さま~っ! 抱いて~っ!」
「高波太夫さま~っ! 抱いて~っ!」
「うえぇぇん! 抱いて~っ!」
「抱いてっ! 抱いて~っ!」
「勉強させてもらったみゃ~っ!」
「お兄さみゃはもはやアホを通り越したにゃ! 天才にゃ!」
「お兄ちゃみゃ~っ! デートしてっ! 抱っこしてっ! チューして欲しいのっ……にゃっ!」
「凄いじゃない三五ちゃ~ん! イイネ! としか言いようがないわ!」
「三五さま~っ! 愛してますぅ~っ! 一生ついていきま~すっ!」
どこの席に座って居るかはわからないがお姉さん達からの声援は一言一句、ハッキリと聞き取れた。凄い言霊だぁ!
「三五は! わたし! だけの! 旦那さま! なんだから!」
一番デカくて強い言霊の主はもちろん湖宵! うう嬉しい~っ!
「ありがとぉぉ~っ! 歓ッッッ! 喜ィィィ!」
「「「「ワアァァァァ~ッ!」」」」
もうオレはコレで満足だ! どんな結果が出ても悔いは無し! さあ高橋よ! 白黒つけてもらおうかい!
「さぁてどっちのイイネ! が多かったんでしょうか!? う~ん、ディアナわかんなかった! でもこのお二人に優劣をつけるなんて無粋だと思いますわ! よって繊月さんと高波太夫さんの同時優勝とさせて頂きます! おめでとうデスワ~ッ!」
高橋言ってることイイ加減過ぎィィィ! でもその判定はGood!
「うおおぉぉぉ~っ! やったぁぁ! ワチキ達の優勝でアリンスゥ~ッ!」
湖宵をお姫様抱っこで持ち上げて勝利の雄叫びを上げる!
「きゃあぁ~っ♡ 三五ぉっ♡ わたし達二人でミス · 帝栄須よぉぉ~っ♡」
「「「「ワアァァァァ~ッ! ワアア~ッ! ワアアァ~ッ!」」」」
オレ達は熱気が渦巻く観客席に向かって、いつまでも手を振り続けていた。
一生心に残る思い出が作れた事に限り無い感謝を込めて。