@6 冒険者ギルド
難しいね。
馬車は今マクナステルの街に入る為に並んでいる。
途中にロイズさんの孫達も目覚め自己紹介を済ませた。
起きたら知らない男が乗っているので最初は警戒されたけど、さっきの魔物を倒した話しをしたら警戒も解けたようだ。
「次の者、身分証の提示を。っと、ロイズさんではないですか。早かったですね。」
「ええ、森を抜けてきたので。」
「森を?そう言えば護衛は3人だったはず…1人しかいないようですが…まさか!?」
「はい、途中魔物に襲われて何とか切り抜けられたのですが、護衛をして下さったお二人が犠牲に…。」
「そうでしたか、それで今はお二人だけですか?」
「いえ、馬車の中に孫と魔物が襲って来た時に助けていただいた方が居ます。………ハルトさん、マイズ、リーズでて来て下さい。」
呼ばれて馬車から降りる。
「ああ、確かにお孫さんも一緒でしたね。それでそちらの方が?」
「はい、ハルトさんです。ハルトさんは身分証を持っていないそうなので、今回助けていただいたお礼に私が入場料を払うつもりです。」
「そうですか、分かりました。ですが、チェックだけはさせてもらいますので…。ではハルトさんこちらにある水晶に手を置いて下さい。」
俺は門番の指示に従って、水晶に手を置く。すると、水晶が白く輝き数秒で輝きは消えた。
「はい、犯罪等は無いですね。確認できましたので結構ですよ。ようこそハルトさん、マクナステルへ!」
「ありがとうございます。」
俺は無事街に入る事が出来た。
「ロイズさん、おかげで街に入る事が出来ました。ありがとうございます。」
「いえいえ、助けていただいたお礼ですから。それで、この後どうされるので?」
「はい、冒険者ギルドに行って登録しようと思ってます。」
「そうですか。では登録が済みましたら、私の店に来て下さい。『ロイズ商店』といいますので。」
「はい、必ず。」
「はい、それとケインさん最後までありがとうございます。これ、依頼達成の書類です。」
「ああ、ロイズさんやお孫さんが無事で良かった。これで亡くなった2人も安らかに眠れるだろう。」
「はい、またお願いする時は必ずケインさんを指名させていただきます。」
「はは、それは嬉しいが1人では無理だ。新たな仲間が出来たら受けることにしよう。」
「その時はぜひ……それでは失礼します。」
ロイズさんは軽く会釈すると、そのまま馬車と共に街へと消えて行った。
「さて、俺もギルドに行かなきゃならんからハルトも付いてくればいい。案内しよう。」
「はい!」
ケインさんの後ろを歩きながら、改めて街を観る。
街並みはレンガや石造りで出来た家が多く二階建てが多い。
景観はヨーロッパのようで観ているだけでも楽しくなる。
不思議に思ったのが嫌な臭いがしないことだ。
中世ヨーロッパでは大変悪臭がしていたらしいが、この世界では下水処理が発達しているのだろうか?
「この街は嫌な臭いがしないですね。」
「あぁ、そうだな。この街は汚物や廃棄物は浄化槽に捨てて処理しているからな。スライムに全部食わせてる。」
「あー、なるほど。すごいですね。」
スライム…いるんだ。
「ハルト、ギルドに着いたぞ。」
「おお!すごい大きいですね。」
「そうだろ。なんたってここは森も近く魔物も多いからな、それだけ冒険者が集まる。すると自然とギルドもでかくなるさ。ほら、入るぞ。」
冒険者ギルドは三階建ての石造りでとにかく大きい。
横幅もあるのでびっくりだ。
俺はケインさんの後を追って中に入った。
正面には受付があり6つ並び、右端側の2つは8畳程のスペースが設けられていた。そのスペースに魔物を置いている冒険者がいたので買い取り専用なのだろう。右側にはボードが何個か並びそこに羊皮紙が貼られている。あれが依頼の貼られたボードかな。
そして左側にはテーブルと椅子があり、奥に厨房とカウンターが見える。そこで食事が出来るみたいだ。まんまラノベ世界で逆に安心感が出る。
ケインさんは構わずそのまま受付に向かう。時間的に昼前だから混んではいないようだ。
「あら、ケイン。依頼は終わったの?」
「あぁ、これが達成書だ。」
「はい、確かに。それで達成金はどうするの?あとの二人は見えないようだけど?」
「二人は死んだよ。グリードウルフに襲われてな。」
「グリードウルフ!!ランクCの魔物じゃない!ケイン良く生きて帰ってきたわ。」
