裏26話 思い出の文化祭⑩ ミスコン開催五秒前でアリンス♡ はぁぁ……嫌だ…… (素) 高二 二学期
花魁♂のオレとウエイトレス♂の湖宵にミスコンに出場して欲しいだと!?
大丈夫か放送部部長さんよぉ!
いや、湖宵だけならまだわかる。大分グレーだけれども。
湖宵のウエイトレス姿はそこらの女子よりず~っと可愛いし、何よりハートは恋する乙女そのもの。
湖宵は男の子だけど女の子なんです! と大衆に訴えても納得してもらえる程の説得力がある。
だがオレは無理だろ! だって男だし! 異物以外の何物でもないし!
「大丈夫だ高波クン! 君は好青年だ! 接客で人気を博したのも頷ける!」
だから言ってる事おかしいって! ミスコンに出てる時点で好青年じゃねぇから!
「あら♪ 部長さん、三五のことわかってる♪ そうなの♪ 三五は素敵な人気者なの♪」
湖宵イイィィ! ちょっとオレが褒められただけでご機嫌になってるぅぅ! カワイイィィ! でも懐柔されないでぇぇ!
「ちょっと待って! オレはさぁ、ちょっと恥かくくらい何て事無いよ!? (今更だし) だけどオレが出たら折角部長さんが企画したミスコンが台無しになるぞ!?」
多分、映像になんか残せないくらいグッダグダのスベり倒し劇場になるぞ。それは本末転倒だ。
「まぁね。三五はちょ~男らしくってカッコ良いからミスコンはね。それにわたしも……悔しいけれど身体はまだ男の子だもん。山田ちゃん達、本当の女の子とは勝負にならないよ」
少しシュンとしながら紡がれる湖宵の言葉。
だが部長さんは首を横に振ってそれを否定する。
「それは違うよ、繊月クン。僕はね、今の世の中で大切なのは心の在り方だと思っている。Q極TSという決断をした君達こそが誰よりも女性らしい。生まれながらの女性に引け目を感じる事なんて、何一つ無いさ。僕はそう思う」
「部長さん……」
湖宵がハッとした顔になる。
「高波クンも今日知り合った僕たちの為に恥をかいても構わないとまで言ってくれたね。魅力的な心の在り方だ。そんな君が花魁に扮して舞台に立ってくれたら盛り上がりこそすれ、台無しになるなんて事にはならないと思うんだがね?」
この人、人たらしだわ~。部長になるだけの事はあるよな~。納得の慕われっぷりだね。
「アンタがそこまで言うのなら出場するけども。正直成功は約束出来ないぞ」
「わたしも出たくなっちゃったな。あんまし自信無いけどね」
「本当かい君達! とても助かるよ!」
こうしてオレ達はミスコンに出場する事になったのであった。
開催まで少し間があったので、おやつにクレープを食べたり近くの出し物なんかを冷やかしたりしてデートの続きを楽しむ。
だけどやはり先程までのようには身が入らずに、湖宵と二人で「ミスコンって何をやるんだろうね」「ノリで出場するって言ったのはマズかったかな」などと話し合っていた。
不安しか感じねぇ~。
そもそも観に来る人なんているのかな?
SNSとかで呟いておこう。
「オレ、ミスコンに出る事になったはww」
ついでに湖宵に撮ってもらった高波太夫の写真も添付してっと。良し。
これでメイ · アンお姉さんコンビやウチのクラスの連中は観に来るだろう。
後はもう出たとこ勝負だ。
あっと言う間に時間が経ち、オレ達は講堂の控え室へと向かった。
「ハイハイ。私、本日の司会を務めさせて頂く、高橋 ディアナと申しマスワ。どうぞよろしくお願い致しマスワ」
何かスゲ~ヤツに出迎えられた。
パンツスーツに蝶ネクタイ。パーティーマスクにシルクハット。
そして驚くべきは金髪碧眼であること。ハーフってヤツか?
いや! 問題はそこじゃねぇ!
「部長さん! 他にも部員居たでアリンスか!?」
「そりゃあ居るとも。今だって校内アナウンスが聞こえるだろう? 映像記録の仕事も少人数じゃ手が回らないしね」
確かに! でもそれだったら話が変わってくるぞ!
ちょくちょく聞こえてくるアナウンスは全部男子生徒のものだった。
だけどここに一人女子が居るじゃんかよ! こんなアホみたいな格好をした派手好きの女子がよぉ!? 司会だぁぁ!? 何でN B女子のコイツが司会でビンビン男子であるオレがミスコンに出てんだよ!
おかしいだるぉぉ!? そんな世界の歪みは、このオレが修正する!
「高橋さん。アンタ、ミスコンに出場しナンシ。司会はワチキがやリンス」
「どぅぇえ!? ちょちょ、ちょっと待って欲しいデスワ! そんなのダ」
パンッ!
扇子を弾き音を鳴らして黙らせる。ワラワ、ご託なんぞ聞きとうない! (姫化)
「ホラ、マスクも取りナンシ。ミスコンなんでアリンスから」
パーティーマスクも引ったくってやる。
「ひゃぁっ! み、見ないでデスワ!」
そしてオレが装着。
うん、イイネ! 顔を隠したこの状態ならば司会も楽しそうだ!
