裏19話 思い出の文化祭③ 楽しいおネエ · おニイ喫茶♡ 大繁盛ヨ♡ 高二 二学期
差し当たっては、み~にゃさんのリクエストにお応えしようか。
「面白い事をして欲しい」……普段のオレならどんな無茶振りだ! とツッコんでしまう所だが、今のオレは花魁。芸者の中の芸者だ! 絶対にお客を楽しませてみせる!
オレは着物の裾からある物を取り出した。
スピーカーが付いたハンディカラオケマイクだ。これ一本でお手軽にカラオケが出来る、お楽しみ会などで大活躍する逸品だ。
マイクのボタンをポチポチッと押すと録音していた曲が流れてくる。
♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪
「聴いて下さい……“泪のしだれ桜”」
「え、演歌みゃ~っ!? ミャハハハ! せ、選曲センスだけで込み上げてくるモノがあるみゃ~っ!」
「最早ここは喫茶店じゃないのにゃっ! スナックにゃっ! スナックの三五ママにゃっ!」
「わ~♪ 演歌のおうた楽しみ♪ ……にゃ♪」
「キタッ! 三五の十八番キタ~ッ! 三五の演歌は最高なんだよっ! 皆、聴いて聴いてっ!」
湖宵が無邪気にプレッシャーを掛けてくれるが、今のオレにはそれをものともしない最強無敵のPOWERがある! 必ずや期待に応えてみせる!
それに本当に演歌は得意なんだ。
父さんが演歌通でCDを沢山持っているから自然と小さな頃から演歌に親しんでいて、今ではすっかりカラオケの持ち歌になっている。
「貴方と別れてぇ♪ はやぁ♪ ひととせぇ♪ 今でもぉ♪ 帰りをぉ♪ 待っていますぅぅ♪」
ノリノリで歌い始めるオレ。意外にもお客さん達は笑ったりせずに熱心に耳を傾けてくれる。
そうなってくるとオレの方も大変気分が良くなってくるので、更にコブシを効かせて熱唱せざるを得ない。
「夜空にィ♪ 舞い散るゥゥ♪ し · だ · れ · 桜のォォ~♪ 花弁ひとひィ~らァァ~♪」
「キャァ~ッ♡ 三五~っ♡ ううん、高波太夫さまぁ~っ♡」
可愛い湖宵ウエイトレスが拳を振り回しながら声援をくれる。ああ~可愛い! 抱き締めたい!
「演歌って普段聴かないけど、良いもんだね」
「そうだね。良い機会になったね」
そしてお客さん達にも普通に好評! これは本当に意外!
「お兄さみゃ~♪ 普通におうた上手みゃ~♪ ビックリみゃ~♪」
「神曲にゃぁ~♪ アンコール♪ にゃ♪ アンコール♪ にゃ♪」
「ローズヒップティーと演歌のおうた……合うのにゃ~♪ 癒しなの……にゃ♪」
ネコさん達も大喜びで良かった。午後から仕事があるのにワザワザ来てくれたんだから、たっぷりと歓待しなければ。お仕事の励みになるような楽しい思い出をお土産に持って帰ってもらおう!