「運良く助けが入ってな。助けてくれたのはこのハルトだ。」
俺はケインに促され横に立つ。すると受付のお姉さんが値踏みするかのように視線を走らせる。
「おい、あんまりじろじろ見てやるな。」
「あ、ごめんなさいね。こんな若い子がグリードウルフと戦ったなんて信じられなくて…。」
「気持ちは分からないでもない…が事実だ。グリードウルフを5匹も倒してるからな。」
「5匹も…えっとハルト君だっけ。ランクはいくつなの?」
「えっと、まだ冒険者じゃなくて…。」
「え?」
「ま、そう言うことだ。悪いがハルトの冒険者登録をしてやってくれ。」
「え?えぇ、分かったわ。それじゃこの紙に記入してくれる?読み書きは出来る?」
「はい、大丈夫です。」
「そう、最低限名前と年齢と種族は記入して。あとは書ける事だけ書いてくれればいいから。」
俺は受付のお姉さんから羊皮紙を受け取り記入して、お姉さんに渡す。
俺が記入している間にケインさんの事務処理を済ませたようだ。
「えっと、ハルト16歳人族ね。特技は回復魔法?ハルト君この回復魔法ってほんと?」
「はい。」
「あぁ、それは嘘じゃない。現にグリードウルフにやられた傷が綺麗に治ってるからな。」
ケインは傷後の無くなった腕をお姉さんに見せている。
どうやら、嘘ではないと納得したようだ。
「ほんとなのね、回復魔法は貴重だからハルト君は引く手数多になるわよ。」
「しばらくは独りで頑張りたいと思ってるので…。」
「そう……でも独りは必ず限界がくるわ。無理はしないで仲間を作りなさい。」
「はい、そうします。」
「うん、素直な子は好きよ。それじゃ、ギルドカード作るからそこの銀盤の穴に人差し指を入れてちょうだい。ちょっとチクッとするけどすぐに治してくれるわ。」
俺は言われるまま指を入れる。すると一瞬チクッとしてすぐ癒される感覚がきた。
すると、銀盤の上の方からカードが出てきて、受付のお姉さんが俺に渡してくる。
渡されたカードは透明感のあるクリスタルのような感じで厚みも大きさもレンタルビデオ屋の会員カードと同じだ。
魔力を通すと盾の前を剣と槍がクロスしてその周りが炎で彩られた意匠の紋章が浮かび上がる。そしてその真ん中に今のランクが表示される。
なにこれ?めっちゃカッコいい。
「それが冒険者ギルドのカードよ。身分証にもなるから無くさないようにしてね。一応再発行は出来るけど、お金が掛かるから。それとこのカードは……………
『受付のお姉さんの話では
・冒険者カードは身分証になる。
・現在のランクや簡易ステータスを表示させることが出来る。
・お金を冒険者ギルドに預ける事が出来、どの冒険者ギルドでも引き出す事が可能』………て、事だけど分からない事ある?」
「いえ、大丈夫です。とっても分かりやすかったです。」
「そう?そう言ってくれたらお姉さんも嬉しいわ。そのカードは魔力を通すと表示させたり出来るわ。魔力も登録されてるから他人が拾っても見れるのは名前とランクだけよ。ついでに冒険者ギルドの説明をするわね。冒険者ギルドでは………………
『お姉さんの説明によると。
・冒険者にはランクがG~A、S、SSまであり未成年はGランクで成人すると自動的にFランクになる。
・成人の新規冒険者はFランクからのスタートで最高ランクはSSランク。
・ランクを上げるには依頼の達成などギルドに貢献するか、何かしらの功績をあげると上がる。
・ギルドの規定違反や犯罪などを犯すと罰則があり、悪質となる場合は除名処分や賞金付きの指名手配がなされる。
・冒険者同士のトラブルにはギルドは関与しない。
・冒険者ギルドを通さない依頼等に関しては自己責任で行う。当ギルドは関与しない。ただし、ギルド規定に違反するような場合は罰則を与える。』………と、こんなところかしら。把握できたかしら?」
「はい、大丈夫です。」
「では、これから冒険者として頑張ってね。応援してるわよ。」
「はい、ありがとうございます。」
俺は受付のお姉さんに頭を下げる。
話が切れたのを見計らって、ケインがお姉さんに話しかけた。
「無事登録出来たようだな。次は買い取りだ。メイリ、グリードウルフの買取りを頼む。」
「分かったわ。それじゃ買い取りカウンターにどうぞ。」
俺とケインは、受付のメイリ?さん向かった右端の受付に向かった。
「では、ここに出して下さい。」