「か、返して欲しいデスワ!」
「お黙りナンシ! さあ、とっとと準備するでアリンスよ! 時間は待ってくれないでアリンス!」
「ぴいぃぃっ!」
「あら、高橋ちゃんって可愛いお顔してるね。それに金髪もとっても綺麗。強力なライバル登場ね!」
湖宵も盛り上がってる! 大丈夫だよ。いつだって湖宵が一番可愛いからね! オレも司会として湖宵の可愛さをアピールしないと!
「待ってえぇぇ! ホントに! ホントにダメなのデスワぁぁ! 素顔で大勢の前に出るなんて絶対無理デスワぁぁ!」
「やかましいぞ高橋ィィ! オレがミスコンに出る方がよっぽど無理があるだろうが! 出るべき人間が出ないのは許さん! アンタが出ないのなら代わりにエロ姉ぇを呼んでやる! さぁどうするよ、あぁん!? 部長さんが企画した大切なミスコンが台無しになんぞ! アンタ一人のワガママのせいでよぉ!」
「ぴいぃぃ~! 怖いぃ~っ! 無理なものは無理なのぉぉ! ムリィィ~ッ! デスワぁぁ~っ!」
まだグダグダ抜かしやがるか、このアマ公が。
何故無理なのかちゃんとした理由があんなら言ってみろや! これだからN B女子は! (Q極TS女子しか愛せない男)
「まあまあ、高波クン。彼女はあるトラウマを抱えているのだよ。素顔で人から……特に男性から好奇の視線を浴びると固まってしまうんだ。だから申し訳ないけれど、当初の予定通り高波クンが出場してくれないかい?」
なるほどな。そんな理由があったから、あんなに嫌がったのか。
「部長さんがそう言うのなら……」
「ありがとう、高波クン」
「ブ、ブチョ~さぁん……」
助け船を出してもらった高橋が熱い眼差しで部長さんを見つめている。コイツも部長さんラブ勢か。
「もう、三五ったら。あんまり高橋ちゃんをイジメちゃメ~よ」
だって出たくね~もん。ミスコンなんて。
はぁぁ~。嫌だぁ~。
「フ、フン! やっぱり部長さん以外の男なんて皆野蛮デスワ! 特にアナタ! 学校で一番イヤらしいなんて言われて! どうせ女の子を脅かして無理矢理エッチなことするんでしょう! サイテーデスワ!」
あ? 何か高橋が図に乗り出した。フッ、だがこの程度の風評なんぞ、今のオレにとっては正にそよ風みたいなモンよ。
「高橋ィィィ! よくもお嫁さんのわたしの眼前で三五を侮辱してくれたわね! 絶っっっっっ対に赦さない! 人生終了する覚悟をキメろぉぉぉ!」
「ぴいぃぃ~っっ!」
おっ♪ 普段滅多に怒らない湖宵が高橋の胸ぐらを掴んでいるぞ♪ オレの為にそこまで怒ってくれるなんて♪ か~っ♪ こいつは男冥利に尽きる♪
「許して! 許してデスワぁぁ!」
「赦すもんかぁぁ! 尊厳を傷付けた罪は、尊厳を傷付ける事によってのみ贖われる! よって今から貴様をレディコミの刑に処す!」
「レディコミ!? レディコミに載ってるような陰湿なイジメを受けるってこと!? それともエッチな目にあわされるんデスノ!? どっ、どっちにしてもイヤァ!」
う~ん面白い。オレ、実は湖宵がオレ以外のヤツにブチギレてる所を見るのが大好きなんだよね♪
さっき買ったおやつでも食べながら観覧しよう。
パリパリ~ッ。ソースせんべいうま~。
「あっ、高波クン。良い物を食べているね。どこで買ったんだい?」
「そこの屋台でアリンス。一杯あるから部長さんも食べナンシ」
「おお、嬉しいね。ありがとう。実は僕はソースせんべいに目が無いんだよ」
美味しそうに食べるなあ、この男。結構気が合うね。良い友人になれそうだ。
「違うんデスノぉぉ! 私、心にも無いことを言ってしまったんデスワぁぁ! ほ、ほら! 高波サンには繊月サンという伴侶がいらっしゃるから! 絶対に手が届かない存在だからつい羨ましくて! 愚かな私を許してぇぇ!」
「あら~♪ そうだったのね~♪ 高橋ちゃんったら♪ 次は無いからね♪」
オレ達が騒いだりおやつを食べたりしている様子を、放送部員三人娘は唖然としながら見ていた。
「この人達キャラ濃すぎる……」
「何か私達って無個性じゃない?」
「そ、そんな事無いよ……? わ、私達は私達の人生の主役だし……?」
お揃いのドレスを着ておめかししているのに少し自信を無くしちゃっている山田さん、鈴木さん、田中さん。
容姿端麗で性格も可愛いが、残念ながら生物学的には男の子の湖宵。
そして純度100%男のオレ、三五さん。
この五人でミスコンに出場し、競う事になった。
果たして誰が校内最強美少女なのか!?
ミスコンで何が起こるのか!?
それはまだわからない! オレが教えて欲しい!
ああ~嫌だぁ~! 次回に続くぅ~!