ネコさん達に乞われて数曲程ノドを披露したり、お座敷に上がってもらって小粋なトークをしたり、まったりとした時間が流れる。
「ネコメイド喫茶もね、色々と大変なのみゃ~。ハロウィンの企画で何をしようかって今から悩んでいるのみゃ~」
「畳は落ち着くにゃ~。お兄さみゃ……ううん、おネエさみゃの花魁も慣れたら癖になるのにゃ~。スナック最高にゃ~」
「ゴロゴロにゃぁ~♡ ねえお兄さみゃ、もっともっと頭撫で撫でして欲しいの……にゃ♡」
ネコさん達はオレの接待がいたくお気に召したらしく、おコタに入った子猫の様にくつろいでいる。
み~にゃさんとし~にゃさんはお座敷の上で足を崩して、お店であった楽しい事や大変な事についての話をしてくれる。
オレも興味深い話が聞けて楽しいし、お話の相手をするだけでこんなに喜んでもらえるんだから花魁になって良かったぜ。
そ~にゃさんなんてオレの膝枕がすっかり大好きになって、とても幸せそうに微睡んでいる。リアルに子猫ちゃんみたいだ。
しかしお仕事が控えているネコさん達は長居が出来ず、すぐに帰らなければならない時間になった。
そこで少々困った事態が起きてしまった。
「わぁぁぁぁんっ! 帰りたくない……にゃっ! そ~にゃ、もっとお兄さみゃと一緒に居たいの……にゃっ!」
そ~にゃさんが泣き出してしまったのだ。
「うう~、ぼくも帰りたくないにゃ~。チラッ (追従)」
おまけにし~にゃさんまで便乗し始めた。
「ほ~ら二人とも、お兄さみゃ達を困らせたらダメみゃ。帰るみゃよ~」
「嫌なのっ! ……にゃっ! お兄さみゃぁぁ!」
「ホラお兄さみゃから離れて……は、離れ……離れみゃいっ!? スナップフィットみたいにカッチリハマりこんでるみゃ!」
「誰かマイナスドライバー持って来てにゃっ!」
そ~にゃさんが信じられない程の力を込めてオレの膝にしがみついてくる。凄い執念だ。困ったな。
このままではネコさん達がお仕事に遅刻してしまうぞ。ここは心を鬼にしてそ~にゃさんをひっぺがした方が良いのだろうか?
「こんなに優しくしてもらって、可愛がってもらったのは、初めてなの……にゃ。もっともっとお兄さみゃと一緒に過ごしたいの……にゃあぁ」
「そ~にゃさん……」
そ~にゃさんの言葉にハッとさせられる。
いつも明るく楽しい彼女達も、Q極TS女子なんだ。普段は表に現す事が無くてもきっと沢山の苦労をしてきたのだろう。オレも彼女達に、そ~にゃさんに出来るだけの事をしてあげたい。
湖宵にチラッと目配せをすると、ウンウンウンと高速で頷いてくれた。
お許しが出たのでオレはそ~にゃさんの小さな身体を優しく抱き締めた。綺麗に切り揃えられたショートヘアも優しく撫でてあげる。
「にゃあぁぁ♡ 優しいお手々……にゃ♡ 良い気持ちなの……にゃ♡」
「そ~にゃさん、ううん、そ~にゃちゃん。寂しかったらワチキの所においでナンシ。いつでも歓迎するでアリンスよ」
「そ、そ~にゃちゃん……♡ あ、あの、お電話しても良いですか……にゃ? お仕事が終わったらお話を聞いてもらいたいの……にゃ」
「もちろん良いでアリンスよ。お待ちしているでアリンス」
「ありがとう……にゃ♪ そ~にゃ、良い子でお仕事を頑張るから、いっぱいい~っぱい褒めて欲しいの……にゃ♪」
そ~にゃちゃんに笑顔が戻った。これで一安心だ。良かった良かった。
「ありがとうみゃ~、お兄さみゃ。本当に助かったのみゃ~」
「おネエさみゃ、めっちゃ男前なのにゃ~」
元気にお仕事に向かう三人を、こちらも元気にお見送りしよう。
「「「バイバイ♪ 待たね♪ お兄さみゃ~♪ お嬢さみゃ~♪」」」
「「行ってらっしゃ~い!」」
「お疲れ様、三五♪」
湖宵がオレを労ってくれた。
それにしても湖宵は成長したなぁ。体育祭の時はあんなに焼きもちを妬いていたのに。
今日はQ極TSの同士 · そ~にゃちゃんを思いやる事が出来るなんて。
「そ~にゃさんとお電話した後は、ちゃぁ~んとわたしにもお電話してよね♪ もちろん、そ~にゃさんより長くだからね♪」
やっぱりそうでもなかった。う~ん、さすが湖宵!