「ハルト、頼む。」
俺は手を前にかざして、グリードウルフ10体を出す。
「え?収納!!ハルト君収納持ちなの!?」
「はい、ですが周りに言うつもりはありません。」
「そうね、その方がいいわ。商人だけじゃなく冒険者にも重宝されるもの。なるべく隠しておいた方がいいわよ。」
「ええ、そのつもりです。」
「それじゃ、査定するから少し待っててね。」
受付のメイリ?さんは、死体の状態などを見ながら書類に書き込んでいる。10分程経って査定は済んだようだ。
「お待たせしました。状態が良いものが3体、あとはちょっと素材としては良くないわ。状態が良いものは1体6,500Gが3体、あとは1体に付き3,000Gで合計40,500Gです。よろしいですか?」
この世界の通貨はG
1ゴルムで日本の1円となるらしい。
なので基本的に地球の日本と物価はあまり変わらないという。
硬貨は鉄貨・銅貨・大銅貨・銀貨・大銀貨・金貨・大金貨・白金貨・大白金貨となる。
鉄貨 =1G
銅貨 =10G
大銅貨=100G
銀貨 =1,000G
大銀貨=10,000G
金貨 =100,000G
大金貨=1,000,000G
白金貨=1,000,0000G
大白金貨=1,000,00000G
各硬貨は500円サイズで各大硬貨は500円の一回り大きい。
白金貨は、大硬貨と同じ大きさ。
大白金貨は大硬貨の更に一回りの大きさ。
「あぁ、構わない。全てハルトに頼む。」
「え?そんな。」
「いいんだハルト。俺もお礼をすると言っただろ?受け取ってくれ。」
「ケインさん…分かりました。ありがとうございます。」
「それじゃハルト君これ。」
カウンターの上に大銀貨4枚と大銅貨5枚が置かれてある。
俺はそれを手に持つとそのままストレージに入れた。
「買い取りも終わった事だ。ハルト行くとするか。」
「はい。それじゃ、えっと…また来ますね。」
「あ、私はメイリって言うの。遅くなってごめんね。それじゃまた来てね。」
ケインさんと俺はギルドを出るとケインが俺の方を向き
「ハルト、済まないがあの二人を弔いたい。ついて来てもらえるか?」
「そうですね、分かりました。ついて行きますよ。」
俺の言葉を受けて、再び歩き出すケイン。
俺はその後ろを静かについていく。
しばらくすると、城壁の内側が見えてきた。石の板が何枚も建ち並び、その板には何かが書いてあった。恐らくここは墓地なのだろう。そのまま更に歩くと、何もないスペースに行き着きケインは立ち止まる。
「ハルトすまないが、少しここで待っててくれ。今から穴を掘るからな。」
ケインは近くにあった小屋からシャベルのような物を持ち出して堀始める。
小一時間程経つ頃には、2つの穴が堀上がった。
「ハルト、ここに二人を出してくれるか。」
俺は手を出して、それぞれの穴にケインの仲間を出した。
ケインはそれを見届けると腰にさげたポーチのような物から小さな袋を出し、その中に入っている白い粉を近くにあった水の入った桶に入れていた。
そして、ケインはそれを仲間の死体にかける。
しばらくすると死体が淡く全身が輝き、やがて消えて元に戻った。
ケインはそれを見届けると、今度は死体を埋める作業に移り、埋め終わると、それぞれの仲間が使っていた。剣と杖を墓標代わりに突き刺した。
「ハルト、ありがとうな。お陰で二人は安らかに眠れる。」
「俺も、二人に祈りを捧げてもいいですか?」
「あぁ、二人も喜ぶだろう。」
俺は日本式の手を合わせ軽くお辞儀をした祈りを捧げる。
もう少し早く着いていれば助かったかも知れない…俺に非はなくてもやはり神であるなら助ける事も出来ただろうに……と。
そんな想いを抱きつつ、冥福を祈っていた。
「ケインさん、ケインさんはこの後どうするのですか?」
「さぁな、仲間も死んで今は独りだ。しばらくはチマチマ魔物でも狩って稼ぐしかないだろうな。」
俺は、ケインさんとなら一緒に冒険者するものいいと思っている。けれど俺には地球に戻らないと行けない理由がある。
「さて、ハルト。俺ともここまでだ。またギルドで会うことあったら声でもかけてくれ。今度は一杯呑もう。」
「はい、それじゃその時までケインさんもお元気で。」
「おう!それじゃーな。」
ケインさんは、歩き出しながら右手をあげて別れを告げる。
俺は、ケインさんが見えなくなるまで見送った。
読んでくれてありがとう。